Silver Lining ~ BanG Dream Story~ 作:おたか丸
お気に入り登録をしてくださった方、ありがとうございます。
お待たせしました。パスパレメインストーリー、最終話でございます。
もうちょっと前に投稿する予定だったのですが、ネタが思い浮かばなくてスランプ状態でした。思いつくまま勢いで書いた部分が多いです。文章が駆け足&荒すぎなので、軽い気持ちで読んでいただけると嬉しいです。
それではどうぞ!
【Information】
アンケートへのご協力、誠にありがとうございます。現在のアンケートの締め切りを、勝手ながら《5/9 23:59》までとさせていただきます。ご理解の程よろしくお願いいたします。
すっかり暗くなった空が窓から見える、誰もいないレッスンルーム。今日も俺はこの部屋で床に座り、相棒であるギターのメンテナンスをする。弦はこの間白鷺さんと話した時に張り替えた(指を怪我したが)ので、今は丁寧にクロスでボディを拭いている最中だ。
「(彩さん達……会議時間かかってるなぁ)」
今日のレッスンが終わったタイミングで、彩さん達はスタッフさん達に呼び出された。近々行われるライブイベントについての会議だそうだ。大河達は予定が入っていたので、レッスン後すぐに事務所を後にした。だから今俺は1人だ。
彩さんと白鷺さんが雨の中でチケットを手売りしていた――その事実がSNSを通じて拡散され、瞬く間に世間の注目を集めた。手売りでのチケット販売はほとんど売れなかったものの、その根性の塊のような姿を見て、多くの人が彼女達への評価を改めることになった。
「雨の中でチケットを売り続けるなんて……見直した」や「今は地道に努力してる感じなんだな。明日チケット買いに行こうかな」等、日に日に肯定的な意見が増えている。チケットもネットでどんどん売れているそうだ。彩さん達の努力が、やっと目に見える形となって表れたのだ。
そのことが嬉しくて、自然と自分の顔に笑顔が浮かんできたところで、扉がゆっくりと開く音が聞こえた。
「あっ、彩さん。おかえりなさ……い……」
部屋に入って来たのは、やはりと言うか彩さんだった。笑顔で先輩を迎えようとしたのだが、彩さんの顔を見た瞬間、そんな気は失せてしまった。
「……うん……ただいま、貴嗣君……」
彩さんは今にも泣きだしそうな様子だった。そんな状態なのに、俺を見て精一杯笑顔を作ろうとしてくれている姿が、とても痛々しかった。
「……こっち、来ます?」
「……うんっ……」
壁を背もたれにして座っていた俺は、ギターをスタンドに置いてから、自分の隣に彩さんを誘導した。か細い声で答えた後、彩さんは疲れた足取りでこちらに来て、隣にちょこんと座った。三角座りでギュッと膝を抱えている彩さんを見て、自分の胸の奥にズキズキと痛みが走った。
「さっきの会議でね……明後日のライブイベントのこと、色々聞かされたんだ……」
彩さんは先程までの出来事を、ゆっくりと話し始めた。その声は悲しい気持ちに満ちていて、僅かに震えていた。
「私達、レッスン頑張ったから実際に演奏できるって言われたんだけど……私だけこの前と同じで口パクで行って欲しいって言われたんだ……ほら、私って本番に弱いでしょ? 歌おうって思っても緊張しちゃって……頭真っ白になっちゃったらまたライブ失敗しちゃうから……」
言葉が途切れてしまう。辛い気持ちを必死に耐えているのが伝わってくる。
擁護をするつもりはないが、スタッフさん達の言い分も分かる。明後日のライブイベントで失敗してしまったら、今度こそ次はないだろう。だからこそ、Pastel*Palettesに失敗は許されない。リスクが出来るだけ小さい道を取るべきだと考えるのは理解できる。
