Silver Lining ~ BanG Dream Story~ 作:おたか丸
さて、Afterglow編のメインストーリーは、今回を含めあと2話です。その後はポピパ編同様、メンバーとの個別エピソードを描いて参ります。
今回のタイトルは、馴染みのある「朝顔」の英名。小学生の時に育てた方々も多いのではないでしょうか?
それではどうぞ!
いつもの家。いつもの玄関。いつもの庭。
毎日見ているはずなのに、今日はまるで難攻不落の城のように見える。緊張しているからか、怖いからか、はたまた両方か。それは、今から向き合う相手に対するあたしの感情だろうか。
あたしはその相手――父さんに、今から向き合わなきゃいけない。
この前モカが言っていたように、あたしは今まで逃げてきた。ただ反抗したいだけで、なんの意味もない言葉を父さんにぶつけていた。そんなことをしても何も変わらないと、心のどこかで分かっていたのに。
だから、今度こそあたしは、父さんと向き合う。バンドを続けたいっていう想いを、父さんに伝える。
あたしには、私を支えてくれる友達がいる。どんなことがあっても、皆はあたしに手を差し出してくれた。だから今度は1人じゃない。あたしにはAfterglowの皆がいる。
真正面から向き合うんだ。今のあたしなら大丈夫。
大丈夫だって、皆が言ってくれたから。
君なら出来るって、彼が信じてくれたから。
「……じゃあ、行ってくる」
また皆で同じ夕日を見るために、あたしは一歩前に踏み出した。
◇◆◇◆
道路に夕日が描くは4人の影。コツ、コツと革靴が地面にあたる音が心地よい。子ども達は既に家に帰ったのだろう、住宅街には俺達以外の人影は見当たらない。
「貴嗣君、アフグロの皆と一緒に行かなかったんだね。ちょっと意外」
「意外?」
「うん。貴嗣君なら、皆と一緒に蘭ちゃんを送り出すくらいするかなって思って」
「あーね。それも考えたけど止めといた。よそのバンドのことにあんまり干渉しすぎるのも、どうかなって思ってさ」
「なるほどね」
自分でも十分干渉しすぎだろと思うし、何たって今回は家庭の事情という極めてデリケートな問題だ。よその家の問題に口出しするのはいかがなものかという道徳的な問題もあるし、何より外部からアドバイスや手助けをしても、それによって問題が解決するわけではない。本人たちが勇気を出して立ち向かわなければならない。
「ひまりちゃんから『蘭がお父さんと話に行くことにしたんだって!』って連絡来た時はさすが貴嗣! って感じだったけどね。それにしても、一体どんな優しい言葉をかけたのかなぁ?」
「口説いたのかもしれんぞぉ~」
「ちゃうちゃう、ちょっとアドバイスしただけだよ」
穂乃花と大河のからかいを流しつつ、2人が期待してるようなことは起こってないぞと伝えると、2人とも口を揃えてチェーッっと不満の声を漏らす。
「でも、ちょっと心配だからこうやって皆で美竹さんの家に向かってるんだよね」
「心配だからっているのもあるし、それ以上に皆が安心した顔が見たくてね。Afterglowの皆は大きな問題に向き合ってる。皆今日まで喧嘩したり泣いたりしたんだ、そろそろ笑ってもいい頃だろ?」
「うんうん! てことは、上手くいくって信じてるってことだよね?」
「もちろん。俺はAfterglowの皆を信じてる。皆もだろ?」
「おうよ! 友達の事は、信じるのが当たり前だからな!」
隣を歩いている大河が爽やかな笑顔でそう答える。
俺達は皆の笑顔が見たくて、今日ここまで来ている。つまり穂乃花の言う通り、蘭の説得が上手くいくことが前提だ。
まだ成功すると決まったわけじゃないのに、俺達はその気でいる。ある意味捕らぬ狸の皮算用とも言えるが、そんなものは関係ない。俺達はAfterglowの皆を信じるって決めたんだ。一度決めたからには、貫き通す。
「……おっ、貴嗣。あそこ」
「……ああ。上手くいったみたいだな」
歩みを止める俺達。
大河の視線の先には、泣いている美竹さんに彼女を抱きしめている巴、笑顔でそれを見守っているひまりちゃんにつぐみちゃん、そしてモカの姿が。
彼女達は大きな一歩を踏み出せたようだ。そんな蘭達を、夕日が優しく照らしていた。
「よかったー! これでバッチリだね!」
「うん。貴嗣君、皆に声掛けにいく?」
「……やめとこう。目的は達成したし。それにあそこに入っていくのは少々無粋だ」
「だな。じゃあ俺達は帰りますかね」
また彼女達(恐らくひまりちゃん)からメッセージが来るだろうし、俺達が練習を見に行くときにいくらでも話はできる。どれだけ調子が良くなるか、次の練習が楽しみだ。
笑い合っている彼女達の姿を見て、俺達も笑顔になる。今の彼女達なら今回のイベントは大丈夫だろうと確信し、俺達はその場を後にした。
◇◆◇◆
時は過ぎイベント当日。
会場には続々とお客さんが来ている。俺達スタッフは渋滞が起こらないように指示を出し、彼らを誘導している最中だ。
とにかく人の数が凄まじい。かれこれ30分以上立ちっぱなしで誘導しており、やっと人の流れが落ち着いてきたという感じである。
『スタッフの皆さんは一旦本部までお集まりください』
トランシーバーからの声がそう告げる。会場入り口の本部に行くと、俺達4人はこれから出演するバンドの人達の誘導を手伝うように指示された。他のスタッフさんと一緒に、1つの部屋につき1人ずつ配属された。
