ナザリックらいふ!~愛され上司のすゝめ〜   作:失望されないルプスレギナ

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作戦の一間

 蒼の薔薇との戦いは終わり。

 ルプスとユリはそのまま二人でカルネ村へ、シズを転移でナザリックへ送った後。今はゼロと王都に着いた所。

 

「さてゼロ。お前は仕方なかったとはいえ顔が割れてしまった、王都で働くにしてもやりづらくなってしまっただろう、すまないな」

 

「と、とんでもありません。むしろあんな場を用意してもらってありがたかったです」

 

 厳ついヤツがこう、両手をパタパタと慌てる様子を見せても可愛くないんだが?

 まぁそれは良い、道中で少し話もしたけどゼロが言うように……何ていうんだろうな、やりがいとでも言うんだろうか、久しぶりに暴れられて多少はスッキリ出来たみたいだ。

 

 深読みするならこれで用済み扱いされることを警戒してるのだろうか?

 確かに使い捨て扱いしてもいいが、今回ゼロが居てよかったと思える点は少なくない。

 敵戦力に目処を立てるって部分にしてもそうだし、単純な人手としても申し分ないとまでは言えないがそれは磨けばいいだけの話。

 

 外でナザリックのために働ける人材は少ないんだ、もったいないお化けに取り憑かれるのも嫌だし多少ゼロの扱いは変えなければならないな。

 

「蒼の薔薇は王都が活動拠点なんだ、面が割れた以上今までの活動をこれまで通りにさせるわけにはな。そこで、だ」

 

「は、はい」

 

 いやそんな警戒しなくても。

 自業自得とはいえここまで怯えられるってのもなぁ。

 

「あの屋敷を覚えているな? あそこはお前らがかつて睨んだ通りナザリックのいわば王都で活動するための拠点だ。ゼロには今後あそこに駐留してもらう」

 

「えぇと、それは構わねぇですが……あっと、申し訳ありません。言葉遣い――」

 

「構わない。それに理由を聞くこともいいさ、お前はメイドじゃないからな。あの時はむしろ悪かったよ、ちゃんと後で言っておくからあまり気にしないでくれ」

 

 ルプスの立場からするとやっぱり俺を軽んじられるのはたまらなく嫌だってのは理解できる。

 最近人間嫌いを加速させてもいるし、気持ちの上では今回肩を並べることを我慢できただけ十分とも言える。

 

 うん? っていうか大口開けてどうしたよ。

 

「何だ?」

 

「い、いえっ! その……し、失礼になるのかもしれねぇですが、思っていたロコモコ様よりも、こう、随分と……」

 

 あー……なるほど? 人が良さそうとでも言いたいのかな?

 そりゃまぁ勘違いってやつだ。正直特別何か感情を向けているわけじゃない。

 

「自分の部下へ恣意的とでも言うか、意味もなく怯えさせる趣味はない。お前がそれなりに働けるヤツだとわかった以上、それが崩れない限り簡単に切り捨てることもしない」

 

「――」

 

 安心したか? それとも気を引き締められたか?

 まぁそれはどっちでも良い。使える、もしくは使えるようになるかもしれない存在を振る舞いごときで潰すのはバカだ。

 むしろ屋敷に囲うってのは逆に言えばいつでも処分を容易に出来るって意味には気づいているのかね? ともあれ今後次第ではあるか。

 

 そう、単純、単純な話だ。

 人の扱い方を教えている俺が、まだ(・・)一番上手く使える存在でいなければならないがためってだけだよ。

 

「話を戻すぞ? 何にせよお前は王都での裏活動からはお役御免だ。今後は自分の腕を磨きつつ、今回のような使い方をメインに考えるようにする。他の八本指の奴らに引き継ぎの準備をしておけ、機会は作る。またお前が居なくなったことで生じる不都合も挙げるように」

 

「畏まりました」

 

「屋敷には知っているかもしれないが一人の執事がいる。やつもまた凄腕だ、俺から声をかけておくから稽古をつけてもらえ」

 

「はい!」

 

 おっと、良いお返事だこと。

 そういや一人門番見習いを雇ったみたいだし、二人で切磋琢磨してもらいましょうかね。

 

 

 

 んで、だ。

 

「よろしく、お願いします!」

 

「……おう」

 

 どうしてこうなった?

