ナザリックらいふ!~愛され上司のすゝめ〜 作:失望されないルプスレギナ
再起動ルプスレギナ、その後アルベドとの対話
「ルプス、改めて久しぶりだな」
「はい。再びこうしてお姿を見ることができた喜びをどう表せばいいものかわかりませんが。本当に、お久しぶりです。そして先刻失礼な姿をお見せしましたこと、どうかお許しください」
「俺は失礼な姿を見せられたなんて思ってないさ。むしろセバスやユリ、そしてお前のこうした姿を見る事が出来た喜びの方が大きい。ありがとうな」
その言葉に危うく再び卒倒しそうになったのは内緒の話。
何とか耐えられたのはまさにこれ以上の失礼を重ねてなるものかという意思のおかげだろう。
だがおかしなことは言っていないだろうか、変に思われていないだろうか。
そういった不安を押し殺すのは並大抵の努力ではすまなかった。
何よりこうして言葉を交わしているという事実が未だに信じられず、夢心地ですらいる。
「ありがとうございます……つきましては本日ロコモコ様の共を申し付けられています。ご希望があればどのようなことでもお心のままに」
「そっか。ならそうだな、少し頭の中を整理したいのと腹が減ったんだ。飯食えるところに連れて行ってくれないか?」
ロコモコは既にリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを指にはめている。
装備に関してはナザリック宝物庫に保管されており、後でモモンガが回収しに行く予定となっていた。
当然ルプスレギナの目にリングは捉えられている。
ナザリック内を自由に転移出来るのにも関わらず案内して欲しいと言われたことは、どういう意図か。
「かしこまりました」
頭を下げながらルプスレギナは思考する。
考え事をしたいと言うなら静かな場所、自室等の方が良いだろう、そして食事もというのならば先に転移して頂き自分が持って行くという形が効率的だ。
しかしロコモコにリングを使用する様子は見られない。
故にルプスレギナは混乱した。
かしこまりましたと既に返事をしてしまったのだ、何処かへと案内すると頷いてしまった後でリングの使用を声掛けするなど失礼ではないだろうかと。
何処へ案内すべきか、この場合は行く道中に時間をかけた後食堂へと向かうことが正解だろうか。
そうした場合足労頂いているという状況が不味い。ならば自分がロコモコの身体を抱え負担のないようにするべきか? 等と言った思考のとんでも飛躍すら伺える。
「……絶対無理っす……」
小さく小さく呟く。
もうこうしているだけでいっぱいいっぱいなのだ。気を抜けば無様にも喜びで大泣きしてしまいそうなのだ。
だというのにどうしてその御身に触れるなどできようか。
「ルプス」
「はっ」
「そう緊張しないで欲しい。転移しないで案内を頼んだのはお前と話をしたかったからってだけで、そこまでガチガチになられたら気後れしてしまう」
困った様に話すロコモコ、その姿と言葉に己の失敗を悟ったルプスレギナは弾かれたように平伏、しようとした。
「それが困るって言うんだルプス。先に言った通り俺はまだお前たちの忠義を向けられる資格を持ち合わせていない」
「そ、そのようなことっ!」
跪こうとしたルプスレギナの身体を腕で支え止められ、至近距離で瞳に映るロコモコの顔に心臓が高鳴る。
「今のままじゃかつての仲間にも顔向けできない。そんな中、獣王メコン川さんの子であるお前にそうされるのは心が痛むんだ。俺を助けると思って、どうか普段通りにして欲しい」
――あぁ、お慕い申し上げます。
そう言葉にできればどれほどの幸福か。
まさしくロコモコはルプスレギナにとって敬慕の念を捧げるべき相手だった。
親愛、情愛、敬愛……あらゆる種の愛情が胸の中で渦巻く。
自身の創造主が現れたのなら良かった。ただただ敬愛と忠義を捧げるだけで済んだのかもしれない。
しかし現れたのはロコモコただ一人で、創造主の姿は見当たらない。
不敬にもほどがある愛情という感情を隠すための、創造主のご友人という隠れ蓑は今ないのだ。
「過分な、お言葉、誠に、ありがとう、ございます」
