Silver Lining ~ BanG Dream Story~   作:おたか丸

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 新しくお気に入り登録をしてくださった皆様、本当にありがとうございます。

 大変お待たせいたしました。更新が遅くなってしまい、申し訳ありません。今回の内容が個人的にはすごく難しかったので、編集にかなりの時間を費やしてしまいました。

 題名は「現実主義者と理想主義者」という意味の英題をとらせていただきました。リアリストとアイディアリストということで、ある2人の対話がメインの回でございます。

 それではどうぞ!


第35話 A Realist and An Idealist

 

 

 

 Pastel*Palettesとの顔合わせから数日経った。

 

 テレビやYout〇be等で誰もが1度は見たことがあるであろう、芸能事務所のレッスン部屋。自分の姿を見るための大きなガラスの壁が設置されているこの部屋に、俺達は今日もパスパレの臨時コーチとして来ていた。

 

 

「それでは今日もよろしくお願いします」

「「「お願いします!」」」

 

 

 彩さん達は元気よく俺の挨拶に答えてくれる。担当楽器が同じ者同士でペアを組み、今日も練習が始まった。

 

 

「カレンさん! 今日もよろしくお願いします!」

「うん。じゃあこの前の続き……に入る前に、まずはいつも通り私と一緒に、フレーズ練習で運指のトレーニングをしようか」

「分かりました! 何事も日進月歩! 積み重ねが大切ですね!」

 

 

 キーボード担当の若宮イヴちゃん。俺達A組のクラスメイト。花蓮の指導もあって、少しずつではあるが確実にキーボードの演奏技術は上達してきていた。その純粋無垢な性格と無邪気な笑顔に、俺達はいつも癒されている。

 

 日本の文化が大好きらしく、頻繁に「ブシドー!」と叫ぶ。気分が高まると自然とブシドーするらしい(本人談。ブシドーするとは……?)。

 

 その影響でよく四字熟語やことわざを用いる……が、使い方がイマイチ合っていないこともある(今の日進月歩は合っているが)。だがそこもまた微笑ましい。

 

 

 

 

 

「麻弥さんってスタジオミュージシャンなんですねー! だからこんなに演奏がお上手ということですか……」

「い、いやいや! そんなことないですよ! ジブンから見たら、穂乃花さんのプレイングからは学ぶことしかないです」

「ほんとですか!?」

「はい。穂乃花さん、力のコントロールがとてもお上手なんです。激しい曲でも音が大きすぎず、でも小さくもない……そのコントロールテクニックを教えていただきたいです!」

「そ、そんな褒めすぎですよ~! プロの人に教えられることってないかもですが……麻弥さんのサポート頑張ります!」

 

 

 穂乃花と話しているのは、ドラム担当の大和麻弥さん。Pastel*Palettesのメンバーの中では唯一の経験者、それもスタジオミュージシャンだ。

 

 ドラムは叩いているフリが難しいという理由で、臨時のドラマーとして呼ばれたそうだが、そのビジュアルを見込まれ、正式にメンバーとなった。スタジオミュージシャンとして活躍してきただけあって、演奏技術は頭一つ抜けている。

 

 

 

 

 

「貴嗣君? 麻弥ちゃんの方見つめて……どうかした?」

「……ああ、すみません彩さん。何でもないですよ。……じゃあ今日も超不慣れなボイスレッスンを始めますか」

「どうしてそんなに自信なさげに言うの? 貴嗣君の教え方、すっごく丁寧で分かりやすいから、本当に助かってるよ! だから自信持って!」

「……そう言ってくれると嬉しいです。ありがとうございます。……それじゃあこの前と一緒で、俺がピアノでメロディーとるので、それに合わせて歌ってみましょうか」

「うん!」

 

 

 俺がコーチとして担当するのは、ボーカルの彩さんだ。

 

 声の高さが全然違う上に、俺は歌い方を教えるという経験があまりない。彩さんの助けになれるか不安でしかないが、彩さんはいつもこうやって俺を励ましてくれる。

 

 長い研究生次第を過ごしてきた彩さんだが、客観的に見て、ダンスや歌が得意とは言い難いというのが正直なところ。研修生時代でいた期間を考慮すると、平均的なレベルよりも劣っているようにさえ感じる(悪口のつもりは一切ない)。

 

