Silver Lining ~ BanG Dream Story~ 作:おたか丸
お気に入り登録をしてくださった皆様、ありがとうございます。
初っ端から私事なのですが、自分下書きをする前にノートに話の展開を細かく書くようにしているのですが、その際に内容だけじゃなくて思いついたセリフもメモしておけば下書きがめっちゃ楽にできるという大発見(大袈裟)を最近いたしました。投稿ペースも上げられたら最高なんですけどねぇ……精進致します。
あと今回の話なのですが、32話の内容を頭に入れた上で読んでいただけると、より楽しめるかと思います。
それではどうぞ!
夕方の駅前。事務所が運営している大きな劇場の前、学生や仕事帰りの人達が多く行き来するこの場所で、私達は道行く人達に向かって、大きな声で呼びかけていた。
「Pastel*Palettesです! よろしくお願いします!」
通りすがる人達にチケットを持って声を掛けるも、首を横に振られる。目を合わそうとしても、すぐに逸らされてしまう。さっきからずっとこれの繰り返しだ。
少し前から私達はライブイベントのチケットの手売りを始めた。再スタートをした私達を、もう1度お客さん達に知ってもらう必要があると思ったからだ。直接ファンと触れ合うのは危険が伴うとスタッフさん達には言われたけど、何もしないで後悔するようなことはしたくなかった。
「ぱ……Pastel*Palettesです……! よ、よろしくお願いしまーす……」
頑張ってはいるけれど、チケットは殆ど売れていない。声を掛けられた時も応援の声ではなく、「まだ活動してたんだ」や「もうとっくの昔に解散したと思ったよ」等の厳しい声だった。長い間メディアへの露出を控えていたために、私達は多くの人達に忘れられてしまっていた。
「(でも私は諦めたくない……!)」
忘れられちゃったのなら、もう一度思い出してもらえればいいんだ。例え忘れられていても、こうやって声を掛けることで私達のことを知ってもらえる。
悲しい気持ちにならないわけじゃない。でも私はやっぱり諦めたくない。途中で諦めてしまったら、後悔で押しつぶされてしまいそうだから。
それに私には……応援してくれる人がいる。自分を信じてただ突き進んでいけばいいんだって教えてくれた、優しい男の子がいる。
「(私は頑張れる……! 絶対にできる……!)」
彼に励まされたときの嬉しい気持ちを思い出しながら、私は皆と一緒にチケットを売り続けた。見向きされなくても、私達は声を上げることを止めなかった。
橙色の夕日が、駅前の劇場の前にいる彩さん達を照らしている。その光は温かく優しいものだが、彼女達を取り巻く現状は、冷たく厳しいものだった。
大きな声を出してライブイベントの宣伝をしているものの、ほとんどの人はその声に反応すらしていない。それでもチケットを売り続けている彩さん達を、俺達は少し離れたところから眺めていた。
「チケットの手売りなんて、ほんとすげぇな」
「あんなにネットで色々書きこまれたのに、ああやって直接お客さん達と会うなんて……私なら怖いなぁ~……。すっごいキツイこと言われるかもだし……」
「確かこれ考えついたの、彩さんなんだよね? 自分が今できることに全力で取り組むの、努力家の彩さんらしいね」
大河と穂乃花、花蓮の会話を聞きながら、向こうでチケットの手売りをしている彩さん達を見つめる。通行人に近寄るものの、無視され拒否されてしまう。一瞬悲しい顔をするが、すぐに表情を戻してまた声掛けを行う。
頑張ったからといって、それが必ず報われるわけじゃないのは分かっている。そういう経験はしてきたし、現実には非情な一面があることも知っている。だからといって、じゃあ今の彩さん達を見て何とも思わないかと言われたら、間違いなくNOだった。
無視され、蔑まれ、馬鹿にされる――そんなことをされて気持ちいいはずがない。彩さん達が感じている辛さや悲しさが伝わってきて、胸の奥がズキズキと痛む。
