ナザリックらいふ!~愛され上司のすゝめ〜   作:失望されないルプスレギナ

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ある詰ませ方

 ロコモコ達が蒼の薔薇との戦闘準備を進めていた頃、ソリュシャンは高揚感を持って網の管理を行っていた。

 一時的かつ一部限定されていることがあるとはいえ、ほぼ全権を任せられたのだ彼女にしてみれば功績をあげる絶好の機会に違いはない。

 

「……とはいえ、どうするべきか。それが問題ですわね」

 

 まず現状維持に務めるか、何か変化を招くだろう一手を打つか。

 前者の考えはソリュシャンに無い、ここでより良い成果を手に入れロコモコの右腕に足ることを証明してみせるという気概故に。

 

 ナザリックの皆よりも先にロコモコの教えへと触れているからこそ余計にとも言えた。

 自分の仕事ぶりが目覚ましいものであればあるほどロコモコの教え、その価値が高まると理解していたから。

 自身の功名心といえばやや俗になってしまうがそういったものも含めて今こそが切所と認識していた。

 

「プレアデスの皆は……難しいですわね、それぞれの仕事がありますし」

 

 協力を得られる存在は少ない。

 ロコモコがプレアデスの一部と連携しているし、それ以外の者も己の仕事以外に割ける余力は無いだろう。

 だが同時に自分ひとりの手には余ることもはっきり自覚していた。

 一人でできることは限られている、それこそ巡回の頻度を高める位しか出来ることがない、トブの大森林周囲に侵入者を感知するアイテムは設置済みだ。巡回と言っても都市や村、集落に近づくことは作戦を台無しにしてしまう可能性がある以上厳しい。

 

 要するに実務的、あるいは新たな視点と言う意味の知恵でも良いが協力を得る必要がある。

 その発想に行き着くことこそがロコモコの教えの成果とも言えるがソリュシャンはそれにまだ自覚してはいない。

 

「アウラ様は……ダメね、アインズ様とトブの大森林に行くと話されていましたし」

 

 東の巨人、西の魔蛇へアクションをかける。

 その邪魔は出来ないと浮かんだ考えを消す。

 

 ならばと考えるのは。

 

「マーレ様、ね」

 

 浮かんだ考えに大きく頷く。

 協力を得られれば実務的な部分、地形操作等で大きな助力となってもらえるだろう。まして現在ロコモコの創造NPCアサイーもついている、何か知恵といった部分でも力を得られるかもしれない。

 

「お話すれば……協力頂けるでしょう、なら」

 

 元々諜報部隊を補佐する位置にアウラとマーレはいる、求めれば協力は得られるだろう。

 

 そして戻ってくるどうするかの部分。

 あくまでも求めるのは協力なのだ、丸投げではない。

 

 こうしたいと思ってるからこれを手伝ってほしい。

 

 ロコモコから教わった内容の一つであり、基本とも言われた教え。

 それが明確さだった。

 

 それぞれの役割を明確に、質問内容を明確に、実行内容を明確に。

 言い換えれば迷いなく注力出来る環境を設定すること。

 

 今の自分に置き換えてみればその明確さからかけ離れた位置にいるとは思うが。

 

「それこそが指示するものの立ち位置」

 

 そう、これこそが誰かに命を与えるものの役割だと気づいた。

 同時にロコモコやアインズがどれほど難しいことを常々行っているかにも触れて敬愛心を高めてしまうが、今すべきことでは無いと心を鎮める。

 

 改めて考えれば王国も帝国もそれぞれトブの大森林を管理するとは名ばかりで、ほぼ放置に近い状態だった。

 確かに先に行われたコキュートス、もといアンデッドと蜥蜴人の模擬戦は何処かに情報として流れているだろう、しかし少しの時が経過したにも関わらず何のアクションも見られていない。

 あれ以降トブの大森林へと入ってきた人間はそれこそ林業というか、木材を求めてやってくる者や森の恵みを得に来た者程度。

 

