Silver Lining ~ BanG Dream Story~   作:おたか丸

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 皆様大変お待たせ致しました。書き直しをした34話を投稿させていただきます。

 修正を加えた結果、一部の展開が大きく変更、字数が約9600字と膨大な量となってしまいました。なので読みづらいかもしれません……。

 それではよろしくお願いいたします。


第34話 芸能界という世界

 

 

 

 

 商店街から歩いて10分程で、駅の近くにある大きな芸能事務所が見えてきた。ここが俺の妹である真優貴やPastel*Palettesが所属している、総合芸能事務所だ。

 

 その大きな建物の前に着いてから、真優貴にL〇NEで「今着いたで~」と連絡する。すると1分もしない内に、手に入社許可書を持って真優貴が来てくれた。

 

 

「皆急に呼び出したりしてごめんね……!」

「良いってことよ。今日はゲーセンで遊ぶだけだったし、大丈夫だよ。んで、その許可書を首から掛けとけばいいのか?」

「うん。面倒だろうけど、一応規則だからお願いするね」

 

 

 真優貴から許可書を受け取った後、5人でビルに入る。ロビーで受付を済ませた後、すぐ奥にあるエレベーターへと向かった。綺麗なエレベーターの扉は、ここが巨大な施設であることを示しているみたいだった。

 

 

「いっつも思ってたけど、このビルほんとデカいよな。確か色んな施設が中にあるんだよな?」

 

 

 エレベーターを待っていると、大河が話し始めた。

 

 

「うん。アイドルの部署だけじゃなくて、私みたいな俳優、女優の部署もあるし、抱えている人数も多いからね。あとはそうだな……大河君が興味ありそうなのだったら、3階にジムがあるよ」

「ジム!? すっげぇ……これが大手ってやつか……。ちなみに今から行く芸能事務所って何階なんだ?」

「それは――」

「16階だ」

 

 

 真優貴が答える前に、自然と口が動いていた。

 

 

「……えっ?」

「芸能事務所は16階だ」

 

 

 大河達は目を丸くして驚いている。

 

 当たり前だろう。一般人である俺が、こんなことを知っているなんて普通なら考えられないからだ。

 

 

「どうした大河? そんなに目を丸くして」

「い、いや……どうして事務所の階……知ってたんだ?」

「ああ……」

 

 

 俺は目の前のエレベーターの扉を見つめながら、呟くように答えた。

 

 

「……ここに来るのは初めてじゃないからな」

「「「……えっ?」」」

 

 

 自分でも声が低くなっているのが分かる。多分皆も、俺の様子が少し違うと感じているはずだ。

 

 

 近いうちに……皆にも話さなきゃいけないかもしれないな。

 

 

「(お兄ちゃん……)」

「――来たな」

 

 

 チンという音と共に、大きなエレベーターが1階に来た。

 

 

「さあ、皆行こう」

「あ、ああ……」

 

 

 少し低い声で皆にそう言ってから、俺達はエレベーターに乗った。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 エレベーターで16階まで行き、俺達はPastel*Palettesが所属する事務所に来た。芸能事務所らしく、廊下では慌ただしく人が行き来している。

 

 真優貴が受付の人と話をした後、俺達は会議室のような部屋に誘導された。しばらくしてから、色んな資料を持ったスタッフさんが部屋に入って来た。

 

 

「皆様初めまして。本日はご来社、誠にありがとうございます」

「こちらこそお招きいただき、ありがとうございます。それで、お話というのは?」

「はい。先日Pastel*Palettesの演奏に対するアドバイスの件なのですが――」

 

 

 リーダーである俺が主体となって、スタッフさんと話を進める。この人も疲れが溜まっているのだろう、よく見ると、目の下にクマが出来ている。

 

 

「――皆様のご意見をコーチの方に見ていただいたところ、非常に驚いておられました。『着眼点が鋭く、的確。アドバイスや練習法も事細かに説明されていて、あの子達が出来るだけ練習しやすいような工夫と気遣いが感じられる』と」

