Silver Lining ~ BanG Dream Story~ 作:おたか丸
皆様お久しぶりです。おたか丸です。
一週間ぶりの投稿でございます。本来1回で収めようとしていた話なのですが、1万字を余裕で越えてしまったので、キリが良い所で2つに分けることにしました。今回の話は7000字程となっております。
それではどうぞ!
大和さんがドラムを叩き、イヴちゃんがキーボードに指を走らせ、日菜さんがギターの弦を弾き、彩さんが歌う。
最初の頃と比べると、見違えるほど音が合ってきていた。その証拠に、演奏している彩さん達が、とても楽しそうに見える。以前は正確に歌うことに必死で余裕が無さそうだった彩さんも、今は心の底から楽しそうに歌っているように感じた。
そして演奏が終わった。
「「「……ありがとうございました!」」」
パチパチパチパチ!!
彩さん達のその声に、俺達は大きな拍手で応えた。
「すごいっす皆さん! 今までの演奏の中で一番良かったと思います!」
「うんうん! あたし達も聞いてて、とっても楽しくなりました!」
「皆さんの音がとても綺麗に纏まっていました。このままいけば、大丈夫だと思いますよ」
大河と穂乃花、花蓮がそれぞれ感想を伝える。
「ありがとう、皆! ……貴嗣君はどうだったかな?」
息を整えながら、彩さんが俺にそう聞いてきた。彩さんだけでなく日菜さん達も、そして隣に座っていた大河達も、ジーッと俺を見つめて感想を求める。
「演奏技術の話ではないんですが……今回の演奏が、一番聞いていて楽しかったです。皆さんが笑顔で演奏しているのを見て、俺も嬉しい気持ちになりました。まさしくアイドルって感じでしたよ」
「……!! あ、ありがとう……!!」
「どういたしまして。それじゃあ一旦休憩に入りましょうか。意見交換等は、休憩後にまとめてやりましょう」
俺の掛け声に、彩さん達は元気のよい声で答えてくれた。
タオルで額の汗を拭く。ぽんぽんと顔をタオルで包んでいると、皆が楽器を片付ける音が耳に入って来る。
「ヒナさんのギター、とってもお上手でした!」
「ありがとーイヴちゃん! まあ、これくらいどうってことないよ~♪」
「イヴさんのキーボードも素敵でしたよ。ジブン、ずっと聞いていたいくらいでしたよ~」
「ほんとですか? ありがとうございます、マヤさん!」
皆はとても楽しそうに雑談をしている。そしてもちろん私も皆と一緒にワイワイ……ではなく、貴嗣君の元に向かっていた。
「貴嗣君」
「ああ、彩さん。お疲れ様です」
さっきの練習で音を取るのに使っていたモノトーンのギターを、彼は床に座って丁寧にメンテナンスをしていた。綺麗な布(確かクリーニングクロスって言ってたっけ?)で、ゆっくりと膝の上に置いているギターを拭いていた。
「2時間くらいぶっ通しで練習してましたから、疲れたんじゃないですか?」
「ううん! 大丈夫だよ! 寧ろ貴嗣君に褒めてもらったから、やる気出てるくらいだよ!」
「あははっ、俺みたいな奴の意見でそんなに元気になってくれるなんて、ありがとうございます」
貴嗣君の近くにチョンと座って、一緒にお話し。メンテナンスをしながらも、貴嗣君はいつもみたいにニコッと笑って私と話してくれる。
「でも、そういう時こそ疲れが溜まっていたりします。元気一杯なのは良いことですが、ライブのお仕事も入って来ましたし、俺としては体調管理にも気を付けてくれると嬉しいです」
「あっ……うん……そうだね……」
「? 彩さん?」
ライブのお仕事――その言葉を聞いて、練習が始まる前の出来事を思い出す。
『努力は結構。夢を見るのも結構』
『だけど……努力が必ず夢を叶えてくれるわけじゃないのよ』
仕事の話を聞いて舞い上がっていた私に、千聖ちゃんはそう言った。
その言葉を聞いた時のショック、静まり返った雰囲気が、フラッシュバックのように思い出された。現実という重たいものをぶつけれらたあの感触が、ゆっくりと戻って来た。
「……」
「あー……彩さん? 大丈夫ですか? 本当に体調悪いとか……?」
「う、ううん! そうじゃないよ! そうじゃないんだけれど……」
「……何か悩みですか? 俺でよければ、話くらいなら聞きますよ?」
ギターの弦を拭いている手を止めて、貴嗣君は少しだけ私の方に体を向けた。
……貴嗣君には……聞いてもらいたいかな。
「あのね……貴嗣君が来る前に、ここに千聖ちゃんが来たんだ。『私達に仕事が来た』って教えに来てくれて……それで……」
「……それで?」