 

「ロコモコ様、お疲れの所申し訳ありません。ですがやはり実際に直接と」

 

「いや、いいよセバス。お前の頼みだ、むしろ喜んでと言っておく」

 

「ありがとうございます」

 

 とは言うものの、うーん。

 

「門番、用心棒……えぇと?」

 

「ブレイン・アングラウス。です」

 

 生唾を飲む音が二つロビーに響く。目の前で腰だめに、鞘へ刀を収めたまま中々の気迫を向けてくれるブレインと、様子を見守るゼロのもの。っていうかゼロ、そのポジションなんか鬱陶しいぞ、お前は戦いの行く末を見守るヒロインか。

 

 屋敷に着いた俺とゼロだったけど、出迎えてくれたセバスから頼みが一つとお話がありまして。

 雇った人間の仕上がりを確認してほしいってことでこうなっている。

 

 王都にいる人間を雇えと指示したのは俺とモモンガさんのものだ。

 出来るだけ屋敷の存在を王都に溶け込ませって意図だけど、まぁ平たく言えば実験。

 

 セバスを思えば成長の一つだろう、こうして最終決定というかある種の相談をしてくれるようになったのは。実に素晴らしいといえばそうだ。

 だからこそ却下せずに受け入れたわけだけど。

 

「ゼロ」

 

「あ、はい。御前試合であのガゼフといい勝負を繰り広げた剣士です。結果負けはしましたが、強いですよ」

 

 なるほど、ってことは先の蒼の薔薇と同等かそれ以上の力量はあるか。

 丁度良かったといえばそうかもな、話を聞く限りイビルアイが抜きん出て強すぎた感があるみたいだし。

 

 とはいえ。

 

「……~っ!」

 

 何をそんなに怯えているやら。

 呼吸はまだ始まってもないのに荒いし、身体は少し震えてすらいる。

 強者に対する怯えって話ならセバスに稽古をつけてもらっていただろうに、ましてやこいつが選ばれた理由はセバスの殺気に耐えられたからと聞いている。これじゃあその話を疑ってしまうぞ?

 

 それともあれか? 俺が今素の自分でいるからか?

 セバスの上役が人間じゃないってことに怯えているとか?

 

 ありえない話じゃねぇか。

 まだ人間に近い姿ではあるんだけどな、他のギルメンに比べたら。

 

「ブレイン」

 

「はい」

 

 でも肝は座っているな。

 ちゃんと俺の目を見返してくるし、なら武者震いのセンか。

 ただ。

 

「何を乗り越えたいんだ?」

 

「っ!」

 

 どうにも俺を見て、相手をすると決まってから。

 

 俺を見ていない(・・・・・・・)

 

「失礼だ云々は気にしないで良い。だが、今お前の相手は俺だぞ?」

 

「申し訳な……ありません。ですが、どうか、ご容赦頂きたい。貴方からは、俺が超えなければならないモノと同じ匂いがするのです」

 

 強い目だ。

 セバスへと視線を向けてみれば、頭を下げられてしまった。

 一度何かを失敗したんだろうなこいつは、もしくは壁にでもぶち当たったか。自分で言ってるようにそれを克服するために俺を利用しようとしているわけだ。

 

 なんというか人間って、本当に面倒くさいと改めて思う。

 クライムにしても、こいつにしても。

 何から何まで背負わなくていいだろうことを大事に大事に背負い込む。

 

 かつての自分を思い出さなくもない。

 ギルメンを守る為に一部人物の情報を工作してみたりしていた頃はあったんだし。

 

「あまり派手にしても片付けが面倒だ、メイド達の仕事を増やしてしまうのもな。だからこうしようブレイン」

 

「……」

 

 メイドの言葉を出せば周りを囲んでいたメイドが肩を震わせる。動じなかったのはツアレだけだ。

 まぁ、この調子で頑張ってくれ。せめてルプスがブチギレない程度を目標に。

 

「一撃。ありったけの全力で来い」

 

「――はいっ!」

 

 ブレインの震えが止まる、集中力が高まっていくのがわかる。

 

 やれやれ、本当に。

 スポ根なんてとっくに廃れたジャンルのハズなのにな。熱血なんて時代遅れも甚だしい。

 

 だが。

 

「悪くない」

 

 あのリアルでは持ち合わせてなく、ロコモコとなった俺からは消え去ってしまった概念。

 だけどこうして誰かを通して感じられるのなら、本当に悪くない。

 

 人間という種を、取るに足らないと決めつけなくて済む程度には。

 

「――領域」

 

「……」

 

 雰囲気が変わった。

 ブレインの口から細く鋭く息が吐かれる。

 それでも動かないのは……カウンター? 露骨な待ちの姿勢だ。

 だが気を抜けばすぐさま飛び込んでこられるような気配が伺える。

 

 台無しなことを言えば、何をされたとて痛くも痒くもないんだろうけど。

 

「まぁ、いいか」

 

 悪くないと思ったんだ。

 熱に浮かされる程度にはまだ人間性が俺にも残っているみたいで。

 実に滑稽だとは思うけれど、今この時だけは甘んじておこう。

 

 一歩近づく――ブレインの腰が僅かに沈んだ。

 もう一歩――柄が握られた。

 

 そして、その距離およそ3メートル。

 

「――っ!!」

 

 

