戦車と少女のスポ根もの。   作:にゃあたいぷ。

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鉄血少女の勝ちたがり戦車道①

「――鉄と血だ!」

 

 全国大会十連覇、その偉大なる黒森峰女学園の先人達が積み重ねてきた夢が踏み躙られた数日後のことだ。

 試合で酷使した戦車を各々で整備点検する最中、意気消沈する皆の重苦しい空気に耐え切れず、私は血反吐を吐き捨てるように声を上げた。私の肩に置かれた西住まほの手を振り払って、思いの丈を口にする。

 爪が肌を突き破る程に握り締めながら腑抜けた面の仲間達に訴えた。

 

「全国が注目しているのは黒森峰の――戦車道ではなく、力だ。聖グロやサンダース、知波単はそれぞれの戦車道を重んじるだろうが、それ故に勝利に執着することはない。黒森峰は持てる力を結集し、次の機会の為に保持しなくてはいけない。本大会では幾度も好機を逃してきました。OG会介入後の黒森峰は、健全な戦車道として相応しくない。目下の大問題は、派閥や伝統によってではなく――これは西住流と反西住流の対立が生んだ大きな欠陥でもあるが――鉄と血によってのみ解決される!」

 

 そうだ、私達は勝たなくてはならない。この汚名を注ぐには、勝利以外に手はない。

 あの決勝戦でプラウダ高校は誰もが誰よりも勝利に執着していた、それ故に優勝をもぎ取った。対して私達は勝利に徹することができず、西住流だとか、なんだとか、内輪の権力闘争に執着して団結する事もできていなかった。それじゃあ勝てるものも勝てないに決まっている。

 私達はもっと勝利に執着しなくてはならない。勝利、ただそれだけが私達に許されている。

 

「勝つ為には強くあらねばならない! 強い者に食い殺されるのは弱い者の宿命だ! ならば、どうする!? 強くなる為に必要なことはたった三語で済む――邁進せよ、歩み続けろ、あくまでも進み続けるのだ!」

 

 力を追い求めよ、その先に勝利が待っている。

 

「私達の道は私達で決める! 私達の鉄と血が黒森峰の命運を決するのだ!!」

 

 学園生活における最後の全国大会を逃した三年生は未だ、顔を俯けたままだ。

 しかし二年生、一年生は目に涙を溜めながらも歯を食い縛り、睨みつけるように私のことを見つめ返した。誰かは言った、歴史が証明する所に拠ると逃した機会は二度と戻らない。しかし、どれだけ現状がどん底にあろうとも、歩み始めるところから始めなければ、私達は何も得ることはできない。大丈夫だ、私達は強くなれる。逆境が私達を強靭な肉体と精神を鍛え上げる。私達の戦車道は此処から新しく始めるのだ。

 これは黒森峰女学園が再起を決意するまでの話。そして、これからの話になる。

 

 

◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇

 

 

 黒森峰女学園高等部、戦車道特待生一年。それが私の肩書だ。

 潮の香りがする、地面が僅かに揺れている。それは今の学園艦全盛の御時世に珍しく内陸生まれの内陸育ちな私にとっては新鮮な感覚だった。ドイツを意識した街並み、地震の多い日本では見られないような背が高くも可愛らしい住居はまるで私を別の世界へ訪れたような気にさせる。石煉瓦の道を靴底で叩いて、小気味よい音を鳴らしながら学校を目指した。

 道中、黒森峰女学園の黒色と灰色の制服を着た多くの生徒とすれ違った。私と同じくドイツ風の街並みに初々しい反応を見せる新入生、その様子を遠目から見守る先輩方の姿、そんな彼女達と同じように私もまた黒色と灰色の制服に袖を通している。

 校舎が見え始めた頃合いで、私は大きく胸を膨らませてから溜息を吐いて笑みを浮かべる。

 これから始まる学園生活が良いものになることを願って、その敷居を跨いだ。

 

「おや、貴女は確か全国大会で会ったことなかったっけ?」

「えっと何処のチームだったっけ?」

「私は長崎のチームに所属していたんだけど……」

「ああ! あの二回戦で当たった!」

 

