Silver Lining ~ BanG Dream Story~   作:おたか丸

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 さて、文化祭編も大詰めです! それではどうぞ!


第9話 1人じゃないよ

 

 文化祭当日。1-Aのカフェは大盛況だ。どんどん人が入ってくるので、俺を含めホール担当の人がうまく捌き、注文を聞き、厨房担当の人たちに伝える。

 

 やまぶきベーカリーのパンは大人気。もうすごい勢いで売れていく。

 

 だが……今ここに山吹さんの姿はない。亘史さんから、朝に千紘さんが貧血で倒れ病院に搬送され、山吹さんは付き添いで行っていると聞いた。

 

 

 純、紗南ちゃん、頼んだよ。

 

 

「あっ! 貴嗣くーん! おつかれ……ってわわっ!」

「おっと……お疲れ香澄。元気なのは良いけど、お皿は大事に扱ってな?」

「えへへっ、ごめんね」

 

 

 危うく落ちそうになった皿と、こけかけた香澄をなんとかキャッチ。えへへっとはにかむ顔が眩しい。実行委員長の香澄が皆を引っ張ってくれているから、俺達は頑張れている。本当に頼りになる。

 

 

「さーや、やっぱり来ないかな……」

「心配なら、メッセージ送るのはどうだ? 便利なものがあるだろ?」

「便利なもの? ……あっ!」

 

 

 俺のジェスチャーで、香澄はポケットに入れてるスマホに気づいたようだ。

 

 

「恐らく千紘さんの症状は軽いはずだ。メッセージなら邪魔にはならないと思う」

「そうだよね! じゃあ、留守電にしよ!」

 

 

 そういって香澄はメッセージを録音し始めた。

 

 カフェが大成功だということ。

 

 やまぶきベーカリーのパンが大人気だということ。

 

 そして……ライブに賭ける自分の想いを。

 

 

「はい! じゃあ次貴嗣くん!」

「ん? 俺?」

「うん! さーやと同じ実行委員だし! それに、多分さーやも貴嗣くんの声、聞きたいと思う!」

 

 

 そういって自分のスマホを差し出す香澄。……ここまでされて何もしないわけにはいかない。

 

 

「おう。サンキュー香澄……じゃあ1分ほど借りるわ」

 

 

 俺は香澄から携帯を受け取り、俺のメッセージ(想い)を携帯に向かって話し始めた。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

『――それでね、男子の衣装も結構かっこよくてね! 特に須賀くんと貴嗣くんはみんなかっこいいって言ってる! さっき貴嗣くんの写真撮ったから、またさーやに送るね!』

 

 

 ふふっ。香澄、すっごい楽しそう。よかった、うちのクラスは大成功みたい。

 

 文化祭はもちろん行きたかった……でも、お母さんがまた倒れちゃったし、純と紗南もいる。私1人のために家族に迷惑をかけるわけにはいかない。

 

 

「(……こんなとき、山城君なら、どうするのかな)」

 

 

 そういえばこの1か月間、山城君がお手伝いに来てくれるようになってから毎日話してたっけ。

 

 ほんとに彼はすごいと思う。経験があるとはいえ、うちの仕事はすぐ覚えたし、いつも来てくれるお客さんともすぐ仲良くなった。

 

 

 そして、彼は何が起こっても焦ることがなかった。たとえトラブルが起こっても、いつでも冷静で、周りをしっかりみて、皆に的確な指示をして対処する。本当に同い年? って思うことばかり。お父さんも驚いてたし。

 

 

 私が元気ないときも、山城君はいつもと変わらない態度で接してくれた。いつもと同じ笑顔で。何も詮索することなく。

 

 

 

 

 

 ――おはよう、山吹さん

 

 ――今日も1日よろしくね

 

 ――んーっ、疲れたね。ちょっと休憩しよう

 

 ――よし、今日の仕事おしまい。山吹さんもお疲れさま

 

 ――山吹さんのおかげで仕事楽しかったよ。今日はありがとう、また明日ね

 

 

 

 

 

 山城君はいつも笑顔で、優しくて。悩んでいる時も、彼と話している時は、なんだか安心した。……多分私は、ずっと彼のことを頼りにしてたんだ。

 

 

 でも、いつも隣にいてくれた彼は、今はいない。文化祭で頑張ってるんだ。それは分かってる。

 

 

 

 それでも……

 

 

「……山城君……」

 

 

 

 それでも……今は隣にいてほしい。せめて、君の声を聞きたい。

 

 

 