 鋭いのだろう(・・・)斬撃が放たれてきた。

 

 

 終了の合図は無い。

 ただ、俺の髪の毛一本が床に落ちた。

 

「じゃあ、合格ってことで。セバスもいいな?」

 

「もちろんでございます。お手を煩わせてしまい、誠に申し訳ありませんでした。そしてありがとうございます」

 

「え、あ……?」

 

 まぁ、残念と思わなくもない。

 彼の剣は俺の斬撃耐性を突破できなかった。手応えでそれはブレインも理解しているだろう。

 

「な、なんで」

 

「合格の理由か? それなら話は簡単だ。受けてみたいと思ったんだよ今の技をもう一度。ここで強くなれ、それでまた自信がついたらセバスに伝えろ。オッケーが出たらまた相手してやる。ゼロ」

 

「は、はい」

 

「お前の当面の過ごし方はこいつと一緒に腕を磨け、共に切磋琢磨しろ。ツアレ、ここの片付けを頼む。セバスは今後のことについて話があるからきてくれ」

 

「畏まりました」

 

 本当に悪くない。

 王国は腐っているにも程があるが、どうやら王国王都、この屋敷には俺が失った人間性が残っている。

 泡沫の夢と消えていくかもしれない場所だが、それでも享受できるうちは存分に。

 

 口元がニヤけるのを必死で我慢しながら、セバスを連れて応接室へと足を運んだ。

 

 

 

「ロコモコ様、改めてありがとうございます。これで彼も間接的にではございますが、ナザリックへと忠誠を誓うでしょう」

 

「うん? ……あぁ、いや。ブレイン、だったか? あいつはそういう奴じゃないと思うぞ」

 

 一息、ではないけれど。教科書が出来上がった以上この屋敷は王国がどうにかなるまでの間、その役目を変える。

 今まではセバスが人間のポジティブな意味での利用方法を検討するための実験場という意味合いが強かったが、これからはゼロにも言ったようにナザリック諜報部隊王都支部的な扱いへ移行する。そういった部分を打ち合わせる為にセバスへ会いに来たわけだし。

 

 もちろんモモンガさんに許可は貰ってるしぬかりはない。

 王都の動向や扱いが決定するまではセバスをここに駐留させることにもなっている。

 

「……申し訳ありません。幾つか質問を許して頂けますか?」

 

「構わないぞ」

 

「ではなぜ彼を合格と? 不合格として放逐してしまった方が機密性の維持は容易かと思われますが」

 

 ふむ。処分と言わず放逐なんて言うあたりが実にセバスらしい。

 

「実験の意味合いが強いな。相手をしてみて思ったが、ブレインはゼロよりも強い。共に競わせることでゼロはブレインの実力を超えられるのかを確かめたいんだ」

 

 正直に言えば確実にブレインの方が強いとは言えないかもだが。俺にしてもセバスにしてもその差がはっきり掴める程ではないだろう。

 

 なんというか、モモンガさんの意見も絡めて考えてだけど。

 この世界では言ってしまえば個々にレベル上限が定められてる様に感じるんだよな。

 才能限界というか、生まれた瞬間から天井が設定されているというか。

 

 ただ、蜥蜴人の仕上がりを見るに、多くの存在が天井へはまだまだ行きついていないとも思う。

 そういった部分を確かめる為の実験だ。

 

「なる、ほど……では」

 

「忠誠を誓わないだろうってヤツか? 勘の部分が強いけど、あいつは誰かの為に生きるタイプじゃない。自分の目的や目標にしか生きられないタイプだと思う」

 

 リアルで働いてた時に培われた勘だからこっちでも活かせられるか微妙な所だけど。

 

「そうだな、言ってしまえば支配。シャルティアなんかに有無を言わさず隷属させることは可能だろう。だが、感情をコントロールして忠誠を植え付けたり、恩義に忠義を返してもらうってのはあいつに望めるもんじゃないと思う」

 

 まさに面識がなかったとは言えセバスの上役という存在である俺を利用してきたように。

 あいつの中で最大優先事項は自分の想いなんだと思う。

 

「ロコモコ様のお考え、理解できました。では彼はナザリックへいずれ敵対する可能性があると認識して接するよう致します」

 

「あいつ一人が敵対した所でどうにもならんだろうがな、根拠も俺の勘でしかないから別の可能性に繋がるかもしれん。だがまぁ当面はゼロを育てる為にうまく使ってくれ、言うまでもないだろうがセバスや俺じゃあ効果的じゃないという意味で相手にならん。その過程で――おっと、すまん伝言だ」

 

 セバスはこれから一つ上の難しい仕事に着手することになるだろうって話をする前に、断りを入れてから伝言を受けてみれば。

 

『ロコモコ様、網に獲物がかかりました』

 

「……まじか」

 

 ソリュシャンからの驚きの伝言だった。

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