自分が担当する楽屋に入ると、個性豊かなガールズバンドの皆さんが目に入った。会場の方もすごかったがこっちの人数も相当なものだ。見渡してみると、本番に向けて楽器のメンテナンスや最終確認をしているバンドもあれば、雑談を読んでリラックスしているところも見られる。
「(まだ結構時間あるな……外の空気も吸いたいし、ちょっと外に出るか)」
一旦会場のエントランスに戻り時計をチェックする。まだ開演まで時間がある。さて、どうしたものか。一応休憩時間ではあるが、何もしないのは少しもったいない気がする。
「すみません。少しよろしいでしょうか?」
突然声を掛けられた。見てみると、今時では珍しい(?)、和服を着た大柄の男性が立っていた。手には可愛らしい袋と、これまた和服に似合う綺麗な花を持っている。
恐らく10人が見れば10人とも「ちょっと怖そう」と答えるであろう厳つい顔、掛けている眼鏡から覗く、厳しそうではあるが愛情を感じる目、少なくとも175cm以上(俺よりデカい)のガッシリとした体格。
「(……体デカくね?)」
柔道の有段者と言われても疑いを持たないであろうその男性を見て、俺は一瞬その迫力に圧倒されたが、すぐにその雑念を振り払って男性に答える。
「はい。どうかしましたか?」
「このお菓子と花を差し入れに持ってきたのですが、これを“Afterglow”の“美竹蘭”に渡してもらえませんか?」
そういって袋を差し出してきた。
これは……有名なドーナツ屋さんのドーナツだ。結構高いものだけど、これを差し入れとは……すごい。
「Afterglowの美竹蘭さんですね。かしこまりました。私が責任を持って渡しておきます」
「はい。ご丁寧にありがとうございます」
2人そろって深いお辞儀。
渡された花を見る。色とりどりの美しい花を間近で見て、これを生けた人の気持ちが伝わってきて――
「――優しい」
――そう無意識に呟いてしまった。俺の反応が予想外だったのか、その男性は少し目を見開いた。
「……優しい?」
「はい。色もそうですが、この花の位置関係が……真ん中の赤い花を、周りの花が支えているような……絆みたいなものを感じます。多分これを生けた人は、赤い花を自分の大切な人に、周りの花をその人の友達に見立てたのかなって……」
その美しい花に見とれてしまい、俺はこの男性の視線に気付かなかった。
「(驚いた……なんという感受性だ……)」
「……っ! し、失礼しました。一人で適当なことを話してしまいました……。それでは今からお渡ししてきます」
「ありがとうございます。それではよろしくお願いいたします」
また同時に礼をして、男性は会場に、俺は楽屋に向かった。
*
「失礼します。美竹様はいらっしゃいますか?」
「はい。あたしです……って、山城君か」
「あー貴さんだ~。やっほ~」
「やっほ~。……ごほん。失礼しました。美竹さん、中年の男性から差し入れにと、これを預かりました」
かごに入った花を渡すと、美竹さんは顔を赤くした。
「……ッ……父さん……///」
「あはは! 蘭、これは頑張らないとだめだな!」
「……ほんとハズい……///」
顔を真っ赤にして抗議の声を上げる美竹さん。最近は彼女の辛そうな顔を見ていることが多かったからか、今恥ずかしそうにしながらどこか嬉しそうな美竹さんは、とても可愛らしく見える。
それはともかく、楽屋の中を見渡すと、奥の方に緊張で怯えている女の子が1人。つぐみちゃんだ。
「あっ! 貴嗣君だ!」
「おつかれ~ひまりちゃん。……つぐみちゃんは緊張してるか」
「……た、貴嗣君……」
「さっきから大丈夫って言ってるんだけど、ずっとこの調子なんだ」
「ごめんね……ひまりちゃん……」
Afterglowの皆は始めて見たあの日と比べて、明らかに上達している。俺達が伝えた各々の注意するべきポイントも、ほとんど問題がないくらいに改善されている。もう心配はいらないだろう。
だがそれで自信がつくかどうかは個人の問題。つぐみちゃんのように緊張する気持ちも分かる。でもやっぱり個人的には、怖がらずに楽しく演奏してほしい。
緊張をほぐすためには……そうだなぁ……やっぱ笑わせるのが一番だろうか。
「今からモノマネしまーす」
「「「!?」」」
いきなりこいつは何を言い始めたんだ、と言わんばかりの目で5人の視線が集中する。
いいだろう、緊張をほぐすためだ。俺の渾身のモノマネをとくと味わうがいい。
「ピッカッチ〇ウッッ!!」(激似)
「「「……ぷっ……ははっ……アハハハハハ!」」」
よし、なんとか皆笑ってくれた。
見よ、この光景を。今までガチガチに緊張していたつぐみちゃん含め、皆が腹を抱えてわたっているではないか。
「ま、待って……ははっ……! ちょっと今の……ふふっ……似すぎ……あははっ!」
「モノマネ大会はバンドの皆でやってるからねー。それよりもどう? 緊張ほぐれた?」
「ははっ……えっと……あ、あれ? ほんとだ……何だか楽になった……!」
「た、貴嗣君……すごい……!」
実は今まで披露する機会が無かっただけで、バンドの練習の休憩時間や帰り道で、俺達4人はモノマネ大会をしているのだ。もちろんただ面白いからやっているだけだが……まさかこんな形で役に立つとは思っていなかった。
「よし、これで大丈夫。つぐみちゃんならできるって信じてるよ」
「……! うん! 貴嗣君、ありがとう!」
天使のような満面の笑みを見せてくれるつぐみちゃん。頑張り屋で優しくて笑顔が天使とか、もう非の打ち所がないのでは?
