Silver Lining ~ BanG Dream Story~   作:おたか丸

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 新たにお気に入り登録をしてくださった皆様、そして新たに☆9評価をしてくださった一般庶民ガガガ様、roxz様、せもた様、トワイラ様、本当にありがとうございます!!(感涙)

 おまたせしました。ポピパメンバーのエピソードのラスト、有咲編です。それではどうぞ!


第15話 初めて異性にメッセージを送るときの緊張感は異常

 練習が終わりもう夜。ギターがケースの中の緩衝材と擦れる音が聞こえる。

 

 今日はポピパの練習に参加させてもらった。他の皆は少し前に帰ったのだが、俺はなぜかもう少し練習したくなり、市ヶ谷さんにお願いして今まで部屋を貸してもらった。本当にありがたい。

 

 

 アコギをケースに入れていざ帰ろうと思ったその瞬間、とある雑誌が目に入った。

 

 

「……月間盆栽??」

「? 山城君、どうかした?」

「ああ、いや。この月間盆栽って、市ヶ谷さんの?」

「ああそれ。そうだけど……それがどうかした?」

 

 

 元来俺には好奇心旺盛な部分がある。知らないものや経験したことがないものを見ると、とにかく触れてみたくなる。

 

 

「よかったら、少し読んでもいいかな?」

「えっ……山城君、盆栽興味あんの?」

「うん。実は初めてここに来た時から興味はあったんだ。なんでか分からないんだけど、ここの庭の盆栽が綺麗に見えてさ」

「!? へ、へえ……そうなんだ……トネガワ達のこと綺麗って言ってくれた……

 

 

 一瞬驚いた後、小声で独り言をつぶやき始めた市ヶ谷さん。トネガワとは盆栽の名前だろうか。

 

 

「……な、なあ……」

「?」

「盆栽に興味があるんならさ……もしよかったら、その……色々教えてあげようか?  盆栽について」

「本当に? じゃあ教えてもらってもいいかな」

「……! ああ……! えっと、じゃあ、そこにある一番新しいのを持ってきてくれる?」

 

 

 市ヶ谷さんの顔はみるみるうちに嬉しそうなものに変わった。まるで同じ趣味を持つ同士を見つけたもののようなそれは、映画好きな俺にとっては馴染みのあるものであった。

 

 フカフカのソファに座り、雑誌を一緒に見ながら1つ1つの作品の解説をしてもらう。盆栽の種類から管理に必要な道具、枝の切り方等々……。市ヶ谷さんがとても楽しそうに話してくれるので、こっちも楽しくなってしまう。

 

 

「有咲? そろそろご飯……って、あら、まだお客さんがいたのかい?」

「あっ、ばあちゃん」

「ああ、すみませんおばあ様。……って、もうこんな時間か」

 

 

 話が盛り上がったおかげか、かなりの時間が経っていたようだ。そろそろ帰らないと迷惑だ。

 

 

「確か君は……山城君だったかな? 有咲と仲良くしてくれてありがとうね」

「いえいえ。こちらこそ、いつも市ヶ谷さんにはお世話になってるので。――っと、すみません。そろそろ帰りますね」

 

 

 ソファのクッションの皺をしっかりと元通りにしてから、市ヶ谷さんを見て感謝の気持ちを伝える。

 

 

「今日はありがとう。盆栽の話すっごい面白かった。また教えてね」

「あ、ああ。こちらこそありがとう……。じゃ、じゃあな」

 

 

 結構長い間喋ってしまった。うちで真優貴と母さんが待っている。さっき連絡入れといたから大丈夫だろうけど、あんまり心配はかけたくない。急いで帰ろう。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 夜11時、夕食も食べてお風呂にも入った。あと出来ることがあるなら勉強だろうか。だが明日の分の宿題はとっくの昔に終わらせたし、別に今日の授業の復習とか明日の予習とかをする習慣は私にはない。だから普通ならとっくに寝ている時間だ。

 

 

 だが今日は違った。

 

 

 私は今、高校生活史上最大の問題に直面している……といっても、入学してから数カ月しか経っていないけど。

 

 

 手に持った携帯には「山城貴嗣」の名前、そしてトーク画面だ。ここでやることといえば1つしかないだろう。

 

 

 そう、メッセージ送信だ。普通の事だ。別に見ず知らずの誰かに送るわけじゃない。なんの問題もない。

 

 

 そのはずなのに――

 

 

 

 

 

「(うぅ……ど、どうやって誘えばいいのかわかんねえ……!)」

 

 

 

 

 