けれど彩さんが今まで必死に頑張って来たのは紛れもない事実だ。彩さんは確実に上達しているし、彩さん自身もそのことに自信を持ち始めている。専属のコーチさんからもその話は届いているだろうし、何ならスタッフさん達も時々レッスンの様子を見に来ている。彩さんがどれだけ努力しているか知らない、ということはないはずだ。
だが彼らには――この事務所には、Pastel*Palettesを守る義務がある。彩さん達を守り、活動を続けさせるために、苦渋の選択をしたということだろうか。だが彩さんを守るための選択が、彩さんを一番傷つけてしまっているというのは……悪質な冗談みたいだ。
「私ね……デビューすることを夢見て、3年間一生懸命頑張って来たんだ。でも全然上手くいかなくて、卒業しなきゃいけないって時に……Pastel*Palettesのボーカルとして加入することが決まったんだ」
「……それは知りませんでした。本当にギリギリだったんですね」
「うん。デビューが決まった時、すごく嬉しかった。やっと夢が叶ったって。努力が報われるって」
彩さんの声が、だんだん小さくなっていく。いつも元気一杯な彩さんの面影は、ここにはない。
「私ね……自分に才能がないこと、分かってるんだ。だから努力することしかできないし、そうすることでしか……前に進めなかった」
「でも彩さんはそうやって、少しずつ前に進み続けた。だからここまで来ることができた」
「……でも本番では……歌うなって言われちゃった……努力してきたけど……また叶わなかった……。今まで積み重ねてきたことが全部無駄になっちゃったみたいで……否定されたみたいで……」
そう言いかけて、彩さんは顔を膝に埋めながらこちらを見た。スピネルピンクの瞳には、薄らと涙が溜まっていた。
「正直……っ……すごく辛い……辛くて……っ……悲しい……」
自分の胸に手を当てる。心臓のさらに奥――“心”と呼ばれる部分が、まるで刃物で思いっきり刺されているように痛む。
目を瞑って、この耐えがたい痛みを感じる。これが彩さんの痛みなんだと、自分の心で受け取める。
「ごめんね……この前も貴嗣君に励まされたばっかりなのに……またこんな弱気なこと言っちゃって……頑張れって……私なら負けないって言ってくれたのに……こんなのアイドル失格だよね……」
「……どうして謝るんですか? 彩さんは何も悪いことしてないですよ」
マイナスな気持ちに支配されそうになっている彩さんに、ゆっくりと話しかける。
「彩さんは絶対に負けないです。最後まで頑張って、夢を叶えられる人です」
「……どうしてそこまで私のこと信じてくれるの? 私……貴嗣君に助けてもらってばっかりで……助けてもらってるのに何もできてないのに……どうして……?」
「どうしてって……当たり前じゃないですか」
彩さんの目を見つめる。真っ直ぐ見つめて、自分の気持ちを伝える。
「『何があっても彩さんのことを応援します』って決めたからです」
「……えっ?」
「彩さんからアイドルデビューの話を聞いた時に、俺はそう決めました。一度決めたことは、最後まで貫き通さないと。初志貫徹ってやつです」
「……っ!」
「彩さんの頑張る姿を、俺は近くでずっと見てました。どんなに辛い目にあっても、悲しい気持ちになっても、彩さんは絶対に諦めなかった。……俺の中の『丸山彩さん』は、そんな人。例え現実に打ちのめされて倒れても、また起き上がれる強い人。そして自分の今までの努力を信じて、何があっても諦めない凄い人です」
「たか……つぐくん……!」
「何があっても自分を信じ続けるんです。『努力すれば必ず夢は叶う』って、最後の一瞬まで信じ続けるんです。夢を叶えるのに絶対に必要なモノは……自分を信じる強い心です」
胸に握り拳をトントンと当てる。俺のジェスチャーを見て、彩さんも静かに自分の手を胸に当てる。