「(……本当にすごい人だ)」
「……貴嗣君」
「ん?」
「大丈夫? 顔、ちょっと強張ってるよ」
彩さん達をずっと黙って眺めている俺に、花蓮がそう聞いてくる。少し心配そうにしている花蓮に、俺は笑って答える。
「大丈夫だよ。頑張ってる彩さん達を見て、明日のライブ頑張らないとって思ってただけ」
「……そっか」
花蓮は人の気持ちの変化に敏感だ。彼女を心配させないように、心の痛みは黙っておく。
「貴嗣君の言う通り、私達も頑張らないとだね」
「おうよ。あんなに頑張ってるパスパレの人達見てたら、俺もやる気出てきた」
「彩さん達もレッスンの合間に見てくれるみたいだし、いいパフォーマンス見せなきゃだね! ねっ、リーダー?」
「ああ、そうだな穂乃花」
今回のライブのテーマは、ズバリ「応援」だ。夢や目標に向かって一生懸命進んでいる人達に、演奏を通して応援のメッセージを伝えるというのが今回のライブの目的だ。
初めはいつもと違った雰囲気の曲を弾きたいという軽い理由で「応援ソングを演奏しよう」と話していた。だがPastel*Palettesと関わったことで、努力する人達を助けになりたいとう気持ちが俺達の中で大きくなっていった。4人で何度も話し合った結果、応援ソングをメインにしたライブにしようということになった。
「見てくれる人達全員に楽しんでもらえるように……頑張っている人達の背中を押せるように、明日は頑張ろう」
「「「おーっ!」」」
明日へのライブに向けて気合を入れ直し、俺達はその場を後にした。
◇◆◇◆
レッスンの予定が無い休日、私達は今日も事務所に来ていた。自主練とチケットの手売りをするために来たのもあるけれど、今日はもう1つ大事なイベントがあった。
「みなさーん! スタッフさん達にタブレット借りてきましたよー!」
「ありがとうございます、マヤさん! わあ~……おっきなタブレットですね!」
「なんだか皆で映画観るみたいでワクワクするね~」
「うんうん! じゃあそろそろライブ始まる時間だし、準備しようか」
「タブレットのセッティングならジブンに任せてください! このスピーカーも繋いで、さながらその場にいるような臨場感を再現しますよ~」
事務所の休憩室で準備をする私達。今日はインス〇グラムを使ったSilver Liningのライブ配信の日だ。貴嗣君のお母さんのカフェ、“Sterne Hafen”にある小さなスタジオから配信するみたい。SNSですっごく評判のカフェだから、Pastel*Palettesのライブイベントが終わったら行きたいな。
準備を終えてワクワクしながら待つこと5分、ついに画面が切り替わって、綺麗なスタジオと楽器を持った貴嗣君達が映し出された。
『……あれ? なあ穂乃花~? これもうライブ始まってる感じ?』
『よゆーで始まってるよー! ほら、下からコメントがたくさん出てきてるでしょ?』
『すげぇ……! ライブ配信ってこんな感じなんだな! お、おおっ……コメントがビュンビュン下から来て目で追い切れない……』
『あははっ! ちょっとリーダー、SNS音痴バレちゃうよ~?』
『おおっとぅ、それはちょいハズい……とまぁ前置きはここまでにして――皆さんお久しぶりです。Silver Liningでーす』
貴嗣君が笑顔で手を振って挨拶をする。お客さんが実際にいるわけではないから、大声を出して私達観客に呼びかけるのは難しいみたい。それでも皆のラフな私服姿や貴嗣君の低い声もあって、落ち着いた雰囲気がとても似合っていた。ライブと言えば皆でワイワイ盛り上がるっていうのをイメージしがちだけど、こういうゆったりとしたライブも結構好きかもしれない。
『今日はこの前からお知らせしていた通り、応援ソングをメインに演奏します。曲の合間に皆さんからのコメントやご質問に答えつつ、自分達でアレンジを加えた曲を3つ演奏するので、是非楽しんでいってくださいね。――それでは早速1曲目、行きましょうか。みんなー、準備はよろしいか~?』