 入学式、そんな周りのひそひそ声に耳を傾けながら指定の席に腰を下ろす。

 私の周りには見知った顔が多かった。というのも戦車道名門校である黒森峰女学園には、全国各地より戦車道の腕に覚えがある生徒が集められるのだから当然といえば当然の話。特に九州地方、中国地方、四国地方といった場所から黒森峰女学園に入学する者が多い印象がある。そんな中で私の顔を知る者は少なかった。何故なら私は中学時代に活躍できず、スカウトの目に止まることがなかったのだ。入学試験を受けることで辛うじて黒森峰女学園戦車道特待生の地位を獲得したに過ぎない、それも補欠で。

 そんな私にとって周りは同学年の戦車道大会で活躍した有名人ばかり、どうにも場違い感が半端ない。

 中学校の試合で私のことを打ち負かしたチームの選手も居るし、全国中学校大会で活躍した顔触れも多い。中学時代に無双し、前年度の全国高校生大会で優勝に大きく貢献した西住まほの妹である西住みほが居るし、私のすぐ近くには逸見エリカが座っている。中学校最後の大会で私を撃破した赤星小梅の顔もある――正直、萎縮する。

 ちょっぴり不安が残る中、入学式を終えた私は各自に割り振られた教室へと一人で足を運ぶ。

 

「君は独りかな?」

 

 授業が始まるまでの間、これまた五十音順で決められた席に座っていると後ろから話しかけられた。ゆったりと後ろを振り返ってみると、高校生にしてはやけに小柄な少女が柔らかく笑って手を振ってみせる。

 

「初めまして、私は茨城(いばらき)白兵衛(しろべえ)って云うんだ。下の名前で呼ぶ時は親愛を込めて兵衛(ひょうえ)と呼んでくれると嬉しい」

 

 君と同じ試験組だよ、と自己紹介しながら手を差し出してくる彼女にどう対処すべきか迷って「あー、んー」と目を泳がせながら間延びした声を漏らした後で意を決し、彼女の手を受け取った。

 

「私は赤池(あかいけ)鉄心(てっしん)、よろしくね」

「こちらこそ、お願いするよ」

 

 しっかりと握り返してくれる彼女に合わせて私も手に力を入れ返すと、それにしても、と彼女は苦笑混じりに告げる。

 

「お互いに男らしい名前に苦労してそうだ」

「まあ、うん、そうね」

 

 もう慣れたかな、と曖昧に笑い返した。

 これからの学園生活について、簡単な説明を受けた後、このまま今日は解散する流れになる。

 同じ新入生の生徒達が友達と近場にある喫茶店やクレープ屋に行こうと約束を交わす中、私は配られたプリントなんかを黙々とクリアファイルに入れる。これからどうしようか? まだ部屋の段ボールも開け切っていないので学寮に戻ってしまうのが良いか、それとも近場のホームセンターにでも足を運んで家具を充実させるのが良いか。

 頭の中で色々と計画を立てていると「この後の予定は空いているのかな?」と机を挟んだ正面に立つ茨城に声を掛けられた。

 もう帰り支度は済ませているようだ。

 

「特にないけど?」

 

 そう素っ気なく返せば、それは良かった。と彼女は嬉しそうに頷き返す。

 

「これから戦車倉庫に足を運ぼうと思っているのだけど、一緒にどうかな?」

 

 黒森峰女学園に来て、私はまだ戦車倉庫には足を運べていなかった。

 遠目から何度か練習風景を眺めたことはあったけど、なんだか思っていたよりも練度が低くて、控え選手の練習日だと思って早めに切り上げた記憶がある。まあ学園艦に来てから一度も戦車に触ってないし、そろそろ恋しくなってきた頃合いでもある。

 特に断る理由も思いつかなかったので、茨城の提案に乗っかることにした。

 

 道中、茨城の提案でタピオカティーを片手に戦車倉庫へと向かっている時のことだ。

 

「そういえば赤池って、どうして黒森峰に入ったのかな?」

「どうって……大した理由はないけど?」

「試験を受けてまでして入りたかったんだろう?」

 