「……うん。そうだよね。『努力すれば必ず夢は叶う』って信じ続けたからこそ、私は今ここにいる。自分を信じ続けたからこそ、辛くても諦めなかった」
「ええ。その通りです」
「……また貴嗣君に助けられちゃったね。……大切なことを思い出させてくれて……本当にありがとう」
「どういたしまして」
彩さんに笑顔が戻って来た。そのことが嬉しくて、俺も一緒に笑う。
「……やっぱり私……ここで諦めたくない。例え望む結果にならなくても……最後の1秒まで頑張り続けたい」
「うんうん。それでこそ彩さんです」
「私……ライブの日に、スタッフさん達にお願いしてみる。歌わせてくださいって……自分の気持ちを伝えてみる」
「それが彩さんの答えなんですね」
「うん。これが私にできることだから。……ねえ、貴嗣君?」
「はい?」
彩さんは唐突に、俺の名前を呼んだ。
「当たり前だけど、ライブ当日に貴嗣君は私の隣にいない。今はこうやって隣にいてくれるから、頑張ろう! って思えるんだけど……やっぱりちょっと不安なんだ。だから……1つだけお願いしてもいいかな?」
「ええ。もちろん」
俺が答えると、彩さんは綺麗な両手をスッと差し出してきた。
「……バイト終わりの時みたいに……私の手、握って欲しいんだ。貴嗣君にギュって握ってもらえたら……勇気が出るから」
「分かりました」
断る理由なんてない。俺はその小さい両手を包み込むように、優しく握った。俺の手よりも遥かに小さい彩さんの両手は、少し力を入れたら壊れてしまいそうに見えた。
「……ふふっ♪ 貴嗣君の手って、ヒンヤリしてるよね」
「昔からなんですよねー。嫌でした?」
「ううん! 寧ろ気持ちいいよ? それに、手が冷たい人って心が温かいって言うし……私は……好きかな……///」
「……ばっちし聞こえてますよ~」
「えっ!?/// う、嘘!?」
「この距離ですし、小声でも聞こえますよ~」
「ううっ……は、恥ずかしぃ……///」
ほんのりと頬を赤く染める彩さんがとても可愛らしくて、ちょっとからかってしまった。慌ててさらに顔を赤くする彩さんを見て、いつもの彩さんが戻ってきたと分かって、幸せな気持ちになった。
「まあでも、そう言ってもらえて嬉しいです。ありがとうございます。……ところで彩さん」
「ん?」
「あとどれくらい握ってましょうか?」
「う~ん……」
数秒考えた後、彩さんはちょっと遠慮がちに口を開いた。
「……あと10分くらい……?」
「うおっほい、結構長いっすね」
「あうっ……だ、だめかな……?」
「いえいえ。大丈夫ですよ。はい、ギュー」
「あっ……えへへっ……/// ありがとう……///」
こうして俺は約束通り、10分間彩さんと雑談をしながら手を握り続けた。幸せそうな顔をしている彩さんを見て、俺の胸の痛みも徐々に治まっていった。
「……貴嗣君……私、頑張ってみるね」
「はい。俺も大河達と一緒に客席から応援してます」
「うんっ! ありがとう!」
真っ暗な夜空が見える、俺達以外誰もいないレッスンルーム。床にペタリと座って、お互いの顔を見つめ合っていた俺と彩さんを、優しくて温かい雰囲気が包んでくれていた。
◇◆◇◆
そしてライブイベントが終わって数日後。
「それじゃあ、Pastel*Palettesライブイベントの成功を祝って……かんぱーい!」
「「「かんぱーい!!」」
Pastel*Palettesの皆さんと俺達Silver Lining、そして真優貴を加えた10人は、母さんが経営している喫茶店である“Sterne Hafen”の地下を貸し切って、打ち上げパーティーをしていた。
ライブイベントは成功した。成功と言うより、大成功だ。
