申し訳ありません、Ⅲ号戦車が正しいです。
ボコられグマのボコ。
少し前に流行った子供向けのアニメであり、いつもボコが殴られ蹴られてボコられる。
懲りずに何度も何度でも立ち向かっては返り討ち、骨が折れても心は折らず、それでもと健気に何度でも立ち上がる姿に心を打たれる者はいた。拳ひとつでは世界は何も変えられぬ、力を持たねば理不尽に対抗できぬ、心だけがあっても意味はない。それでもだ、それでも人には絶対に譲れぬなにかがある。ボコは、それを教えてくれるのだ。
何度、心が折れそうになっても、何度、挫けそうになっても、何度、地に膝を付けたとしても、何度でも、何度でも立ち上がっては立ち向かうのだ。
だって、それがボコだから!
私、西住みほは姉であるまほと一緒にいる事が多い。
学寮は少し距離が離れている事もあり、姉には姉の付き合いもある事を考慮すると顔を合わせ難い。というよりも鎖犬隊を自称する人達が、親西住流派閥を自称する人達が、ちょっと……いや、かなり邪魔で仕方なかった。なので私達が顔を合わせられるのは戦車道という建前がある時が多く、そして姉は戦車道に対して、誰よりも真摯であったが為に話題も戦車道に関する事が多くなる。
これは、そんな姉との一幕であり、隊長室にある備え付けの椅子に腰を下ろしていた時の話だ。
「そろそろ全国大会の編成を決めなくてはならない」
姉は要点だけを掻い摘んで話し出すことが多い。
ふと思い出したかのように飛び出す言葉は、周りを誤解させやすく、姉に近寄り難い雰囲気を形成させる。実際、姉は会話が苦手だ。戦車道に関する事なら話せるけど、基本は言葉足らずで、話を噛み砕かないと理解できないことが多々ある。妹の私でさえもそうなのだから、他の人からすると更にちんぷんかんぷんなことになっているのではないだろうか。必要最低限以下しか話さないので周りの人からよく怖がられている。そのことを注意すると、怖がらせているつもりはない。で話を打ち切っちゃうのが姉の悪い癖だった。
まあ今は二人きりの時は構わないんだけども。
「高校の全国大会って早いよねえ」
「それは仕方ない。何処の高校も条件は同じだ」
戦車道全国高校生大会は本格的な夏が訪れる前に全ての日程を終える。
具体的な開催期間は大まかに、五月の終わり頃から六月いっぱいまでとしている事が多い。その為、新入生は充分な訓練を受けられない事が多く、チームメンバーが充分に足りている高校が一年生を採用することは少ない。それこそ、私のお姉ちゃんのような類稀なる才能の持ち主でなければ選ばれることはない。
ただ今年の黒森峰に限っていえば、新入生を採用せざる得ない理由があった。
それは、OG会敷いてはPTAの過剰介入によってまだ二年生の姉を隊長に就任させた騒動であり、その影響で過半数を超える生徒が黒森峰戦車道を辞めてしまった。特に能力の高い生徒から軒並みいなくなってしまったので、今の黒森峰に往年の力は残されていなかった。
全国大会のことを思うと、今から億劫になってくる。
「みほはもうメンバーを決めているのか?」
問われて、私は首を横に振る。
「でも、気になる子なら居るかな?」
「言ってみろ」
「まだ声も掛けていないけども……」
短く促されて、私が想定しているメンバーを口にする。
「砲手と装填手は以上で……あと操縦手に井手上武子さん、それから通信手に赤池鉄心さん」
「武子のことは知っているが、赤池とは誰のことだ?」
「もう新入生の名前と顔をまだ覚えてないんだね」
まあ鉄心、こころは突出した能力もなければ、個性的な性格をしている訳ではない。
どちらかと云えば、影が薄い方で姉の覚えが悪いのも仕方ないと云えば仕方なかった。
姉は少し拗ねるように眉間に皺を寄せるが、何か言い返したりはしなかった。
「まあ、みほの選んだ人選だ。間違いはないのだろう……しかし新入生から選ぶのなら逸見や茨城でも良いんじゃないのか?」
「あ、茨城さんのことを知っているんだね」
「……知人が評価していたからな」
逸見エリカ、茨城白兵衛。二人共、能力だけを考えるなら不足はない。
でも、二人には私のチームに入れるよりも、もっと良い役割がある。
「エリカさんと兵衛さんは私とは別に新入生チームを作る方が良いかな」
「今の二年生に匹敵する程か?」
「うん。それに二人共、私のやり方よりもお姉ちゃんの戦車道の方が合ってると思うから」