 

 

 

 

『――もしもし? 山吹さん?』

 

 

 

 

 

 えっ……? この声……

 

 

『俺だ、山城だ。……まずは、お疲れ様。朝から大変だったと思う。さっき香澄も言ってたけど、カフェは大成功だよ。俺達で考えたシフトもバッチリ。一緒に考えてくれてありがとね』

 

 

 またそう言って……シフト考えたの、ほとんど山城君なのに。

 

 

『今朝のことに加えて、昔のことも思いだして、今すっげー辛いと思うから手短に済ませるね』

 

 

 ……やっぱり、山城君は昔のこと、知ってたんだ。

 

 

『自分のせいで周りの人に迷惑かけちゃったって、自分を責めてるかもしれない。でも俺はそれが悪いとは思わない。そうやって自分以外の人のことを考えられるのは、山吹さんが本当に優しい証拠だから』

 

 

 うん……

 

 

『山吹さんは本当に優しい人。だから、その優しさを少しだけでいい、自分にも向けてあげてほしい。山吹さんが本当にしたいこと、心の声に従うんだ。自分が今何をしたいのかは、もう分かってるはず』

 

 

 うん……っ

 

 

『いままで辛いこととか、不安なことでしんどかったと思う。泣いた時もあったかもしれない。だから今度は笑う番だ。山吹さんがやりたいことをするのが、皆の幸せにつながるんだよ』

 

 

そんなの……できな―― 

 

 

『できないかどうかはやってみなきゃ分からないよ。山吹さんならできる。だって、皆がいるから。1人じゃない』

 

『山吹さんは1人じゃない。香澄や花園さん、牛込さんや市ヶ谷さん、クラスの皆がついてる。自分を信じて、一歩前に踏み出してみようぜ。そんで皆で思いっきり笑おう』

 

『山吹さんならできるって、俺は信じてるよ…………えっ、香澄? ああっ、俺呼ばれてる? わりわり、すぐ行くよ…………ってごめん、だらだら喋っちまった。そろそろ俺も仕事に戻るわ……じゃあまた後でね(・・・・・)

 

 

 

 

 

「貴嗣君の言う通りよ、沙綾。あなたは1人じゃない」

「!! お母さん! 立って大丈夫なの!?」

「ええ。もう大丈夫よ」

 

 

 ……あれ? お母さん、顔色がいい……?

 

 

「沙綾がやりたいことをして、心の底から笑ってくれる。それがお母さんたちの願いよ」

「……本当に、いいのかな……?」

「もちろんよ」

 

 

 

 

 

「それにほら、迎えに来てくれたわよ」

 

 

 

 

 

「あっ! 貴兄ちゃん!!」「お兄ちゃん!」

 

 

 

 

 

「……えっ?」

 

 

 

 

 

「よっ。おまたせ」

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

「えっ、うそ……なんで……?」

「迎えに来たんだよ。ダッシュで」

 

 

 ダ、ダッシュって……が、学校から病院まで来たの……?

 

 

「千紘さん、お体は大丈夫ですか?」

「ええ、もう大丈夫よ。貴嗣君の料理のおかげね。本当にありがとう」

「……料理?」

「俺が料理を作る時は、鉄分を多く摂れるように、メニューを調節してたんだ。貧血予防には鉄分摂取が1番だからね。あとビタミン類も」

 

 

 確かに、山城君が夕食作ってくれる時って、よく魚とか肉を使ってたような……。

 

 

「純と紗南ちゃんもよく頑張ったね。ありがとう」

「うん!!」

「お兄ちゃん、さーな、頑張ったよ……!」

「うん。2人とも本当にありがとうな」

 

 

 そういって2人は山城君の近くに駆け寄る。えっ、どういうこと……?

 

 

「2人にはあるお願いをしてたんだ。もし、千紘さんが貧血で倒れちゃった時に備えてね」

 

 

 山城君に頭を撫でてもらっていた純と紗南が、私の方を向いた。

 

 

「俺はお父さんを呼んだあと、血を頭に送るために、お父さんと一緒にお母さんを横にしてから足を少し高いところにのせる!」

「さーなは服をゆるめて、お母さんの体を締め付けないようにする……!」

 

 

 今朝お母さんが倒れた時、私が取り乱している中、純と紗南は驚くほどテキパキと動いていたのを思い出した。

 

 