「私、もう一度ステージに立てるんだって舞い上がっちゃって……『努力をしていたからライブが決まった』って思ったんだけど……千聖ちゃんに言われたんだ……『私が今までしてきたことは、研修生時代と何が違うの?』って……」
「研修生の時と同じことをしているのに、今回急にライブが決まったのはどうしてなのか……ってことですか」
「うん……」
三角座りでうずくまりながら話す。さっきの演奏での声が嘘みたいに、私の声は弱々しいものになっていた。
「ねえ貴嗣君……努力すれば絶対に夢は叶うって思うのは……間違ってるのかな?」
顔を貴嗣君の方に向ける。
私は貴嗣君とそんなに長い付き合いってわけではない。だから貴嗣君については、知らないことの方が多いと思う。
でも知っていることだってある。映画と読書が好きで、バンドを組んでいて、双子の妹の真優貴ちゃんがいて……いつも優しくて、前向きで……。
だから本音を言うと、「努力すれば夢は必ず叶うと思う」って言って欲しかった。貴嗣君ならそう言ってくれるって、心のどこかで期待していた。
「努力すれば夢は叶うっていうのは、俺は間違っていないと思います」
「……!! じゃあ――」
「でも絶対に叶うとは思いません」
「……えっ……」
「努力が必ず報われるわけじゃない……俺はそう思ってます」
キーンと心が凍り付いたみたいだった。一瞬、貴嗣君の言っていることが理解できなかった。
いや、違う。
できなかったんじゃなくて、したくなかった。
「……ど、どうして……」
「……」
貴嗣君は黙ったまま、私を見つめる。
「……どうして……そう思うの……? 貴嗣君……いつも前向きなのに……」
「……」
貴嗣君は少しだけ目を閉じて、またすぐに開いた。いつもは優しさで溢れている貴嗣君の目が、厳しさのあるものに変わっていた。
「彩さん。人の考えというのは、その人の今までの経験というのが物凄く影響してきます。彩さんが『努力すれば夢は叶う』と前向きに考えるのも、白鷺さんが『努力が必ず夢を叶えてくれるわけじゃない』と厳しく考えるのも、そういう考えに至る経験をしてきたからです。そしてそれは俺も例外ではありません」
「貴嗣君も……それって……『努力が必ず報われるわけじゃない』って思うような経験をしたってこと……?」
「その通りです」
貴嗣君は表情を崩さずに話す。声も表情も、いつもより硬い。
「……教えて欲しい」
「……面白い話じゃないですよ?」
「……それでも教えて欲しい。貴嗣君がそう考えるようになった経験……私は知りたい」
知るのは怖かった。
どうしてかは分からないけれど、これを聞きいちゃうと、何だか後に退けないような気がした。
でもここで聞かないと、なんだか目の前の困難から逃げているような気もした。逃げてばっかりじゃ……ダメだよね。
「ジブンも知りたいです」
「麻弥ちゃん……?」
「……大和さんもですか?」
「ジブンだけじゃないですよ。ほら」
麻弥ちゃんの後ろには、さっきまで楽しそうに喋っていた日菜ちゃんとイヴちゃんがいた。大河君達も貴嗣君を見つめている。
「さっきも言いましたけど、ハッピーな話ではないです。それでもいいですか?」
「……はい。ジブンは山城さんの考えが理解できます。だから……そう考えるようになった理由が知りたいです」
「……そうですか」
麻弥ちゃんの言葉に答えた後、貴嗣君はまた私に視線を戻した。私の目を見つめる綺麗な銀色の瞳を、私も真正面からのぞき込んだ。
「私も麻弥ちゃんと一緒。ちょっと怖いけど……怖いことに逃げてばっかりじゃ、いつまでたっても成長できないから……」
「……本当に彩さんは強い人ですね」
うんうんと頷いて、私に言葉を掛けてくれた。ほんの少しだけ、声に温かさが戻ったような気がした。
「分かりました。それじゃあ……少し昔話をしますか」
皆が静かに見つめる中、貴嗣君はゆっくりと話し始めた。
◇◆◇◆
小さい頃、俺は俳優になりたかった。
小学1年生の時に書く「将来の夢」で人気のスポーツ選手やエンジニア、医者や宇宙飛行士などではなく、俺は俳優になりたいと思っていた。
「どうや貴嗣、真優貴! 映画って面白いやろ~?」
「うん!」
「めっちゃ面白かった!」
初めて映画を見た時のことは今でも覚えている。俺と真優貴に映画というものを教えてくれたのは、父さんだった。俺達は父さんと一緒にソファに座って、家で父さんが大好きだったSF映画を見た。
俺は完全に心を奪われた。見ているだけなのに、まるで映画の中に入り込んだような感覚になった。
宇宙を旅することがあれば、砂漠の遺跡を冒険したり、剣と魔法のファンタジーな世界に迷い込んだり、はたまた実在した偉人の人生を追体験したり――映画とはなんてすばらしいものなんだろうって、幼い俺は思った。
