《バナスピアー!》
「セイッ! ハァ!」
バロンに変身した戎斗はバナスピアーを振るい、インベスと戦っていた。
インベスの群れを突っ切りながら、すれ違いざまに斬撃を浴びせていく。群れを抜けると、インベス達が爆発した。
戎斗は士道たちが向かったはずの、四糸乃がいる場所に向かおうとした時、インカムから今にも泣きだしそうな琴里の声が響いた。
『戎斗! おにーちゃんが、おにーちゃんが!』
「おい、なにがあった――――」
明らかに様子がおかしい琴里に、戎斗の気が一瞬逸れる。
その瞬間、背後から雄叫びが聞こえ殴り飛ばされた。
「グモオオオオォォォォ!」
「何っ……!? ハーミットインベスか!」
カイトがバナスピアーを構えると、ハーミットインベスの突進を受け止める。
しかしハーミットインベスは防御の上から拳を叩き付け、バナスピアーを弾き飛ばした。
「グモオオオッ!」
「ぐぁ!」
バナスピアーを失った戎斗は、ハーミットインベスの突進をもろに喰らい吹き飛ぶ。
大ダメージを負った戎斗は、言い難い違和感を感じていた。
「なんだ、この強さは……。前に戦った時よりも強い」
「グゥゥアアアアアア!!」
「あれは、まさか、今この時も精霊の力を吸収していると言うのか!」
ここら辺一帯には、四糸乃の力で雪が吹雪いている。四糸乃の力を吸収したインベスにとっては、エネルギーが周囲に充満しているような状態だ。
それを証明するかのように、ハーミットインベスがまるで太陽の光を浴びる様に両手を広げると、その全身に氷の鎧が生成されていく。
「スゥゥウウウウ……グゥウウオオオオッ!!」
「ぬぐぅ!」
ハーミットインベスが息を吸い込むと、咆哮と共に荒れ狂う冷気が放たれ、戎斗を吹き飛ばした。
「はぇ? え、ふえええぇぇぇ……!?」
事の経緯は少し前にさかのぼる。
ASTの攻撃に恐怖し、自らの力で作りだした吹雪のドームに閉じこもっていると、そのドームの壁から一人の青年が倒れながら現れたのだ。
その青年は四糸乃にとって見覚えのある人物だった。
五河士道。戎斗と出会った後に再開した青年。ボロボロだった彼に近づくと、突如として焔が士道の身体を焼き、傷を癒したのだ。
四糸乃が恐る恐る声を掛けると、士道は目を覚まし約束していた通り、よしのんを見つけて渡してくれた。
その後、士道の言葉を信じ、士道とキスをした。
自分の中から何かが消える感覚。しかし不思議と不快感は無く、温かい物が四糸乃の心に広がり安心感が小さな体を包んだ。
それも束の間、四糸乃の霊装が光と消え、半裸状態になってしまったのだ。
そして今に至る。
「わ、悪い! え、えっと、とりあえずこれで隠せるか?」
恥ずかしさと混乱でどうにかなりそうな中、士道は慌てて着ていた上着を四糸乃に着せる。
ボロボロだったが着れないと言うことも無く、小柄の四糸乃ならば問題なく身体を隠せた。
霊力の封印には仕方のないこととは言え、士道は居心地の悪さを感じていた。
「その、だな。四糸乃、必要なこととはいえ、悪かった」
「……だ、大丈夫、です。士道さんが言うなら、信じます……」
『士道くんはよしのんを助けてくれたからねー!』
「……ああ、ありがとう」
士道のお礼に、四糸乃は優しく微笑む。
霊力の封印によって、段々と吹雪が弱まりドームも消えようとする。
それによって通信が繋がったのだろう。士道のインカムに、妹からの一言が流れた。
『……戻ってきたら、覚悟してなさい』
ついさっき命の危険を感じたばかりだと言うのに、再び命の危険を感じる士道だった。
『まあ、良くやったわ。十香も回収したから――――』
その時、近くの瓦礫の一部を破壊しながら、誰かが吹き飛ばされてきた。
いきなりのことに四糸乃は怯え、士道は近くに転がってきた人物を見て、思わず声を上げた。
「戎斗!?」
「ぐぁ……ぐっ。五河士道、それと四糸乃か」
戎斗は立ち上がろうとするが、ダメージのせいですぐに膝をついてしまう。
そして戎斗がやってきた方向から、ハーミットインベスが歩いて来た。ハーミットインベスは、自らの力の源である四糸乃を見つけると、四糸乃と士道の元へ歩き出す。
「ヒッ!」
「お前たち、早く逃げろ!」
「くそっ! 琴里、回収してくれ!」