「ありがとうございます。第一線で活躍されている講師の方からそのようなお言葉を頂けるとは、身に余る光栄に存じます」

 

 

 話の内容というのは、この前皆で送ったアドバイスがとても良かったというものだった。

 

 俺達は送られた動画を何度も見直して、4人で色んな意見を出し合った。改善点だけでなくそのための練習法などもかなりビッシリと書いたものを送ったのだが、スタッフさんやコーチの方はその全部に目を通していたみたいだった。

 

 

 そして前置きでここまで俺達のことを褒めてくれるということは――

 

 

「――ということで、皆様にはレッスンコーチの方が来られない日に、臨時コーチとしてPastel*Palettesの練習を見ていただきたいのです」

 

 

 ――こういう流れに持って来るためだよな。

 

 

「「「……えっ!?」」」

 

 

 スタッフさんの発言に穂乃花と大河、そして花蓮は思わず驚きの声を上げた。

 

 

「もちろん、それ相応の報酬を用意させていただきます。練習施設や機材も、全てこちらで用意させていただきます。……どうでしょうか?」

「い、いやいや待ってくださいよ……! あの、俺達ただのアマチュアバンドっすよ……? ライブっていっても春の文化祭で1回演奏しただけだし、結成して2、3カ月しか経っていない高校生の遊びのバンドにコーチって……絶対他の人に頼んだ方が良くないっすか?」

 

 

 隣に座っていた大河が、スタッフさんにそう話す。

 

 大河の言う通りだ。プロで活躍しているとかならまだしも、俺達はそんな偉いものじゃない、数あるアマチュア高校生バンドの1つでしかない。活動と言ったって、花咲川の文化祭で1回、しかもたった2曲演奏しただけだ。

 

 

「自分も同意見です。別に臨時コーチがやりたくない訳ではないですが、それなら自分達みたいなアマチュアバンドではなく、経験と実績のある他のコーチの方を呼んだ方が良いはずです」

「……ええ。仰る通りです。ですが……」

「……何か理由があるんですね」

「……はい」

 

 

 俺の問いかけに、スタッフさんは苦い表情を見せた。

 

 

「お2人が仰った通り、最初は他のコーチの方に依頼をしました。数名の方にご連絡をしたのですが……全て断られてしまったのです」

「ぜ、全部ですか……? スケジュールが合わなかったからですか?」

「……違うんです。原因は……私達なんです」

「私達……?」

 

 

 スタッフさんは花蓮の質問に答えた後、さらに顔を歪ませた。そして暫しの沈黙の後、スタッフさんは「ハア……」と1つため息をついてから口を開いた。

 

 

「そもそもPastel*Palettesの皆さんに口パク及びアテフリを指示したのは……私達スタッフなんです」

「「「!?」」」

 

 

 スタッフさんの口から出てきた、今回の騒動の真実。ある程度予想はしていたものの……やはりあれは裏方からの指示だったようだ。

 

 

「今回の炎上事件で……私達は自身の無能さを、この芸能界でさらけ出すことになりました。予想できたはずのミスを犯したことで、自身が抱えているアイドルの名前に泥を塗った……」

 

 

 スタッフさんは俯きながらそう話す。その姿は、どこか自分達がした行いを悔いているようにも見えた。

 

 

「……今私達の事務所の信頼は地に落ちています。そんな私達に、手を貸してくれる人はいないのです……」

「仮に事務所からの依頼を受けてコーチをやろうものなら……自分にも火の粉が降りかかる。だからコーチの依頼をしても、断られたのですね」

「……その通りです」

 

 

 ネット上では、パスパレのメンバーについての誹謗中傷が多く書かれている。だがその裏側である芸能界では違う。芸能関係者は、今回の指示は事務所側の意向だと分かっているはずだ。