 だがそのひたすらに努力する姿勢のおかげで上達してきているのも事実。実際に以前では音を外していた部分も、少しずつ上達してきている。確実に一歩一歩進んでいく、努力家の鑑のような人だ。

 

 

 そしてそんな彩さんを180度クルっと回転させた人が――

 

 

 

 

「おお~! 大河君ってギターも弾けるんだねー! しかも上手!」

「ありがとうございます日菜さん……って言いたいところなんですけど……」

「んー? どうかしたー?」

「……日菜さんってほんと天才っていうか何と言うか。日菜さんの演奏、基本の部分を全く練習していないからすっごい荒削りなんですけど、音としてはしっかり成り立ってるんですよねー。……基礎練とか絶対してないでしょ?」

「うーん、言われてみればそうかも。でもそんなのしなくてもあたし弾けるし、いいかなーって思ってさ」

「つまり基本と応用が逆転してるってことっすね……」

「でも基礎練ってやったことないから、むしろやってみたいかな! だから教えてよ!」

「了解っす(数Ⅰしてないのに数Ⅲできるってのと同じだよなこれ……意味不明すぎるだろ……)」

 

 

 パスパレのギター担当、氷川日菜さんだ。

 

 俺が彩さんとの練習に専念できるように、わざわざ大河が「俺ギターも弾けるし面倒見るわ」と進言してくれたのだ。

 

 大河も割と感覚が鋭い部分があり、演奏に関しては才能がある。ベースもそうだが、ギターの腕前も中々のものだ(お母さんに教えてもらったらしい)。

 

 だがそんな素質ある大河でさえも、この日菜さんを前にしては困惑する他なかった。あまりにも才能がありすぎるのだ。

 

 一度見たものはすぐに覚える、演奏を見たら弾けるようになるその能力は、多くのギタリストが求めるものだろう。その特徴は瞬間記憶能力――カメラアイという能力を思い出させる。サヴァン症候群とも言えるだろうか(savant=賢人を意味するフランス語)。

 

 ぶっちゃけ演奏に関して何ら問題は無いだろう。だがそれでおしまいかといえばそうではない。

 

 まだ日菜さんと関わって1週間程しか経っていないので、100%この人を理解しているわけではないが……日菜さんは他人の気持ちに共感することが非常に苦手みたいだ。その歯に衣着せぬ物言いに、彩さん達が顔をしかめることもしばしば。

 

 だがこれは俺の主観なのだが、日菜さんの言葉には、一切の悪意が感じられない。相手を傷つけるためにズバッと言うのではなく、思ったことをそのまま口に出している印象がある。非常に個性的な人、といったところか。

 

 

 

 

 

「(……あとはベース……なんだけどなぁ……)」

 

 

 心の中でそう呟く。

 

 パスパレのベースを担当しているのは、女優の白鷺千聖さん。真優貴の憧れの先輩で、彼女が子役時代から何度もお仕事を一緒にさせてもらっている人だ。

 

 俺は白鷺さんに会ったことは無いので、あの人がどういう人物なのか分からない。だがパスパレの練習が始まってから、白鷺さんは一回も練習に参加していないということが、個人的には気がかりだった。自主練はしているらしいが。

 

 白鷺の元には、仕事の依頼が多く来る。その忙しさ故に練習に参加できない(・・・・)というのが理由らしい。だがそれを考慮したとしても、俺は白鷺さんが1回も練習に来ないことに違和感を覚えていた。

 

 

 元子役、そして現役女優。真優貴と並んで「現代における若手女優2トップ」と評される白鷺さん。だがその名声は、この間の事件で大きく傷つけられることになった。

 

 

 ここぞとばかりに浴びせられた誹謗中傷。パスパレの中で1番キャリアが長いということもあり、それに嫉妬する者たちから、白鷺千聖の名前は今回の事件で集中砲火を浴びた。

 

 

 これまでの長いキャリアがあったからこその名前。それが今や価値を失いかけている。

 

 

 このままでは自分のキャリアが危ない――そう考えた時、取るべき行動はある程度限られてくる。

 

 

「(自分へのダメージを最小限に抑える、最も合理的な方法……)」

 

 

 脱退(・・)――頭の中でそう公式を立てる。

 

 白鷺さんが脱退するつもりだと仮定すると、現在のあの人の行動は筋が通る。続ける気が無いのなら、練習なんてしなくてもいいのだから。

 