 事の発端は今日の昼休憩までさかのぼる。Silver Liningのキーボード担当の高野花蓮ちゃんと一緒に、お昼ご飯を食べていた時のことだ。

 

 

 

『――うんうん。つまり、貴嗣君と仲良くなるにはどうすればいいのか、ってことだよね』

『そ、そうです……』

『うーん、いろいろやり方はあるけど……貴嗣君は盆栽に興味持ってくれてるんだよね?』

『そ、そう! その通り!』

『じゃあ、何か盆栽関連のイベントとかない?』

『イベント……あっ! そういえば、今週末から盆栽フェスティバルがある……!』

『じゃあ決まりだね。有咲ちゃんから貴嗣君を誘って、一緒にそのイベントに行くっていうのが一番現実的だね』

『さ、誘う……!?/// で、でも、もし断られたりしたら……』

『それは大丈夫。貴嗣君の好奇心、舐めたらだめだよ? 絶対一緒に行ってくれるよ』

 

 

 

 という経緯である。

 

 

 そう、誘うだけである。それだけなのに、こんなに文章を考えなければいけないとは予想も出来なかった。ライブに出た時よりも緊張しているとはいかがなものか。

 

 

 だがこのままでは埒が明かない。私はネットで「遊び 誘い方 男子」と検索し、使えそうなものをピックアップした。

 

 

 調べてみると画面一杯に「デート」や「恋愛」といったワードが出てくるのを見て、顔がカアッと熱くなるのを感じる。自分が今からすることは「デート」の誘いに他ならないのだと、嫌でも実感させられる。

 

 

 

 Arisa〈お疲れ様! 市ヶ谷です いきなりごめんね 今週末から盆栽フェスティバルっていうのがあるんだけど、よかったら一緒に行かない?〉

 

 

 

 意を決して送信ボタンを押し、画面に文が表示される。

 

 結局シンプルな文章になってしまい、今までの考えた時間を返せと思ってしまう。

 

 何度も文章を見直してしまう。はあ、どうして知り合いを誘うのにここまで緊張しなければいけないのか、花蓮ちゃんだってああ言ってくれたんだし、大丈夫だ。

 

 

 そう安心した矢先だった。

 

 

「……ああっ! 『夜遅くごめんね』って打つの忘れてた! まずいまずい……! 今からでm……ってわわっ! も、もう既読ついた!?」

 

 

 時すでに遅し。後悔先に立たずとはこのことか。あたしの拙い文は、今彼に読まれてしまった。今頃彼は返信をするためにメッセージを打っているのだろうか。

 

 どんなメッセージが来るのか分からない。断られたらどうしようと思い、目をつむって顔を画面から遠ざけていたが、ピコンと、通知音が鳴った。

 

 恐る恐る見てみると――

 

 

 

山城貴嗣〈お疲れ様! 夜遅くごめんね!〉

    〈そんなのあるんやな! めっちゃ行きたい! いこいこ! 俺今週は日曜空いてるけど、市ヶ谷さんはどう?〉

 

 

 

 

「(よ……よかったあぁ~……!)」

 

 

 ほっと、胸をなでおろす。断られなくてよかったと安堵する一方で、文面だけではあるものの、彼があたしの提案に興味を持ってくれたことが嬉しかった。

 

 

 

 Arisa〈日曜日はあたしも空いてる! イベントは朝の10時からやってるんだけど、何時に集まる?〉

 

 山城貴嗣〈じゃあ11時はどう? 先にお昼どこかで食べて、ゆっくり見て回るっていうのはどう?〉

 

 Arisa〈それいいな! じゃあ、11時にあたしの家に集合でいいかな?〉

 

 山城貴嗣〈オッケーそうしよ! お昼どこに食べに行くかとかの細かいのは、また学校で決めようか!〉

     〈ごめん、話の途中やけどちょい眠たくなってきたから、また明日学校で話そう!おやすみー!〉

 

 Arisa〈わかった! また学校で決めよっか おやすみ!〉

 

 

 

 

 

 ……日曜日、楽しみだなあ……。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 家の前で待つこと15分。腕時計を何度も見直すが、まだ集合時間にはならない。

 

 さっきから自分でも分かるくらいソワソワしている。香澄なんかに見られたらからかわれること間違いなしだろう。絶対に見られたくない。

 

 あたりを見渡して、恐らく日本男子の平均よりも体が大きいであろう彼の姿を探す。待ち合わせが家の前でよかった。人が多くいる所でこんなにキョロキョロしていては、挙動不審に思われてしまう……そもそも私は人が集まる所は好きじゃないが。

 

 

 時計が10時50分になろうとした時に、遠くの方に山城君の姿が見えた。

 