「ねえねえパパ! ぼく、今の映画のせかいに行ってみたい!」
「わたしもー! おっきな宇宙船にのって、映画みたいにたくさんの星を旅してみたい!」
「ははっ! そうかそうか! 2人ともすっかり映画が好きになったみたいやな~」
父さんはわしゃわしゃと俺達の頭を撫でた。ごつごつとした大きな手だった。
「パパー、どうやったらわたしと貴も映画の世界に行けるん~?」
「いい質問やなー真優貴! う~ん、映画の世界かぁ~……」
今から思い返すと、中々に無茶な質問を真優貴はしていたみたいだ。それでも父さんは真剣に考えてくれた。
……この頃ってまだ真優貴からは「お兄ちゃん」じゃなくて、「貴」って呼ばれてたっけか。
「……俳優さんになれば、いつか行けるかもしれへんな」
「「はいゆーさん?」」
「そう、はいゆーさん。今の映画に出てた人らはな、他にも色んな映画に出てるんよ」
「それって……宇宙だけじゃなくて、他の世界にも行ってるってこと!?」
「そうやで貴嗣。そんな人達のことを、男の子やったら『はいゆーさん』、女の子やったら『じょゆーさん』って言うんや」
「はいゆーさん……」
「じょゆーさん……」
その時俺達はまだ小学3年生。父さんが言った「はいゆーさん」と「じょゆーさん」という言葉を漢字でどう書くのか全く分からなかったけど、その“音”はすぐに記憶に残った。
「いいかー2人とも。『はいゆーさんとじょゆーさん』っていうのは、人に感動を届ける人達のことなんや」
「「かんどー?」」
「そう。貴嗣と真優貴は、今映画を見てどう思った?」
「う~ん……ワクワクした!」
「わたしは楽しかった!」
「それが『感動』っていうものなんや。『はいゆーさんとじょゆーさん』は色んな映画に出て、色んなキャラクターを演じて、今2人が思った『ワクワク』とか『楽しい』って気持ちを見てくれる人達に届ける、めっちゃすごい人達のことなんやで」
リビングのソファに一緒に座っていた父さんは、嬉しそうにそして楽しそうに、俺達にそう語ってくれた。
「そんな『はいゆーさんとじょゆーさん』になったら、2人とも映画の世界に行けるかもしれへん。宇宙でも海の底でも、どんなところにでも行ける。世界中の人達をワクワクさせたり、楽しい気持ちにできる」
「「……」」
父さんの話を聞いて、俺と真優貴はお互いに目を合わせた。別にテレパシーとかそんなのじゃないけど、その時は目を見ただけで、お互い思っていることが分かった。
「「パパ!」」
「ん?」
「「ぼく(わたし)、はいゆーさん(じょゆーさん)になりたい!」
「じょゆーさんになって映画の世界に出たい!」
「はいゆーさんなって、世界中の人達をかんどーさせたい!」
「……ああ。そうか」
父さんは笑ってくれた。それが嬉しくて俺と真優貴も笑った。
この時、俺達には夢ができた。
『はいゆーさんとじょゆーさん』になるという、大きな夢ができたんだ。
それから俺と真優貴は、地元和歌山にある役者の養成所に入った。東京に拠点を置く芸能事務所、その和歌山支部といったところだった。俺達はそこで演技の勉強をしていくことになった。
沢山のレッスンがあった。
発声や歌の練習、台詞の読み方やイントネーション(関西弁ということもあって、ここはかなり難しかった)、身振り手振りといった動きの練習――自分とは違う存在を演じるための技術を、俺達は一生懸命学んでいった。
だが問題はここからだった。
「すごいわね真優貴ちゃん。ちょっと教えただけでもうこんなに歌えるようになるなんて」
「真優貴ちゃん、イントネーション完璧よ。この調子でいきましょう」
「今の微妙な表情、よく作れたわね。すごいわ!」
「貴嗣君はもう一回、さっきと同じところから始めましょうか」
「貴嗣君、また関西弁のイントネーションになってるよ」
「表情が硬い硬い。もっと力を抜いてー」
別に練習が滅茶苦茶厳しかったとか、俳優を目指すのが嫌になったのかではなかった。
それよりももっと大きな壁、現実の厳しさというものを、俺はここで味わうことになった。今まで全く意識してこなかったことが、演技の練習を通じて明らかになった。
そう。俺と真優貴の間には、“才能”という差があったのだ。
その差はとても大きく、真優貴は所謂“天才”だった。先生にちょっと教えてもらっただけですぐに出来るようになり、その応用もなんのその。色んな技術をどんどん身に着けていった。
それとは反対に、俺は中々演技が上手くならなかった。そりゃあ専門のスクールに通っているわけだから一般的なレベルよりは上だっただろうが、真優貴の才能の前には、そんなもの塵みたいにちっぽけなものだった。
