「――ああ、来たわね三人とも。もうすぐ精霊が出現するわ。令音は用意をお願い」
琴里の指示に令音は自分の席へと向かう。
クラックの報告などがあった昨日から一夜明け、今日も今日とて学校へと通っていた戎斗たちだったが、突如として空間振警報が鳴った。
士道と令音と共に<フラクシナス>に回収された戎斗は、現れるであろう精霊を待っていた。
「あまり時間をあげられなくて悪いのだけれど。腹は決まったのかしら、士道」
「……っ」
琴里の問いに士道が声を詰まらせる。
ただこの場において、戎斗はその原因を察していた。
「(この男、未だに覚悟が決まっていないというのか。危ういな)」
とは言え、戎斗もそれは想定内だ。先日のあれは、いわゆるその場凌ぎでしかない。
本当の覚悟というものは、そんな簡単に決まるようなものでもなく、様々な苦悩があってしかるべきなのだから。
「非常に強い霊波反応を確認! 来ます!」
クルーの声が聞こえたと同時に、街の様子を移していたモニターに変化が現れる。
何もなかった街の空間に波紋が出来た瞬間、その歪みが大きくなり爆音とともに画面が真っ白になった。
「空間振……っ」
「これが空間振か」
回復したモニターには、瓦礫の山と化した街の惨状が映し出される。
それを見た士道は空間振の恐ろしさに震えるが、戎斗は別の反応を示した。
「なるほど。確かにASTが精霊を殺そうとする理由もわかるな」
「なっ!? どう意味だよ!」
まるで精霊の死を肯定する戎斗の言動に、士道は詰め寄る。
「お前はあれが分からないのか? 事前に察知することは出来ても、それを防ぐことは出来ない。唯一の方法は、精霊を殺すことだけだと」
「それは……!」
「戎斗の言う通りよ。だけど、その解決方法を”唯一にしない”ために、私たちがいるの」
言い返せない士道だったが、既に見慣れているためか、挿して動揺していない琴里が口を挟んだ。
「今回現れたのは<ハーミット>ね」
「<ハーミット>ならばこの程度のものでしょう」
「まあ、精霊の中でも気性の大人しいタイプだしね」
「これで、小規模……」
琴里と神無月の会話に、士道は絶句する。
「司令、<ハーッミト>を発見しました」
「オッケー、拡大してちょうだい」
琴里の指示に、女性クルーが手元の機器を操作すると、モニターの一つが拡大される。
いつの間にか外では雨が降っており、発生したクレーターの中心に、一人の少女が映っていた。
「あ、れは……」
「……? どうしたのよ士道」
「俺、あの子に会ったことある」
「はあ!? いったいどこで!?」
「琴里、悪いがこっちも大変だ。インベスが現れた」
士道を問い詰めようとした琴里を、令音の報告が抑えた。
士道の方も気になったが、司令として次々と命令を出していく。
「ちっ! 後で聞かせてもらうわよ。戎斗はインベスの対処に行って。士道は隙を見て、<ハーミット>と接触するわよ」
『転送完了しました』
『戎斗、そこからまっすぐ進めばインベスと接敵する。ただし、どうやらASTがこちらにも戦力を回しているらしい』
「面倒な事を……。分かった。インベスを殲滅する」
令音との通信を切り、戎斗はバナナロックシードを取り出して起動する。
「変身」
《バナーナ!》
手元で回転させ、戦国ドライバーにロックシードをセット。カッティングブレードを下ろすと同時に走り出す。
《ロックオン!》
《カモン!》
《バナーナアームズ! ナイト・オブ・スーピアー!》
バロンへと変身した戎斗は、初級インベスに襲われているAST隊員を見つけた。
すぐさまバナスピアーでインベスを攻撃する。
「お、お前は……」
「下がっていろ。邪魔だ!」
何かを言おうとしていた男を置き去りに、戎斗は次々とインベスに攻撃していく。
「グシャァ!」
「はあ!」
真正面から突撃してきたインベスの突進をかわし、バナスピアーで切り裂く。
どうやら初級インベスしかいないらしく、戎斗は特に手間取ることなく優勢に立ち回っていた。
決着をつける為、カッティングブレードを下ろそうとした時、インカムから琴里の焦った声が聞こえてきた。
『戎斗、大変よ!』
「……?」
『<ハーミット>がそっちに向かってる!』
「何……ッ!? ぐぁ!」