「(つぐいいなー……。私も貴嗣君に励ましてもらいたいなあ……)」
「ひまりちゃんはどう? もう大丈夫?」
「へっ!? う、うん! 元から大丈夫だよ!」
「……とか言って結構緊張してたでしょ? 顔に出てたよ?」
「はうっ……はい……そうです……」
「あはは、ごめんごめん。……ピ〇カピーカー(小声)」
「アッハッハッハ! 不意打ちは卑怯だって……!」
これからはモノマネの特技の1つにするのもありかもしれない。
「そうそう。やっぱひまりちゃんは笑ってないと」
「……えっ?」
「ひまりちゃんには、今みたいな明るい笑顔が一番。その明るい気持ちがあれば、今日のベースも大丈夫だよ」
「……!?!?///」
「どう? いけそう?」
「……う、うん!!/// やったー!! 貴嗣君に褒められたー!!」
溢れ出る喜びを表すように楽屋内をビュンビュン動き回るひまりちゃんと、それを温かい目で見守る皆。
そんなひまりちゃん達を見て温かい気持ちになっていると、また無線が入った。開演時間になったので、バンドの誘導を随時始めて欲しいとのことだ。
一番最初は花蓮が担当している部屋だ。俺を含め、誘導の際はスタッフ全員が廊下や会場にでてバンドを誘導する必要がある。丁度花蓮から手伝ってほしいと連絡が来た。
「了解。そっちに行く。――それじゃあ皆、順番になったら俺が誘導するから、それまではそこのディスプレイでライブを見ていてくれ」
*
そしてイベントは順調に進み、次がAfterglowの番というところまで来た。
俺は彼女達をステージ裏まで誘導する。正面からは見えないが、すごい迫力を感じることができる。
「皆頑張ってきてな。俺達も応援してるよ」
「おう! アタシ達の演奏、しっかり見といてくれよ!」
「モカちゃんのテクニックで皆をビックリさせちゃうよ~」
「うん! 私達ならできるよね!」
「その通り! ね? 蘭」
「うん。今のあたし達なら、出来る」
皆の自信に満ち溢れた目を見て一安心だ。これまでの練習の成果を全力でぶつけることができるだろう。
タイミングを見計らったかのように無線が入った。
『山城さん。Afterglowの誘導をお願いします』
『了解しました。今から誘導を開始します』
スタッフさんにそう答えてから、皆の方を向く。
「さあ皆。俺についてきて」
「「「はい!」」」
*
そしてステージ裏。音響機器等の設定が終わったら、いよいよ出番だ。
「山城君」
「ん? 美竹さん? どうした?」
美竹さんに呼ばれたので、彼女の元に向かう。
「……あたしにお父さんと向き合う力をくれてありがとう。山城君が背中を押してくれたから、今あたしはAfterglowの皆とここにいる」
「どういたしまして。でも、勇気を出して自分と向き合うって決めたのは美竹さん自身だよ。だから自信を持って。絶対大丈夫」
「うん。……なんか、山城君にそう言われると、不思議と安心するね」
「ふふっ。そっか。そりゃあ良かった」
『こちら音響です。準備完了しました。ステージ裏、準備どうですか?』
『こちらステージ裏です。こちらも準備完了しました』
『了解です。それでは開始します』
『了解しました』
「それではAfterglowの皆さんはステージに上がってください。――皆、いってらっしゃい」
「「「「いってきます!!」」」」
「山城君……いってくるね」
「おう。いってらっしゃい」
固い絆で繋がった幼馴染5人を、会場の熱気溢れる歓声が迎え入れた。
読んでいただき、ありがとうございました。
朝顔の花言葉は「固い絆」、「結束」。白や青、紫の花びらが特徴的な朝顔は、赤や黒がメインカラーのAfterglowとはイマイチ繋がりにくいかなーとも考えたのですが、その花言葉はまさしく彼女達に相応しいのではないかと思い、タイトルに選ばせて頂きました。
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