ナザリックらいふ!~愛され上司のすゝめ〜   作:失望されないルプスレギナ

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戦闘終了

「おおおおおお!!」

 

「っぐ……面倒くさいったらねぇなぁ!!」

 

 ゼロとガガーランの実力は並んでいた。

 同じ前衛として噛み合っている事もあり戦いは激しい。

 

 ガガーランが自由自在に操る鉄砕き(大槌)はまともにゼロを捉えられないものの、その衝撃の余波でゼロへとダメージを着実に与えていたし、ゼロの拳とて何度もガガーランの身体を捉えている。

 

 二人の戦いによって周りの木々はなぎ倒され、一目すれば森の中に戦場(バトルフィールド)でも作り上げたのかと思うほど。

 

「ちぃっ!!」

 

「は……やっぱてめぇは強い、強いが怖くねぇ」

 

 鎧を殴られたガガーランはその勢いを利用し後ろへ大きく距離を取りにらみ合いの形へ。

 

 戦いはゼロが優勢だった。

 ロコモコより貸し与えられたガントレットには幻視の効果が付与されており、確率で自分の攻撃に実体の無い攻撃が自動で発生するというもの。

 ガガーランはゼロの攻撃を防御しても不意に現れる攻撃の気配へ面白いように踊らされていた。

 

 だがゼロは一つの確信をここまで戦い得る。

 

「俺はお前には負けん」

 

「あぁ、悔しいがてめぇに勝てる気はしねぇな」

 

 実力を測るのであれば自分のほうが少しだけ低いだろうと目付けた、そしてその感覚は正しく借りられた装備がなければもっと苦しい戦いとなっていただろう。

 実際ガントレットがあるからこそある程度の余裕を持って、生まれたワンチャンスを活かすことが出来ているのだ、これがなければチャンス自体が発生しなかった。

 

 それでも。装備がなくてもこいつには負けない。

 それがゼロの得た確信。

 

「お前は正しく相手を恐れているんだろう、それはかつての俺には無かった感覚であり経験だ」

 

「は、褒めてんのか? どうせならもっといい言葉を使えや」

 

 ゼロが言うように、ガガーランは正しくゼロを恐怖している。

 常に危ないへと感覚を研ぎ澄ませ、致命的に至らないよう工夫を凝らし、ゼロから逃げようとしている。

 それはまさしく一流の冒険者である証明。

 かつてのゼロは己こそ最強だと信じて疑わず、いつだって相手を叩き伏せてきたが故に、そんな危機管理をしてこなかった。

 

 だが今は違う。

 

「お前は、怖くない」

 

「うるっ――せぇ!!」

 

 真に恐れるべきモノを知ったのだ。

 己の拳が砕けるどころか何一つ意味のないものになることを知ったのだ。

 

 ゼロは正しく恐れるべきものを恐れることを知ったのだ。

 

「あぁ、わかった。あの方が言っていた意味がよぉくわかった」

 

「これでもくら――!?」

 

 ――あんなのは冒険(・・)者じゃねぇよ。

 

 ガガーランの大ぶりを潜り、ゼロは静かに憑依スキルを発動する。

 

「ぐはっ――」

 

「俺の、勝ちだな」

 

 潜り込み、上体を起こすと共に放たれたアッパー。

 その威力に逆らえずガガーランは大きく吹き飛び、ゼロの視界から消える。

 

「……もっと、強くなりてぇ」

 

 勝ち得なかったものに勝てた。

 それはゼロ初めての冒険(・・)が実を結んだ結果。

 

 求めていた強さの質、ようやくその輝きに触れられた気がしたゼロは静かに涙を流した。

 

 

 

「はぁっ……はぁっ……!」

 

「鬼ごっこはお終いでしょうか?」

 

 簡単で単純な話だった。

 自分の攻撃が何一つ通らない、それはつまり対抗する手段が無いということ。

 

 浮遊する剣群(フローティング・ソーズ)は捉えられないどころか全てをはたき落とされ、あまつさえ何本かを指で止められる。

 ネズミの速さの外套(クローク・オブ・ラットスピード)で向上させた敏捷性を容易く上回られ、自分の背後でため息すらつかれた。

 残る手段である魔剣キリネイラムの力を発動させようとしてみれば気取られ殴られる。

 

 観客がいてもいなくても、自分を含めた誰にでもわかる詰みだった。

 

「まだ、よっ! 射しゅ――」

 

「申し訳ありません。それはもう飽きてしまいました」

 

「ぐぅっ!!」

 

