釜山防衛戦・朴星日の奮闘――劣等差別地球外民族BETA vs 世界最高戦術機甲先進国・大韓民国――   作:河畑濤士

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(地)

 午前3時。

 逃げ込んで来た国連軍・大東亜連合軍の将兵を追って来たのかは定かではないが、太和江防衛線前面は再び殺到するBETA群によって埋め尽くされた。けばけばしい赤。濁った白。煌々(こうこう)と立ち上がる火柱が、生理的嫌悪感を誘う色彩の塊を吹き飛ばしていく。36連装自走ロケット砲K-136による面制圧である。

 

(オイオイオイオイ……全ッ然数減らねえじゃねえか……!)

 

 だが最前線に立つ朴星日陸軍中尉からしてみると、まさに焼け石に水に見えた。

 火焔と骸を踏み越えて、次々に新手が現れる。待ち構える朴星日ら韓国陸軍第19戦術機甲連隊・第155戦術機甲大隊の有効射程内に入って来るまで、そう時間はかからなかった。

 

「FOX2ッ――」

 

 韓国陸軍第19戦術機甲連隊・第155戦術機甲大隊のF-16Cファイティングファルコンの腰だめに構えた突撃砲が、一斉に火を噴いた。突撃破砕射撃。食い放題だ。突撃級はほとんど存在せず、36mm機関砲弾は見る見る間に死骸の山を築く。

 だが堤防が如く積み重なる屍肉を乗り越え、乗り越え、戦車級の赤き波濤が押し寄せる。

 

「大隊長(オッチャン)、策はあるのかよ? このままじゃ押し切られる」

 

 朴星日は思わず、“オッチャン”と渾名されている中年の大隊長に秘匿回線で問うた。

 網膜に投影されている機関砲弾の装弾数は、800発を切っている。ものの10分程度で1000発以上の発射した計算だ。まだ予備弾倉はあるものの、リロードの際には当然ながら火勢が衰えるし、このままBETAの来襲が途切れなければ、いずれ後方の補給所まで後退しなければならないだろう。

 だがオッチャンは、「大丈夫だ……」と声を上げた。

 

「20分後、方魚津港沖の水上艦隊が艦砲射撃をやってくれることになってる! 大丈夫だ!」

 

「オッチャン」

 

 朴星日は声を荒げるオッチャンを心配した。

 オッチャンは1992年・重慶防衛戦の生き残りで優れた技量を有する衛士であるが、外見は冴えない中年男性のそれである。

 しかもきょうは、ますます冴えていないように見えた。

 

◇◆◇

 

「撃ち方ッ――」

 

 危険を顧みず方魚津港沖から蔚山湾に進入したのは、蔚山級フリゲート『蔚山』・『慶北』・『馬山』・『釜山』であった。

 満載排水量約2300トン。光線級の本照射を浴びればひとたまりもない小艦艇だ。

 しかしながら防衛線の危機に76mmコンパクト砲2基と、30mm連装機関砲4基を巡らせ、いまここに姿を現したのであった。

 そして轟然、発砲を始める76mm速射砲。

 虚空へ撃ち出された砲弾はすぐさま地球の引力に曳かれ、蔚山市北区目掛けて落ちていく。そして突撃級に突き崩された小学校や、要撃級によって踏み潰されたアパートが連続する廃墟の直上で炸裂。爆風と無数の破片が、蠢(うごめ)く小型種を薙ぎ倒す。

 そこからさらに照準が調整され、『蔚山』・『慶北』・『馬山』・『釜山』ら姉妹艦は太和江の北側に広がる蔚山市中区に連続射撃を加えていく。

 これに呼応して105mm戦車砲を最大仰角まで持ち上げたK1戦車と、旧式の牽引式105mm榴弾砲が支援砲撃を開始した。

 

「全弾、中区市街に着弾した模様」

 

『蔚山』にて報告を受けたフリゲート艦隊の司令は、僅かに頬を緩めた。

 

(光線級は蔚山市南区や釜山港が視界に収められるような拓けた地形にまでは進出していない、ということか)

 

 射弾が迎撃されなかったということは、未だに光線級は連続する山々の向こう側に隠れている、ということだろう。

 つまりそれは大型輸送ヘリや水上艦艇による避難民の輸送、国連軍・大東亜連合軍・韓国陸軍の脱出のための猶予がまだある、ということだ。

 逆に言えばBETAが防衛線を抜き、光線級が沿岸部を視界に収めるようになれば――。

 

(輸送ヘリも輸送船もみなことごとく洋上にて撃ち抜かれる)

 

 それだけは避けなければならなかった。

 

 現在、韓国における戦況を最も正確に把握出来ているのは、朝鮮半島中西部にあった海軍本部の機能を早々に釜山市の海軍作戦司令部へ移していた韓国海軍であった。

 地上戦の様相は、惨憺たるものだ。

 日本帝国陸海軍による光州作戦が失敗に終わり、その余波を受けて国連軍司令部は壊滅。

 その際に大韓民国陸軍本部も機能を喪失してしまい、各方面軍は独自判断で抗戦を続けなくてはならなくなった。

 