二人共に戦車の性能を十全に発揮する能力に長けており、特にエリカは戦車の長所を相手に押し付ける戦法を得意としていた。
「もし試合で使うなら、戦車はレストア中のⅢ号戦車になるかな?」
「あ、お姉ちゃんも知っていたんだ」
「新入生の……ああ、そうだ。彼女だったか、その赤池が許可を取りに来てたよ」
やっぱり先にお姉ちゃんに話を通していたんだ。
上級生からの妨害を予想し、誰も逆らうことができないお姉ちゃんに話を通して楔をする。効果的な一手を誰よりも早くに打つ辺り、やっぱり、こころは頭が回る。お姉ちゃんを尊敬しているみたいだから、ちょっと申し訳ないけど、それでも私にはこころみたいに盤外にまで視野を持てる人が必要だった。
単純な能力だけならエリカや兵衛の方が高い。正面衝突ならこころがエリカと兵衛に百回挑戦しても勝つことはない、でも搦め手を使うならエリカと兵衛が百回挑戦しても、きっとこころには勝てない。
でも、先手先手で相手の出鼻を挫くやり口は、西住流的ではなかった。
本人には言い難いけど、こころの能力は西住流では活かされ難いものだ。
「逸見達は使えるか?」
「……うん。指揮を執るのは難しいだろうけど、戦車一輌で戦うだけなら問題ないよ。二人共、お姉ちゃんのことが大好きだからPTAに染まっている人達よりも使い勝手が良いと思う」
「力は示せるか?」
上級生達に納得させることができるか、ということか。私は力強く頷き返した。
「うん。正直、富永さんの訓練しか受けてない二年生の人達よりも戦える」
「なら、決まりだな」
姉は椅子の背凭れに体重を傾けて、小さく笑みを浮かべる。
「最初は与えられた駒だけで戦うつもりだった。でも、少しくらいは私の手駒を用意させてもらっても良いだろう」
三輌、できれば四輌。と姉は言い。選抜試合を行うことを口にした。
Ⅲ号戦車、外面だけはJ型。中身は新旧の部品が混ざり過ぎて何型なのか判別ができない。
西住隊長から選抜試合を行う旨が伝えられて、その際に赤池鉄心ことこころはみほに引き抜かれた。
おかげで私達は、こころの代わりを探すことになり、そうして選ばれたのが――――
「あ、赤星小梅です! よろしくお願いしますぅ……」
――彼女という訳だ。旧戦車倉庫、Ⅲ号戦車J型(仮)の前で赤星が畏まって頭を下げる。
「よろしくー! ほら、エリカもちゃんと挨拶して!」
幼馴染が私に挨拶を強要してくる。丁度良い子を知ってる、と言っていたので任せたらこれだ。
「今更、挨拶もなにもないじゃない……」
彼女、つまり赤星小梅の事はよく知っている。
というよりも彼女は中等部時代からの付き合いで、試合ではみほと連携していることが多かった印象があった。
いや別に嫌いという訳でもないけど、ちょっと思うところがあるだけだ。
「私の方は挨拶しておいた方が良さそうだね。
兵衛は相変わらず、誰に対しても態度を変えず、物怖じすることがない。
それが頼りになることもあるし、いや、ちょっと待てって呼び止めたくなることもある。とはいえだ、今回に限っては悪い流れではない。連携が取れない程に仲が悪いのは駄目だが、戦車チームのメンバーは必ずしも仲良しである必要はない。
赤星の相手はレイラと兵衛に任せて、私は私の役割を全うすれば良い。
「挨拶が終わったなら訓練を始めるわよ。連携の見直しもしないといけないし……もう選抜試合まで時間がないわ」
私がいうとレイラは少し呆れるように、兵衛は当然だと云わんばかりに頷き返す。
今年の黒森峰は選手層が薄い。その事を喜んで良いのかどうかは分からないが、転がり込んできた好機を無下にする趣味はない。
レギュラーの座、先輩達を押し退けてでも必ず掴み取ってやる。
簡易人物紹介
・楼レイラ(現一年生。原作アニメ開始時、二年生)
公式スピンオフ作品フェイズエリカ、にて登場する逸見エリカの相方的ポジションの子。
エリカとは小学生からの付き合いであり、中等部時代は車長として、エリカと共にみほとの模擬戦に臨んだことがある。
高等部になってからは頭角を現すエリカに置いて行かれる形で選抜から外されて、外から応援することになった。
黒森峰関連の設定はプラウダ戦記を参照にしている当作において、
そもそも戦車の数が足りていないので必然、ひとつの戦車に実力のある者が固まるようになってしまった。
新入生組の中では、実力は高い。
西住みほ、逸見エリカと比べると見劣りするが、上位に入る程度の能力は持っている。
車長希望ではあるが、ひと通りの役割は熟せる。