戎斗は<フラクシナス>の客室で、令音から渡された精霊の資料を呼んでいた。
精霊の確認と政府の対応についての歴史。現在確認されている精霊、天使と呼ばれる精霊の能力について。そして――<ラタトスク>の対応について。
それらを読み終えた戎斗は、資料を机の上に放り投げると一言。
「――甘いな」
戎斗の感想はそれだけであった。
圧倒的武力を持つ精霊を相手に、同じく武力を持ってではなく、対話をすることで空間振をどうにかしようと言う考えは悪くない。
だがしかし、その具体的な方法が書いていない。
そもそもどうやって対話の席に着かせるのか。精霊が、自分から喜んで力を振るっている時はどうするのか。そして何より――対話が失敗した時の後始末はどうするのか。
「成功することが前提の作戦で、どうすると言うんだ?」
とは言え、こんなことを琴里たちの目の前で言うわけにもいかない。
右も左もわからない状態の戎斗を保護し、対等な報酬を支払うことで依頼を頼むことで、戎斗にとって実質的な金銭的な補助まで申し出てきた。
やり方には疑問が残るが、そんな彼女たちに戎斗は助けられているのだ。
「(最悪、対話が失敗した時は、俺が片をつけるか)」
そこまで考えた戎斗は、部屋に備え付けられていたコーヒーを飲む。
気が付けば、外はすでにオレンジ色に染まっており、長い間資料を読み耽っていたことが分かる。
とりあえず、これからのことを確認するために琴里の元に向かおうとしたとき、轟音と共に部屋が激しく揺れた。
「なんだ!?」
戎斗は部屋を飛び出し、すぐに艦橋へと向かう。
「いったい何が起こった!」
「……ッ、なんだよ、それ……っ! っていうか、なんで――――え?」
戎斗が艦橋に飛び込むと、先ほどは見なかった青年が琴里に向かって声を荒げていた。
その青年の腹は、何故か服に穴が空いていたのだが、戎斗は気にする間もなく琴里が声を掛けた。
「はぁい、戎斗。お姫様がちょっとばかしキレちゃってね。暴れているのよ」
「先ほど君に渡した資料は読んだかい?」
呑気に話す琴里の話を引き継ぎ、令音が戎斗に確認する。
資料については読み込んでいたので戎斗が頷くと、令音は話を続けた。
「その資料にも載せていた精霊<プリンセス>と対話の途中だったんだが、アクシデントで暴れ出してね。今の揺れも――」
どぉぉおおおおおおんっっっ!!!
令音がそこまで話すと、轟音と共に再び艦が揺れる。
「つまり、貴様らがやろうとしていた対話は失敗したと言うことか?」
「これが成功に見える?」
琴里の冗談めいた言葉に、戎斗は艦橋から出ようとする。
「俺をその精霊が暴れている場所に降ろせ」
「何をするつもり?」
「決まっている。俺がその精霊を倒す!」
「なっ!?」
戎斗の言葉に驚きの声を上げたのは、琴里でも令音でもなく、今の今まで置いてけぼりにされていた青年だった。
「ちょ、ちょっと待てよ!」
「……なんだ?」
戦いに出ようと言うところで呼び止められた戎斗は、不機嫌そうな表情で青年に顔を向ける。
その威圧に思わず後ずさった青年だったが、思いのほか度胸があるのか、戎斗に質問した。
「……倒すって、精霊をってことだよな?」
「だからどうした?」
「どうしたって……あんた、<ラタトスク>なんだろ!? なんで十香を殺そうとするんだよ! <ラタトスク>っていうのは、精霊を救うための組織じゃないのかよ!」
「十香……?」
「あー、<プリンセス>の名前よ」
訊きなれない名に戎斗が訝しむと、琴里が助け舟を出した。
それを聞いた戎斗は、それを鼻で笑った。
「な、なにがおかしいんだよ!」
「対話とやらが成功していない内から仲良しごっことはな。そんなんだから、いざと言う時に躊躇する」
「あんたに何が分かるんだよ! 十香だって、普通の女の子なんだ。今のこれだって、やりたくてやってるわけじゃ――ぐッ!?」
戎斗の態度に怒った青年が声を荒げると、振り向いた戎斗が青年の胸ぐらを掴み壁に押しつけた。
いきなりの荒事に、琴里は思わず立ち上がり静止の声を掛ける。