 

「(……ちょっと考えすぎか。白鷺さんに会ってもないのに、なんて失礼なことを……)」

 

 

 そう自分を戒めた後、俺は今できることに集中しようと、パスパレの練習に意識を戻した。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 90分の練習時間が終わり、休憩時間となった。俺はレッスンルームを後にして、1人で見晴らしが良いテラスに来ていた。

 

 16階から見る景色はとても綺麗だ。今は夕方の6時前なのでまだ明るいが、ここから見る夜景はきっと素晴らしいものだろう。

 

 

「(……ずっと見てたいもんやな)」

 

 

 外の空気を吸ってくると言って、俺はさっきレッスンルームを出てきた

 

 

「(……まさかこんな形であの部屋に戻って来るとはなぁ)」

 

 

 もう二度とあの部屋に来ることなんてないと思っていた。けれどこれもご縁というものなのか、高校生になった今、こうしてあの場所に戻って来た。

 

 

「(……綺麗な空やな)」

 

 

 テラスの大きな背もたれに背中を預け、空を見上げる。雲一つないパステルブルーの空を見ていると、モヤモヤとした疲れが少しずつ薄れていって、なんだか心が軽くなっていくような気がした。

 

 

 

 真優貴からの依頼でパスパレの演奏動画を見て、

 

 その次は事務所に呼ばれ、事の真相や裏側を教えられて、

 

 今はこうして実際にアイドルバンドに演奏を教えている。

 

 

 

 空をボーっと眺めていると、そんなことが頭の中に思い浮かぶ。こうやって最近身に起こったことを客観的に見つめてみると、なんともまぁ非日常的というか何というか。自分がすごい状況に身を置いていることに、今更ながら驚いてしまった。

 

 

 そうやってリラックスしていたからだろう。俺はこちらに近づいてくる足音に気付かなかった。

 

 

 

 

「――ごめんなさい。少しいいかしら?」

「……ん?」

 

 

 どこかで聞いたことのある声だった。

 

 首を戻して前を向くと、1人の女性が立っていた。絹のような美しい髪、アメジストのような紫の瞳、整った顔に気品ある雰囲気。この人が誰なのかは一瞬で分かった。

 

 

 

 

 

「……白鷺……千聖さん……?」

「ええ。初めまして、山城君。白鷺千聖です」

 

 

 ニコリと笑って会釈するのは、女優の白鷺千聖さんだった。

 

 

「こうやって会うのは初めてね。真優貴ちゃんからあなたの話は聞いています」

「そうでしたか……真優貴の兄の山城貴嗣です。いつも妹がお世話になっております。真優貴を支えてくださって、本当にありがとうございます」

「あら、ご丁寧にありがとう。……ふふっ。真優貴ちゃんの言う通り、とても礼儀正しいのね」

 

 

 並みの男なら一瞬で惚れさせてしまうほど美しい、白鷺さんの笑み。しかし俺はというと、この場に白鷺さんが現れたことへの驚きで頭が一杯だった。

 

 

「ありがとうございます。……えっと……俺に何か用ですか?」

「あら、そうだったわ。山城君、少しお時間あるかしら?」

「はい……あと20分程休憩なので、大丈夫ですよ」

「それならよかったわ。じゃあ――」

 

 

 そして白鷺さんは笑顔のままこう言った。

 

 

 

 

 

「――私とお茶なんていかがかしら?」

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

「はい、どうぞ。アールグレイで良かったかしら?」

「はい。わざわざありがとうございます」

「いいのよ。私が誘ったのだし、これくらいはさせて欲しいわ」

 

 

 テラスにある2人用のテーブル席に、私達は座る。

 

 紅茶の定番の1つであるアールグレイが入ったティーカップを、山城君の前に置く。彼は「いただきます」と言ってから、綺麗な動作で紅茶を飲んだ。

 

 

「それで、お話というのは?」

 

 

 カップをお皿に置いてから、彼は私にそう話しかけた。

 

 

「ええ。あなた達が私達Pastel*Palettesの臨時コーチを引き受けてくれている――そのことについて、聞きたいことがあるの」

「聞きたいこと?」

「そうよ。……単刀直入に聞くけれど、どうしてあなた達は臨時コーチを引き受けたの?」

 