ルプスレギナはそう答え、頭を下げるだけで限界だった。
そうして最早粛々と歩きなれた場所にも関わらず、どこに向かっているのかもわからないまま、どうしたものかと頭を悩ませるロコモコを案内することしか出来なくなってしまった。
「これは……御用でしたら
「いや、礼を向けてくれた者に対しては礼を返さねばならないからな」
場所はアルベドの私室。
ドアの外には誰も通さないで欲しいとロコモコより
結局食べることが出来なかった食事。空腹を覚えながらも思考がまとまったロコモコはアルベドと訪ねた。
アルベドとの会話。
それこそがまず着手すべき仕事だと定めたから。
「左様でございますか……それで、どのようなご用件でしょうか? 私に出来る事であれば全力をもってあたるとお約束致します」
頭を下げながらアルベドは頭を働かせる。
礼を向けてくれた者には礼を。
ロコモコはそういった。
それは裏を返せば無礼には無礼をと言う事。
事前に何の連絡もなく急に私室へと入ってくる。これは至高の御方であれば無礼でもなんでもなく、むしろ急な来訪を喜びもって応対すべきことだろうと言う事はナザリックにおける常識。
しかしそういった枷を外せば無礼失礼にあたることのはずだ。
そうアルベドが考えた時。
「――っ」
静かに息を呑んでしまった。
外面的には礼を欠かしてはいないはずだが、内面、心から礼を尽くしたとはアルベド自身思ってはいない。
それを見抜かれたのではないかと。
モモンガ含めて至高の御方が持つ叡智に遠く及ばないと常より知者であるとアルベド自身も認めているデミウルゴスは言っている。
その言葉がまさにそうだとするならば、誰にも明かしていない心を見抜いてもおかしくはない。
「やっぱり、か」
「あ――」
そしてその考えが正しかったと、アルベドは自身の愚かさを呪った。
ロコモコの視線にある、壁に立てかけられたモモンガの紋章旗と床へ乱雑に置かれたギルド紋章旗。
「こ、これは――!」
「いいんだ、言い訳も謝罪も要らないよアルベド」
告げられたアルベドの思考は冷たく冴えわたる。
――むしろ、好都合。これはロコモコという不安材料を消し去る千載一遇のチャンスなのではないか。
モモンガの心を救済したのは事実。それに対しては感謝もしている。
これからモモンガと共にナザリックを導き、繁栄をもたらしてくれる存在として信じたいが、再び姿を消すという可能性は捨てきれない。
ならばいっそ、この手で。
アルベドらしからぬ短絡的な考え。その後モモンガの手によって処分されてしまうかもしれないが、モモンガの幸せを願ってこその行動。そうなったとしてもアルベドに悔いはない。
故に。
「すまなかった」
「――え?」
深く、深く頭を下げるロコモコの姿に強く動揺した。
「お前がモモンガさんを深く愛していることは
モモンガよりアルベドの設定を一部書き換えてしまったと言う事は聞いていたロコモコ。
そうさせてしまった原因の多くは自分たちが姿を消してしまったからであると察してそうですかと気にしない風を取ったが、その影響は大きいのではないかと考えた。
まとめた考えは書き換えた事によるアルベドの影響。
創造主が設定魔であったが故に時間を要してしまったが、ロコモコが何より最初に取るべき行動で仕事だと結論づけたのはこれだった。
「何だったら直接モモンガさんに確かめてもらってもいいぞ?」
「……」
アルベドは絶句したまま動けない。今何を言われているのか欠片も理解できなかった。
あれほど望んだ存在を、たかが僕一人の不安を消すために処分していいと許可をした
想像を絶する戦いだっただろう、それを終えようやく帰るべき場所に帰ってきたというのに、たかが僕一人の安寧確保に命を捧げて良いと言っている
全て、
「どうした? 如何に防御特化のアルベドとはいえ、何の装備もしていない裏方特化の俺を殺せないはずもない。遠慮しなくていいんだぞ」
そういうロコモコの瞳は優しい。
かつて直接声をかけられなかった頃よりずっと変わらない、穏やかな眸。
「できま、せん……出来るわけが、ありません」