俺達は観客としてライブに参加したから実際に見たわけじゃないが、彩さんは俺に話してくれた通り、本番の準備中に、スタッフさん達に直談判をしたそうだ。勿論最初は渋っていたスタッフさん達も、彩さんの必死の懇願と、白鷺さんを始めとしたメンバーからの願いもあって、彩さんが実際に歌うことを許可したそうだ。ステージの上で歌っていた彩さんは、緊張が見られたものの、今までで一番楽しそうに歌っていた。
そしてライブが終わってから数日後の今日、皆お疲れ様でしたということで、こうやってうちのお店で打ち上げをしている。上のお客さんの邪魔にならないように、しっかりと階段の防音ドアは閉めて、色んな音楽をプレーヤーでランダムに流しながら、自由な時間を楽しんでいる。
「ねえねえ貴嗣君! この部屋入ってもいい~?」
「ああ、いいですよ~日菜さん。ちょっと待ってくださいね、電子ロック外します」
「ありがと~! ……わあっ、なんだかスパイ映画みたい……!」
日菜さんに呼ばれて、俺はSilver Liningが練習によく使っている小さなスタジオの前に向かった。ドアノブのところにある機械にパスワードを入れると、ピーという機械音と共に鍵が解除された。
「はい、どうぞ~。ちょっと狭いかもですが、自由に見ていってください」
「はーい! それじゃあお邪魔しまーす!」
「山城さん、自分とイヴさんも入ってみていいですか?」
「もちろんですよ。さあ、遠慮せずどうぞ~」
「ありがとうございます、タカツグさん! ……わあっ~……! 素敵なスタジオです!」
日菜さんに続いて、大和さんとイヴちゃんもスタジオの中に。3人とも楽しそうにスタジ
オの中を探検している。
「貴嗣君」
「ん? ……おっ、白鷺さん。お疲れ様です」
「ええ。お疲れ様。今大丈夫かしら? もしよければ、少しお話しでもしない?」
「喜んで」
スタジオの入り口から日菜さん達を眺めていると、今度は白鷺さんに声を掛けられた。手にはやはりと言うか、紅茶が淹れられた紙コップを持っている。白鷺さんのお願いに二つ返事で答えると、先輩は嬉しそうに笑ってくれた。
「まずは……色々とありがとう。あなた達に沢山助けられたわ」
「いえいえ。それがスタッフさんからの依頼でしたからねー。まあ練習見てって言われた時はどうなることやらと不安でしたけど、今皆さんが楽しそうにしているのを見たら、上手くいったのかなーと」
「そうね。あそこにいる彩ちゃんなんて、とても楽しそうよ」
「ん?」
オレンジジュースを喉に流し込みながら白鷺さんの話を聞いていた俺は、ふと彩さんの姿を探す。すると……。
「おおっ! 流石彩さん! 自撮りすっごく上手ですねー!」
「ありがとー穂乃花ちゃん! じゃあ今度は、皆決め顔で撮ろっ!」
「クールなフェイスですねぇ。……こんな感じかな?」
「真優貴ちゃん良い感じ! じゃあ一回撮るねー! はい、チーズ!」
パシャパシャ!
「……あっ、大河君目瞑ってる」
「えっ、俺!? ……あっほんとだ」
「あははっ! ちょっと大河~思いっきり目閉じてるじゃん! あははっ!」
「って言うか大河君、ちょっと顔強張ってるよ? もしかしたら緊張してる?」
「うげっ……流石名女優山城真優貴ちゃん……この写真見ただけで緊張してるとか分かるのか……」
「もしかしたら……女の子ばっかりだから……?」
「……なんで花蓮って時々そんな意味分からんくらい鋭いの?(畏怖)」
「あははっ! 大河君おもしろ~い!」
「……あざっす……///」
「あっ、大河彩さんに褒められて照れてる」
「大河君顔真っ赤~」
「……貴嗣~! 兄貴ィ~! 助けてくれぇぇぇぇぇ……」
大河が彩さんと穂乃花、花蓮に真優貴に散々弄られているという光景がそこにはあった。確かに皆めっちゃ楽しそうだ。
「ほらね?」
「エンジョイしてますね~。……また後でそっち行くから、それまでは大河だけで頑張ってくれ~」
――マジかよぉぉぉぉぉぉ……