 

 別にこれで成功していたのなら問題はない(指示には問題大アリだが)のだが、現実は違う。思いっきり口パクアテフリがバレてしまった。

 

 言い方は悪いが……そんな“無能”とは組みたくないというのが、本音としてはあるのだろう。自分もその無能さのせいで不利益を被るかもしれないし、「あんな無能事務所に協力するなんて、お前も同じレベルなのか」という、ある種の風評被害を受ける可能性だってある。

 

 信頼がゼロになってしまった者に対して、「可哀想だから手を貸してあげよう」と言って助けようとしてくれるお人好しは……この厳しい芸能界では極めて希少な存在だ。

 

 

「だけどアマチュアバンドなら、そんな心配は必要ない。例え芸能関係者から悪い印象を持たれても、自分達は一般人――住んでいる世界が違うから、そんなものは関係ない」

「ね、ねえ貴嗣……それってつまり……なんか良いように利用されてるってことなんじゃ……?」

「そうとも捉えられるな。それにさっきからどうも疑問なのが、アマチュアバンドに依頼するとしても、どうして俺達なんですか? 1回ライブしただけですよ?」

「それには理由があります。皆様は今SNS上で多くの注目を集めている。主にインス〇グラムで、多くの練習風景や演奏動画を投稿していますよね? それらの動画で皆様の演奏技術を見て……一般の方々のみならず、音楽業界の関係者も注目しているのです」

「えっ!? マジっすか!?」

「はい。そして今パスパレの練習を見ていただいているコーチの方……この方は元々この事務所専属のベテランの方なのですが……その方があなた達の動画を見て、その演奏技術に非常に高い評価をしておられるのです。――『このバンドはすごい。この子達にならコーチを任せても良い』と」

「……なるほど」

 

 

 つまり『大なり小なり音楽業界から注目されている』+『ベテランコーチの方が推薦した』=『相応の実力がある』という理由で、こうやって俺達に依頼しているということか。

 

 

「そう言っていただけるとありがたいです。ですがそれでも、高校生のアマチュアバンドにコーチを依頼するのは、あまりにもリスキーとは思いますが……」

「……今回の騒動は全て私達が原因です。私達があのような指示をしなければ、このような事態にはなりませんでした……」

 

 

 スタッフさんの懺悔を、俺達は黙って聞く。

 

 

「元々あのライブが成功していれば……アテフリを続ける方針でいました」

「えっ……それって……ずっと見てくれるお客さんを騙し続けるつもりだったってことですか……?」

「……ちょっとそれは流石にひどくないっすか? お客さんを裏切ってるのと同じだし、それに今まで努力してきた彩さんを――」

「2人とも」

「「っ!?」」

 

 

 ヒートアップしそうだった穂乃花と大河に、少し大きめの声を掛ける。

 

 

「2人の言いたいことは分かる。でもここは芸能界――俺達の住んでいる世界とは違う、物凄く厳しい世界なんだ」

「お、おいおい貴嗣……それって、貴嗣はアテフリの案に賛成だってことか……?」

「そういう訳じゃない。見てくれている人を騙し続けるなんて言語道断、仮に上手く行っても、人を騙し続けたらどこかでボロが出る。だから俺はこの案に賛同はしていないし、寧ろ反対だ。でもな……この芸能界ってのは甘い世界じゃないんだ。それは分かるだろ?」

「「……」」

 

 

 俺がそう言うと、2人は黙ってしまった。差し詰め俺の言っていることは理解できるけど、賛成できないというところだろうか。

 

 

「元々演奏をしない方針で行くと伝えておいて、炎上したから今度は練習をするように指示をする……理不尽な指示だとは分かっています。ですがこれも私達なりに、パスパレの皆さんのことを考えての指示だということは、伝えておきたいのです。現状ではこうすることでしか……パスパレの皆さんを守れないのです……」

 

 