「そっか……だから2人ともあんなに動けてたんだね……」

「すげーだろ姉ちゃん! えっと……さいあくをそうていして…………あれ? ねえ貴兄ちゃん、こういうの何て言うんだっけ?」

「しっかり準備するって意味の言葉……う~ん、さーなも思い出せないや……」

「“最悪を想定し最善を尽くす”だよ。難しい言葉なのに、ちゃんと意味覚えてたんだな。2人ともすごいぞー」

 

 

 そっか……山城君は最悪の事態を事前に考えて、いつそれが起こってもいいように先に手を打ってたんだ……。

 

 

 ほんと、すごいや。

 

 

「さあ、山吹さん。香澄達が学校で待ってるよ」

 

 

 山城君はそう言って手を差し出してきた。そして――

 

 

「……うんっ」

 

 

 ――私はその大きな手をつかんだ。

 

 

「ふふっ、いってらっしゃい、2人とも」

「「いってらっしゃい!!」」

 

 

 お母さん、純、紗南……ありがとう。

 

 

「……行ってきます!」

 

 

 

 

 

 

 

 山城君と歩いて5分くらい経った。さっきよりも学校には近づいたけど、まだまだ遠い。

 

 

「全然人いないな」

「多分皆文化祭に行ってるんだと思う。花咲川の文化祭って、この辺りだと大きなイベントだから」

「そっか。高等部だけじゃなくて中等部もあるもんな」

 

 

 今私達がいるのは、商店街の近くだ。いつもの賑やかさが嘘みたいな静けさで、ここにいるのは私と山城君だけだ。

 

 ふと山城君のスマホが震えた。誰かからメッセージが来たみたいで、山城君はスマホを取り出して画面を見た後、低く落ち着いた声で私に話しかけた。

 

 

「……もう有志発表始まったみたいだ」

「えっ……」

「早く戻らないとな」

「でも、ここから学校遠いよ? 走っていけば間に合うかもしれないけど……私あんまり体力無いし、走るのも速くないから……」

 

 

 そんな私と違って、山城君はガッシリしていて、走るのがとても速そうだ。

 

 そう思うと、また不安が襲ってくる。

 

 

「うぅ……どうしよう……また私のせいで……」

「……」

「折角山城君に迎えに来てもらったのに……そのせいで間に合わないんじゃ……」

 

 

 私は無意識の内に、歩みを止めていた。でも山城君はすぐに私の元に来てくれた。

 

 

「山城君……先に行って……」

「どうして?」

 

 

 ジーッと目を見つめられる。でも私は目を逸らしてしまう。

 

 

「だって山城君、有志発表すごく楽しみにしてたでしょ……? 私も後から追いつくからさ……先に行って……」

「……嫌だって言ったら?」

「えっ……」

「俺は山吹さんを置いていったりしない。何があっても、絶対に香澄達のところに連れて行く」

「な、何で……」

「山吹さんがそれを望んでるから。香澄達と一緒にライブに出たいって、山吹さんが思ってるから」

 

 

 真っ直ぐ私を見ながら、山城君はそう言った。

 

 

「……嫌」

「嫌?」

「……嫌……嫌なの……っ!!

 

 

 でもその優しさに甘えるのは……絶対に嫌だった。

 

 

だって山城君、ずっと文化祭楽しみにしてたじゃん!! 出店のポテトとかパンケーキ食べたいなって……お化け屋敷も行きたいなって、いっつも話してくれてた……でも今私のせいで、山城君全然文化祭楽しめてないじゃん!!

 

 

 誰もいない商店街に、私の声が響く。

 

 

「それに準備とかほとんど山城君に任せっきりだったんだよ……? 今まで散々迷惑かけたのに……っ……今もこうやって迎えに来てもらって……っ……だって本当なら山城君、今なら須賀君とか穂乃花と一緒に……有志発表見て楽しんでたんだよ……?」

 

 

 頬に冷たいものが流れていくのが分かる。

 

 目から出て、床に落ちて、そこに雫の跡がつく。

 

 

「私今までずっと山城君に頼りっきり……っ……もうこれ以上……山城君の時間を奪うのなんて嫌なのっ!! 私が得するせいで、誰かが嫌な思いするの、もう絶対に嫌なのっ!!