 彼はこちらを見つけた瞬間、小走りで向かってきた。

 

 それと同時に、私の心拍数が一気に上がった。これから彼と2人で出かけるのだと考えると、緊張が半端ではなかった。

 

 

「ごめん市ヶ谷さん! 待たせちゃったかな?」

「う、ううん……! 今家から出てきたばっかりだから、大丈夫……!」

 

 

 白のTシャツの上に青の七分袖のカジュアルシャツを羽織り、黒のスキニーパンツを着ている彼は、普段の制服姿とまた違った雰囲気を纏っている。

 

 清潔さとカジュアルさがいいバランスでマッチしており、青のシャツは彼の真面目で落ち着いている性格をよく表している。

 

 そして一番の違いは髪型だろう。ワックスで髪を上げているのだが、文化祭の時のように、少しオールバック気味である。優しさの中にある力強さ、といえばいいだろうか。普段の彼には無い雰囲気に、少し胸が高なるのが分かる。

 

 

「(全身見られてる……) じゃあ、ちょっと早いけど、お昼食べに行こっか」

「あ、ああ……! うん。わかった」

 

 

 彼の声で現実に引き戻され、私は山城君とイベント会場に向かうことになった。

 

 

 

 

 

「市ヶ谷さん、服似合ってるね」

「なっ!? きゅ、急になんだよ!?」

「思ってること言っただけだよ。黒とか紫とかの落ち着いた色似合うと思うよ」

「べ、別にそんなに褒められても嬉しくなんか……///」

「顔は赤くなってるけどな~」

「う、うるせー!! 赤くなってなんかねーし!!///」

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 昼食にイタリアンをいただいた後、俺達は盆栽フェスティバルなるものの会場に来ていた。

 

 結構会場は大きく、休みの日だからか、予想よりもお客さんの数が多い。俺が知らないだけで、実は盆栽ブームみたいなのが来ていたりするのだろうか。

 

 さて、このイベントは色んな人に盆栽というものに触れてもらうことがメインの目標らしい。実際に有名な職人さんが生み出した作品がいくつか置いてあったりする。市ヶ谷さんによると、普段はまずお目にかかれないくらいのすごい作品らしい。

 

 受付で名前と年齢、携帯番号等の必要事項を書き込み、入場券をもらう。

 

 

「おまたせー。はい、入場券だよ」

「お、おう。ありがと……」

「(やっぱりまだ緊張しとるな)」

 

 

 無理もないだろう。傍から見ればデートだし、それで変に意識しちゃって緊張しているのだろうか? 家の前で集合した時よりも大分マシにはなったが、それでもまだ気を張っているみたいだ。

 

 俺としてもやっぱ楽しんでほしいし、ここらでアクション起こさないとだな。

 

 

「市ヶ谷さん、最初にこの職人さんの作品が展示されてるブース行ってもいいかな?」

「えっ……いいの?」

「もちろん。この前行きたいって言ってたからさ。作品のどこが凄いのか、この前みたいに教えてもらってもいい?」

「あっ……お、おう! いいぞ……! あたしが隅から隅まで解説するよ!」

「あはは。お願いしますね、先生?」

 

 

 よかった。ちょっと緊張ほぐれたみたいだ

 

 少し笑顔になってる市ヶ谷さんを見て一安心。彼女の好きな盆栽の話なら得意だろうし、これなら話題に困らないし、彼女が話の主導権を握れる。市ヶ谷さんが自分の好きな話ができて、俺は面白い話を聞ける。win-winというやつだ。

 

 

 さあ、イベントを楽しもう。

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 会場に入ってからの市ヶ谷さんは、まるで水を得た魚のように活き活きとして、俺に盆栽の話をしてくれた。

 

 

「ふーむ……やっぱり綺麗だな……」

「だよな! やっぱ山城君もそう思う?」

「うん。なんでか分からないけどね。これは……やっぱり綺麗に見える切り方とかあるの?」

「そうなんだよ。人の感性に頼るところもあるけど、美しく見せるための枝の切り方ってのはあるんだ。例えば――」

 

 

 職人さんが手掛けた作品について解説してもらったり

 

 

 

「あっ、これは分かるぞ。小枝切鋏と……さつき鋏だっけ」

「へえ~すごいじゃん! よく知ってるな」

「ちょっと勉強してきたんだ。……あっ、でもこれ知らないや」

「これは幹割っていうんだ。盆栽の幹をこれで割って、曲げてから針金を巻くんだ」

「なるほど……曲げるって発想すげえなあ」

 

 

 展示されている道具について勉強したり

 

 

 

「ぼ、盆栽って平安時代からあるのか……」

「そうそう。でも武士達の趣味として広まったのは鎌倉z……わっ!?」

「おっとと。大丈夫市ヶ谷さん?」

 

 

 ス、スイマセンー!

