【完結】釜山防衛戦・朴星日の奮闘――劣等差別地球外民族BETA vs 世界最高戦術機甲先進国・大韓民国――   作:河畑濤士

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(天)

 “人類の剣”、戦術歩行戦闘機の起源が朝鮮半島にあることは4世紀中頃の高句麗古墳安岳3号墳の壁画『手搏図』をみれば、戦術機半万年の起源は明らかだ。

 そして現代においても韓国は、世界最高戦術機甲先進国として知られている。

 

 ……という冗談はともかく、世界的・客観的にみて韓国陸軍は強力な部類に入っていた。

 

 オリジナルハイヴを抱える中華人民共和国と陸続きということもあり、韓国政府は陸軍に対する投資を惜しまなかった。

 70年代から80年代初頭にかけ、第1世代戦術歩行戦闘機であるF-4Dファントムの導入を皮切りにF-5Aフリーダムファイターを取得して戦術機甲連隊を複数個揃えている。

 そして90年代には第2世代戦術歩行戦闘機F-16Cファイティングファルコン、F-15Kスラムイーグルの導入を以て、韓国陸軍は日本帝国陸軍や中国人民解放軍陸軍に劣らないだけの陣容を整えていた。

 加えてその他の正面戦力も充実させている。

 M48パットン戦車1000輌に加え、80年代から90年代にかけては攻撃力・防御力・機動力のバランスに優れた105mm戦車砲装備のK1戦車約1000輌を配備。

 また「非自動車化軽歩兵は対BETA戦においては無力」という戦訓から、機械化歩兵装甲や装軌車輌・装輪車輌の配備も急ピッチで進められ、完全自動車化の完了と高水準の機械化さえも成し遂げた。

 これは韓国経済・政府財政が限界を超えて予算を搾(しぼ)り出した成果、国民が重税に耐え忍んだ結果に他ならない。

 

 ところがしかし、1998年春――その韓国社会と朝鮮民族が血の滲(にじ)むような努力を以て整備した韓国陸軍は、すでにもう影も形もなかった。

 

◇◆◇

 

 炸裂する砲弾、飛散する肉片、生きたまま食われる戦友の悲鳴、廃墟から突如として飛び出してきた要撃級に押し倒される僚機、突撃級に轢殺(れきさつ)されて血煙と化す避難民の列――。

 

(畜生)

 

「怒髪天を衝く」を体現するヘアスタイルの朴星日陸軍中尉は、愛機のシートに身を預けたまま瞼(まぶた)を閉じていたが、網膜に焼きついた敗残の光景と、鼓膜にこびりついた悲鳴、そして後退に次ぐ後退の屈辱を忘れられず、神経を昂(たかぶ)らせていた。

 与えられた休息の時間は、わずか30分。

 朴星日が所属する定数24機の韓国陸軍第19戦術機甲連隊・第155戦術機甲大隊は、いま釜山港北東に所在する陵星大学キャンパスに設けられた補給所に後退、最低限の補給と整備を受けているところであった。

 釜山市北方――地獄の蔚山(ウルサン)から後退してこられた第155戦術機甲大隊所属機はわずか8機。1個中隊にも満たない。

 

(劣等差別地球外民族どもが――)

 

 投与されている薬剤のおかげか、朴星日は恐怖ではなくただただ怒りを胸中(きょうちゅう)に抱いていた。侵略者に対する純粋なる嚇怒(かくど)。いまや韓国の大部分は、地球外から飛来してきた蹂躙者によって食い荒らされている。

 

 韓国全域の戦況を、朴星日はほとんど知らなかった。

 前線の戦闘部隊には、必要最低限の情報しかもたらされていない。おそらく軍司令部が将兵の士気を懸念しているのであろうことは、想像に難くない――あるいは、情報を集約する上級司令部はすでにこの地上から消滅しているのかもしれなかった。

 

 噂によると西部戦線では光州市が呆気なく陥落し、国連軍は多大な損害を被ったらしい。山間部に散った韓国陸軍は遅滞戦術を採っているようだが――光州市陥落が事実ならば、西部戦線における反撃と押し戻しは現実的ではない。

 

(こっちももたないぜ……!)

