ナザリックらいふ!~愛され上司のすゝめ〜   作:失望されないルプスレギナ

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秀の証明

 組織が成される。

 これには当たり前だが順序がある。

 

 目的があり、目的を達成するために適した人物や道具といったパワーを集わせる。

 工程を言ってしまえばそれだけではあるが、目的にたどり着くためのルートは多岐に渡りいずれかの道筋が達成へとつながれば良いと可能性を複数持つことが常道と言えるだろう。

 

 ナザリックで言うのならばアインズの目的。世界にアインズ・ウール・ゴウンの名を轟かせるものになるが。

 現段階での最終目標が世界征服、そしてそのための第一歩として国作りに着手している最中だ。

 ロコモコはその目標を達成するために情報戦という道を切り開き前にも後にもスムーズに運べるよう動いているし、デミウルゴスやセバスは国を成した後人間を上手く使えるように教科書作成に精を出した。

 

 多角的、多面的にアプローチすること。

 それは達成をより現実的という言葉に落とし込むための条件である。

 その条件を前提に置くならば当然目的が多くなればなるほど必要な人員も増えるのは当たり前。

 

 さて、ではここでトブの大森林の調査というものを考えてみよう。

 調査といえばややふんわりしているだろう、少なくとも帝国は調査という名前の中に複数の目的を設定した。

 

 一つ、アンデッドと蜥蜴人が戦った後それぞれがどうなったかの確認。

 一つ、アンデッドが発生した原因の確認と蜥蜴人の集団がなぜトブの大森林に居たのかの確認。

 そして可能であるならばアンデッドの殲滅だ。

 

 重要性で言えばアンデッドの殲滅が高いだろう、トブの大森林からアンデッド達が近隣の村や集落を襲う可能性がある以上急務とすら言える。

 

「だって言うのに、なんで冒険者じゃなく請負人(ワーカー)に?」

 

「そりゃもちろん後ろ暗い何かがあるからだろう」

 

 トブの大森林調査団。

 複数のワーカーチームが集い始めた仮拠点にてヘッケランはジト目を向けてくるイミーナに対して肩を竦める。

 

 フォーサイト含めたワーカー達、全員が知らないことではあるが、アンデッドの名前がまずかった。

 

 フールーダ・パラダイン。

 

 彼はカルネ村を救った魔法詠唱者(アインズ)に関しての調査を行ったが、痕跡をつかめず失敗している。

 故に今回の騒動、可能性の濃い薄いとは別に何かしらのつながりを期待はしたいと思っていた。

 唐突にアンデッドの集団が現れた理由にしてもそうだ、アインズにつながる情報はなくとも何かしらの魔法道具があるかもしれないし別の力を持つ人物が存在しているかもしれない。それを森を丸裸にしてでも情報を得たい、確認したいと。

 

 結果。フォーサイト、ヘビーマッシャー、竜狩り、天武と善か悪かはさておき名高いチームに加えて無名であろうと多くのワーカーが集まった。

 届けられたアンデッドの情報はさほど高い危険性を伺えなかったにも関わらず高い報奨金が設定されていたし、裏に何の思惑があろうとも見逃せない依頼となった。

 

 つまり、多角的、多面的にという条件は達成されたのである。

 

「けど、近隣の村にアンデッドが現れたとかの話は聞いていない」

 

「ですねぇ。本当にアンデッドと蜥蜴人が戦っていたのか疑ってしまうほどです」

 

 アルシェ、ロバーデイクも言葉を続ける。

 

 フォーサイトは調査突入慎重論を唱えていた。

 自身達が言うようにあまりにも静かすぎるトブの大森林に罠のような危険を嗅ぎ取っていたから。

 

「おいおい、だからと言ってこれ以上時間をかけても仕方ありませんよ。何だったらコイツらを突っ込ませて見ますか?」

 

「ヒッ」

 

 天武のリーダー、エルヤー・ウズルスが後ろに控えていた一人のエルフの胸を乱暴につかみ自身へと引き寄せる。

 その光景へイミーナは僅かに眉を顰めながら。

 

「無駄にせっかく集まった戦力を分散させても仕方ないでしょ。けどいつまでもこうしてるわけにはいかないってもわかるわ。ヘッケラン」

 

「あぁ、トブの大森林帝国側……まずは集まった全員で一箇所から侵入。そして安全を確保しながら広がっていく形が一番手堅いか」

 

 地図に目を落としながらヘッケランが言う。

 

「トブの大森林そばへ拠点を作ってから昼間に調査し、日が落ちる前に戻る。そうしてまずは蜥蜴人とアンデッドが戦ったって場所を確認。その後蜥蜴人がまだいるかの確認とアンデッド発生の原因を調査」

 

「最後にアンデッドの殲滅、ね。その場合は夜に?」

 

