初めて私を思いっ切り褒めてくれた人の言葉をずっと胸に抱えている。
私は平凡な選手だった。背は高くない。足も速くない。ジャンプ力やフィジカルが隠されているわけでもない。比べられ、劣っているということが証明され続ける日々。それに私は徐々に疲れ、すり減っていった。
何のためにしているのかわからなくなった公園での自主練習。得意だった右サイドからのミドルシュート。それを思いっ切り外して、自分の気持ちがプツリと完全に切れる音がした。
転々と転がるバスケットボールを追いかけて、公園の奥へと進む。その先にいた私と同じぐらいの男の子が拾ってくれた。
でもなかなかボールを返してくれない。私は早くコートから立ち去りたいのに彼はそれを感じ取ることはない。軽くドリブルし始めた彼に苛立ちを覚えて彼に叱咤する。
「いい加減返して」
「ああ。ごめん」
慌てて彼は私に向けて下投げでボールを放った。それからもなかなか立ち去らない彼に向けて「何?」と問いかける。自分がすごくイラついているのがわかった。見知らぬ人に向けて八つ当たりをしている。そんな私が情けなかった。
「ああ……いや、随分練習してるんだなって思ってさ。そこまでボールがツルツルになるなんて相当だろ。そろそろ買い替えた方がいいぜ」
「え? ああ……うん。そうだね」
手に持っていたボールを撫でた。ボロボロで、すり減っているそれに今の自分を重ねてしまう。『もう捨てるしかない』そう言われているみたいだった。
冷たい風が頬を撫でる。私の諦めを後押ししているようだった。
「でも、これで最後だから。もったいなくて」
「最後? やめるのか、バスケ」
「うん。なかなか上手くなれなくて。試合にもなかなか出られないから」
なんだか自分で言っていて辛くなった。つい下を向いてしまう。
スポーツにおいて上手くない人、期待されない人はなかなかチャンスを与えてもらえない。少ないチャンスをものにするために頑張っていても、いつもミスが頭をよぎる。私の身体を縛って、本当に失敗をする。だからどうしても自分を好きになれなかった。……そんな弱々しい自分から少しでも離れたかったのだと思う。
「……そっか。でももったいないな。あんなにシュートが綺麗なのに」
目の前の彼が言う。私がゆっくりを顔を上げると彼は少し興奮気味に私を見ていた。そんな風に見られたのは初めてだった。諦めの混ざらない彼の表情。それが私を縛り付ける。
「指先の感覚がいいのかな? フォームが多少ばらけていてもループが一定でさ、見ていて気持ちが良いんだよ。もっとフォームが固まったらと思うと──」
早口で勢い良く彼は言う。濁流のようなそれに私は飲み込まれてしまって、反応を返す間もない。彼は両手を肩に乗せた。
「だから、お前はもっと上手くなるよ」
戸惑う私に彼はそう話を締めくくった。自信に満ちた声は私にも力を分けてくれる気がした。
一方的に押し付けられるような意見は好きじゃなかった。けれど、彼の言葉はすっと心に入り込むように自然と受け入れることができた。
自分じゃない誰かに認めてもらえること。肯定してもらえること。それがこんなにも嬉しいことだなんて知らなかった。これが私が本当に求めていたものだったのだと、生まれて初めて自覚する。私は胸にぎゅっとボールを抱えて、彼を見た。
「……本当に?」
「ああ、俺が保証するさ」
両手を挙げて「ヘイ」とボールを要求する彼にパスを出した。ボールをシュルシュルと手元でスピンさせた。鋭い目つきでリングをにらむ。それから彼はつぶやいた。
『誰にだって、誰にも負けない可能性が眠っている』
「これは他人からの受け売りだけどな。もっと自分を信じてやってみてくれよ。俺は、ボールをここまで使い込んだ人を他には知らないからさ」
「じゃあな」と立ち去る彼を追うことはなかった。もう一度拾った自分のボールはさっきまるで違うものに見えた。
たぶんあの経験がなかったら、私は中学の最後までコートに立てていなかったと思う。私もあんな風になりたいと心の底から願った。より強く自分を追い込んで高める努力を知った。彼が私の人生を価値のあるものに変えた。
十八歳になっても私は彼のようになれなかったけれど、彼の言葉はずっと支えにしていた。だからいつだって私は自分の中に眠る可能性を探してあがくことができている。
勿論、彼の言葉が理想論だって、本当に成立するわけではないということはわかっている。圧倒的な才能ってやつが本当に存在することを私はもう知っている。
それでも、あの時の私は確かに救われたのだ。