『さっきからやろうとしてるわよ! でも、ハーミットインベスが現れてから士道たちの居る場所の霊力反応が急上昇してるの! そのせいか転送装置が機能してない!』
動揺する士道たちを、ハーミットインベスは見逃すはずもない。
巨大な氷の塊を生成すると、二人に向けて射出した。
「……ッ! 四糸乃!」
「あっ……」
士道は咄嗟に四糸乃を抱き寄せ、自身の身体を盾に四糸乃を守ろうとする。
いざとなれば治癒能力で、死ななければどうにかなる。しかし、今の士道はただ四糸乃を守りたいと言う思いしかなかった。
来るであろう衝撃に歯を食いしばる。しかし、何時まで経っても衝撃がやってこない。
「なんで……なっ!? 戎斗!」
疑問に思った士道が振り返ると、そこには両手をクロスして氷塊を受け止める戎斗の姿があった。
「お前、どうして……」
「戎斗さん……?」
「ぐ……うおおおぉぉぉ!」
背後から聞える二人の声に耳を傾ける余裕もなく、戎斗はカッティングブレードを3回下ろす。
《カモン!》
《バナナスパーキング!》
展開していたアームズが非展開状態に戻り、戎斗は頭突きの要領で氷塊を砕くと同時に、アームズを飛ばしてハーミットインベスを吹き飛ばす。
しかし、戎斗もダメージが限界なのか膝をついてしまう。
「戎斗!」
「戎斗さん!」
カイトに守られた2人は、慌てて戎斗に駆けよる。
「戎斗さん、ごめんなさい……」
「謝る必要などない。……人形は見つかったのか」
「え……はい」
『ありがとー、バナナのお兄さーん』
「……ごめ、んなさい……私、戎斗さんと士道さんに助けてもらうばっかりで……」
「だからどうした」
「え……」
困惑する四糸乃に、戎斗は立ち上がりつつ話す。
「たとえ弱くとも、お前はそれで満足していない。何かを守るために、己の力不足を嘆く奴は、必ず強くなる。俺は
そう、駆紋戎斗は知っているのだ。他者を守るために力を求めた者を、その強さを。
だからこそ、四糸乃の後悔を戎斗は否定しない。
「守られるだけで満足するな! 力がないと言うなら求め続けろ! お前に守りたいと思うものがあるのなら、それを守れるほどに強くなれ!」
「戎斗さん……」
『来た! 士道、転送可能になったわ。四糸乃と一緒に回収するわよ!』
「琴里……分かった。四糸乃」
「……はい。戎斗さん、気を付けてください」
「戎斗、絶対勝てよ」
その言葉を最後に、二人は<フラクシナス>に回収された。
それを見届けた戎斗は、起き上がったハーミットインベスに視線を向ける。
ハーミットインベスは瓦礫を殴り飛ばしながら、怒りを表すように吠える。
「フンッ。貴様との決着をつけてやる」
《マンゴー!》
マンゴーロックシードを起動すると、戎斗の頭上にマンゴー型アームズが現れる。
《ロックオン!》
戦国ドライバーにマンゴーロックシードをセットし、カッティングブレードを下ろした。
《カモン!》
《マンゴーアームズ! ファイト・オブ・ハーンマー!》
マンゴーアームズへと換装した戎斗は、マンゴパニッシャーを両手で抱え、走り出す。
ハーミットインベスが氷塊を次々と飛ばす中、戎斗は怯むことなく走る。
「ハァ!」
迎撃のために振るわれた拳をマンゴパニッシャーで弾き、胴体に突きを放つ。
下ったハーミットインベスに立て続けに打撃を叩きこみ、アッパーで打ち上げた。
「セイッ!」
落下してきたハーミットインベスを、マンゴパニッシャーをバットのように振るい叩き飛ばした。
「これで終わりだ」
宣言と共にカッティングブレードを2回下ろし、マンゴパニッシャーの先端を蹴り上げて構える。
《カモン!》
《マンゴーオーレ!》
「はぁぁぁ……」
「ッ! グモオオォォォ!」
戎斗の行動に気付いたハーミットインベスは、最後の悪あがきとばかりに冷気を放つ。
しかし、それを予測していた戎斗はマンゴパニッシャーを振り上げて
勢いが乗ったままマンゴパニッシャーを振るい、冷気を纏ったマンゴー型のエネルギー弾を発射した。
「セイヤァ!!」
「グゥアアアアァァァァァ!!」
エネルギー弾はハーミットインベスを貫き、そのまま爆散。
こうして、<ハーミット>四糸乃の出現による一連の戦いは幕を閉じたのだった。