「いや、蜥蜴人とアンデッドが戦っていたのは昼らしい。時間帯は関係ないだろう、なら徹底して明るいうちの調査が安全だ」

 

 フォーサイトの面々が頷く。

 少し面白くなさそうにエルヤーは顔を歪ませ、掴んだままの胸に力をいれ聞こえる苦悶の声へ苛立ちを鎮める。

 

「話はまとまっただろうか」

 

「そろそろ動かんとの、先走るモンも出かねん」

 

 集まって来た人物達へと打ち合わせを行うため、静かにヘッケランは苦笑いを浮かべながら頭をあげた。

 

 

 

「で、その結果がこれと」

 

「はい、いかが致しますか?」

 

 ヘッケランが打ち立てた作戦に穴があったわけではない。

 むしろ慎重性に富んだものであったし、大凡否定的な意見も生まれなかった。

 

 そして全員で一つの場所から森に入り。

 

「網っつうか、一網打尽って言葉通りだな」

 

 その瞬間をマーレの魔法にて捕らえられた。

 

 ワーカー達が作った拠点から、やや呆れた様子を見せながらロコモコは、森の入口に突如として現れた岩のドームを眺める。

 

 中には今回トブの大森林調査に集まったワーカーが囲い囚われていた。

 既にドーム内に充満しているソリュシャンお手製の麻痺毒により大地へと身を伏せているだろうワーカー達、そして拠点維持のために残ったワーカーは既にナザリック送り。

 

「あの、何か問題がありましたでしょうか?」

 

「あーいや……すまん、あんまりにもな大収穫でな、ちょっと驚いてた。ソリュシャン、実に素晴らしい手並みだ。お前に任せて良かったよ」

 

「もったいなきお言葉!」

 

 さっと頭を下げるソリュシャンを苦笑いしながら褒めるロコモコ。

 正直な所、多くの意味で想像以上だったのだ。

 

 たかがこの森を調査するというだけでこれほどの人数が集められたことも。

 そこまでを見越し、マーレやアサイーへ助力を求めた上で備えこの結果を出したソリュシャンにしても。

 

 そして。

 

(どんだけ侮ってんだか、俺)

 

 自分がどれほど甘い見積もりをしていたのかを。

 

「……ロコモコ、様?」

 

「いや。少しどころかかなり反省した。本当に助かった、ありがとうソリュシャン」

 

 何処と無く泣きそうなまま笑うロコモコ。

 その表情の意味をソリュシャンは理解できない。だが、その顔はとても澄んでいて。

 

 ロコモコは心底己の慢心を呪ったのだ。

 仮にソリュシャンと自分の役目が逆であったのなら、恐らくこうして全員生け捕りといった結果は出せなかっただろう、逃しこそしないかもしれないが確実に誰かを殺してはいた。

 

 だからこそこの結果を出したソリュシャンに対して一種の尊敬といった感情を覚えている。

 発展途上であったがため油断や慢心が無かっただけなのかもしれない、長くこうした仕事をしていればあるいは自分と同じようにミスの可能性を生んでいたかもしれない。

 

「お前が部下で、本当に良かった」

 

 だが、それらはただの言い訳に過ぎない。

 改めて、いずれ自分より遥かに優秀な存在となるだろうソリュシャンをとても大事に思い、大事に育て自分も見直そうと心に誓える。

 

「……改めて、ルプスレギナを羨ましく思います」

 

「ん? なぜだ?」

 

 ロコモコの言葉にソリュシャンは今までとは少しだけ違う何かで心を満たされた。

 今の言葉は、紛れもなく自らの主人、その一人としての言葉ではないと理解できる。

 そしてそんな言葉をルプスレギナは、誰よりも多く向けられているのだろうから。

 

「ありがとうございます。これからもより一層の忠勤を捧げたく思います」

 

「う、うん? こちら、こそ?」

 

 首をかしげるロコモコへ笑顔を一つ。

 その笑顔は従者としてでも副官としてでもない、ただのソリュシャンとして浮かべられた笑顔だった。

 

 

 

 この結果を受けて。

 

「なるほど。それは確かに大収穫ですね」

 

「ええ、ソリュシャンがやってくれましたよほんと」

 

 先からソリュシャンべた褒め状態のロコモコへ流石にそろそろ苦笑いが浮かんできたモモンガ。

 悪い気もせず、止めることもしなかったがそろそろと声をかける。

 

「ともあれそうですね。ワーカー……それだけ捕まえられたのなら別の利用方法を考えて良いかもしれませんね」

 

「っと、すいませんっす。そう、むしろ考えなければならないっす」

 

 改めて今回の結果は予想以上の想定外だった。

 功績という面では両手放しではあるものの、迅速に行動へ移さなければそれをよくないものに変えてしまいかねない。

 

