異世界でパン屋をしたら英雄と呼ばれた件   作:紅乃 晴@小説アカ

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帰る場所がなくてもパン作りだ!!

 

 

傭兵に拉致られ、エルフと人の戦いに巻き込まれ、そしてエルフ国で過ごして五年と少し。

 

 

 

俺はついにアンゼの街に帰ってきた。

 

 

 

だが、五年は人にとっては長すぎたらしい。

 

俺を最初に助けてくれたミューディーは、街で名を挙げ始めたパン職人と結婚しており、すでに一児の母となっていた。

 

ミューディーのベーカリーは旦那のパン職人が受け継ぎ、順風満帆に人生を謳歌していた。

 

そんな中、五年間も行方不明だった俺が突然帰ってきても戸惑いしかない。

 

再会にアンゼの街の住人や、ミューディーも喜んでくれたが、五年間で培ったアンゼの街には新たな暮らしや形式があって、取り残された俺にはもうこの街に居場所はなかった。アンゼの街にはすでに俺のパン技術が行き渡っており、どこのパン屋に行っても高水準のパンを食することができるようになっていた。

 

俺はもう、街にとっては過去の人となっていたようだ。

 

ご丁寧に墓まで作られていたが、まぁパン技術が普及したので良しとしよう。

 

街の役人が俺を政府関係者として迎え入れようとしてくれたが、それは役人という名の幽閉状態で、俺のことを隔離しようとしたらしい。聞いた話によると、アンゼの街の特産物となったパン技術を他所へと伝播する俺は厄介者だったようだ。

 

教えてくれたのはミューディーで、彼女と夫の協力のもと、俺は追っ手を掻い潜ってアンゼの街から逃げることができた。

 

 

「生きていてくれたことは嬉しい。けど、私はもう貴方を助けることはできないの。私には、私の生活がある。五年間は…長すぎたわ」

 

 

悲しげな顔をして、ミューディーはそう言った。

 

彼女は今まで預かっていたという俺のパン屋としての報酬を渡して旦那と共に去っていった。

 

そうして、俺はやっとの思いで帰ってきた人の世界で、ひとりぼっちになった。

 

 

 

 

俺はこの世界を旅することにした。

 

 

 

 

最初はどこかの街で根を下ろそうかとも考えたが、どうにも馴染むことができないままで。

 

さすらいのパン職人とは面白いものだった。

 

俺を拉致した傭兵団とも再会し、しばらくその傭兵部隊のもとでパン職人として腕を振るったし、地方政府のクーデターに巻き込まれたりもした。そこから離れ、エヴロビ連邦内の多くの街を回った。そしてアスレニア大国にも足を伸ばして見たこともない大都市に圧倒された。

 

そんな旅の中で、大勢のパン職人と出会った。

 

ある時は教えを伝え、ある時はパン技術を競い合い、そして友情が生まれ、ライバルと技術を高めあい、多くの出来事を体験できた。

 

そして、アンゼの街を出て十年後。

 

イオニア山脈に沿って足を伸ばし始めた頃だ。

 

 

 

魔王が復活したという噂を聞いた。

 

 

 

魔王?こんな世界に魔王がいるのか?

 

現代世界よりもこっちの生活のほうが長くなった故か、最初はそんな話など信じられなかったが、魔族という存在がいるのだ。魔王がいてもおかしくないということに気づく。

 

そう言われれば、最近イオニア山脈の森も雑魔族で騒がしいし、ゴブリンやコボルトたちも妙に警戒心が強いのも魔王復活に起因するのだろうか。

 

ちなみにゴブリンやコボルトたちは俺の携帯用…まぁ石積みなどはしなきゃならないが、簡易的な窯で焼いたパンを渡したらおとなしくしてくれた。害が出るというゴブリンは大人しくパンを食べて引き上げていくが、コボルトはお返しに山の果実やハーブを送ってくれる。

 

うむ、言葉は通じないが誠意は伝わるぞ!やはり酵母菌は偉大だな!トーストにひれ伏せ。

 

そんな噂を聞きつつも旅を続けた俺は、奇妙なパーティーとも遭遇した。オーガーたちに取り囲まれている奴らで、大層立派な武器を持つ者たちだったが、技量は火を見るよりも明らかで。

 

あわや全滅というところで通りかかった俺が、オーガーたちにパンを焼くことで撤退してもらうことに成功。どうやら縄張りに不用心に踏み入ったということで、パンを準備しながら傷の手当てをする一行に軽く説教をしておいた。

 

オーガー族は知能は低いが仲間意識と縄張りに警戒心を持ってる。現代で言うところのゴリラに近い生態ゆえ、無闇やたらと近付くものじゃない。

 

オーガーたちを追っ払った後、すっかりお通夜状態となった彼らを見捨てることもできず、俺は余った食材でパンを焼き、彼らに配った。

 

金?そんなものいらん。そう断ってさっさと食べろと催促する。リーダーの男の子が齧り付くと暗い表情がみるみる明るくなった。他のメンバーも見習うように食べ始め、あっという間に笑顔が広がる。うむ、やはりうまいものを食べると元気が出るもんだ。

 

焚き火を囲みながら食事がひと段落したところで、彼らが噂に聞く〝勇者一行〟だと初めて聞いた。

 

どうやらイオニア山脈の地下道から東側に帰ってきたばかりだったようで、食料も薬も尽きかけていたらしい。どうりで疲弊しているわけだ。とりあえず、ここから北へしばらく行けば最寄りの街があるので、ひとまず火守りをしながら夜が明けるのを待つ方がいいと忠告する。

 

夜になれば活発になる魔族もいるしな。

 

勇者一行から聞く話は愉快で、西側に抜けた先にあるさまざまな魔族の生活を聞くことができた。中でも良かったのがエルフの国だったらしく、そこで焼かれている黒パンはほっぺが落ちるほど美味しかったようだ。

 

痛快な冒険譚をつまみに葡萄酒を飲んで夜を明かす。

 

メンバーのほとんどが疲れ切ったように眠る中、リーダーである勇者は俺に問いかけた。

 

 

「貴方はなぜ、魔族にも分け隔てなくパンを焼くのですか?」

 

 

さっきのオーガーたちとのやり取りを見て思ったことか。そうだな…。

 

 

「うまいパンを食べれば、諍いなんて下らないと笑い飛ばせるから、かな」

 

 

俺の生き方がそれだった。傭兵に拉致られても、大国に睨まれても、魔族に攫われても。俺はパンを焼き続けることで切り抜けてきた。

 

故に、俺の武器は剣でもなんでもなく、パンであるということだけだ。

 

そう答えると、勇者は少し羨ましそうにわらった。

 

 

「貴方のその想い。どうか忘れないでくださいね」

 

 

言われるまでもないさ。歳下なんだからさっさと寝ろと寝床に押しやって、俺は火守りをしながら夜空を見上げた。

 

そうか、エルフの国もパンを焼き続けているんだな。それだけ分かれば、俺が過ごした五年という月日は、何も無駄になんかなってなかったと安心できる。

 

立ち上った火の粉が弾ける。

 

余った葡萄酒を煽って俺は一人、そんなことを思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、人族と友好関係であったエルフ国は、魔族に対する蛮行に反旗を翻し、魔族への参加と、人族が住むフェルデニア大陸東側への侵攻に参加する声明を発表した。

 

 

 

 

 

 

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