 

 私がそう聞くと、彼は少し目を見開いた。予想外の質問に驚いているみたいだった。

 

 

「あなた達が私達の演奏を見てくれることはありがたいのよ? でもどうして引き受けてくれたのかが少し気になったの。練習を見るということは、あなた達の時間を奪うことにもなるし、それに……」

「それに?」

「私達はあのライブで、見に来てくれていた人達を騙したわ。そんな私達に手を貸してくれるのには、何か理由があるのではと思ったの」

 

 

 たまたま仕事と仕事の間に立ち寄った事務所。ふとテラスのほうを見ると、まさしく彼がいた。

 

 彼がPastel*Palettesに関わってくる以上、私のキャリアにも影響を与えてくるはず。お金を貰うためか、名前を売るためか、それともアイドルと関係を持ちたいからか――どんな理由であれ、彼の真意をここで明らかにする必要がある。

 

 彼は窓の外に視線を移してから、口を開いた。でも彼の口から出た言葉は、私にとっては予想外のものだった。

 

 

 

 

 

 

 

「助けたいって思ったからです」

「……えっ?」

「彩さんを……助けたいって思ったからです」

 

 

 暫しの沈黙を破ったのは、彼の低く落ち着いた声だった。

 

 

「俺は彩さんの今までの努力を見てきたわけじゃないですが……あの人が頑張っていることは知っていました。彩さんは3年もの間、結果が得られなくてもただひたすらに努力し続けてきました」

 

 

 ティーカップに入ったアールグレイを見つめながら、彼は話を続ける。

 

 

「もちろんここは芸能界……厳しい世界だってことはある程度理解しているつもりです。だから今回のアテフリに関しても、賛成はしませんが理解はできます。あの指示を出したのも、恐らく新人アイドルである彩さんをデビューさせたかったからだと思うんです」

「でもそのせいで、彩ちゃんは今苦労しているのよ?」

「はい。結果的には、色んな物事が悪い方向に向かってしまったのかもしれません。でも……」

「?」

「そんなに厳しい状況でも、彩さんはいつも頑張っています。努力を積み重ねれば必ず夢は叶う――そう信じて頑張っています」

 

 

 疲れが感じられる彼の声は、徐々に悲しそうな声色に変わっていった。 

 

 

「初ライブで問題が起こる、ネットでは毎日のように誹謗中傷のコメントが書きこまれる……絶対に辛いはずなのに、それでも彩さんはまだ頑張っているんです。……なんかもう、あそこまで頑張ってる姿見たら、じっとしてられなかったんです」

 

 

 顔を上げて、彼は私を見つめる。どこか寂しそうな笑顔だった。

 

 

「頑張ったから報われるほど、現実は甘くない。それは理解しています。でもやっぱり……俺嫌なんです……努力が報われない姿を見るのって」

「……」

「綺麗事だって分かってます。こんな甘い考え、この芸能界では通用しないって。でも……自分ができることで、今必死に頑張っている人の助けができるのなら……絶対にするべきだって思ったんです」

「それがPastel*Palettesの臨時コーチを引き受けた理由ということ?」

「そうです」

 

 

 その銀色の瞳で、彼は真っ直ぐ私を見つめる。

 

 

「あなたの意志は伝わったわ。彩ちゃんの努力が報われて欲しいから、Pastel*Palettesに手を貸しているということね」

「はい。そういう認識で構いません」

「そう。……真優貴ちゃんの言っていた通り、あなたは優しいのね」

 

 

 優しいのは良いことだと思う。優しい人が嫌いだなんて、あまりいないだろう。

 

 

 でも――

 

 

「優しいけれど……甘いわね」

 

 

 ――甘い。彼は甘い。

 

 

「山城君が言っていることは理解できるわ。あなたが芸能界という世界の厳しさを全く無視しているわけでもないということも分かっている」

 

 

 彼の言う通り、努力が報われないのは、確かに見ていて楽しいものじゃない。でも現実は違う。

 

 

「努力は必ず報われるわけじゃない。努力をしていれば夢が叶うわけでもないわ」

 

 

 冷たく言い放つ。情のない言葉を、彼にぶつける。

 

 彼は私の言葉を受けて、また紅茶を一口飲む。そしてカップを置いてから、ゆっくりと口を開いた。

 

 