「士道!」
「ならば今のこれは何だ! 今起こっているこれは、精霊とやらが自分の意思でやっている訳ではないと言うのか……!」
「ぐ……」
声こそ荒げていないが、それでも言葉の端からヒシヒシと伝わる戎斗の怒りに、艦橋にいたクルーたちの動きが止まる。
そんな中、琴里に士道と呼ばれた青年は、負けじと戎斗を睨み返す。
「なんだよ……! 十香だって悲しんでるんだ。話せば、きっと分かり合える、はずなんだ……!」
「その話し合いが駄目だったからこそ、この状況になっている!」
精霊を、十香を救いたいと士道が視線を向ければ、それ以上の感情が籠った視線が、士道を睨み返す。
「俺は、絶対……十香を救うんだ……!」
「――思い上がりもいい加減にしろっ!!」
「……っ!」
士道の言葉を聞いた瞬間、ついに戎斗が声を荒げた。
「貴様は、昔のあの男と同じだ! 救う、救うと口で言いながらも、それが失敗した時のことは何も考えていない! その程度の覚悟しかない弱者が、簡単に救うなどと
「……っ!?」
戎斗の言葉に、士道はショックを受けたような表情になる。
士道に、決して覚悟がなかったわけではない。
十香と初めて出会ったときの、悲しそうな顔をしてほしくなくて、そのために
だが実際はどうだろうか。十香とのデートを約束する時も、そのデートの時でさえ<ラタトスク>の力を借りた。いや、<ラタトスク>を知らなければ行動さえできなかったかもしれない。
そして結果がこのざまだ。情けないなんてものじゃない。
自身の無力さに士道が呆然としていると、ふと胸ぐらを掴んでいた手が離され、士道は座り込む。
「……それで、どうするつもりだ?」
「……え?」
「何かしらあるのだろう。精霊を救う手段とやらが、貴様らには」
戎斗はそう言って、琴里の方を向く。それに対し、琴里は不敵な笑みを浮かべた。
「ええ、あるわ。効果は実証済。後は、士道の覚悟一つよ」
琴里の言葉に、そしてそれを聞いたのが戎斗ということに、士道は困惑したように戎斗を見る。
「……貴様が精霊を救いたいと言うのなら、最後まであがいて見せろ」
一度だけ待ってやる。
そう言われている気がして、士道は体に力を入れて立ち上がった。
確かに自分は無力だ。琴里たちに力を借りなければ、つい先日まで普通の日常を歩んできた自分では十香を救えない。
――――だとしてもっ!!
「十香が救えるのなら、どんなことでもやってやるっ!!」
そう宣言した士道の顔を見た琴里は満足そうに頷くと、精霊を救うためクルーに号令をかける。
「<フラクシナス>旋回! 戦闘ポイントに移動! 誤差は一メートル以内に収め――」
「司令!」
しかしその号令の途中で、クルーの一人が慌てた様子で報告する。
「精霊とASTの戦闘地域周辺に、先刻と同じ反応が! おそらくこれは……!」
「ちっ! インベスってわけ? こんな時に……」
インベス出現の報告に、琴里は咥えているチュッパチャプスを噛み砕かんばかりに歯を食いしばる。
このまま周囲で暴れられたら、精霊をどうにかするどころではなくなる。
どうするか頭を巡らせていると、その思考を遮る声が琴里の耳に届いた。
「俺をその地点に送れ」
「……戎斗」
「インベスの撃破は、お前たちからの依頼だ」
「……ふっ、そうね。戎斗、さっそく依頼を果たして貰うわよ」
「任せておけ」
「転送装置用意! 戎斗は直に転送装置に向かって。戦闘ポイントに向かう途中で送るわ!」
戎斗が艦橋を出ると、何のことかわからない士道は、琴里に聞く。
「なあ琴里、インベスってなんだ?」
「それは後で説明するわ。彼……戎斗についてもね。とりあえずあなたには、するべきことがあるでしょ?」
「……ああ!」
「――さあ、私たちの
原作だと対士道用の兵器があるのに、なぜ対精霊用の兵器が無いのか。
なんかアンチっぽくなりましたが、デアラは普通に好きです。
それこそ、家の周辺の本屋にストライクとバレットが置かれていないことに、若干泣きそうになるくらいには。