瞬間、アルベドは至高の御方は何故至高であるかを魂で理解した。
己の願いという欲望に重きを置いてしまっていた矮小さを知った。
すべてを見抜かれてなお、それでいいと認められ、あまつさえ謝罪までされた。
格どころではない、次元が違うと身をもって知らされた大きな愛情。
「ロコモコ様に、忠誠を、誓います」
跪いてそう誓うしかなかった。何より心が服従した。
反抗心は軒並み圧し折られ、敵うわけがないと悟った。
「あー……アルベド? それを向けられに来たわけじゃないんだよ。先も言ったけどさ、まだ今の俺じゃ足りないしさ、一旦置いといて、だ」
「え、あ、はい」
置いといてとジェスチャーをしながら笑うロコモコは今まで部屋の中に漂っていた緊張感を霧散させる。
「嘘か真かとかもいいんだ。一つ危惧があってな」
「危惧、でございますか?」
「あぁ。ほら、モモンガさんってさアンデッドじゃん? んで俺は人狼。言い換えればモモンガさんは既に死んでるから永遠に存在できるけど、俺はそうじゃないわけだ」
そこまで言われてアルベドはピンと来た。
「寿命、でございますね?」
「そう。もしかしたら寿命を延ばす魔法とかアイテムがあるのかもしれないけど、まぁ意思関係なくナザリックから旅立つ時はやってくるんだ、モモンガさんを遺してな。人狼という種がどれほど寿命があるかは分からない、けどアルベドよりも短いのは間違いないだろう」
どうしようもない事なのだ。
ナザリックにおいて定命種は確かに存在している。
ダークエルフであるアウラやマーレとて、長寿ではあるが寿命はあるだろう。
「だからここに来たのはそれについて話をするためってのがメイン。なぁアルベド、俺の頼みを聞いて欲しい」
「はっ」
命令ではなくお願い。
もうすでに命令であろうと頷く心持ちであったアルベドにとっては意外な言葉だった。
それだけに少し緊張感をもって続くだろう言葉を待っていたが。
「モモンガさんを、これからもずっと支えてやって欲しい」
当たり前の事過ぎて言葉が生まれなかった。
「あぁ!? そんな顔するな!? 当たり前だって? んなことわかってるって!」
「で、ではどう言った意味なのでしょうか? 愚かな私にお教え頂ければこれに勝る喜びはありません」
わたわたと慌てるロコモコの様子に、なんだか可愛らしいと初めてだろうロコモコの前で笑顔を浮かべるアルベド。
そんなアルベドに向けて咳払いを一つした後、真面目な顔をして口を開く。
「定命の者は命を継ぐんだ。要するに子を成し意思を遺す。俺はいつか滅びるけれど、モモンガさんを支えるという意思まで滅ぼすつもりはない。アルベド、お前に頼みたいのは俺が遺した意思を見守り導いて欲しいということだ」
「見守り、導く……」
「そうだ。俺の子がモモンガさんを俺の様に、あるいはお前たち守護者のようにモモンガさんを支える者であるよう見守り、導いて欲しい。それはきっとアルベドにしか出来ない事だ。アインズ・ウール・ゴウンを愛している他の守護者のような者たちではなく、モモンガという個を愛しているお前にしかな」
それは確かに己のみが出来る事だろう。
ロコモコに子が生まれることがあるとすれば、間違いなくナザリック中から溺愛される。
全員が揃いに揃って甘やかすだろう、子供らしい我儘、本来ならば叱らなければならない場面であっても真面目な顔をしてかしこまりましたと言う守護者たちの顔が思い浮かぶ。
いや、もしかしたら、今のアルベドであるならば。
「確約は、致しかねます」
他の者と同じような顔をして溺愛してしまうかもしれない。
「う……まじ、かぁ」
そこで断られるとは思ってなかったと顔を覆うロコモコだが。
「はい。ですのでいずれお命じ下さい。ロコモコ様がご自分をお許しになられた時に」
敬愛すべき新たな主ならこれくらいの悪戯心は許してくれるだろう、察してくれるだろうとアルベドは甘える。
「……ったく、そういうのを飼い犬が手を噛むって言うんだぞ?」
「それは心外でございます。まだロコモコ様に忠誠を捧げること、許されておりませんので」
先とは全く違う、柔らかな雰囲気の中で二人は笑いあった。