ナザリックらいふ!~愛され上司のすゝめ〜   作:失望されないルプスレギナ

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事、動く

 エンリ・エモット、いや。カルネ村は混乱の渦中にいた。

 

 なぜ王国軍が村を取り囲んでいるのか、なぜ揃って刃を向けられているのか。

 

 確かに数日前に訪れた司政官は言った、反乱首謀者を差し出せと。いると断定してそう言った。

 そう言われてもそんなこと、考えてすらいないのだからわけがわからない。

 日々の暮らしに暗い影は何もなかった。ゴブリン達が村の一員として馴染み少しずつ難しいと思っていたことが出来るようになっていって、ンフィーレアのポーション開発も順調で。

 緩やかに、穏やかにだが発展を迎えつつあったのだ、幸せな暮らしと言って何も間違いなかった。

 

「姐さん……どうしやすか」

 

「どうするって……どうしたら……!」

 

 ゴブリンの一人が聞く。

 愛着も、信頼も、名前さえ付けた頼もしい自分の部下……いや、友人。

 

 王国軍、バルブロに告げられた言葉は最終通告。

 この場で反乱首謀者、並びに新村長であるエンリの身柄を差し出せば退くというもの。

 

「お姉ちゃん……」

 

「大丈夫、大丈夫だからね」

 

 足元にしがみつくネムの頭を抱きながら、エンリはまとまらない頭を働かせる。

 

 一つの考えとして。

 まったくの無実であるが自分が首謀者であると身柄を差し出せばどうにかなるのではないかと思ってはいる。

 

「わかってると思いやすが……姐さんがでちゃまずいっすよ。もうあんたは村長だ、そんな人間が首謀者なんて言ったら……まず間違いなくこの村も攻撃対象になる」

 

「っ……!」

 

 だがそれは当然のようにやめてくれと釘を刺される。

 

 ならば誰かを生贄に捧げるか。

 エンリにその考えはなかったが、村人達はそうエンリが決定すればすぐにでも自分の手を挙げる覚悟はあった。

 

 カルネ村には笑顔があった。

 人間だけではない、異形種であるゴブリンもそうだ。ここには種を超えた命の笑顔が共にある。

 

 今まで築き上げてきたものは自分たちが望んだ暮らしそのもので、崩れ去ってしまうのであれば命などと心の底から思っている。

 

 だが同時にエンリはその選択を決して選ばないだろうとも理解していた。

 ならば残されているのは。

 

「俺……戦うぞ!」

 

「なっ!?」

 

 徹底抗戦。

 元より王国に対して期待は持ち合わせていない。

 この村を救ったのはアインズで、発展を迎えたのはアインズの力に加えて自分たちの力以外にないのだ。王国は何もしてくれなかった。税の免除が何だというのか、共に汗を流し泥に塗れたわけでもないし、まさしく大地に落ちた血に報いることをしてくれたのか。

 正確に言うのであれば、戦士長ことガゼフは動いていたがそれが個の意思によるものだということくらいはわかっている。

 

「そうだね、僕も。こんなわけがわからないままエンリを失うなんて出来ない」

 

「ンフィー!?」

 

 どんどん上がっていく声。

 音に目を丸くしながら信じられないと呟くエンリだったが。

 

「姐さん、やるしかねぇ」

 

「ジュゲムさん……」

 

 少しだけ呆れた色を滲ませながらゴブリンはエンリに言った。

 

「援軍ってやつが期待できねぇ以上、乾坤一擲真正面からぶつかってあの指揮官を討てば可能性は……低いですが生まれる。猶予は後一日、なら準備が終わり次第……覚悟を決め、いや覚悟はもう決まってやすね。やるだけですわ」

 

「……」

 

 援軍の言葉に一瞬アインズの姿が脳裏に浮かぶ。

 カルネ村を一度救ってくれた人で、大きな力を持つ人。

 

 だが。

 

「わかりました……やりましょう!」

 

 ハナから頼りにするなんて出来ない、都合のいい展開を期待なんてただの現実逃避。

 それしか手段が無いのであれば、やるしかない。

 自分はもうただの村娘の一人ではない、村長なのだ。

 

 理不尽に奪われるを待つのはもう沢山で、後悔だってしたくない。

 そんな想いがエンリの瞳に闘志を灯らせ、王国との決別を決断させた。

 

「よっしゃあ!!」

 

 沸き起こる声。

 

 そんな盛り上がりを消火するように。

 

「あらら、お困りみたいっすね」

 

「随分と大変なご様子。メイドの手で良ければ、お貸し致しますが」

 

 二人のメイドが現れた。

 

 

 

「ここ、は……」

 

 鈍痛が響く頭を軽く振りながら、覚醒し始めた意識と共に周囲を見渡すのはヘッケラン。

 周囲は薄暗い、そして僅かに血の匂いが漂っている。

 

「そうだ、俺は、俺達は――ぐっ」

 

 鈍痛が増してこめかみを押さえる。

 思い出したのは森へと踏み込んだその瞬間。

 

「俺達は……捕らえられた……! そうだ! イミーナ! ロバー! アルシェ!」

 

 声が反響した、しかし返ってくる声は無い。

 暗闇に目がなれ始めてきて、今いる場所が洞窟のような場所だと理解できた。

 

 一瞬浮かぶ疑問、捕らえられ運ばれたのはこんな場所だっただろうか?