「貴嗣君も嬉しそうね」
「はい。皆の嬉しい気持ちが伝わってきますから。それに……彩さんがあんなに楽しそうに笑ってくれているのが、とても嬉しいんです」
「彩ちゃんも頑張ったものね。……貴嗣君がしっかりと支えてあげたから、あの子はここまで頑張れたのかもしれないわね」
「どうなんですかねー。確かに励ましはしましたけど、実際に行動して夢を掴んだのは彩さんですし……俺はそんな影響与えてないと思いますけど」
「そんなことないわよ。自分では分からないかもしれないけれど、彩ちゃんは確実にあなたから影響を受けている。それも、良い影響をね」
「……なんかそう言われるとこそばゆいですね」
「謙遜しなくてもいいのよ。それに……私もあなたから影響を受けたわ」
「えっ? 白鷺さんが?」
驚いて白鷺さんの方を向く。そんな俺とは対照的に、白鷺さんはいつものように余裕そうな笑みを浮かべている。
「あなたは私と正反対の考えを持っているのに、私のことを理解しようとしてくれた。普通なら私を拒絶するところなのに……こんな私だからこそ出来ることがあるって、あなたは教えてくれた。そうやって他者の立場に立って理解しようとする姿勢は、私も見習わなければと思ったの」
白鷺さんはそう言うと、視線を俺から彩さんに移した。向こうで楽しそうに自撮りをしている彩さんを、白鷺さんは見つめている。
「初めは彩ちゃんやあなたのことが理解できなかったし、まだ分からないことだらけ。でもあなたが一生懸命私の良いところを見つけてくれたように、私もあなた達を理解していきたいの」
「うんうん。いいですね、それ。これからPastel*Palettesとして活動するの、絶対楽しくなりますよ」
「そうね。皆個性が強いもの。……この“楽しい”って思えるきっかけを作ってくれたのは、貴嗣君よ。だから……ありがとう」
「はい。どういたしまして。これからもよろしくお願いしますね、白鷺さん」
「ええ。こちらこそよろしくね、貴嗣君」
お互いに見つめ合って、笑顔になる。初めて出会った時は考え方の違いからやっぱり壁を感じていたけれど、今の俺と白鷺さんの間に壁は無い。大きな壁は壊されて、代わりに橋が架かっているような――100%ではないけれど、お互いの個性を理解できたような気がした。
「……ところで貴嗣君」
「はい? なんでしょうか?」
「私はあなたのことを名前で呼んでいるわよね?」
「はい」
「なのに私のことは“白鷺”呼びなのは……どうしてかしら?」
「…………へっ??」
気の抜けた声が出てしまった。白鷺さんは笑っているが、その笑顔からは何故か物凄い圧力を感じた。
「……下の名前で呼んでもいいってことですか?」
「そういうことよ。折角こうやって2人で色々話したのだから、そろそろ私のことを名前で呼んでくれてもいいんじゃないかしら?」
「まあ、そこまで言うなら……ちさ――」
「ブーシードー!!」
「「!?」」
突然聞こえたのは、イヴちゃんの声だった。バッとスタジオの方を振り向くと……何故か木刀を持ってこちらに突進してくるイヴちゃんがいた。
「タカツグさんっ!! こ、これはその……かの“ボクトウ”というものなのでしょうか……!!」
「そ、そうだよ……正確にはそれ
「スタジオの奥にあった物置からです!! タカツグさんやマユキさんの道着や棒、ライブで使うような大きなスピーカーやプロジェクター等、面白いものが沢山置いていました!!」
「……杖(合気道で使う棒のこと)まで……!? って、そうか物置かぁ……」
思い出した。ここに引っ越してきた際に、俺と真優貴の稽古道具や、母さんが趣味で購入した音響機材等々、置き場に困るものをとりあえずスタジオ奥のスペースに入れておいたのだ。
なんちゅーところからこんなもの持ち出してくるのか……ん?