 つまり、仮説ではあるが模擬戦は調査に値しない出来事である可能性がある。あるいは、人間達の警戒に値しないといった所。

 

「……やはり頭が足りていない」

 

 そこまで考えれば小事だと放置したことに食い殺される人間へ哀れみすら感じてしまうが、浅慮だと自分を諌める。

 

 警戒は高いレベルで設定するものだ。やりすぎは良くないが質は高い位置で保てるなら保つべき。

 

 つまり、調査を放置しているのではなく念入りに調査部隊を選定していると捉えるべき。情報の流れるスピードだってナザリックより遥かに劣っているだろうことも考えればこれが外における普通の流れなのだ。

 

「ならばそれ相応の調査部隊が組織されていると考えて」

 

 行き着いたのはより高度な捕獲態勢を整えるべきという発想。

 そうしてソリュシャンの背中に冷たい汗が流れた。

 もしここまで考えきれていなければ、自分一人でそれなりの相手を全て確保しなければならなかったと。

 

 ソリュシャン一人であっても全員捕獲は出来るかもしれない。

 しかし、出来ない可能性が生まれることを看破できない。

 

「……よし」

 

 考えはまとまったと、ソリュシャンは椅子から立ち上がり、マーレを探しに歩みを進めた。

 

 

 

 時同じくして。

 

「ビーストマン達ノ動向ハ?」

 

「はい、まもなく竜王国に向けて出立かと」

 

 コキュートスの隣に立つザリュース・シャシャが答える。

 

「エントマ、デミウルゴスヨリ連絡ハ?」

 

「まだありませんー。ですがぁ、到着したとの連絡は先程ぉ。今は交渉の最中かとー」

 

 もう片隣に控えていたエントマもまたコキュートスへと答える。

 

 目立たないよう竜王国の動向、ビーストマン達の動向を観察できる中間位置に陣を立て、様子を伺うコキュートス率いる多種連合軍。

 一時的にコキュートスの副官としてザリュースが、現場を纏めるはハムスケ。

 

 いつでも、ぶつかることが出来る。

 それはどちらに向けても。

 

 デミウルゴスが交渉折衝をしているのだ、コキュートスに失敗という言葉は浮かんでいない。

 しかし備えることの重要さは身を持って知っている。

 万が一交渉が失敗し、ドラウディロン・オーリウクルスがナザリックの提案を蹴るのであれば……槍は竜王国へと向けられるだろうビーストマンと共に。

 

「ザリュース」

 

「はっ」

 

「怖クハナイカ?」

 

 そんな中不意にザリュースへ向けられたコキュートスの言葉。

 思わず目を丸くし沈黙してしまうザリュースだったが、やがてすぐに一笑し。

 

「あのアンデッド軍団に比べれば」

 

「ソウカ」

 

 ザリュースの返答は他の蜥蜴人全員の総意でもあるだろう。

 観察しているビーストマンは単なる蹂躙者であり略奪者、欲に突き動かされた集団であり軍なんてとても言えない。

 数の上で負けていてなお勝利はナザリックにあると確信していた。

 

「ソレハ――」

 

「俺たちだけでも十分って意味で、です」

 

 先回りした言葉にコキュートスは心地よさげに息を吐く。

 

 強くなった。

 

 ハムスケ含めてだが、コキュートスの配下となった戦士たちは強くなった。

 レベルで換算してしまえばまだまだナザリックの者と言うに不足はあるものの、コキュートスが胸を張って自分の部下だと言える程に。

 

 ナザリックの支援。

 装備や物資というものが彼らの力を高めた要因の一つに違いはないが、何より彼らはそれに驕らなかった。それも当然だ、仮に最高級の装備を与えられたとて守護者達はもちろんプレアデスにすら及ばない自分たちなのだから。

 