 重ねて問われ、私はタピオカティーを一口だけ飲んでから理由を語る。

 とはいえ大した話ではない。ただ単に私の戦車道は西住流に憧れるところから始まり、その上でドイツ戦車も大好きだから黒森峰女学園を選んだ。本当に、それだけが理由で入学先を選んだ。入学する時に、私では試合に出場できない可能性が高い。と言われていたし、実際その通りだと思う。親からの反対もあった。それでも私は西住流と黒森峰女学園への想いを断ち切ることができず、今ここに立っている。

 不安はある。でも、それ以上に西住流の戦車道を学べることを思うと浮ついた気分になる。

 それを出来るだけ抑え込み、表面上だけ取り繕って掻い摘んで答えた。

 

「そういう貴女はどうして黒森峰に?」

 

 問い返すと茨城は、あっさりと答えてのけた。

 

「私はね、戦車道が好きなんだ。どうせなら一番強いところで戦車道をやりたかった」

 

 それだけだよ、と彼女ははにかんでみせた。

 

 少し、強めの風が吹いた。

 吹き抜ける風に髪が靡いて、その先には二人の女生徒が居る。背中にかかる程に長い、茶色に近い銀髪。隣を歩くツインテイルの子は知らないけども、彼女の事はよく知っている。黒森峰女学園中等部の戦車道チーム、副隊長として全国大会優勝まで導いた人物。名前は逸見エリカと言ったはずだ。

 私とは格が違う天上人、私では畏れ多くて話しかけることもできやしない。

 

「初めまして、逸見エリカ。それに楼レイラ。中等部の試合はよく見に行っていたよ」

「えっ、私の名前も覚えてる!?」

「貴女も車長をやっていたじゃない。まあマニアックなのは否めないけど」

 

 あんれ〜? 話しかけてる〜?

 あの人、前年度の全国中学生大会の覇者様に話しかけてるよー。

 怖いよー。コミュ力つよつよかよー。

 

「ちなみに私は茨城白兵衛で、彼女は赤池鉄心と云うんだ」

「いや、聞いてないし」

「へえ、二人とも、なんというか……厳かな名前だね!」

「レイラもあまり乗らないで」

 

 逸見は大きく溜息を零すと「それで用がないならもう行くけど?」と茨城に冷たく告げる。「用ならある」と茨城は云うと「戦車倉庫に向かうのなら一緒に連れて行ってくれないかな?」と図々しく問いかけた。

 

「……どうして私達があんた達と一緒に行かなきゃいけないのよ」

 

 別に良いんじゃない? と零す楼の頭に逸見が軽くチョップをして黙らせる。面倒臭いって想いが顔から滲み出てるのがわかる。

 

「理由が必要かな?」

 

 そう云うと茨城は「それじゃあこうしよう」と得意顔で提案する。

 

「今日から私達は友達になろう」

 

 メンタル形状記憶合金かよ、こいつぅ〜っ!

「はあ?」と逸見が心底嫌そうな顔をしてみせる横で「それじゃあ今日から友達だね!」とツインテイルの子が食いついた。

 これが陽キャのやりとりってやつか、こいつらメンタル強過ぎやしませんかねえっ!

 

「……念のために聞いてあげるけど、レイラとこいつが友達になるってことで良いのよね?」

「エリカと私、それから白兵衛ちゃんに鉄心ちゃんと!」

「あ〜、その名前。可愛くないから下の名前で呼ぶ時は兵衛(ひょうえ)って呼んでくれると嬉しいかな?」

「兵衛ちゃんと!」

 

 意気揚々と返す御友人の姿に逸見がとても疲れた顔でチラッと私の方を見つめてきた。

 貴女の友人でしょ、なんとかなさい。と視線だけで訴えているのがよくわかる。

 でも、ごめんなさい。その子、別に私とは友達でもないんですよ。今日、知り合ったばかりなんですよ。

 

 陽キャって怖いなー。と思いつつ、流されるまま四人で戦車倉庫まで向かうことになった。

 

 

◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇

 

 

 人付き合いは、あまり得意な方ではない。

 別に誰かと話したりすることを苦痛に感じることはない、けども面倒臭く感じることは多々あった。私は我が強いせいか、誰かと合わせて生きるということがとても疲れてしまう質のようでして、ひとりで居ることを好むことが多い。けど、それは決して誰かとの繋がりを断ちたい訳でもなかった。

