異世界でパン屋をしたら英雄と呼ばれた件   作:紅乃 晴@小説アカ

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捕虜生活?うるせぇそれよりもパン作りだ!!

 

 

傭兵部隊に拉致、と聞けば相当酷い目に遭わされてるかと思うが、実際はかなり丁重というか、真摯に扱われていた。

 

逃げ出さないよう手枷とかはめられると思っていたのに、それどころか縄すらされずにいる。なんでも「神のパンを作る御仁を縛るなど滅相もない」とのこと。んじゃあ拉致なんてするなよ馬鹿。

 

傭兵部隊の隊長さんから聞いた話だが、なんでもアスレニア大国が俺のパン技術をどうしても手にしろと密書によるオーダーを受けていたようで俺を拉致したとか。

 

じゃあなんで地下道抜けて西側に出るの?って聞くと、西側に進出した軍の兵站でパンを焼いてくれとのことだった。西側に出たはいいが魔族との戦いで軍が疲弊してるのだと。後ろを見るとアスレニア産の小麦粉類や、果ては家畜も牽かれている。大国側は早々に魔族のいる西側に人族の拠点を設営したいようだった。

 

いやいや、なおさら俺いらなくね?それだったら酵母の製造所でアスレニア大国の職人一人引っ張って行けば良かったんじゃん。あ、大国の貴重な職人を戦地には送れない。弱小の連邦から拉致すればいいじゃないかというお偉いさんの考えっすか、そうですかクソが死ね!!

 

傭兵部隊側も、俺をそこまで高待遇するつもりはなく、脅して馬車馬のようにパンを作らせて働かせるつもりだったようだが、製造所で俺が配ったパンを食べて感動したようで、あんな神がかったパンを作る職人を奴隷のように扱えるか!と隊長が方針を切り替えたのだ。うん、それなら拉致してくれなかった方がよかったかな!!!!あ、だめ?そう。

 

そんなこんなでむさ苦しい傭兵部隊と共にイオニア山脈の地下を穿つ坑道へ入った俺。あぁ、ミューディーすまない。こんなことになってしまうなんて。とりあえずレシピ本と種は保存してるから、レシピ本を見ながらパンを焼いてくれ…。

 

 

 

 

 

 

イオニア山脈。

 

東側から西側に抜けて数ヶ月。

 

俺は現地での兵站、とくにパンという主食担当を任され、朝から晩までせかせかとパンを焼き続けていた。なんでも、この辺りはラーニエ地区と呼ばれているらしく、人の外観に近い、エルフやドラフという魔族が住む地区らしい。

 

俺はずっと後方にある兵站拠点の厨房に押し込められてるからどんな外観なのか一切知らんけどな!!今日も今日とてパン作り。最初は反抗心もあったし、反骨精神もあったけど、今はこの状況を活かせる方向に精神を持っていっている。だって食料は豊富だし、小麦や卵、牛乳も揃ってるんだもん。試作品作り放題やで!!

 

かまども大国の最新式なので、今まで出なかった高温の調理も可能になったので、この際だからクッキー生地を使ったメロンパンや、クロワッサンの製作にも着手。最初の頃はコッペパンや食パン、クリームパンや、なんちゃってチョコパン、ジャムパンなどで回していたけど、今はもっと豊富なバリエーションがあるし、戦線で戦う大国兵たちにも人気は上々だ。

 

まぁ拉致されてる上に、いつ解放されるかもわかんねぇといった不安は付き纏っているが、逃げてもアンゼの街に帰れるか分からんし、下手すると俺は死んだことになってるかもしれん。

 

ミューディーには悪いが、今俺が感情的に逃げても迷惑が掛かるのはアンゼの街とミューディーだ。あの人の良い街を大国軍の手で穢させるわけにはいかない。だから、俺は黙ってパンを焼き続けている。

 

そんなある日、兵站拠点のすぐ横にある拠点に捕虜が収監されたと聞いた。なんでも前線で戦っていた兵たちが捕まえたらしく、ひどく痛めつけられた上で連れてこられたとか。

 

噂で聞いた話では、ドラフやエルフの雌は人間の女性のような外観でとても美しく、逆に雄は筋骨隆々か、壮麗な外観をしてるだとか。そんな外見をした者が前線の兵たちにどんな目に遭わされたのか考えるまでもなく。

 

兵站拠点や、パンを輸送する人間たちに顔がきく俺はその捕虜が囚われている拠点へと向かった。兵たちが監視する檻の中にはぐったりとしたエルフの女性が虚な目で俺を見つめていた。

 

こりゃ…ひどいな…。

 