 それでも今の彼らは、間違いなくこの世界における最高クラスの戦士たちだ。個の力ではなくある程度の規模、群であり軍として。

 

 コキュートス自身、ビーストマンとの戦いで力を振るうことは考えていなかった。

 蜥蜴人達の仕上がりを確認するといった意味もあるが、何より彼らで十分だという確信も淡くある。

 無論後詰めや万が一に備えてもいるが、それでもである。

 

「オマエ達ハ、マダマダ強クナル。コンナトコロデ消耗スルナ?」

 

「ははっ、もちろんです。ありがとうございます」

 

 強くなった、そしてまだまだこれからも強くなる。

 才能と呼ばれるものは確かにあるだろう、限界という天井だってあるのかもしれない。

 しかし、コキュートスは思う。

 

「ソノ輝キ、コレカラ尚輝カセロ」

 

「畏まりました」

 

 命の輝き、それは強さに左右されるものではないと。

 

「――コキュートス様。交渉完了、ビーストマンを殲滅してくれとのことですぅ」

 

「承ッタ――聞ケッ! 戦士タチヨ!!」

 

 コキュートスの声に全員が立ち上がる。

 

「コレヨリビーストマン達ヲ殲滅スル! 奴ラハ欲ニ塗レ輝キ放テナクナッタ屑石ッ! 輝キ誇ル我ラノ敵デハナイ! 一気呵成ニ攻メ込ミ光デ埋メ尽クシ、ナザリックガ威ヲ示セ!!」

 

「おおおおおおおおおおっ!!」

 

「全軍ッ! 突撃ッ!!」

 

 

 

「負けた、な。いや、これを勝利と言うべきか」

 

「……陛下」

 

 デミウルゴスが置いていった遠視アイテムを覗きながら、力なく言ったのは女王。

 

「この程度であれば、国力が回復すれば再起を――」

 

「出来ないとわかっているだろう? 確かにあの蜥蜴人達であればなんとかなるかもしれない。だが、ナザリックとか言う奴らはそれを待ってもいる、なんて」

 

 敢えて少数でビーストマン達を殲滅する理由。

 宰相が言うように、あの程度の戦力であれば国力回復後に戦いを挑み勝つことは出来るかもしれない。

 

 しかし、そうしてしまえば今度は大手を振って竜王国を攻めてくるだろう。待っていましたと。

 そして突きつけられるのだ、良くて表立った隷属を、悪くてあっけない滅亡という選択肢を。

 

 実に鮮やかな手並みであった。

 デミウルゴスは熟知と言って良いだろう、人……あるいは王の逃れ方と詰ませ方を容易く示してきた。

 威力的でもなく策略的にでもなく、ただただ救われたければ死ねと伝えてきた。

 

「今日が、竜王国の滅んだ日……ですか」

 

「うむ。国としてはこれ以上無い詰みであり敗北だ。これからは単なる玩具でしかないだろう、だが」

 

 戦いが起こっているだろう方角へと目を移す女王。

 その姿を宰相は涙越しに眺める。

 

「玩具になるのは私達だけで十分だ。民は……どうか健やかに」

 

「……はい」

 

 手にとったのは救いなんかでは無いことを正しく理解していた。

 いや、あるいは救いにつながるかもしれない腕だろう言ったように、自分たちが有用な玩具であるうちは。

 

「それが最後の仕事。ふふ、喜べ、少女の姿が役に立つぞ? もしかしたらこんな童を玩具にするなんてと熱り立つ特殊性癖者が現れるかもしれない」

 

「まったく……ならばこれからはもっと幼女らしい振る舞いに磨きをかけてもらいませんと。性格最悪幼女なんて誰も美味しいと思わないですから」

 

「何、需要はある。そう、これからの未来を願って酒を嗜むなんて如何にもで良いだろう?」

 

 遠くに響く戦の音にかぶせるよう。

 ドラウディロン・オーリウクルスは静かにグラスを鳴らした。

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