 浮遊する剣群を射出し距離を取ろうとするが、何度目だろうこうして再び殴り飛ばされ地面を舐める。

 

 自身の無力へ涙が出そうになる。

 どうやっても勝てないだろうこの相手には。何がアダマンタイトか、何が英雄級か。

 自分の強さを驕った事はない。無いが、仲間達と共に多くのことを成し遂げられると思っていた。

 

 今回の事もそうだ、八本指のことは抜きにしても、助けたいと思ったのだ人の命を。

 腐敗した王国の中で、力なき人を守りたいと思ったのだ、認められなかったのだ欲望に潰されていく無辜のものを。

 

「ま、だ……まだ」

 

「立ちますか、ならばもう少しだけ」

 

 立ち上がれば殴り飛ばされる。

 どうして倒れ伏せている間に止めを刺されないのか等もう考えられない。痛みすらもう感じない。

 

 ラキュースはここで折れてはもう二度と綺麗事を口にできないとわかっていた。

 

 綺麗事。そう、綺麗事だ高貴さは義務を強制する(ノブレス・オブリージュ)なんてものは。

 力を行使する自分に酔うための文句でしかないのだ、少なくともラキュースが知るその言葉の意味は。

 だからこそ綺麗事だとわかっている。綺麗で居たいと思ったのだ泥にまみれようとも。

 

「あ……ぐ……」

 

「……ほう」

 

 思い出すのは焔。

 ライラの畑を焼き払ったあの時の炎。

 自身の何かと決別したはずの時のこと。

 

「なん、で」

 

「……」

 

 手は震えている、足ももう力が入らない。

 それでもまだ、口は動き、言葉を紡ぐことが出来る。

 

「それほど力があって、八本指、なんかに、力を、貸しているの?」

 

 ラキュースの言葉は的を射ていない。

 ユリからすれば何言ってるんだこいつはとしか思いようがない。

 

「守れる、はず、よ。八本指からも、国の汚いものから、も」

 

 ただラキュースの瞳を綺麗だと思った。

 弱く脆く、簡単に消し飛ばしてしまえそうな存在だと理解している。

 しかし、この輝きだけは、殺しても消せはしないのだろうとも理解した。

 

 故に。

 

「我が意は全て御方のために」

 

「……はは、悔しいなぁ。そいつに、嫉妬しちゃうわ……殺したい位」

 

 ラキュース最後に紡いだ言葉で反射的にユリの拳がラキュースの腹部へめり込む。

 そしてその身体は静かに大地へ沈んだ。

 

「……その言葉は不敬ですよ」

 

 言いながらまだ息があるかを確かめ安堵する。

 

 薄汚く下等であっても、高貴であることは出来る。

 

「顛末をどうかお見届け下さい。あなたならそれで理解出来るはず」

 

 ユリは初めて、人間に期待することを覚えた。

 

 

 

「ルプー……やりすぎ」

 

「っすよねぇ……」

 

 辛うじて息はあるだろうか二人の目の前に転がっている双子。

 足にはシズが放った銃弾による負傷、上半身にはルプスレギナの持つ杖によるものだろう殴打痕。

 

 戦いは当たり前に一方的だった。

 忍者であるだろうことから警戒をと言われていただけに、侮らない一撃が致命傷ギリギリになってしまった結果である。

 

「でも……当然よね」

 

「ルプー?」

 

 最近、ルプスレギナの人間嫌いは加速している。

 王都でのメイド達、ゼロの最愛の主人に対する態度。

 全てがルプスレギナの癪に触ったし、我慢するのに多大な労力を要した。

 

 今回の作戦であっても、ロコモコが殺すなと言わなければ一人で全員狩り殺していただろうほどに。

 

「どうする? 回復、する?」

 

「必要ないっすよ。したくないっすし、実力伯仲であれば殺してもいいんす。だったら後はこいつらの運っすよ」

 

 冷たく吐き捨てるルプスレギナにシズの眉根があがる。

 

 シズは愛という感情をよく理解していない。

 しかし、今のルプスレギナを見るとロコモコはどう思うだろうかと考える。

 人間を簡単に見捨てることに悲しむのではない、ただ直感でしかないがルプスレギナを見てロコモコは微笑まないだろうと思った。

 

「ルプー。回復、する」

 

「なんすかシズちゃん、随分と――」

 

「ロコモコ様に……迷惑、かかる」

 

 苛立ったようなルプスレギナの表情はロコモコの名前で簡単に凍りつく。

 

「どういう、意味っすか?」

 

「わからない。けど、今のルプーを、ロコモコ様に会わせたくないと思った」

 

 要領を得ないシズの言葉ではあるが、ルプスレギナも考える。

 

 果たして、今の自分を褒めて頂けるだろうか?