『おう!』
『バッチリだよ~!』
『いつでも行けるよ』
『皆サンキュー。それでは1曲目、演奏させていただきます。F〇NKY M〇NKEY B〇BYSさんから、“あとひとつ”です』
演奏後の余韻が、体にじんわりと響く。指でギターの弦を抑え音を消した後、緊張を解き前に置いてあるタブレット(花蓮が貸してくれたもの)の方を見る。
「――ありがとうございました。2曲目はコブ〇ロさんより、“今、咲き誇る花たちよ”でした」
今は2曲目が終わったところ。“あとひとつ”に続いて2曲目に“今、咲き誇る花たちよ”を演奏した俺達は、各々水分補給をしながら、見てくれている人達からのコメントを目で追っていた。
「『この前駅の近くのゲームセンターに皆さんいましたか? クレーンゲームのところでチラッと見かけた気がするんですけど……』だってさ! クレーンゲームってことは……ああ! 貴嗣が初めてクレーンゲームやった時のことじゃね?」
「そうかもだな。多分それ僕達ですねー」
「実は貴嗣君、この前までクレーンゲームやったことなかったんですよ。留学先に大きなゲームセンターが無かったんだよね?」
「そうそう。海外にもクレーンゲームってあるんだけど日本ほど普及してなくて、中々やる機会が無かったんですよねー」
「あの時の貴嗣、ほんと面白かったよね~! ボタン押す時手震えすぎでしょ!」
「初めてやるゲームだったから緊張してさ……んであれだけバカみたいに集中して結局景品取れないっていうオチね。五百円が水の泡に……」
「……なんか貴嗣って意外に守銭奴だよな」
「なにを言うか大河。高校生にとって五百円は大金だぞい」
皆で和気あいあいと話してコメントに答えつつ、最後の曲の準備を進める。そしていくつかの質問に答えた後、皆の準備が完了した。
「よし、じゃあ休憩はこのくらいにしようか。皆さんお待たせしました。最後の曲に行きたいと思います」
俺の言葉に、皆も楽器を構える。
「今この瞬間にも、夢や目標に向かって努力を続けている人達は沢山います。今ライブを見てくださっている皆様の中にも、一生懸命頑張っている人がいると思います」
マイクの位置を調節しながら、言葉を続ける。頑張っている人達を――彩さん達のことを考えながら、自分達の気持ちを伝える。
「時には心が折れそうになる時もあるでしょう。もう辞めたいって思う時もあるでしょう。でもそんな辛さを越えた先には、想像できないほど素晴らしい光景が広がっているものです。最後の曲は、そんな苦しい中でも頑張っている人達への、俺達からのメッセージです」
後ろを向いて、皆とアイコンタクトを取る。大河達はやる気に満ちた眼差しで答えてくれた。
「皆さんは1人じゃない。皆さんは負けない。皆さんなら絶対にできる――そんな俺達の気持ちを、歌に乗せて演奏します」
スーッ、ハァーと深呼吸し、体にスイッチを入れる。
「それでは聞いてください。M〇y J.さんから“Faith”です」
『負けないで 諦めないで
いつだって答えは近くにある
倒れたって良い また立ち上がれば良い
心に耳を傾けて、従うの』
――俺達の歌が、頑張っている人達の背中を少しでも押せますように。
『心の奥底から
この世界に「私は本当にできるんだ」って伝えたいんだよね
もう1度挑めばいい
胸を張って、堂々と叫ぶの』
――俺達の演奏が、Pastel*Palettesの皆さんに届きますように。
『あなたならできる
雨も夜も超えて、あなたはまた立ち上がるから
自分を変えるため、自分の生き方を見つけるため、進み続けよう
もっと強くなれる』
――そしてどうかこの歌が
『だってあなたならできるから
誰にも「お前になんかできない」なんて言わせない
あなたはここにいる
あなたは絶対に負けない』
――彩さんの力になりますように。
◇◆◇◆