俺と真優貴には差があって、真優貴のほうが上だったのだ。
だがスクールに通って演技の勉強をしていくにつれて、俳優になりたいと思う気持ちも強くなっていった。ハングリー精神的なやつだ。だから途中でやめることは無かったし、夢を叶えるために一生懸命努力した。
先生に教わったことは全部メモして、上達するまで何回も練習した。家でも毎日寝る時間を削って、1人でこっそり練習し続けた。おかげで何度も学校で爆睡してしまったし、体調を崩してしまったこともあった。今思うと、ほんとバカみたいに無茶してたなーと思う。
でも俺には努力を続けることしかできなかった。真優貴のような才能がない俺は、ただひたすら努力することでしか、夢を目指すことができなかった。
そうして練習を続けていたある日、先生からある書類を渡された。
「「……オーディション?」」
「そう。何回かテストを受けて、それに合格したら事務所に入れるのよ」
「事務所ってことは……!」
「デビューできるってこと……!」
俺の言葉に真優貴が続き、先生が頷く。
「2人とも最初の頃と比べたら凄く演技が上手になったから、受けてみてもいいと思うわ。別に強制じゃないから、家でご家族の方と一緒に話し合ってみてね。……さあ、今日のレッスンを始めましょうか」
遠く離れた東京にある事務所で、そのオーディションは行われるとのことだった。
「(……ついにこの時が……)」
俳優になれるきっかけ、チャンスが来た。
絶対にこのチャンスを逃しはしない。燃え尽きるまでやってやる。
そう心に決めて、俺はオーディションまでの間、今までとは比べ物にならない程の必死さで、練習を重ねていった。
オーディションのために、俺達は母さんと一緒に和歌山から東京に向かった。会場となる事務所を初めて見た時の衝撃はまだ覚えている。すごく大きな建物だった。
オーディションはその総合芸能事務所の16階で行われた。いくつかの部屋で同時に行われたので、俺と真優貴は別々の部屋でオーディションを受けることになった。
1人、また1人と呼ばれ、会場に入っていった。そうやって待っていると、ついに俺の番になった。
だが失礼しますと言って部屋に入った瞬間、事件は起こった。
「(……あ、あれ?)」
いつもと違う広い部屋。
一度も会ったことのない人達。
張り詰めた雰囲気。
「それでは自己紹介をしてください」
「えっ……あっ……」
言葉が出ない。前が見えない。考えられない。
俺はオーディションの部屋に入った瞬間に、緊張で頭が真っ白になってしまっていたのだ。
「や、山城……貴嗣……です」
やっとの思いで絞り出したのは、情けないほどか細い声だった。
今日まで必死に努力してきた。真優貴に負けたくないと、寝る間も惜しんで演技の練習をした。俳優になるという夢を叶えたかったから、先生に何度も練習に付き合ってもらった。
オーディションの時の部屋の入り方だって、何十回って練習したじゃないか。初めに自己紹介を言うのも、その後にお願いしますと言ってからペコリと一礼するのも、何度も事前にシミュレーションしたじゃないか。
でもその全部が、緊迫した雰囲気、「もし失敗したらどうしよう」という不安と緊張で、瞬く間に吹き飛んだ。人間とは厄介なもので、一度こうやって頭が真っ白になると、まるでウイルスのように恐怖が増殖してしまう。
まずい、このままだと失敗してしまう。
だめだ、夢が叶わなくなる――何とかしようと頑張ったが、怖い気持ちがどんどん強くなっていて、既に手遅れだった。
正直、その後のことはあまりはっきりとは覚えていない。どんな演技をしたのかも、どんなことを言ったのかも、ほとんど思い出せない。
はっきりと覚えていることと言えば、真優貴が満面の笑みで帰って来たことと、母さんが何も言わずにただ俺を抱きしめてくれて、「よう頑張ったね」と褒めてくれたこと、その日の晩御飯がいつもより美味しくなかったこと。
そしてその数週間後の結果通知書――俺宛の「不合格」の通知と、真優貴宛の「合格」の通知書がきたことだった。
読んでいただき、ありがとうございました。
新たにお気に入り登録をしてくださった皆様、ありがとうございます。全然更新できていないのに登録してもらえて、本当に嬉しいです。これからも頑張っていきます。
主人公メインの話だったので、原作キャラが殆ど出てきていないという……。その分次回でしっかりと登場します。
次回の更新は明日の予定です。次回もよろしくお願いいたします。
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