通信の直後、戎斗とインベスを季節外れの猛吹雪が襲った。
「なんだ、これは……!」
「グゥォォォオオオオオオオオッ!!」
訳も分からず困惑する戎斗に、今度は獣のような低い咆哮が聞こえた。
咆哮が聞こえた方向を見ると、そこから何か白い物体が迫ってきていた。
その物体がはっきりと視認できる距離になると、戎斗はその正体を見た。
「デカい兔、だと……! あれが<ハーミット>か」
巨大な兔は脇目も振らず戎斗の目の前を通り過ぎていく。
兔の眼の前にいたインベス達は、その全てが氷漬けにされ粉砕される。
やがて、兔は戎斗の視界からも走り去る。その間際、確かに戎斗の目は、兔の背後に乗る少女の姿をとらえていた。
『<ハーミット>ロスト……前途多難ね』
「インベスも、奴がすべて倒した」
『それはつまり、精霊ならインベスに対抗可能ということ?』
「さあな……とりあえず、回収を――」
『大変です! 戎斗さんがいるポイントで、
『なんですって!?』
戎斗が振り返ると、そこには氷漬けにされていたインベスがいた。
その氷の塊が震えると、インベスを包んでいた氷が、
「ぐぎゃぁぁぁあああ!」
それだけではない。蝶が蛹から羽化するように、初級インベスから全く違う姿のインベスが現れた。
「これは……!?」
『<ハーミット>の反応は、そいつから出ているわ! 気を付けて、戎斗!』
「シィェアアアアアア!!」
堅牢な角が生えた頭部に、肥大化した両手足。さらには体中から結晶の様な物が突き出ている。
インベスは、闘牛のように片足で地面を搔きはじめると、戎斗に向かって突撃してきた。
「速い!? ぐぅ!」
初級インベスの何倍も速い速度に、戎斗は避けきれずにふっとばされてしまう。
『司令、ASTです!』
『<ハーミット>を追撃していた部隊か!』
空を見れば、数人のASTの隊員が上空に滞空していた。
インベスもそれに気づいたようで、空に視線を向ける。そして地面に片手を叩きつけると、インベスの周囲に次々と氷の塊が現れた。
ASTに向けて氷塊が次々と撃ちだされ、ASTはまともな迎撃が出来ない。
「はあああ!」
無防備な背中に戎斗がバナスピアーを叩きつけるが、硬い表皮に阻まれ大したダメージが与えられない。
戎斗は次々と攻撃を当てるが、インベスにバナスピアーを弾き飛ばされてしまう。
そしてインベスの拳が何度も戎斗に叩きつけられ、殴り飛ばされた。
「う……ぐ……!」
『戎斗! 仕方ないわ。一旦引くわよ!』
「まだ、だ。奴が硬いというのなら、こいつだ!」
戎斗が取り出したのは、バナナロックシードと別のロックシード。
マンゴーの装飾が付いた『マンゴーロックシード』を起動すると、戎斗の上にクラックが開きアームズが現れる。
《ロックオン!》
バナナロックシードを外し、マンゴーロックシードをセットして、カッティングブレードを下ろす。
《カモン!》
バナナアームズが粒子となって消え、戎斗の頭に被さった新たなアームズが展開する。
《マンゴーアームズ! ファイト・オブ・ハーンマー!》
アームズが展開し終わると、戎斗の右手にはメイス型の武器『マンゴパニッシャー』が出現する。
「グモォォオオオオ!」
アーマードライダーバロン マンゴーアームズに、インベスは恐れる様子もなく襲い掛かる。
インベスの振るう剛腕に、戎斗はマンゴパニッシャーを振るい真っ向から激突する。
「グォォオオオ!」
ガァァアアン!と鈍い音を立てて、インベスの腕が弾かれる。
しかし戎斗は手を緩めることなく、マンゴパニッシャーをインベスに叩きつける。
「はぁ!」
マンゴパニッシャーを振り上げ、インベスは吹っ飛ばされる。
「これで止めだ」
『―-戎斗、逃げて!』
戎斗がカッティングブレードを下ろそうとした時、琴里の警告が耳朶を打った。
次の瞬間、戎斗とインベスの周囲に大量のミサイルが着弾した。
「くっ……! いったいなんだ!」
『ASTよ! 回収急いで!』
突然の攻撃に戎斗が怯んでいる中、インベスは近くに開いたクラックで逃げてしまう。
「……! 待て!」
『転送!』
インベスを追おうとした戎斗だったが、それも叶わず<フラクシナス>の転送装置によって転送される。
直後、大量の銃弾が戎斗の立っていた場所に降り注いだ。