 

 

「ああいえ、大丈夫ですよ~! 人一杯なんでぶつかりやすいですもんね。……市ヶ谷さん、ケガしてない?」

「へっ……あ、ああ! うん……///(ち、近い……!)」

 

 

 他のお客さんとぶつかってしまいこけそうになった市ヶ谷さんを、正面から受けとめたり(?)

 

 やばいめっちゃ柔らk……ゲフンゲフン!!

 

 

 

「……よし、これで……できた! よし、完成だ!」

「おおっ! なかなかいい感じにできたんじゃね?」

「だね。市ヶ谷さんのおかげだ。教えてくれてありがとう」

「わ、私は……別に大したことしてねえし……///」

 

 

 体験コーナーで市ヶ谷さんや職人さんに教えてもらいながらマイ盆栽にチャレンジしたり。やった、これで部屋に欲しかったインテリア増えた。

 

 

 

 

 

「さあ、そろそろ帰ろっか」

「ああ。そうだな」

 

 

 滅茶苦茶盆栽の知識が増えた一日でした。

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

「はあ~……自分で言うのもなんだけど、やっぱ綺麗だなあ……」

 

 

 隣を歩いている男子はそう言って、さっきのイベントで作った盆栽を眺めている。慈愛に満ちた目……といったら大袈裟かもだけど、それくらい優しい目で盆栽を見ている。

 

 私はそんな彼を見て、この楽しい時間はあとちょっとで終わってしまうのだと思うと、いつものバンド仲間が帰るそれとはまた別の寂しさを感じてしまう。

 

 

 

 最近うちのバンドメンバーは、皆山城君と仲良くなっている。

 

 香澄とおたえなんかは練習中に「会いたいから今から呼ぶ」なんて言い始めるし、りみとは映画の話で盛り上がってるし、沙綾とは……あれ、友達の距離じゃないよな? この前なんて隣に座ったかと思えばもっと近づいて、沙綾から肩くっつけてたし……。

 

 

「(……私も仲良くなりたいと思い始めたのは、丁度同じ時期だっけか……)」

 

 

 真面目で礼儀正しいし、そして何より常識がある。沙綾とりみはまだしも、香澄とおたえを同時に相手して、涼しい顔をしてられるのは彼だけだと思う。

 

 

 でもどうやったら仲良くなれるのかが、私には分からなかった。元々人と話すのが得意じゃないし、何よりも、素直に自分の気持ちを伝えるのが苦手だ。

 

 

 褒められても、感謝されても、素直に「ありがとう」って言えない。そんな私が、彼と仲良くなれるのかが分からなかった。

 

 

 でも違った。

 

 

「(……今日は楽しかったな……)」

 

 

 山城君本人には恥ずかしくて言えないけど、今日は本当に楽しかった。

 

 正直最初は緊張しまくってたし、一緒にご飯を食べてる時なんか味なんて分からなかった。その緊張がほぐれてきたのは、イベント会場に入ってからだろうか。

 

 決して地味な趣味だ、女の子らしくないとは言わず、全て笑顔で楽しそうに話を聞いてくれた。

 

 私が説明すると決まって「ありがとう」と言ってきた。恥ずかしくなって素直な返事をしなかったことがほとんどだけど、それでも嫌な顔1つせず頷いてくれた。

 

 

「(……そりゃあ色んな人から好かれるわけだ)」

 

 

 多分山城君が皆から慕われる理由って、相手の全てを受け入れて、認めるところなんだと思う。良いも悪いも含め、その人のすべてを受け入れる。同い年とは思えないほどの心の広さだ。

 

 

「そうだ、市ヶ谷さんってインス〇やってる?」

「えっ? ああ、一応やってるけど」

「市ヶ谷さんのアカウント、フォローしてもいいかな?」

「ああ。もちろん」

 

 

 携帯でアプリを開き、アカウントを彼に見せる。

 

 

「えーと、あったあった、“Arisa”っと」

「!?」

「ん? どうかした?」

「い、いきなり名前で呼ぶなよ……!? 恥ずかしいだろ!?」

「ああ、いや、アカウントの名前読んだだけなんだけど」

「っ!? う、うるせー!! び、びっくりするだろ……///

 

 

 ぐっ……冷静に反応されるの、なんか悔しい……!

 

 ああもう! なんかあたしだけ騒いでるみたいじゃんかよ!