 

 

 もう止まらなかった。

 

 湧き出てくる感情を、ただ山城君にぶつけていた。

 

 

「だからお願い……先に行って……もう……っ……山城君のやりたいこと……奪いたくないの……」

 

 

 俯いて、声を絞ってそう告げる。

 

 ガサガサと、前から物音が聞こえる。

 

 そう、それでいいの。行って。もう私のために、あなたの時間を――

 

 

「…………えっ?」

 

 

 何かが頬に当たる。柔らかくて、ふんわりしているものが当たる。

 

 

「ありがとな、山吹さん。そんなに俺の事考えてくれてたんだな」

「…………やま……しろくん?」

 

 

 逞しい腕が目に入る。

 

 山城君が持っていたのは、綺麗なハンカチだった。ハンカチで、私の涙を拭いてくれていた。

 

 

「でも、山吹さんは1つ大きな勘違いをしてる」

 

 

 優しい手つきで、私の涙を拭いてくれる。

 

 

「俺は何一つ迷惑だなんて思っていない」

「……えっ?」

「さっき山吹さんが言ったことは事実かもしれない。でもな、俺は今まで迷惑だなって思ったことは一度もない」

 

 

 低くて落ち着いた、優しい声。

 

 

「文化祭の準備、そしてこうやって山吹さんを迎えに来たこと……全部俺がやりたいって思ってやったことなんだ。だから山吹さんが自分を責める必要はない。俺が山吹さんを助けたいって思ったから、今こうやって一緒に文化祭に行こうとしてる」

 

 

 山城君の声がすうっと入ってくる。とても優しくて、心地よくて、胸の痛みが少しずつ収まっていった。

 

 

「……どうして……そこまでするの?」

「山吹さんに笑って欲しいから」

「……えっ?」

「山吹さんが、山吹さんのしたいことをやって、皆と一緒に笑って欲しいから。今まで誰かのことを第一に考えて、辛い思いや悲しい思いをしてきた山吹さんに、楽しんでもらいたいから」

 

 

 涙を拭き終わり、スッと彼の手が離れていく。

 

 

「俺さ、誰かが楽しそうにしてたり、嬉しそうにしてる姿見るのが一番好きなんだ」

「!?」

「俺だけじゃない。香澄達やクラスの皆、純、紗南ちゃん……そして、千紘さんと亘史さん。皆山吹さんが楽しそうにドラムを叩いている姿を見たいんだ」

 

 

 自然と貴嗣君の顔を見る。

 

 優しそうな垂れ目。そして綺麗な銀色の瞳。

 

 純粋な優しさで、私を包んでくれていた。

 

 

「大丈夫。山吹さんは1人じゃないよ」

「……!!」

「山吹さんが心からやりたいことをして、楽しんで、そんな山吹さんを見て皆も嬉しくなる。いっぱい泣いた後はな、同じくらいの幸せが来るって決まってるんだ」

 

 

 また手を差し伸べてくれる。

 

 ああ、君って、本当に優しいんだね。

 

 

「……でも、また誰かが嫌な思いをしたら……」

「俺が助ける」

「……また今みたいに悩んじゃったら……」

「俺が支える」

 

 

 笑顔でそう答えてくれた。

 

 

 

 

『沙綾がやりたいことをして、心の底から笑ってくれる。それがお母さんたちの願いよ』

 

 

「……やりたいことをやって……いいのかな?」

「うん。それが皆の願い……俺の願いだ」

 

 

 やっと気づいた。

 

 皆、私を応援してくれてたんだ。

 

 私が笑って……皆が笑ってくれるなら……。

 

 

「……ありがとう山城君。山城君のおかげで……大事なことに気付けた」

「どういたしまして」

「私……文化祭に行くよ。山城君と一緒に……文化祭に行く」

「うん」

「私……ドラムを叩きたい……!」

「よしきた」

 

 

 優しく笑う山城君。陽だまりみたいな、温かい笑顔だ。

 

 

「んじゃ、行くかー」

「あっ……で、でも今からじゃ……走っても怪しいよ……?」

「ああ、それについては、いい案がある……ちょっと失礼」

「えっ……や、山城君……ひゃあっ!!

 

 

 えっ、なにこれ!? お、お姫様抱っこ!?!?

 

 

「さあ、しっかりつかまっててくれよ」

「え、あ、ちょっと……きゃっ!?

 

 

 

 うそ!? は、速い!?

 

 

 なんで!? なんでこんなに速いの山城君!?

 

 

 

「大丈夫」

「えっ……?」

「絶対に山吹さんを連れて行く」

「……///」

 

 

 ……山城君の体……あったかいな……。

 

 

「(……私のために……///)」

 

 

 山城君……ありがとう……。

 




 ありがとうございました!

 次回は文化祭編ラストです。ついに主人公達が演奏します。彼らの実力や如何に……?

 それでは、次回もよろしくお願いいたします。

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