【完結】釜山防衛戦・朴星日の奮闘――劣等差別地球外民族BETA vs 世界最高戦術機甲先進国・大韓民国――   作:河畑濤士

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 釜山港国際旅客ターミナルや釜山国際クルーズターミナルには、国連太平洋方面第11軍の将兵が足止めを食っている。

 国連太平洋艦隊は民間大型船舶の徴用と各国海軍の輸送艦提供により、朝鮮半島に拠る人類軍を脱出させるに足るだけの海上輸送力を確保していた。撤退先となる大韓民国領済州島、および日本帝国領佐世保基地とは目と鼻の距離であるから輸送船の往還も容易である。

 殿(しんがり)を務めることになる戦術機甲部隊こそ辛いが、日本帝国・大東亜連合軍・在韓米軍、もちろん韓国陸軍の大部分も脱出が可能であるはずだった。

 

 が、光州作戦の失敗に伴って計画は崩壊した。

 釜山港以外にも脱出の拠点となるはずだった光陽港(韓国南部中央)や木浦港(韓国南西部)は陥落。これにより釜山港をはじめとする韓国南東部の港湾が、壊走するように後退してきた諸部隊を受け容れることとなってしまったのである。

 早い話が、キャパオーバーだ。

 

(畜生、早く乗せてくれ……)

 

 弾薬も燃料も尽きた這う這うの体で辿り着いた戦車部隊や、死傷率が50%を超えた状態で敗走してきた歩兵部隊はみな大学キャンパスや百貨店、運動場、ホテルなどとにかく雨風が凌げる場所にとりあえず収容された。

 が、海上輸送に責任を持つ国連太平洋艦隊と韓国海軍作戦司令部は、地上部隊の無秩序な撤退に混乱をきたした。後退してきた地上部隊の掌握と収容、給糧は本来ならば、地上に置かれた国連軍前線司令部が取り仕切るのが当然である。

 が、その地上司令部はBETA群の直撃を受けて消滅した。消滅した以上、国連太平洋艦隊と韓国国外の国連太平洋方面第11軍司令部が事態を収拾しなければならないが、これは容易ならざる大事業であった。

 

「韓国陸軍第2軍は済州島へ脱出に成功した部隊を除いて壊滅。韓国南西部は島嶼部を除いて蹂躙された。彼らの次の矛先は、否が応でも釜山になる」

 

「整然たる撤退計画が潰えた以上、完全撤退には1週間かかるだろう」

 

「1週間? BETA群先遣はすでに釜山港より50kmの位置にまで来ているのですよ。3日だって保つかどうか!」

 

「ならば韓国陸軍に殿をやらせて、可能な限り国連軍・大東亜連合軍・在韓米軍・日本帝国軍を脱出させることだな。非情だが、それしかあるまい」

 

 そんな会話が国連太平洋艦隊の内々ではされていたが、実際のところ韓国陸軍だけが後衛に立たされることはなかった。そんなことをすれば韓国軍将官は国連に反発し、韓国海軍は韓国国内における自衛的軍事行動という名目で、国連太平洋方面軍の指示と他国部隊の存在を無視し韓国陸軍の救出を優先したであろう。

 撤退する友軍の背中を守ることになったのは、朝鮮半島に集った各国軍の戦術機甲部隊と、辛うじて戦闘力を残している自走化・機械化諸隊であった。

 

「ようやく休めるぜ~」

 

 釜山港から北西10kmの位置にある金海国際空港は、いま戦術歩行戦闘機の整備・補給拠点となっており、滑走路には韓国陸軍をはじめとした約20機の戦術歩行戦闘機が立錐していた。朴星日や朴英日が駆るF-15KやF-16C、統一中華戦線の殲撃10型、大東亜連合軍のF-5A軽戦術機、日本帝国大陸派遣軍の94式戦術歩行戦闘機不知火――。

 その戦列の隅で、朴星日の衛士らは座りこんで食事を摂っていた。インスタントラーメンの袋に直接お湯を注いで食べる、“国軍スタイル”だ。味は問題ではない。デザートはガチガチに固まったチョコレートバーである。

 

「戦況はどうなっているんだ。まったく情報が得られん。貴様ら朝鮮に先の見通しはあるのか?」

 

 大して甘くもない、言ってしまえばカロリー補給のためのチョコレートバーをかじりながら、劉書文陸軍中尉は嘆息した。統一中華戦線・中国人民解放軍の司令部からは何も言ってこないため困っている。

 その彼の言に、朴星日は少しいらだった。

 

「先の見通しってなんだよ?」

 

「そのままの意味だ。朝鮮半島からの撤退は既定であるとして、あとどれくらい釜山を守ればいいんだ?」

 

 知るかよ、と朴星日は返事をして、陸軍少佐である兄に視線を遣ったが、彼もまた無言でかぶりを振った。

 そこに、他部隊の参謀と話し合っていたオッチャンが戻ってきた。悄然としているが、瞳が爛々に輝いている。異様であった。

 彼は開口一番、こう言った。

 

「ワシらは捨て駒だ」

 

「は?」

 

「友軍が海外へ脱出するまで、撤退はできん」

 

 やけ気味のオッチャンの言葉に、「戦術機甲部隊の常だな」と劉書文はつぶやいた。

 退却の局面において時間を稼ぐため、戦術機甲部隊が殿を務めるのは欧州戦線をはじめ、各地でみられた光景である。そしてこうした時間稼ぎにあたる戦術機甲部隊は、全滅状態にまで追い込まれることが多い。

 

「無理だ……いま釜山港には軍民併せて膨大な数の人間がいる! 実数すら分からんのだ! ワシらが生きて朝鮮半島を出られる可能性は万に一つもない!」

 

 オッチャンの絶叫に、通りがかった他部隊の士官がぎょっとした表情で振り向いた。

 

「オッチャン……」

 

 オッチャンの鬼気迫る叫びに朴星日はひるんだ。口先で虚勢を張り、「勝てる」と言い返すことならば誰でもできる。だがしかし、現実はどうか。戦死とは、全滅とは、敗北とは、この世界の人類にとっては普遍的な現象である。

 

「……」

 

 訪れる沈黙。

 だが、それを破ったのはタイ陸軍の小柄な衛士――ソムチャイであった。

 

「それでも、残って戦うよ」

 

「この後進国風情が」と反射的に反駁したオッチャンに、劉書文が肘鉄砲を食らわした。

 オッチャンのヘイトスピーチにもかかわらず、ソムチャイはひるむことなく声を上げる。

 

「フリーダムファイター(※F-5A)を任されているのは、そのためだから!」

 

 高価な戦術機を駆るための資格とは、最後まで戦う覚悟を持っているからにほかならない。

 衛士ならば誰もが理解している原理原則。

 戦術機とは逃げるための足にあらず、戦術機とは自身を守るためにあらず。

 

「戦術機とは人類の剣。衛士の矜持、だな」

 

 朴英日が頷き、その弟・朴星日も「へえ、戦術機後進国のタイでも一丁前の覚悟があるんだな!」と無邪気に笑った。

 

 次の瞬間、金海国際空港にサイレンが響き渡った。

 コード991。地中侵攻――敵梯団の出現地点は、亀峰山南方。

 ……釜山港から約2kmしか離れていない。

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