 最も強力な西部防衛担当の第3軍は、光州作戦失敗の煽りを受けて早々に瓦解。

 他方、東部防衛・第1軍はもとより鉄原ハイヴに対する陽動と間引きに駆り出されていた関係で疲弊しており、加えて半包囲を恐れて後退した(朴星日ら韓国陸軍第19戦術機甲連隊は、この第1軍の所属)。

 残る二線級装備の南部防衛・第2軍は、第3軍の防衛線を突破したBETA群に対して南西部にて遅滞戦術を採り、済州島行きの避難船のために時間を稼いでいる。だが長くはもたないであろう。

 

「旧密陽橋前、突撃級50!」

「アーチャーが対処してくれ!」

「駄目だ、死にたくない――! 助けて、だずげぇ゛」

「沙浦橋前に要撃級70。回りこまれた。戦車級もうじゃうじゃいやがる」

「くそったれッ、半包囲されたってことかよ! 北方、市立博物館周辺に要塞級6! 西方、農協物流センター前に要塞級3ッ!」

「稲妻(ポンゲ)2、いちいち声が大きいんだよッ! 落ち着け……要塞級なんざ接近させなきゃどうってことないデカブツだろうが。蔚山方面から応援もすぐ来る。それより、光線級がいないか警か」

「ポンゲ1ッ!? ポンゲ1のマーカーが消えた!」

「光線級照射警報ッ――落花山、南側斜面に光線級!」

 

 蔚山市から西方50km――海軍の支援が受けられない密陽市では、国連軍・大東亜連合軍・韓国陸軍から成る寄せ集めの防衛部隊が、半包囲の状況下で苦戦を強いられていた。

 密陽市は光線級の視界を遮る山々と、BETAの前進を阻む密陽江とその支流を有する防御に有利な地形である。

 が、北方・西方から一挙に雪崩込んできた連隊・旅団規模のBETA群に圧迫されて消耗。

 その上、要塞級と要塞級から出現した光線級が落花山の中腹に展開したことで、状況は一気に悪化した。

 闇夜を幾条もの閃光が貫き、初撃でF-4D戦術機3機が爆散。1輌のK1戦車が車体側面を抜かれ、火焔とともに砲塔部が空を舞った。

 

「先軍(ソングン)中隊ッ、ついて来い。レーザーヤークトだ」

 

 混乱と悲鳴の渦中から、統率の取れた6機が突出する。

 腰部装甲に白字で“縮地”と大書されたF-15K――韓国陸軍少佐・朴英日が駆るF-15Kを先頭とした荒鷲の吶喊。彼らは前方にそびえる要塞級の衝角を容易く躱(かわ)し、突撃級や要撃級の間隙を縫って、600メートル級・落花山の南側に陣取った光線級に迫る。

 当然ながら光線級は、濃藍(こいあい)の機影を視界に収めている。

 F-15Kのセンサーが光線級の予備照射を感知し、警報をかき鳴らした。

 

「星日ッ」

「任せろ兄貴ッ」

 

 と、同時に落花山の南西、同じく600メートル級の中山を飛び越える影があった。

 

「この光線級野郎が」

 

 F-15Kとは対照的――星の光を集めて輝く純白の機体。朴英日の弟、陸軍中尉朴星日のF-16Cとその僚機らである。

 蔚山方面から転進してきた彼らは、本照射に移行せんとする光線級の頭上に、36mm機関砲弾を叩きこむ。眼球が弾け、あるいは上半身を切断されていく光線級の群れ。体液と緑色の肉片が辺り一面にぶちまけられる。

 

「先軍中隊、気を抜くな」

 

 とはいえ、それで終わりではない。

 光線級の周囲に居合わせた戦車級や要撃級、そして要塞級が一挙に旋回し、韓国陸軍の戦術機に食らいつく。

 対するF-15Kは隊列を一矢乱さずに急減速すると、両主腕で保持する2門の突撃砲を構えるとともに、同じく突撃砲をマウントしている背面の兵装担架を展開させた。

 

「フォーメーション、“重根・大韓義軍参謀中将式”!」

「応ッ」

 

 突撃砲4門による全周火制。

 闇夜に閃く火線は、物量で圧し潰そうという光線級直掩のBETA群を押し退け、中山を飛び越えてきたF-16Cの着地点を確保する。

 そうして生まれた血肉の沼に、純白の機体は降り立った。

 だがしかし、ぽっかり空いたその穴にすぐさま要撃級と戦車級の群れが殺到する。

 

「兄貴ッ」

「各機、フォーメーション――」

 

 F-16Cの兵装担架に設けられた爆圧ボルトが起動し、火花を散らす。肩越しに渡された日本帝国製74式近接戦用長刀のライセンス国産版、“コムド”の柄を戦隼(せんじゅん)らは右主腕で掴み、抜き放った。

 

「“統一”!」

 

 長距離砲撃戦に長けたF-15Kと、格闘戦に長ける軽量級戦術機F-16Cによる連携隊形が、四方のBETAをズタズタに引き裂いていく。

 









◇◆◇

あと2、3話で完結です。
一応BETA大戦の時空では「朝鮮民主主義人民共和国が存在しない」説を採っています。
ではなぜフォーメーション“統一”があるのかという話になりますが、テコ朴では“統一”は高句麗古墳の壁画に描かれていました。
つまり朝鮮半島が南北分断されずとも“統一”は存在するということになりますね。

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