「白鷺さんの言う通りです」

 

 

 次に彼の口から出てきた言葉は、意外なものだった。

 

 

「努力していればいつか報われるとは思っていません」

 

 

 彼は臆することなく、私にそう言った。今までの彼からは出てきそうもない言葉に、少しばかり驚いてしまった。

 

 

「……えらく冷たいのね。あなたこそ『努力すれば夢は叶う』って言いそうなのに」

「……まあそう言いたいんですけど」

 

 

 彼はそう言いながら、ここから見える町の景色に視線を移した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は努力しても夢叶いませんでしたから」

「……えっ?」

「努力したけど……ここ(・・)では夢叶いませんでしたから」

 

 

 とても悲しい声だった。

 

 

「俺と真優貴は幼い頃から仲良しで、何をやるのも一緒(・・・・・・・・)でした。真優貴が『女優さんになりたい。オーディション受けたい』って言い始めたのも、丁度それくらいの頃でした。……こう言えば分かりますか?」

「……っ……山城君……あなたもしかして……」

 

 

 ……そういうことだったのね。

 

 

 この間真優貴ちゃんが心配そうにしていたのも……「我慢してここに来てる」という言葉の意味も……今分かった。

 

 

 ……あなたの努力は昔この場所で……。

 

 

「だからあなたは……彩ちゃんをそこまでして助けようとするのね」

「……もちろん彩さんだけのためじゃないです。イヴちゃんに日菜さん、大和さんに白鷺さん――皆さんがPastel*Palettesとして心から楽しんで活動してほしいから、俺は親友達と一緒にここにいるんです」

「……努力が報われるわけではないと思っているのに?」

「はい。努力が必ず報われるわけではないです」

「ならどうして――」

 

 

 

 

 

 

 

「――でも絶対に無駄にはなりません」

「……っ!」

 

 

 そういう彼の声からは先程とは違い、強い意志が感じられた。

 

 

「例え現実に打ち砕かれても、夢に向かってした努力は、絶対に無駄にはなりません。俺はそう信じています。……過酷な芸能界で生き残るために、誰にも見せない努力を何年も重ねてきた白鷺さんなら、分かるんじゃないですか?」

「……私は常に最も正解に近い選択をしてきただけよ」

「その選択ができたのは、白鷺さんが今まで努力を続けてきたからでは?」

「……」

 

 

 私は答えられなかった。

 

 言い返そうとしたけれど、どう考えても言葉だ出てこなかった。

 

 

「……ん? スマホが鳴ってる……おっと……」

 

 

 彼はポケットからスマホを取り出して、メッセージを見た。どうやら彩ちゃん達が彼を呼んでいるみたいだった。

 

 

「すみません白鷺さん。そろそろ休憩時間が終わりなので……ここで失礼させていただきます。今日は話してくれてありがとうございました」

「ええ。……こちらこそありがとう」

 

 

 彼は立ち上がると、私のティーカップも持ってテラスを後にしようとして……出入口の所で止まった。

 

 

「白鷺さん」

「……何かしら?」

「さっきはあんなこと言いましたけど……俺は白鷺さんの考えを否定するつもりは一切ないです。『努力が必ず報われるわけじゃない』っていう白鷺さんの考え、俺は正しいと思います」

「……ええ」

「それでも……それでもやっぱり、俺は『努力』というものを前向きに捉えたいです。例え夢が叶わなくたって、そこまでの道で得られた経験は絶対に無駄にならないし、その経験は思いもよらない形で、素敵な世界を見せてくれる……俺はそう信じています」

「……この場所でその『努力』に打ちのめされたのに?」

「そうです」

 

 

 そう言ってから、彼はこちらに振り向いた。

 

 

「白鷺さんの考えも分かります。甘いこと考えているってのも分かります。……それでも『努力』の可能性を信じたいです。自分を貫き通したいです」

「……そういうところが甘いのよ」

「ええ。だから――」

 

 

 言いかけたところで、彼は笑った。

 

 真優貴ちゃんにそっくりな、優しい笑顔だった。

 

 

「――その甘い考えでどこまでいけるのか、挑戦してみたいんです」

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

「努力が報われるとは限らない。だが決して無駄にはならない……ね」

 

 

 彼の言葉を、1人テラスの席で復唱する。

 

 

 不思議な子だった。

 

 