 

 

「市ヶ谷さんは名前で呼ばれるの嫌?」

「は、はあ? べ、別に嫌ってわけじゃない、けど……

 

 

 絞り出したようなか細い声だったけど、彼にはバッチリ聞こえていたみたいだった。前から思ってたけど……山城君って耳良すぎじゃないか……? 

 

 

「じゃあこれから名前で呼んでもいい?」

「えっ!? い、いやっ!  そ、それは……ダメだ……!」

 

 

 ほら、またこうやって、思っていることと逆の反応をしてしまう。

 

 やってしまったと思っても、時すでに遅しだ。

 

 

「そっか~……。折角ポピパの皆と仲良くなれると思ったけど、市ヶ谷さんが嫌ならしょうがないか」

「ううっ……」

 

 

 卑怯な言い方だ。

 

 確かに他のメンバーとはお互い名前で呼び合っている。あたしだけ苗字で呼ばれるのは……なんか、嫌だ。

 

 

……んでいい

「え?」

「だから……な、名前で呼んでいいって言ってんの!! 仕方なくだからな! 仕方なく!

「……ふふっ。うん。分かった。ありがとうな、有咲」

「!?!?///」

 

 

 ほら、またこうやって笑顔で感謝してくる。

 

 ……こんなの、卑怯だ。

 

 

「ほら、もう家に着いたよ」

「……あっ」

 

 

 緊張しすぎて周りが見えていなかったみたいだ。気が付かない内に、私は家の前まで来ていた。

 

 

「じゃあ俺はこの辺で。今日は誘ってくれてありがとう」

「う、うん……こ、こちらこそ……///」

 

 

 その挨拶は、楽しかった時間が終わってしまうことを意味していた。

 

 

「あ、あのさ……山城君……」

「ん?」

「き、今日は……その……一緒に来てくれて……ありがと……///

 

 

 精一杯の力を出して、言葉を絞り出す。自分でも嫌になるくらい小さな声だったが、それでも彼は私の声を拾ってくれた。

 

 

「ああ。有咲と一緒に行けて、楽しかったよ」

「~~!!/// そ、そんな恥ずかしいこと……い、言うなよ……///」

「顔ニヤけてるぞ?」

「っ!? ニ、ニヤけてねー!!///」

 

 

 ああ、だから違うって。

 今私が言いたい言葉はそれじゃない。

 

 また一緒に遊びに行きたいって、彼に言わなきゃ。

 言わなきゃ、何にも伝わらない。

 

 

「(……うぅ……で、でも恥ずかしくて言えねえ……)」

「(……ふむ)」

 

 

 1人でモジモジ考えてたせいで、山城君がこちらをジーッと見つめて何かを考えていることに、私は気付かなかった。

 

 

「有咲」

「は、はいっ……!」

「またこういう機会があればさ、一緒に遊びに行かないか?」

「……!!」

 

 

 後から思ったんだけど、あの時の山城君は、多分私の気持ちを見抜いていたんだと思う。私が素直にお願いできないから、わざわざ彼の方から、また遊びたいって言ってくれたんだ。

 

 

「大丈夫。有咲の言葉で言ってくれたらいいよ」

「……っ!!」

 

 

 そう言う彼の顔はとても優しそうで。

 

 そのおかげで、私はスッと言葉を出すことができた。

 

 

「し、仕方ねえな……や、山城君が行きたいって言うんなら……い、一緒に行ってやらんでも……ない……///」

 

 

 今の言葉、私からすれば、素直さ半分、ツンツン半分くらい。

 

 でも、私にしては頑張った。

 

 その頑張ったご褒美なのか、彼は嬉しそうに答えてくれた。

 

 

「――ああ、ありがと」

 

 

 そう言った後、そろそろお邪魔するわと言ってから、彼はまた歩き始めた。

 

 

「じゃあまた学校でなー」

 

 

 その大きな背中に向かって、私は気づいたら彼の名前を呼んでいた。

 

 

「やま…………た、貴嗣……!!

「?」

「……また、今日みたいに……盆栽の話……聞いてくれないか……?///」

「――ああ。もちろん。また教えてくれ」

 

 

 素直じゃない私を受け入れてくれる、真面目で優しい男の子を見送って、私の楽しい1日は終わりを迎えた。

 





 有咲のお話でした。

 有咲って人気が高いキャラだと個人的には感じているので、結構気合入れて書いたつもりです……有咲推しの読者様、どうでしたでしょうか?(突然の投げかけ)

 次の更新なのですが、土曜日(3/13)になる予定です……申し訳ありません。それまでに更新できる場合は更新致します

 読んでいただきありがとうございました。それではまた次回もよろしくお願いします。

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