「あれ? そもそも物置の場所、外から見えないようにしてたはず……一体誰が?」
木剣を両手で持って興奮しているイヴちゃんを抑えながら、恐る恐るスタジオの方を見てみると……。
「――てへっ♪」(めっちゃ可愛くウインク)
「(やっぱり日菜さんでしたかぁぁぁぁぁ)」
まさか天才というのはこういうところでも発揮されるのだろうか? 結構巧妙に隠していたはずなのに、日菜さんはいとも簡単にそれを見破ったようだ。
「ごめんね~貴嗣君。なんだかスタジオ見てたら、ビビッ! ってきて、チラッと掛けてあった布を外したら……なんとなんと!! 隠し部屋でした~!!」
「……うちはゲームのダンジョンじゃないですよ日菜さん……ってちょちょ、イヴちゃん、木剣振り回すのは危ないからストップ……!」
「タカツグさん!! こ、このボッケンというものを……私に少しの間貸してもらえないでしょうか……!? これを振っていると、新しい道が開けそうなんですっ!!」
「お、おう……そうか……別に貸す分には構わないよ。でもそれ多分父さんのやつだから、代わりに他のやつを貸すよ」
どうにかイヴちゃんの手から木剣を取って、スタジオの奥に向かったのだが、またしてもそこで衝撃の光景を目にすることになった。
「フヘ、フヘヘヘ……♪」
「……Oh」
大きなスピーカーがぎっしり詰まった奥のスペースに、なんと大和さんがスッポリと嵌っていたのだ。それだけではなく、中々に独特の笑い声を発しながら頬を赤く染めている。どうやら興奮しているみたいだ。
「(……えっ、なんでそんな興奮してるんすか……)」
「す、すみません山城さん……フヘ……実は自分、こんな感じのその……“隙間”を見ると入りたくなるんです……フヘヘ……///」
「Hey,S〇ri.女性から性癖をカミングアウトされた際、どういった反応をするのが適切か教えて」
『すみません、よくわかりません』
「ですよね~」
人工知能にこの問いは難しすぎたみたいだ。ごめんなSi〇i。
「それにこのスピーカーって……5年前に数量限定で販売された激レアスピーカーですよ……! 他にも限定品や特注品がこんなにズラリ……その中にこうやって挟めるなんて……フ……フヘ、フヘヘヘ……♪♪」
「(マジでどう反応しよ)」
心の底から嬉しそうな大和さんに、俺はかける言葉が見つからなかった。フヘヘという笑い声のトーンがどんどん高くなっていることからも、興奮度が増していることが分かる。
「ジブン……もうここに一生住みたいです……フヘヘ……///」
「」
……んんん???
「麻弥ちゃん、それって貴嗣君と結婚するってこと~?」
「日菜さん余計なこと言わないでくださいこれ以上自体がややこしくなるとヤヴァイ――」
「……貴嗣君?」
「……えっ……」
日菜さんの前に立って説得を試みるものの、背後から今までに聞いたことが無いほどの震え声が聞こえた。ゆっくりと振り向くと……さっきまで大河達と自撮りを楽しんでいた彩さんが立っていた。
「あ、彩さん……?」
「麻弥ちゃんと……結婚……するの……?」
「キャー♪ 貴嗣君だいたーん!」
「(もうこれ詰んでるんじゃ……)」
日菜さん。あなたがトラブルメーカーだということ、今この身をもって体験しております。
「だ、だめだよ貴嗣君!! そんな……ま……麻弥ちゃんと結婚だなんて!!」
必死の形相で、俺の目の前に近づいてくる彩さん。あわわわ……!! と慌てております。顔が近いです。迫りすぎです。
「一言もそんなこと言ってないですよ彩さん……それと俺まだ15ですよ? 仮に結婚したいと思ってもできないですよ」
「や、やっぱり麻弥ちゃんと結婚したいの……!?!?」
「彩さん落ち着いてー」
「……確かに自分が山城さんと結婚すれば……一生この隙間に挟まっていられる……フヘヘヘ……///」
「はうっ……!?///」
「(大和さんトリップしすぎやろ……)」
とんでもない発言を大和さんが投下しました。今までに見たことないほど嬉しそうな状態で結婚云々の話をするのは……マズいです。
「う~ん……こういう場面を日本語で何と言うんでしたっけ……この前勉強したのに、思い出せません……」
「イヴちゃん、あれは修羅場って言うんだよ♪」
「……! 思い出しました! シュラバです!」
「……真優貴ちゃん? イヴちゃんにそんな言葉教えてはダメよ」
「はーい!」
彩さんは勘違いしてるし、大和さんは興奮しすぎて凄いこと言ってるし、日菜さんはニヤニヤしながらこの光景を見ているし、イヴちゃんはヤベー日本語をラーニングしているし、千聖さんはこっちを笑顔で見て……ああっ、視線が恐ろしいほどに冷たいですよぉ先輩ぃ!!
