令音と名乗った女性に連れられ、戎斗はどこかの通路を歩いていた。
「ここは空中艦<フラクシナス>。<ラタトスク>の所有する船さ」
「空中艦だと?」
「まあ、詳しい事は彼女に聞くといい」
そう言って眼の前の扉を通ると、そこは近未来的な空間が広がっていた。
戎斗が辺りを見回していると、令音は目の前にある椅子に向かって行く。
「待たせたね、琴里。彼を連れて来たよ」
「ええ。お疲れ様、令音。でも、無茶はやめてよ。胆が冷えたわ」
聞こえてきたのは、やけに若い声だった。椅子が回転し、座っていた人物が見える。
椅子に座っていたのは、ツインテールの少女だった。
「子供だと? なぜこんなところに子供がいる?」
「あら? あなたも同じような者じゃない」
「何を……」
よくよく考えれば、今の自分は高校生くらいの身長になっているのだった。
それを思い出した戎斗は、ばつが悪そうな顔をして話題を変えた。
「それで、お前たちはなんだ?」
「あからさまに話題を変えたわね。まあいいわ。令音からある程度聞いていると思うけど、私たちは<ラタトスク>。そしてここは空中艦<フラクシナス>よ。そして私は、司令の五河琴里よ。こっちは解析官の村雨令音。んで、こっちは副指令の神無月恭平よ」
「知っているだろうが、駆紋戎斗だ」
琴里は自身の左右にいる二人を手で指し示す。
先ほど名前を聞いていた令音は特に変わらないが、神無月は戎斗に礼をする。
戎斗も、マナーとして自身の名を名乗る。
「その<ラタトスク>とはなんだ?」
「その前に、聞かせてちょうだい」
戎斗の声を遮り、琴里は鋭い視線を向ける。
「あなたはいったい何者? 私たちの知らない力。そして、先ほどあなたが倒した謎の生命体。分からないことが多すぎる。それを教えてちょうだい」
その問いに戎斗は悩む。
昨日武器を向けてこちらを拘束しようとした組織よりも、こちらの方が穏健に思える。もっとも、それが正しいとは思わないが。
だが、先ほど令音は得体の知れない自分に頭を下げたのだ。
いくらインベスから守ったからとはいえ、それは誰もが出来る事ではない。だからこそ、戎斗は自身の知っていることを話すことにした。
「……これは俺の憶測に過ぎない。それでもいいな?」
「憶測? まあ、こちらとしては情報が欲しいし、構わないわ」
「そうか。……おそらくこの世界の人間ではない」
「…………は?」
戎斗の放った突拍子もない言葉に、琴里は目を白黒させた。
彼女だけでなく、令音や他のクルーたちも困惑している。
「村雨令音が言っていたな。沢芽市という街は存在しないと」
「ああ。……と言うことは、君はその沢芽市がある世界から来たと言うことかい?」
「おそらくはな」
琴里は戎斗の答えにどこか疑問を覚えたが、今は話を進めることが大事だと思い直し、次の質問に移った。
「じゃ、次の質問。あの謎の生命体。あれは何?」
「あいつらはインベス。ヘルヘイムの森から現れる存在だ」
「ヘルヘイムの森とはなんだね?」
「他の世界を侵略する外来種、と言うべきか。奴らはクラックと呼ばれるゲートを通り、別の世界と接触する」
「侵略ねぇ。それで、そのヘルヘイムの森の侵略に対抗できるのが、アーマードライダーってわけ?」
「少なくとも、インベスを相手に戦うことは出来る」
そこまで話を聞いた琴里は、座っていた椅子の背もたれに背を預ける。
何と言う荒唐無稽な話だろうか。別の世界からヘルヘイムの森がやってきて、さらにその森はインベスという化け物を使い、この世界を侵略しようとしている。
「(こんな異常な話、
しかし琴里は、よく似た”異常”と密接に関わっている。
だからこそ、戎斗の話を与太話と切り捨てることはしない。
「分かったわ。ありがとう。次は、こちらの番ね」
「……意外だな。俺の話をすぐに切り捨てんとは」
「そうね。でも、私たちはあなたの話を信用しようと思う程度に、非日常と知り合いでね。今から話すのは、その非日常についてよ」
そう前置きした琴里の口から語られたのは、戎斗でも耳を疑うような話だった。
世界を壊す『精霊』と言う存在。そしてその殲滅を任務とするAST。それとは反対に、対話による解決を目指す琴里たち<ラタトスク>。
ヘルヘイムやインベスで異常には慣れていると思っていた戎斗だったが、さしもの戎斗も、驚きを隠せなかった。
「以上が、私たちが話せることの全てよ。何か質問はある?」
「……精霊と対話すると言ったな。だが、精霊の力はどうするつもりだ? それがある限り、精霊を排斥しようと言う人間は必ず現れる」
「……それに関しては、既に動き出しているわ」
「俺に言えない事か」
「申し訳ないけどね。ただ、成功したら必ずあなたに伝える」
「いいだろう。話は分かった」
これで話は終わりかと思ったが、琴里は「最後にもう一つだけ」と話を続けた。
「あなたに、頼みたいことがあるの」
「頼みたいことだと?」
「ええ。あなたに説明して貰ったインベス。それを倒せるのは今の所、あなただけよ。私たちとしては、インベスなんて危険な存在を放置することは出来ない。だから――」
「俺にインベスを倒せと、そういうことか」
「ええ。クラックとやらの調査はこちらでやるわ。あなたには、そこから出てきたインベスの撃破をお願いしたいの。もちろん、それなりの報酬は支払うわ」
「……分かった。インベスの撃破は、俺がしよう」
どうするか戎斗は悩んだものの、まったく知らない世界で生きるためにも、金が必要なため、その依頼を受けることにした。
「そう。ありがとう。それじゃ、これからよろしく」
「ああ」
琴里は椅子から立ち上がり、戎斗と握手する。
「さてと。それで、あなたの保護の件なんだけど、住居の方は用意するのに時間がかかるの。だから、しばらくは<フラクシナス>の客室で寝泊まりしてちょうだい。令音、案内してあげて」
「分かったよ。戎斗、付いてきてくれ」
「ああ。……一つだけ忠告しておく」
「何かしら?」
「クラックを調べる際、おそらく近くに奇妙な果実があるはずだ。そいつに気を付けておけ。クラックを見つけたらすぐに引き返させろ」
「どういうことか分からないけれど、調査員には厳命しておくわ」
令音に連れられ戎斗が出ていくのを見届けた琴里は、深いため息を吐いた。
「……神無月。彼をどう思う?」
「そうですね。嘘をついている素振りは見えませんでした。ですが、隠している事はあるでしょう。それこそ、最後の忠告のように」
「とは言え、インベスを倒せるのは彼一人。精霊だとどうか分かんないけど、当てにできるはずもないしね。一番困るのは、精霊を攻略中にインベスが現れる事よ。神無月、調査班の編成は任せるわ」
「了解しました」
「まったく……悩みの種は尽きないわね」
頭を押さえながら、琴里は心をくすぐる不安に苛まれるのだった。