 

 しかしそれを今考えている場合ではない。

 浮かんだ疑問を封じて自分の身を探ればダメージを負った様子はない。

 

「……罠に嵌ったのはわかってる。だが、殺されていない、目立った傷もないし装備もある」

 

 自分の立場が不確定だ。

 捕らえられ生きている以上、何かがあるのはこれからだとわかってしまう。

 

 生唾を飲み込む音さえも反響し、先の見えない暗闇へと吸い込まれる。

 

「いくしか、ない」

 

 そうして一歩踏み出した。

 進んでいけば進んでいくほどに大きくなっていく空洞。

 ワーカーとしての経験から、ここはモンスターの拠点と言うべき場所なのかも知れないと察する。

 

(つまり、この先にはモンスターがいる可能性が高い)

 

 やれるだろうか。

 真っ当に生き残るすべを考えるのなら、まず仲間と合流、その後モンスターを相手にしながらここから脱出。

 

(厳しい、だが)

 

 順当に厳しい。しかし捕らえられたワーカーは自分のチームだけではない。

 あれからどれほどの時間が経過しているかわからないが、自分がまだ生きているように他にも生存している者がいる可能性もある。

 

 死んだものの中に、親しい人間が居ないことを願いながら慎重に歩く。

 既に背中には冷たい汗が流れているし、指先は緊張で冷たく硬い。

 

 願わくば。

 

(あーいや、ほんっと死を覚悟した時ってのはな)

 

 一瞬浮かんだ女の影。

 振り払うようにして、更に一歩。

 

 そして。

 

「――」

 

 自分の顔を横切っていった胴がつながっていない頭。

 遅れてやってくる血しぶきが身体にかかる感触と共に。

 

 死を、実感した。

 

「あぁ、やる前から汚してしまってすまないな」

 

「は……はは……」

 

 膝を折らなかったのは奇跡。

 圧倒的すぎる死の気配を纏う黒い獣。

 

(死んだ)

 

 それしか考えられなかった。

 先程通り過ぎていった頭はエルヤーだったことも忘れた。

 こんな存在がここに居て、誰が生き残れるというのか。

 

 やりたいこともあった。

 自分だけじゃなく、チームの全員も恐らく集まったワーカー達も。

 だがそれはもうこの獣に塗りつぶされてしまうだろう毛色のように真っ黒へ。

 

「諦めるにはまだ早いぞ人間。今丁度一人ゲームオーバーになってしまったが、お前にも可能性はある」

 

「げー、む?」

 

 何を言っているのか理解はまだ出来ていない。

 それどころか獣が理解できる言葉を口にしているという事実にすら気を向けられない。

 ただただ諦めるには早いという言葉に光を感じた。

 

「そう、ここにいるトロール達に勝てば見逃してやろう。先程まで戦っていたヤツはな、不思議とパーティを組んでいるのに一人で……あぁ、なるほど」

 

「?」

 

 黒狼が目を向けた方へ視線を向けてみれば、エルヤーだったものの胴体だろうそれを寄って蹴り潰そうとしているエルフ達がいて、満足したのだろうか不意に動かなくなりその場へ倒れた。

 

「……パーティ、と言ったな」

 

「言ったとも」

 

「イミーナ達がまだ生きているのなら、俺もまた組んでそのゲームとやらに挑戦してもいいのか」

 

「構わないとも。私は少し飽きていてね、最初こそ一人でしか認めていなかったがあまりにも弱すぎるからルール変更したのさ。先のソレは言ったのにも関わらず自分ひとりで十分だと言ってくれたから期待したんだが……いやまぁそれはいいか。こちらに来るまで待っているといい」

 

 ――ナめやがって。

 

 内心毒づくヘッケランだったが、黒狼の周りに控えるよういるトロール達は自分ひとりでは難しい。いや、難しいどころかまさしく命をかけた勝負になるだろう。

 

 待つ。

 まずは生きていてくれと、生きていると教えてくれと願いながら。

 そうしている内に。

 

「ヘッケラン殿」

 

「グリンガム……さん? 生きていて良かった」

 

「こりゃまた僥倖……とは言えんようだの」

 

 集まり始めるワーカーチーム。

 それなりの数が揃いつつあるにも関わらず黒狼は涼し気な雰囲気を放っている。

 