冷たい雨が、空から容赦なく私に降り注ぐ。まるでたった1人で声を出してチケットを手売りしている私を嘲笑うかのように、無感情の雫が私を濡らしていく。
貴嗣君達のライブを見て、私は言葉で言い表せないほど勇気づけられた。「あなたなら出来るって信じてる」って気持ちが――皆からの想いが伝わってきて、大きく背中を押してくれたみたいだった。
事務所でライブを見た後はその勢いに任せて、いつものように皆と一緒にチケットを持って外に出た。突然雨が降り始めたのは、チケットを売り始めて十数分経った頃だった。
「(……だめだ……声が……全然届いてない……)」
傘をさして歩いていく人達に大きな声で呼びかけるも、雨の音が私の声をかき消してしまう。普段からほとんど見向きもされないのに、雨で声が届いてないとなると、一切振り向かれないのは当然だった。
「(日菜ちゃんの言う通り……こんな日にチケットを買ってくれる人なんて……いないよね……)」
寒い。凍えるほど寒い。
雨の冷たさが、体と心の温度を奪っていく。
「(このまま雨に……想いも夢もかき消されちゃうのかな……)」
ああ、またこの感覚だ。
どれだけ頑張っても、届かない。寸前のところまで階段を上って来て、やっとたどり着いたと思ったらまた蹴り落されるような、あの感覚。
雨の中に、ポツンと1人。
真っ暗な場所で、向かう場所も無くて、でも逃げる場所も見つけられなくて。
「(やっぱり夢を叶えるなんて……私にはできないのかな……?)」
ポキっと心が折れて、諦めてしまいそうになった時だった。
私の目に、キラリと銀色の光が差し込んだ。
「(……今のって……もしかしたら……)」
首から掛けていた、綺麗な銀のネックレス。私のアイドルデビュー記念として、貴嗣君がバイト終わりに買ってくれたネックレス。それがどこかの光を反射したみたいだった。
『これからのアイドル活動でのお守り、そして……俺を幸せな気持ちにさせてくれたことのお礼です』
「(あれ……今の声……)」
ハッとなって周りを見るけれど、当然貴嗣君はいない。さっきまでライブ配信してたんだし、ここにいるはずなんてない。
でも今一瞬だけ……貴嗣君の声が聞こえた気がした。
――……ke it
あれ……?
――……an ……ke it
まただ……
――……can make it
聞こえる……
―― I ……ow y……can make it
これ……さっき聞いた貴嗣君の歌だ……!
「私達の歌を聞いてください!」
「……えっ!?」
隣から聞こえた大きな声に驚いてしまう。振り向くと、私の隣に千聖ちゃんがいた。
「ち、千聖ちゃん……?」
「どうしたの? もっと大きな声を出さないと、誰にも聞こえないわよ」
「……どうして……?」
「貴嗣君は彩ちゃんのこと、歌で応援してくれたのよ? あなたなら絶対にできるって信じてくれているのよ? それなのにあなたはここで諦めるの!?」
「……っ!?」
雨に濡れながらも、真剣な眼差しで私を見つめる千聖ちゃん。千聖ちゃんの言葉を聞いて、貴嗣君の歌声が鮮明に思い出された。
――
そうか。
あの歌……私を励ますために歌ってくれてたんだ。
「(……また私のこと……助けてくれたんだね……)」
銀のネックレスをギュッと握る。貴嗣君の声が、今度ははっきりと蘇る。
『負けないで 諦めないで』
『倒れたって良い また立ち上がれば良い』
『雨も夜も超えて、あなたはまた立ち上がるから』
『あなたは絶対に負けない』
「私なら……できる……!!」
「ええ、そうよ。……さあ、準備はいいかしら?」
「……うんっ!」
千聖ちゃんの問いに、私は大きく頷いた。
「Pastel*Palettesです! よろしくお願いします!」
「お願いします!」
「「どうか私達の歌を聞いてください!! お願いします!!」」
雨に負けないように、さっきよりも大きな声で呼びかける。ネックレスを左手で握りしめながら、なりふり構わず大声を出す。
私ならできる、私は負けない。
私は負けない……私ならできる!!