 スタッフさんの言葉からは、強い苦しみが伝わって来た。

 

 確かにスタッフさん達が元から「実際に演奏しましょう」と指示しておけば、こんなことにはならなかったかもしれない。パスパレの皆さんの名前に泥が塗られることはなかっただろうし……彩さんの初舞台は、素晴らしいものになっていたはずだ。

 

 でもそれは「たられば」の話、IFの話だ。大きな失敗をしてしまい、ファンからの信頼を失ってしまった今、するべきことは、今できることに最善を尽くすことだ。

 

 それをスタッフさん達も理解しているんだろう。確かに間違いを犯したが、スタッフさん達はそれを受け入れているようにも感じる。

 

 

「都合の良いことを言っているのは承知の上です……ですが私達はもう1度、何とかPastel*Palettesをステージに立たせたい……だからお願いです……! 臨時コーチの件、引き受けてもらえないでしょうか……?」

 

 

 

 別にスタッフさん達を擁護する訳ではないが……この言葉を聞いた時、俺はスタッフさんのパスパレを守りたいという気持ちが嘘偽りないものだと感じた。

 

 自分達がどれだけの助けになれるのか分からない。もしかしたら全く助けになれないかもしれない。

 

 でも自分達が出来ることで、Pastel*Palettesの再出発の手助けがほんの少しでも出来るのなら……俺はしなければいけないと思った。

 

 

「……」

 

 

 皆の顔を見る。当たり前ではあるが、この依頼を引き受けるかどうか、悩んでいる様子だった。一旦4人で考える時間が必要だ。

 

 

「――スタッフさんの想いは伝わりました。臨時コーチの件なのですが、メンバー同士で話し合う時間が欲しいので、後日ご連絡させていただくということでもよろしいでしょうか?」

「はい。それでは、こちらの携帯番号にご連絡を――」

 

 

 こうして連絡先やその他の説明を受けてから、俺達は部屋を後にした。

 

 

 

 

 


 

 

 

 部屋を出た俺達を、真優貴が出迎えてくれた。これから雑誌の撮影の仕事ということで、丁度事務所を出るタイミングが重なったみたいだった。

 

 一緒にエレベーターで1階まで下りて、ロビーで俺達は真優貴と別れることに。

 

 

「皆お疲れ様。来てくれて本当にありがとうね。……お兄ちゃんも……ありがと」

「気にすんな。真優貴の頼みは断れへんからな」

「そ、そういう意味じゃなくて……その……」

「はいはい。言いたいことは分かってるから、そんな心配そうな顔せんとき。これから雑誌の撮影やろ? そんな顔やったらスタッフの人達困らせちゃうぞ? ……ほれ、ムニュムニュ~」

「ちょ、ちょっとくすぐったいってお兄ちゃ~ん!」

 

 

 両手で真優貴の頬をムニュムニュとマッサージすると、真優貴はくすぐったそうに笑った。

 

 

「ははっ! ほーら、その笑顔でお仕事頑張っておいで。また炒飯作っといてあげるから」

「……わかった。ありがと、お兄ちゃん。……じゃあ、ハイタッチ」

「おう。ハイタッチ」

 

 

 俺達は軽くハイタッチをする。真優貴がデビューしたころから続けている、「頑張ってね」と「頑張って来るね」のおまじないだ。

 

 そうしていると、外から真優貴のマネージャーさんが迎えに来てくれた。これから真優貴は車に乗せてもらって、撮影場所に向かう。

 

 

「真優貴ー! お仕事頑張ってね!」

「うん! ありがと穂乃花ちゃん! じゃあまた学校でね!」

 

 

 元気よく答えた真優貴を見送ってから、俺達も事務所を出た。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 芸能事務所を訪れてから数日後の放課後。俺達は涼しい私服に着替えた後、4人で駅から歩いていた。

 