 

 一方の東部戦線(こちらがわ)もまた、破綻をきたそうとしていた。

 交通の要衝である大邱は陥ちた。韓国東部の幹線道路を驀進して来たBETAの大群は、蔚山市街を南北に分かつ太和江にて食い止めているが、戦況は芳しくない。

 理由はひとつ。砲火力の不足。韓国北部・中部における防衛戦の失敗で、砲兵部隊が“蒸発”したためだ。

 このままでは早晩、釜山決戦となるだろう。

 最前線の蔚山市街と釜山市街は、約50kmしか離れていない。

 

◇◆◇

 

「助けて――」

 

 月夜。

 幹線道路や鉄道沿いを驀進してきた連隊規模のBETA群の殲滅に成功した蔚山市・太和江防衛線に、今度は山間部を通って撤退してきた国連軍・大東亜連合軍の戦術機や機械化部隊が、断続的に現れた。

 だがその多くは整然なる撤退にあらず。壊走同然に駆け込んでくるようなものであり、半ばBETAに食らいつかれながらやってくる部隊もあった。

 

「援護する。中隊、往くぞ」

「応ッ」

 

 捨て置けない。友軍機を見殺しに出来るはずもなし。

 防衛線に張りついていた漆黒の戦術機が、面(おもて)を上げた。頭部のシールドバイザーに設けられたセンサーが赤く明滅したかと思うと、数機の戦術機は青白い炎を噴いて跳躍した。

 一挙、眼下に横たわる太和江を飛び越える。

 続いて突撃級・要撃級によって踏み潰された廃墟の中心に着地し、主脚走行に移った。

 

(まだ菊秀峰や東大山といった高地の斜面に光線級が上がっていないことが救いだ)

 

 漆黒の戦術機、殲撃10型から成る1個中隊を率いる統一中華戦線・中国人民解放軍の劉書文陸軍中尉は、心底そう思った。

 この蔚山市周辺は開けた市街地と、400メートルから600メートルの山々が連続している。ここに光線級が現れるとまずい。光線級は積極的に山頂に陣取ることはなく、むしろBETA全体の習性としては平地への進行が優先されることは周知の事実。とはいえ山の中腹等に光線級が陣取ることもなきにしもあらず。

 そうなれば戦術機部隊は、高所から撃ち下ろされることとなる。

 

「レッド1、こちらレッド2。撤退中の機械化部隊と戦術機の所在を確認いたしました」

 

「レッド2、レッド1了解」

 

 劉書文は部下からのデータリンクを介して送られてきた情報に目を通した。

 北方、4000メートルの位置で機械化歩兵と、大東亜連合軍・タイ陸軍所属のF-5Aフリーダムファイター1個小隊が孤立している。

 

 劉書文は1個小隊を退路の確保に残し、自らは部下の6機を引き連れて市街北方の工業団地へ進出した。

 見やれば、確かに車列と主脚走行で後退するF-5Aがいる。軽戦術機F-5Aは跳躍ユニットが破損したか、それともしんがりを務めるつもりか、跳躍して逃げようとはせず突撃砲を以て迫る戦車級の群れに射弾を浴びせていた。

 

「見ていられん」

 

 匍匐跳躍で一挙に彼我の距離を詰め、そのまま7機の殲撃10型はセンサーアイの深紅を曳き、戦車級と要撃級の群れに躍りかかった。

 劉書文は両腕に携えた82式突撃砲を振るい、張り巡らされた弾幕は、BETA群の先頭集団を瞬く間に砕いた。

 

「レッド1、レッド2。北東のゴルフ場方面に戦車級200がポップ」

 

「レッド1了解。B小隊は北東のゴルフ場を見張れ。向かって来るなら射撃しろ」

 

(こんなところで死ねるか)

 

 劉書文は苛立っている。

 こんなところでは死ねない。在韓華人の撤退支援という名目で申し訳程度に展開し、後方で悠然と構えていればよかったはずなのに、どうしてこうなった?

 

(国連軍の唐突な壊走。いったい何があったのだ)

 

 説明はない。朝鮮半島を脱出する伝手(つて)もない。

 比較的まだ安全なはずの防衛線の内側から飛び出すあたりといい、矛盾しているようにも思えるが、とにかくいまは生き残るために戦うほかなかった。

 

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