「あのー……すみません」
「「は、はいっ!!」」
「そのチケット、1つ買いたいんですけどいいですか?」
「「……!!」」
私達の前に現れたのは、どこかで見たことのある女性だった。お金を受け取ってチケットを渡したのだけど、その人は私のネックレスをチラッと見た後、優しく笑った。
「うちのネックレス、付けてくれてたんですね」
「うちの…………あっ!? あそこのアクセサリーショップの店員さん……!?」
「はい。そうですよ」
思い出した。
貴嗣君と一緒に行ったお店の、若くて綺麗な店員さんだった。
「あなた達のこと、ずっとあそこのお店から見てたの。こんな雨の日でも頑張っているあなた達を見て……応援したいなって思ったの」
「「……!!」
「ライブ、見に行くわね。辛いこともあるだろうけど、私
「あ、ありがとうございます……! ……って、あれ?」
「私
「……ふふっ♪」
「「?」」
私達が首を傾げていると、突然雨がピタリと止んだ。びっくりして反射的に上を見ると、目に入ったのはやっぱり曇り空。でもその空はまるで透明ビニール越しに見ているみたいに、グニャリと歪んでいた。
「彩さん」
「……えっ?」
後ろから声を掛けられる。何度も聞いたことのある声だった。恐る恐る声のした方を向いてみると、大きな体の男の人が立っていた。
「あっ……貴嗣……君……?」
「はい。俺ですよ」
間違いない。私をずっと応援してくれていた、優しい男の子だった。その低い声と優しい笑顔で、すぐに誰だか分かった。
「な、なんで……さっきまでライブしてたんじゃ……?」
「ライブが終わって皆でゆっくりしてたところに、真優貴から電話がかかって来たんです。雨降ってるのに彩さんが1人でチケット売ってるって聞いて……心配になってダッシュで来ちゃいました」
大きな傘の中に、私を入れてくれている貴嗣君。隣には真優貴ちゃんもいて、千聖ちゃんを傘に入れてあげている。
「ちょっと失礼しますね」
「あっ……」
気が付くと、私はモフモフのタオルで頭を包まれていた。貴嗣君が濡れている私を拭いて、自分が来ていた防水のジャケットを私に着せてくれた。
すごく温かかった。肌や髪を傷つけないように、ポンポンと優しくタオルで包んでくれる。その気遣いと言うか、大事にされていることがとても嬉しくて……一気に我慢していた気持ちがブワッと溢れてきた。
「……っ!!」
「うおっ……! ちょちょ……あ、彩さん……?」
「……っ……貴嗣……くん……っ!」
「あらあら。そんなにギュッと抱き着いちゃって。ラブラブですね~」
「バイト先の先輩ってこの前も言ったじゃないですか……」
「分かってますよ。それじゃあ私は行きますね。……あなたの先輩さん、とっても頑張ってたんですよ? ちゃんと褒めてあげてくださいね」
「褒めてって……まあその……頑張ります」
その声の後、ビニール傘に雨が当たる音がどんどん遠ざかっていった。店員さんはお店に戻っていったみたいだ。
私はというと……どんどん出てくる涙を抑えるために、貴嗣君に思いっきり抱き着いてしまっていた。
「……私ね……千聖ちゃんが来る前に……もう諦めそうになっちゃったんだ……。もう無理だって思って……その時にこのネックレスを見て……貴嗣君の歌を思い出したんだ……」
「……そうだったんですね」
「もうダメだって思ったけど、千聖ちゃんが来てくれて……貴嗣君の歌を思い出して……私……っ……頑張ったよ……!」
「はい……本当に彩さんは頑張りました」
ゆっくりと顔を上げると、私を見つめて微笑んでくれている貴嗣君が。
いつも見せてくれるその笑顔を見て……もう我慢できなかった。
「……ああっ……うぅ……たかつぐ……くん……っ!!」