 

 褒められる、だろうよくやったと。

 作戦概要上は何もミスをしていない、条件があるにせよ殺しても良いということはそれほど重要な存在ではないということだとルプスレギナは思っている。

 実際、ここでこの双子が死んでも大局は左右されないだろう。

 ロコモコを含めて知らないことではあるが、ラキュースの蘇生魔法によって死体さえ回収できるのであれば復活も出来るのだ、問題はない。

 

 ただ、何故か。

 

「……回復するっす」

 

「うん。それが、いい」

 

 褒めてもらえる。けど、抱きしめてもらえないとルプスレギナは思った。

 自慢のメイドだと、言ってくれないと思ったのだ。不思議とそのとおりになるだろうと淡く確信すらあった。

 

「難しい、っすねー……」

 

「うん、難しい」

 

 何故の部分はわからない。

 言い止めたシズですら、感覚的なものが強すぎて言語化出来ない。

 

 だからぼんやりと。

 自分に笑顔が戻ってくるまで、ロコモコの顔を思い浮かべた。

 

 

 

「助かったぜ、イビルアイ」

 

「いや……言葉が違う。私達は生かされたんだ」

 

 拠点の宿、ダメージが大きいラキュースとティア、ティナをベッドに寝かせた後、ガガーランとイビルアイは部屋のイスへと腰掛ける。

 

「生かされた、か。認めたくねぇが……そうなんだろうな」

 

 イビルアイの救援は間に合った。

 間に合ったがどうして間に合ったのか理解できないのだ、いつでもトドメをさせるだろうにも関わらずこうして全員生きている理由はそれしか思い浮かばない。

 

「嵌められた……少し違うな、最初からカルネ村にはこれほどの力があるってことを教え付けられたんだ」

 

「ってことは……王女様もグル、か?」

 

「流石にそれは違うだろう。わかっていたのなら最初から国の軍を動かしていただろうさ。出来るできないは別にしてな」

 

 尤も軍があの黒狼をどうにか出来るとは思わないがと続けてイビルアイは黙る。

 言っておきながらなんとも気味の悪い感触があるのだ、もしかしたら自分たちは生贄扱いをされたのかもしれないと。

 

「まだ勝負出来る、か。ちくしょう……」

 

 ゼロに言われた言葉。

 ガガーランは確かに勝負をした、そして敗北した。

 だが他のものは違うとすぐに分かった、これはただの蹂躙、いや遊ばれただけだと。

 

「何にしてもカルネ村が戦力を有しているのは間違いない、八本指が絡んでいることもな。全くの通りすがりが私達を遊びで半殺しにしたなんて考えるほうが不自然だ」

 

「ちげぇねぇ。だが、どうすんだ? 報告して軍が動いたとしても、お前さんが言う通りアレをどうにか出来るなんて思えねぇぞ」

 

「八本指だけならまだマシ……なんて言うことになるとは思っていなかったが。あの黒狼はどう見繕っても最低難度200はある。もっと言えばそれほどの魔獣を従える強者が存在しているということだ。そこまで考えれば、一番賢いのは触らぬ神に祟りなしとしか言いようがない」

 

 手詰まりだった。率直に言ってしまえば、カルネ村がどういう手段を取るかは未知数だが少なくとも独立することは止められない。

 どうしても止めるというのならば多くの血が必要になるだろう、十分な血を用意しても止められる確証は無いが。

 

「まぁ俺達の仕事は報告することまでだが」

 

「後はラキュースの判断に任せる……が、ある程度準備する必要はあるだろうな。政治に介入しないって冒険者のルールはうちにあまり関係がないわけだし」

 

 ちらりと眠っているラキュースへと仮面越しに視線を送るイビルアイ。

 どう判断するだろうか? 何の力にもなれないとは今回で理解できただろう、それでも介入すると決めるのは自殺しに行くようなものだ。流石にそんな決断はしないはず。

 

 とは言え国がどう動くかイビルアイには見えないが、何かしらの決定はされるはずで。

 

「見届けたい、ってくらいは言うかもな」

 

「あぁ」

 

 ラキュースの想いは兎も角も。

 今王国は大きく動くことになる、変化がどの様な未来を描くだろうか。

 その始まりは、目にしておきたいだろう。

 

「……最悪、別の国へ避難することも考えるか」

 

「おいおい流石にそりゃ……なんて、言えねぇ、か」

 

 ガガーランもラキュースへ目を向けて、大きく大きく息を吐いた。

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