 そう、元々の予想であればここまで大規模に捕らえられることを想定していなかった。 

 多くて十人程度の捕獲。捕獲した人間から情報を得て、記憶を操作して放逐する。

 そして得た情報からどうするかを考えるといった順序になるか。

 

「これだけの人数が一斉に消える、もしくは何かしらを変えてしまうと不自然がすぎる」

 

「はい、隠匿の方向性で進めるのは少し無理があるっすね。ですので今の所考えているのは二つ」

 

 得た情報をどうするかの段階ではない。

 今の状況は少し巻き戻って捕らえた人間をどうするかという問題になっている。

 

「聞きましょう」

 

「まるっと攫うか、まるっと戻すかっすね」

 

 最早規模を問わずの変化、変革は止められない。

 一部の人間だけを帝国へ戻したり、ナザリックで囲うなんてしてしまえばそれこそ不自然に繋がるし、綻びが広がってしまう。

 

「全員を処分するか、全員をナザリックに帰属……いや、ナザリックで利用するものに変えるという意味ですね?」

 

「はい。全員処分すれば帝国は警戒を強めるでしょう、代わりに相手の動きに呼応しやすくなるっす。トブの大森林含めた一帯に対する調査もより高次元のレベルで行われると思うっす」

 

 ワーカー、それもそれなりに名の通った人物達が一斉に消える。

 まさに事件、大事件だ。当然何かがあったと調査する、しなければならない。規模問わずある種の戦争態勢をもって。

 そうなれば改めて帝国にとって重要度の高い人物を捕獲出来るだろうし、あるいはその場で帝国の戦力を大きく削ることが出来る。

 

 大きく削れば副次的に王国との戦争に影響を与えるだろう、王国有利といった影響を。

 

「王国を活かす方向を取るならこの案は活きてくるかと思うっす。帝国を完全に敵としてしまうっすが」

 

「……戻すならどうです?」

 

「ワーカーはどちらかと言えば裏の存在です。言うなら表に認められた裏って感じですが。ともあれわかりやすく置き換えるなら王国で暗躍を続けさせている八本指と似た動きを取らせることが出来るっすよ。まぁ恒久的な支配を要するので、手間がかかるっすが」

 

 方法としてはシャルティアの眷属化であったり、ラナーのようにナザリックに着くことが得であると認識させ強い忠誠を植え付けるか。

 

「ふむ……」

 

 そこでモモンガは長考の姿勢を取った。ロコモコは黙って思考が終わるまで待つ。

 

 今回の件は紛れもなく自分のミスと認識していた。

 自分の考えが至ら無かった結果、初動の遅れを招いてしまったのだ。

 だがここでさらなる失敗へ結んでしまえばソリュシャンに申し訳どころか上司と二度と言えなくなる。

 

(怪我の功名にしてみせる……)

 

 静かに心を燃やすロコモコ。

 既に考えつくあらゆるパターンを頭の中で吟味している。決してソリュシャンのやってくれたことを無駄にしないと、かつて今ほど思考を巡らせたことはないというレベルで。

 

「ロコモコさん」

 

「はいっす」

 

「王国はカルネ村にそろそろ動きますか?」

 

「丁度司政官が向かったところですね。ラナーから聞けば同時に兵もまとめ出したと言ってましたし、司政官が戻り次第すぐに王都を発つでしょうから……十日あればカルネ村に軍が到着するかと」

 

 王国に関しては想定通りの動きを見せている。

 むしろ蒼の薔薇が手ひどくやられたという結果を見て、司政官派遣は形だけでどのような結果であろうとも兵は出されることになった。

 

「ワーカー達はトブの大森林調査にどれくらいかかると見立てていたんでしょうか」

 

「規模、人数から考えて……長くて一週間ってところだと思うっす」

 

 このロコモコの予想はあたっていた。

 どれだけ長くても一週間を区切りとして進捗を報告するという形になっている。

 

「……よし」

 

「モモンガさん?」

 

 何かを決定したのかモモンガは座っていた椅子から腰をあげて、しっかりとロコモコの目を見た。

 

「これでもナザリック最高責任者は俺なんですよロコモコさん。そう心配しないでください、むしろたまには良いとこ見せないとってなもんです。その機会をくれて嬉しいくらいですよ」

 

「は、はい?」

 

 骸骨じゃなければ笑っていただろう、清々しく。

 そんな風にロコモコが感じた後。

 

「まずは捕らえたワーカー達から情報を洗いざらい攫ってください、余すことなく知っていること全て」

 

「了解っす」

 

 それは当然とロコモコは頷く。

 

「それが終われば教えて下さい。記憶操作します」

 

「え? 記憶操作っすか? それだと結構な無茶が――」

 

 時間経過からの記憶操作では矛盾が生まれると言葉を返そうとした時。

 

「大丈夫です。信じてください、これでも俺はギルマスですから」

 

 モモンガは自分の胸骨を叩いてそういった。

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