「……しんどかったですね。頑張りましたね。ナイスファイトです」
大声で泣く私の頭を、貴嗣君は大きな手で撫でてくれた。泣いている赤ちゃんをあやすようにゆっくりと撫でて、温かい言葉と一緒に私を優しさで包んでくれた。
「ありがとう、真優貴ちゃん。傘に入れてくれただけじゃなくて、タオルで拭いてくれるなんて……本当に真優貴ちゃんにはいつも助けられてばかりね」
「私も千聖さんに助けられてるんですから、お互い様ですよ♪ ……それにしても、雨全然止まないな~。雨のせいで体が冷えてるだろうし、お2人とも事務所に戻って温まった方がいいですね」
「そうね……と言いたいところだけど、彩ちゃんはすぐには動けそうにないわね」
真優貴と白鷺さんの視線がこちらに向けられる。俺も真優貴の意見に賛成だが、白鷺さんの言う通り、彩さんにはもう少し時間が必要だ。
「白鷺さんは真優貴と一緒に先に帰っておいてください。俺達はもう少ししてから行きます」
「……そうするしかないみたいね。……貴嗣君達も風邪を引かないように、なるべく早く戻ってくるのよ」
「承知しました」
そして真優貴と白鷺さんはひとまず事務所に戻ることになった。途中から来たとはいえ、白鷺さんもかなり濡れてしまっていたから、すぐに体を温める必要があるだろう。連れて行ってくれた真優貴に感謝だ。
「千聖さんもお兄ちゃんのライブ見てたんですね」
「ええ。休憩中にスマホでね。貴嗣君達の演奏、本当に素敵だったわ」
「ですよね~! ……そう言えば千聖さん、お兄ちゃんのこと名前で呼ぶようになったんですねぇ。どういった心境の変化ですか~?」
「……別に何もないわよ」
「ふふ~ん……そうですかそうですか~♪」
「……どうしてそんなにニヤニヤしているのかしら?」
「いえいえ、何でもないですよ~♪」
真優貴と白鷺さん、何か話しているみたいだ。雨のせいで何を話しているのかは全く聞こえないが……真優貴がニヤニヤしているということは、白鷺さんのことをからかっている……?
「……ご、ごめんね貴嗣君……っ……私のせいで……寒いよね?」
「全然大丈夫ですよ。今は遠慮なんかせず、思いっきり泣いてください。俺はいつまででも待ちますから」
「……っ……うん……」
「いっぱい泣いて落ち着いてきたら、事務所に戻って温まりましょう。風邪引いちゃったら、白鷺さんに怒られちゃいますからね」
「……ふふっ……そうだね……。事務所に戻ったらさ……っ……一緒にコーヒー飲みたいな……」
「はい。温かいコーヒー、一緒に飲みましょう」
「うん……っ……えへへっ……温かいコーヒーだねっ……♪」
俺の体に抱き着いている彩さんの顔に、少しだけ笑顔が戻る。涙を流した分落ち着いてきたのか、ちょっとだけ余裕が戻って来たみたいだ。
あともう少しすれば普段の元気いっぱいな彩さんに戻るであろうことを確信して、俺はさっきよりも弱くなった雨音を聞きながら、彩さんの頭を撫で続けた。
読んでいただき、ありがとうございました。
雨の中でチケットを売る場面での彩ちゃんの気持ちについては、原作のストーリーを参考にしつつ、自分の解釈を加えてみました。頑張っているけれど本当は不安を抱えている、ちょっと弱々しい(?)彩ちゃんを描かせていただきました。あと今回使わせていただいた曲、3曲ともすごくいい曲なのでおススメです。
GWということで、この連休を使って話を進めたいと思っています。パスパレのメインストーリーは終えられるよう、頑張って参ります。次回は連休のどこかで更新する予定です。
それでは次回もよろしくお願いいたします。
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