水浴びもさせてもらえてないようで体はぼろぼろ。衣服も剥ぎ取られ、汚い布切れを乱雑に縫い合わせたような囚人服が着せられていた。

 

 

「少し外してくれ。捕虜に飯を持ってきた」

 

 

そう言って近くにいる監視の兵たちを俺は睨み付ける。最初はあーだこーだと退く気がなかったようだが、それ以上ごねるならパン作りをしないと言うと慌てて牢のある小屋から出ていった。うむ、素直に人の言うことを聞くもんだぞ。

 

人払いが済んだところで、俺は外側にあるかんぬきを外してエルフのいる牢へと入る。うむ、ひどい匂いだ。鼻を刺すような酸性の香りは女性の隅々から漂ってきている。

 

俺は食料の他に持ってきた川の水と布を先に差し出した。

 

 

「酷いもんだな」

 

「…私に触れるな…汚い人間め」

 

 

虚な顔でそう言ってくるが抵抗する気力すらないのか、身動きひとつしない。俺は水で冷やした布を絞って、ドロドロになったエルフの顔を拭う。あーもう、こんなになってまで…。こんな目を俺はこの世界に来てから何度も見てきた。

 

アンゼの街ですらあったのだ。細い路地で細くなった子供が倒れている姿も見た。この世界はまさに技術力が圧倒的に低い。だから治安も悪い。

 

それを見て、俺は我慢ならなかった。

 

だからパン作りに拘っているのかもしれない。少なくとも、俺が見える範囲でそういった子供たちは少なくなっている。朝と昼、そして夜のサイクルの中で、売れ残ったパンを恵まれない子供達に配っているのだ。

 

最初は襲われそうになったりもしたけど、次第に子供たちは俺に慣れてくれた。俺はパン作り以外に何の能もない男だ。金もないし、あるのは体と命、そして両手で抱えたカゴいっぱいのパンだ。

 

だから、ここでもそれは変わらない。こんな姿になってしまった捕虜のエルフを俺は見過ごすことができなかった。

 

見える範囲で体を綺麗にしたあと、俺は焼いたばかりのパンをエルフに差し出す。

 

 

「…っ!!いらん!!人間の施しなど受けない!!私は生きていたくない…このまま…どうか殺してくれ…!!」

 

 

喉を鳴らしたあと、顔を背けてそう言うエルフの目には涙が浮かんでいた。きっと死んだ方がマシな目にも遭わされたのだろう。

 

 

「安心しろ、俺もまぁ…アンタと同じように捕まってる身でな。パンを作れるという能のおかげで生きながらえてるんだ」

 

 

にっと笑って言う俺に、彼女は顔を背けたまま。その後ろで俺は持ってきたふっくらしたコッペパンを二つに割る。香ばしい香りが立ち上る。その香りは顔を背けるエルフの嗅覚にもしっかりと入り込んだ。

 

 

「きっと…死んだ方がいいと思う目に遭わされたんだと思う。けど、アンタはまだ生きている。生きながらえている。だから…生きてこそ見える、明日っていうのもあるんじゃないか?」

 

 

そう告げて、俺は改めてパンを差し出した。

エルフは顔を背けたままだったが、震える手でパンを受け取るとこちらに顔を向けないまま頬張った。

 

 

「……もぐっ…もぐ…」

 

 

パンを咀嚼する音が聞こえる。俺は黙ったままパンをちぎってはエルフに差し出した。彼女は相変わらずこちらを見ないまま、差し出したパンを手に取って食べている。

 

 

「美味いな……生かされている理由がよくわかる……」

 

「だろ?」

 

「ああ…美味いな…本当に…」

 

 

その言葉を最後に彼女は持ってきたパンに齧り付く。彼女の肩が震えているのを俺は気付かないフリをして牢を静かに後にした。

 

きっと、彼女が受けた傷は浅くはないだろう。けれどここにいる間だけは、どうか安らかな時を過ごしてほしいと心から願う。

 

さて、俺も明日の仕込みがあるから兵站拠点に戻るか!!

 

 

 

 

 

 

そして俺が拠点に戻る最中、捕虜となった仲間を救うべく奇襲をかけてきたエルフ軍により拠点は壊滅。たまたま拠点間を移動していた俺はエルフの兵士に見つかり、そのまま捕虜となって捕まるのだった。

 

えー、また捕虜ですかやだー。

 

そんな冗談を胸中で呟いてる間に麻袋を被されて俺の視界は闇に包まれた。

 

ほんと俺どうなるんですかね!?

 

 

 

 

 

 

 

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