 都合の良い時に会えて、都合の良い時に話して、都合の良い時に遊んで、都合の悪い時だけ疎遠になる。そんな風に考えているから私には小学校、中学校とちゃんとした友達ができなかった。

 私は戦車が好きだ、そして戦車道が好きだ。

 

 もし仮に私が人との繋がりを保てるなら、きっとそれは同じ趣味を持つ仲間。

 自分がしたい事の為に必要だから、私は都合良く仲間を求める。好きな事の為だから多少の苦痛は受け入れる。たぶん戦車道をやっていなかったら私はもっと駄目な人間になっていたんだろうなって思う。人生の九割以上が退屈で面白くないことばかりで、残りの一割未満に楽しいことや幸せがあるのだと思っている。人間関係も似たようなものだ。九割以上が面倒臭い、でも残りの一割未満に楽しさや幸せが詰まってる。それが好きで人との付き合いを保ちたいって思っているのだけど、やっぱり面倒臭くて深い関係には至れない。

 中学時代の友達未満とも一ヶ月もしない内に連絡が途切れちゃったし。

 いやまあ、メールをしない私も悪いのだけど――都合の良いことばかりを求める私はきっと性格が悪い。悪いのを知っているから、やっぱり人間関係は程々が良い。戦車道だと利害が一致してるから関係性がより一層に楽になる。まあ、それはそれで迷惑を掛けた時のストレスがマッハだったりするんだけど、迷惑をかけない程度には実力を付けてるし? あ、でも黒森峰に入ったら平均以下、っていうか底辺近くになっている。

 今一度、一から鍛えなおさきゃいけないな。と決意を改める。

 その為にも早く戦車に乗りたかった。

 

「さあ、着いたわよ。こちらから入れるわ」

 

 何度か足を運んでいるようであり、逸見が慣れた様子で私達を先導してくれる。

 戦車倉庫の中は、少し薄汚れていた。上級生には活気がなく、疲れ切った顔で戦車の整備をしている。それに、なんだか人数が少ないように感じられた。黒森峰の練習はきついって聞いているし、そのせいで戦車道を辞めてしまう生徒も少なからず居るという話もあった。活気がないから少なく見えるだけか? いや、やっぱり数そのものが少ないように感じられる。

 どうしたことか、と思っていると逸見が翳った顔で口を開いた。

 

「今、少し空気が悪いのよ」

 

 若干の怒りを滲ませる。事情を知っているのか、楼もまた気不味そうに目を背けた。

 

「そういえば君達は中等部からの進学だったね」

 

 なにかを察するように茨城もまた目を細めて微笑み返す。

 三人の間でなんか分かり合ったような空気を出すのは止めて頂きたい。……別に良いもん、話に入れて貰えないのなら勝手に見て回るので。あっ、パンターG型がある! ドイツ戦車の中でも特に好きなのがパンター戦車、ソ連軍のT-34戦車に対抗する為に生み出した中戦車であり――被弾傾斜を取り入れたデザインを採用したりとか、幅広い履帯だとか、75mm砲だとか、語れることはいっぱいあるけども、そんなことよりも大切なことがある。そうだ、パンター戦車は格好良いのだ! T-34戦車と見た目が似てるって? 違うんですよ! 履帯の前方が少し盛り上がってるところとか、車体前方が前に突き出す形になってる所とか! 全然違うんですーっ! あと速さ! やっぱり戦車は速くなくちゃいけない! デザインだけで云うとⅣ号戦車が大好物なんですけど、彼の戦車の最高速度は時速38kmなんですよ。このギリギリ時速40kmに届かないのは、なんというかイケメン男子の身長が168cmと聞いた時と同じ残念感がありますね。

 ズラリと並んだパンターG型に、ふんすふんすと興奮していると背後から向けられる生暖かい視線に気付いた。

 

「貴女の友人は随分と変わっているのね」

「……まあ、誘った甲斐もあるというものだよ」

 

 逸見の言葉に茨城が肩を竦めてみせる。

 ぐぬぬ、面食いの何が悪い! 謝罪と賠償を要求するニダ!




隻脚少女のやりなおしR
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