 現実の厳しさをある程度理解しているのに、それでも希望を信じようとする。努力が報われない経験をしたのに、それでも夢を見ようとする。

 

 

「(……本当に不思議な子だったわね)」

 

 

 現実的に物事を捉えられるのに、愚かなまでに夢想家。

 

 

 現実に打ちのめされたことがあるのにも関わらず、それでもまだ愚直に理想を追い求める理想主義者。

 

 

 正直ただの馬鹿なのかと思った。現実を知らないならまだしも、痛い経験をしたのにあえて夢を見続けることを選んでいるその考え……私には理解できない部分が多かった。

 

 

「(……でも)」

 

 

 理解はできない所もあったけれど……悪い子ではなかった。

 

 

「(……私もそろそろ行きましょうか)」

 

 

 

 

 

 山城貴嗣君。

 あなたのその真っ直ぐな考え方がどこまで通用するのか……見させてもらいましょうか。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 白鷺さんとの突然のお茶会から数日後。今日もPastel*Palettesの練習を見るため、1人ギターを持って事務所の廊下を進む。

 

 今日は放課後に用事があったので、俺は後から合流することに。大河達はもうレッスンルームについているはずだ。

 

 そして角を曲がったところで……レッスンルームから出てきた白鷺さんと出会った。

 

 

「お疲れ様です、白鷺さん」

「お疲れ様。今日もコーチをしてくれるのね。……別の仕事が入っていて練習に参加できないのが、少し申し訳ないわね」

「気にしないでください。お仕事、頑張ってください。応援しています」

「あら、ありがとう。そう言ってくれると嬉しいわ。それじゃあ、山城君も頑張ってね」

 

 

 会釈する俺の隣を、白鷺さんはいつもの笑顔のまま通り過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

「つい昨日、Pastel*Palettesのために1つライブの仕事を取ってきたわ。今彩ちゃん達にそれを伝えてきたところよ」

「……えっ?」

 

 

 思わず振り向く。白鷺さんは俺に背を向けたまま言葉を続ける。

 

 

「彩ちゃんは『努力をしていたから自分達に仕事が舞い込んだ』と思ったみたい。……だからそんなあの子に、私は自分の考えを伝えたわ」

「……『努力がいつも夢を叶えてくれるわけではない』、とですか?」

「そうよ」

 

 

 そして白鷺さんは顔を少しだけ後ろに向けた。

 

 

「もしあなたが彩ちゃんを助けたいのなら、あなたの考えを伝えなさい。あなたのここでの思い出や経験は、彩ちゃんの理想と対極のもの。自分の実体験を踏まえて、あの子に現実というものを教えてあげなさい」

「……白鷺さん?」

「――あなたが彩ちゃんに何を伝えるのか、楽しみにしているわよ」

 

 

 白鷺さんは再び歩き始め、この場を後にした。その背中が見えなくなってからも、俺はその場に立ったまま、白鷺さんの言動について考えていた。

 

 

「(……助けてくれた? どうして……?)」

 

 

 パスパレの活動に消極的だった白鷺さんが仕事を持ってきてくれて、しかも俺にアドバイス……? 

 

 

「(……試されているのか)」

 

 

 早く皆の元に行かなければ。頬をパンパンと両手で叩いて、気合を入れる。

 

 

「(……よし。行くか)」

 

 

 白鷺千聖さん。

 あなたの期待に……応えてみせます。

 





 読んでいただき、ありがとうございました。主人公と千聖との会話がメインの今回、如何でしたでしょうか?

 元々土台ができていた今回の話から、33話と34話を修正した影響で、千聖と主人公の対話の部分を大きく変更したのですが……もうここが滅茶苦茶難しくて編集に時間がかかってしまったというのが更新が遅れた原因でございます(言い訳)。

 2人の対話の題材をどうしようか色々考えた結果、今回では「『努力』というものの捉え方の対比」という形をとりました。自分のキャラに対する理解度が浅いというのもあるんでしょうけど、ほんと千聖を書くのが難しすぎました……。

 限界まで頭回転させて書いた話ではありますが、描写に違和感やおかしいところがありましたら、是非教えていただきたいです。

 次回は恐らく来週の土日か、最悪でも再来週の土日までに更新しようと思っております。必ず更新いたしますので、次回もよろしくお願いいたします。

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