 結論から言うと、俺達は臨時コーチの依頼を引き受けた。話し合いの時間が欲しいとは言ったものの、実のところ、あの時既に皆の心は決まっていた。Pastel*Palettesの人達のために何かできることがあるのなら、やらない選択肢なんて俺達には無かった。

 

 

 事務所に到着しロビーで受付をした後、エレベーターで16階に向かう。

 

 

「今日が顔合わせかー。芸能人と顔合わせって、なんか緊張するな」

「イヴちゃんは毎日学校で会ってるからあれだけど、他の人は会ったことないもんね」

「彩さんもファストフード店で何回か会ったことあるから、そんなに緊張しなくていいかも」

 

 

 皆の雑談をBGM代わりにしていると、すぐに16階についた。

 

 事務所の人に挨拶をしてから、レッスンルームへと向かう。もうすでにパスパレの人達は部屋に入っているそうだ。

 

 廊下を進み、ついにレッスンルームの前まで来た。この中にPastel*Palettesの皆さんが……あの日以来全く会っていない彩さんがいる。

 

 

「……貴嗣君」

「ん?」

「……手、ちょっと震えてるよ」

 

 

 花蓮に言われたことで、ドアのノックしようとしている自分の腕が少しだけ震えていることに気づいた。

 

 

 ああ……どうやらこの部屋には……まだ苦手意識があるらしい。

 

 

「……大丈夫?」

「……ああ。全然大丈夫だ」

 

 

 皆に心配をかけてはいけない。俺は笑顔を作って花蓮に応える。お前なら大丈夫だって、自分に言い聞かせる。

 

 

「――よし。じゃあ行くか」

「「「おう!(うん!)」」」

 

 

 コンコンとドアをノックすると、「はーい!」という元気な声が聞こえ、ドアが開かれた。

 

 

「……えっ?」

「お久しぶりです、彩さん」

「……貴嗣……君……?」

 

 

 ドアを開けてくれたのは、ピンクの髪をツインテールにして、動きやすそうな服装に着替えている彩さんだった。

 

 

「……えっ……ど、どうして……?」

「Silver Lining、Pastel*Palettesの臨時コーチとして芸能事務所に馳せ参じました」

「り、臨時コーチ……?」

「あれ? 聞いてないですか?」

「あーっ!」

 

 

 彩さんが困惑していると、奥から見覚えのある子がダッシュでこちらに来た。妖精のように美しい銀髪とスカイブルーの瞳が綺麗な、同じクラスのモデルさんの若宮 イヴちゃんだった。

 

 

「皆さん! 来てくれたんですね!」

「こんにちは、イヴちゃん。助太刀に来たよ」

「ありがとございます! タカツグさん達がいれば百人力ですっ!」

「「「(な、なんて美しい笑顔なのだ……!!)」」」

 

 

 純粋極まりない笑顔を見せてくれるイヴちゃん。そんな彼女の笑顔に、俺達4人の心は浄化されそうになった。

 

 ちなみに今ドアから覗いている彩さんの顔の上に、イヴちゃんの頭が乗っかっている形である。団子2姉妹の出来上がりだ。

 

 

「ねえねえ! もしかしたら、あなた達があたし達の臨時コーチ?」

「そうですよヒナさん! Silver Liningの皆さんです! すっごく演奏が上手な人達なんです!」

「へえー! 確かに皆からこう……ビビビッ! って来るよ~! あたしは氷川日菜! よろしくねー!」

 

 

 ……ん? 氷川(・・)

 

 

「(この顔立ち……氷川紗夜さんのご家族……?)」

「んー? どうかしたー?」

「いいえ、何でもないです。これからよろしくお願いします、氷川さん」

「日菜でいいよー! あたしも皆の事名前で呼ぶし!」

「わかりました。……ではよろしくお願いしますね、日菜さん」

 

 

 見た目が氷川紗夜さんと瓜二つ……ということは、俺と真優貴と同じく双子か。双子にしては性格が全然違うように見えるが……気にし過ぎか。

 