「みなさーん!! そろそろ打ち上げ終わりなので、集合写真撮りましょー!!」
スタジオの外――カフェのブースから、大河が大きな声で俺達にそう呼びかけた。集合写真というキーワードに、彩さん達の意識が俺からそちらに向く。
「あっ、もうこんな時間なんだ!? やっぱり楽しい時間って過ぎるのが早いな~」
「……日菜さんは楽しかったですか?」
「うんっ! 特にオロオロしてた貴嗣君がね!」
「は、ははは……なら良かったです……」
日菜さんとそんな会話をしながら、集合写真を撮るために移動する。俺としては楽しさよりも焦りが勝ってたりしたのだが、日菜さんが楽しそうな笑顔を見たら、まあこういうのも良いかと思えた。
「じゃあ貴嗣と彩さんが一番前ねっ!」
「りょーかい」
「そうそう。そんな感じで……ああ、彩さん、もうちょっと貴嗣君とくっついてください」
「う、うん……分かった……///」
一番前ということで、俺と彩さんはしゃがんでほぼ密着状態だ。女の子特有の甘い香りが、彩さんからふんわりと漂ってくる。
肩がちょんと当たって、反射的にお互いを見る。彩さんは恥ずかしいながらも嬉しいのか、照れながらもニコニコとしている。
「ねえ、貴嗣君」
「はい?」
「私、今すっごく楽しいんだ。皆とステージに立てて、こうやって打ち上げもやって……これも全部、貴嗣君が私のことを応援してくれたからだよ。だから……ありがとう」
俺の隣にいるのは、夢を掴んだ素敵なアイドルさん。今日まで本当に色んな事があって、辛い思いもしてきたけれど、それでも彩さんは諦めなかった。
――それじゃあタイマー押しますねー! 10秒間そのままでお願いしまーす!
「どういたしまして。これからも応援し続けますから、覚悟しといてくださいよ~?」
「うんっ! これからもよろしくね!」
でもゴールはここじゃない。寧ろここからスタートだ。
これからも彩さんには、色んな出来事が起こるはずだ。その中には楽しいこともあるだろうし、やっぱり辛いこともある。
でも、例え大きな困難に直面したとしても、彩さんだったら大丈夫。
――はい、チーズ!!
「わあっ、いい写真です! 皆さんいい笑顔してますねー!」
「はい! 一致団結、ですっ!」
「素敵な写真ね。また事務所に飾っておきましょうか」
「うんうん! それにしても……彩ちゃん、ちょっと貴嗣君にくっつきすぎじゃな~い?」
「え、ええっ!? だってしょうがないよ……そうしないと皆カメラに入らなかったんだし……///」
だって彩さんは困難を乗り越えたんだから。
乗り越えて、今こんなに素敵な笑顔を見せてくれたんだから。
読んでいただき、ありがとうございました。
皆様のおかげで、無事メインストーリーを終えることができました。本当にありがとうございます。登場キャラが彩と千聖に偏ってしまったことが、個人的には非常に悔しいところであります。日菜、麻弥、イヴの3人は本編であまり触れられなかった分、キャラエピは特に気合入れて書きます。
今後の予定は、キャラエピソード5話分→エピローグ→Chapter 4となっております。さあChapter 4は一体どのバンドなのか……って、流れ的にもう大体お分かりでしょうか?
次回は早くて今週の土日、遅くて来週の土日までには投稿する予定です。それでは次回もよろしくお願いいたします。
ハロハピでのあなたの推しは?
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弦巻こころ
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瀬田薫
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北沢はぐみ
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松原花音
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奥沢美咲