「ヘッケラン!」

 

「無事で……良かった」

 

「でも、そう言ってる場合でも無い」

 

 祈りは通じてヘッケランのチームが揃い、アルシェを最後にしてしばらく誰も現れない。

 

 メンツを見渡せば天武以外にいくらか見えない顔があるが、恐らく。

 

「これで全員だな」

 

「……っ」

 

 予想は的中していた。これで、今生きている人間は全員だと。

 

「一つ、聞きたい」

 

「どうぞ?」

 

「お前は手を出さないのか」

 

 ヘッケランが進み出て問う。

 グリンガム、パルパトラはまだしも、他の人間は全員怯えていた。まだ黒狼と相対したことによる恐怖に慣れはじめてきたからこそ一番最初に動けた。

 

「少なくとも、この洞窟では手を出さないさ」

 

「本当か」

 

「何だ、瞬殺をご希望か? それはよくない、私は飽きているといっただろう? 少しでも長く楽しませてくれ」

 

 ヘッケラン以外の何人かがゴクリと息を呑んだ。

 

 本当、だろう。

 このメンツ相手に瞬殺という部分も含めて。

 

「作戦会議をしたい。楽しませるためにも」

 

「その言い方は実に好ましい。いいだろう許可する」

 

 こくりと頷きヘッケランは仲間達の下へ。

 ヘッケランを囲むように格チームリーダーが集まり始める。

 

「こっちの人数は……二十、ってとこか。ここから見えるだけでもトロールの数は十一体、やれないことはないが」

 

「あの黒狼の目的が見えんの……トロール達を倒した瞬間殺される可能性はある」

 

「念の為聞いておくが、あの黒狼に勝てるって可能性は?」

 

 揃って面白いように首を横に振る。

 誰もが同じだ、中にはあの黒狼を見た瞬間失神したものすらいた、そしてそれは正しい反応の一つだ。

 

「ならやっぱ」

 

「戦いながら……あの出口へ抜ける、か」

 

 その意味を言わずともわかっていた。

 つまり。

 

「恨むなよ?」

 

「言うまでもない」

 

 誰かは絶対に逃げ遅れるということ。

 可能性として全員逃げられないほうが高いことはもちろん理解していたが、それでも逃げられるという希望を消したくはない。

 

「後は……チーム単位で」

 

「うむ……武運を祈る」

 

 絆があったわけではない、ただ偶然同じ依頼を受けたに過ぎないのだ。

 それでもここはまさしく鉄火場だった、共に戦うものとしての信頼を預けなければ話にならない。

 それを利用されて、自分たちを置き去りにされたとしても、それは。

 

「……いいの?」

 

「あぁ、そういうものだろう?」

 

 ヘッケランに駆け寄ってきたイミーナ、続いて来たロバーデイグとアルシェ。

 そのまま小さく輪を組む四人だったが、ヘッケランはイミーナへ、そしてロバーデイクへと目をやる。

 ヘッケランの視線へと二人は黙ってうなずいた。アルシェはその頷きの意味がわからない。

 

「アルシェ」

 

「何?」

 

「手を出してください」

 

 言われるがままアルシェは手を出し……その手にロバーデイクから金貨の詰まった小袋が乗せられた。

 

「なっ!?」

 

「あなたは先に逃げなさい。妹さんがいるんでしょ」

 

 わけがわからないアルシェ。

 確かに状況は不味いどころか最悪だろう、誰かは確実に犠牲になるどころか全滅のリスクのほうが高いのだ。

 だからこそワーカーチームそれぞれを利用しあってこの場から脱出する。

 

 少なくとも、アルシェの認識はそうだ。

 

「何故!? さっきの話じゃ――」

 

「あぁ、他のワーカーを信頼してるさ。だが、信用してない。だから信用できるイミーナとロバーで、お前を逃すんだ」

 

「――」

 

「大丈夫です。ちゃんと後で合流しますから」

 

「その時は一杯奢ってね」

 

 アルシェの言葉が紡がれる前に、覚悟を示された。

 

 故に。

 

「理解……した……先に、待っている……!」

 

「あぁ、頼んだぜ」

 

 声を震わせながら、必死に唇を噛み締めて。

 

「そろそろいいか?」

 

「あぁ、待たせちまってすまないな! 早速ゲームってやつで遊ばせてくれよ!!」

 

 ヘッケランの威勢のいい声。

 呼応するように全員が各々の武器を握りしめる。

 

「では……精々楽しませてくれ!!」

 

「オオオオオオオオオオオ!!」

 

 黒狼の声に従い動き始めるトロール達。

 

 そんな中。

 

(伝言――ソリュシャン。見ているな?)

 

(はっ。ワーカーの撤退をカルネ村方面へ誘導する準備は整っています)

 

(よし。タイミングを間違えるなよ?)

 

(畏まりました)

 

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