 

「ふ~ん……」

「ん? どうかしましたか?」

「……なんだか君、すっごく良い感じ! るんっ♪ って来た!」

「……るん?」

 

 

 イヴちゃんの頭の上に顎を載せ、キラキラとした目で俺を見て来る日菜さん。

 

 るんっ♪ とは……心の琴線に触れるという感覚だろうか? さっきのビビビッ! といい、日菜さんは感覚的に物事を捉える人なのかもしれない。

 

 ところで今俺の目の前には、彩さん、イヴちゃん、そして日菜さんの頭が3つ団子のように積み重なっている。まさしく団子3姉妹。

 

 

「あ、あのー……」

「マヤさん? どうかしました?」

「お話が楽しいのは分かるんですけど、まずは皆さん部屋に入りませんか? ドアの前で話は迷惑になりますし、それに……彩さんの首が心配です……」

「「……あっ!」」

 

 

 部屋の奥の方にいる、眼鏡をかけた人がそう言った。その言葉通り、彩さんは今3姉妹の一番下の位置、つまり2人分の頭の重さを支えていることになる。

 

 

「……ま、麻弥ちゃんの言う通り……そ、そろそろ首が限界……かな……」

 

 

 ちなみに頭の重さは体重の約10%らしい。仮に2人の体重を40kgとしたら頭は約4kg。つまり彩さんは首一本で約8kgを支えているということになる……。

 

 

「アハハ! 彩ちゃんすっごいプルプルしてるー! おもしろーい!」

「何も言わずにただ私達を支えてくれていた……つまりアヤさんは『縁の下の力持ち』ですね!」

「……早くどいてあげたほうがいいんじゃないですか……?」

 

 

 生まれたての小鹿のように震えている彩さんを見て、俺はそう言うことしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 沢山の撮影用カメラが並んでいる、ファッション雑誌の撮影スタジオ。スタッフさん達が用意してくれた衣服を着て、大きな白いスクリーンの前に立ってポーズを取るという作業は、私にとってはもう慣れた仕事。

 

 撮影が始まってから約1時間。近々発売される雑誌の表紙になる写真撮影がついさっき終わり、今私は温かい紅茶を飲みながら休憩をしていた。スタッフさん達がスタジオを出入りしている光景から、正面に座っている私の後輩――栗色の髪が綺麗な少女に視線を移した。

 

 

「……真優貴ちゃん?」

「……へっ? ち、千聖さん?」

「なんだか最近疲れてそうだけれど、大丈夫?」

「は、はいっ、もちろんです! ……他の人から心配されるようじゃ、私もまだまだですね~なんて」

 

 

 真優貴ちゃんはどこか疲れた様子でそう言った。

 

 この子とは今まで、ドラマ、モデル、舞台……数えきれないほどの仕事を一緒にこなしてきた。

 

 私達はお互いのことを良く知っている。だからこの子が何か隠していることはすぐに分かった。

 

 

「真優貴ちゃん? 私はあなたとずっと一緒にお仕事をしてきたのよ? 向上心があるのは素晴らしいことだけど、そうやって隠してもダメよ?」

「あ、あははー……スミマセン……」

「私でよければ、話くらいなら聞くわ」

「……」

 

 

 申し訳なさそうにしながらも、真優貴ちゃんは観念して話を始めた。

 

 

「……今日からPastel*Palettesの臨時コーチとして来ているSilver Liningっていうバンドを、千聖さんは知ってますか?」

「ええ、もちろん。SNSで今注目を集めている凄腕バンド。聞いた話によると、音楽業界の人達も彼らに関心を寄せているみたいね。……あっ、もしかしたら……真優貴ちゃんのお兄さん?」

「……はい」

 

 

 この子が大のお兄ちゃんっ子なのは昔から。事あるごとにお兄さんの話を聞かされてきた。

 

 けれどそれが嫌というわけではなく、真優貴ちゃんが楽しそうにお兄さんについて話してくれる姿は、見ていてとても微笑ましかった。

 

 

「……その……私がお兄ちゃんを呼んでおいてこんなことを言うのは厚かましいんですけど……お兄ちゃんに臨時コーチを依頼したの、間違いだったのかもって思って……」

「……どういうこと?」

 

 

 両手に持ったカップに入っている温かいお茶を見つめながら、真優貴ちゃんは落ち込んだ表情を見せる。

 

 

「お兄ちゃん……多分無理して私達の事務所に来てるんです。あの場所はお兄ちゃんにとって……良い思い出のある場所じゃないから……」

「……何か嫌な思い出があるってこと?」

 

 

 私の問いかけに、真優貴ちゃんはコクリと頷いた。その内容について聞こうと思ったけれど……悲しそうにしている真優貴ちゃんを見て、今は聞くべきではないと感じた。

 

 

「お兄ちゃんは……優しすぎるんです。今日も我慢して、彩さん達のお手伝いをしているんだと思います……」

「……」

「……あ、あははー! ご、ごめんなさい千聖さん。ちょっと湿っぽい話しちゃいました」

「大丈夫よ。……お兄さんは、いい人なのね」

「……! はい! ちょっといい人すぎて心配になりますけどね~なんて!」

 

 

 空元気に振舞う真優貴ちゃん。相変わらず凄い演技力だ。

 

 

「千聖さん、1つお願いしてもいいですか?」

「ええ。構わないわ。どんなお願い?」

「もし機会があれば、お兄ちゃんと話してみて欲しいんです。お兄ちゃん、人と話すのが凄く好きなので。千聖さんと話して、少しでも楽しい気持ちになってくれたらいいなーって思うんです」

「分かったわ。真優貴ちゃんのお願いだもの。断る理由はないわ」

「わあ~……! ありがとうございます、千聖さん!」

 

 

 私がそう言うと、真優貴ちゃんはやっと笑顔を見せてくれた。

 

 

「お兄ちゃん、すっごい話上手だから、千聖さんも楽しめると思いますよ~?」

「あらあら。じゃあ期待しておこうかしら?」

「はい! もう期待しまくっちゃってください!♪」

 

 

 真優貴ちゃんの笑顔につられて私も一緒に笑う。

 

 

 今のは冗談のような返しだったが、実のところ真優貴ちゃんのお兄さん――山城貴嗣君には興味が湧いていた。

 

 

 うちの事務所に嫌な思い出があるというのも気になる。しかしそれ以上に、そんなに辛い思いをしているのなら、どうしてそこまでしてPastel*Palettesに手を貸そうとしてくれているのか?

 

 

 話を聞いている限りだと、彼はある種聖人じみた人のようだ。けれどそんな人は、それこそドラマや映画の中の存在――現実の世界ではそんな“良い人”なんてそうそういないし、仮にいたとしても……その優しさには裏があるかもしれない。

 

 

 それに何より、彼がPastel*Palettesに関わってくるということは、私のキャリアにも関係してくるということ。大なり小なり私の名前に影響を与えることになる彼について詳しく知っておくことは、必須事項だ。

 

 

「(彼が一体どういう目的でPastel*Palettesに手を貸すのか……確かめる必要があるわね)」

 

 

 山城貴嗣君……今度話してみましょうか。

 




 
 読んでいただき、ありがとうございました。

 如何でしたでしょうか? 編集の際、あーでもないこーでもないと試行錯誤を重ねて修正を加えていったので、投稿に時間がかかってしまいました。今回の展開でのご意見やご質問等があれば、感想やメッセージ等でご連絡いただけると幸いです。

 パスパレのメインストーリーに関しましては、現時点で全話構想は出来ているので、あとは書いていくだけです。次回は頑張って今週中に更新するので、よろしくお願いいたします。

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