Silver Lining ~ BanG Dream Story~   作:おたか丸

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 新たにお気に入りをしてくださった皆様、ありがとうございます。そして☆10評価をくださったなぁくどはる様、本当にありがとうございます。温かいコメントも頂いて、嬉しすぎてぶっ飛びました。

 今回は千聖さんとのお話です。タイトルは適当です。

 それではどうぞー。


第43話 電車の乗り換えって難しいよね

 

 

 

 

 いつでも多くの人が利用している、この町の中央駅。多くの人が行き来しているこの駅の改札口の前で、俺は真優貴と美咲ちゃん、そして花音さんと話していた。

 

 

「それじゃあ行ってくるねーお兄ちゃん!」

「おう。水族館、楽しんでおいで」

 

 

 今日は真優貴が美咲ちゃんと花音さんと一緒に水族館に行く。この前真優貴が仕事の関係で水族館のチケットを貰ったので、仲良しのメンバーで遊びに行くことに。俺は真優貴に頼まれて、そんな3人の見送りに来ている。

 

 俺は行かないのか? と思うかもしれないが、真優貴が貰ったチケットは3人分。当然真優貴は俺を誘ってくれたが、折角だし友達と行っておいでと勧めた。俺としては家族だけじゃなく、友達との思い出も増やしてほしいからだ。

 

 

「ごめんね貴嗣君。どうせなら4人で行けたら良かったんだけどねー」

「大丈夫だよ美咲ちゃん。俺のことは気にせず、今日は楽しんできて」

「うん。ありがと。今度行く時は貴嗣君も行こうね」

「ああ。その時は頼むよ」

 

 

 美咲ちゃんは笑って答えてくれた。入学してからずっと俺達兄妹と仲良くしてくれている美咲ちゃんには感謝しかない。今日も真優貴のこと、よろしくです。

 

 

「花音さんも水族館、是非楽しんできてくださいね」

「ありがとう! ずっと行きたかったところだから、とっても楽しみ。……次は貴嗣君も入れた4人で行きたいな」

「ありがとうございます。また行きましょうね」

「うん……! 約束だよ?」

 

 

 もしかすると、今日のお出かけを一番楽しみにしていたのは花音さんかもしれない。この人は水族館が大好きだ。特に海月のことになると人が変わる。今日も海月のブースに行くのだろう。

 

 

「じゃあそろそろ電車来るから行くねー! お土産期待しててね、お兄ちゃん!」

「おうよ。――それじゃあ、皆行ってらっしゃい」

「「「行ってきます!」」」

 

 

 こうして3人は楽しそうに話しながら駅の改札口を抜けていった。

 

 話している間はあまり気にしていなかったのだが……中々の美少女3人組だよなぁ。こう遠くから見ると実感が湧く。水族館でナンパとかされたりして……って、それは考えすぎか。

 

 

「(さあ、用事は済んだし、帰ろっと)」

 

 

 そう思った瞬間、誰かに背中を指先で突かれた。振り向くと、これまたお洒落をした可愛らしい女性がいた。

 

 絹のような綺麗な髪に、眼鏡から覗く紫色の瞳。とても見覚えのある姿だった。

 

 

「た、貴嗣君……よね……?」

「その声……千聖さん?」

 

 

 間違いない。真優貴の大先輩、女優兼アイドルの白鷺千聖さんだった。普段と全く違う服装と眼鏡(恐らく伊達眼鏡)は変装だろうか?

 

 正直この格好だけなら、千聖さんだと気付かなかったかもしれない。声を聞いてやっと分かったくらいだ。その声もささやき声に近く、無意識の内にこちらの話し声のボリュームも小さくなっていた。

 

 

「お疲れ様です。こんなところで会うなんて奇遇ですね。お出かけですか?」

「ええ……そ、そんなところよ……」

「?」

 

 

 さっきから千聖さんはオドオドしている。一体どうしたんだろうか?

 

 

「ねえ貴嗣君。少しお願いがあるのだけれど、聞いてもらえるかしら?」

「はい。大丈夫ですよ」

「……! 良かった……!」

 

 

 そう答えてから、千聖さんはスマホの画面を俺に見せてくれた。そこには喫茶店らしきものが表示されていた。

 

 

「今からこの喫茶店に行こうと思っているのだけれど……その……どの電車に乗ればいいのか教えて欲しいの」

「電車ですか? それなら簡単ですよ。ちょっとスマホ借りますね」

 

 

 千聖さんのスマホを手に取り、Goo〇leでその喫茶店を検索する。すると自動的に今いる場所からの経路が表示された。

 

 ここから3駅先で降りて、地下鉄に乗り換え。2駅先で降りれば、そこから歩いてすぐのところに喫茶店があるそうだ。ご丁寧に電車の発車時刻まで教えてくれている。便利な時代になったものだ。

 

 

「ふむふむ。分かりました」

「ほんと?」

「はい。まずは4番ホームに行って、11:20発の快速に乗ります。次に3駅先で降りて――」

 

 

 俺はスマホの画面を使いながら千聖さんに説明した。

 

 

「――それから歩いて5分で、喫茶店に到着です」

「……」

「千聖さん?」

「……! な、何かしら?」

「さっきからボーっとしてますけど、大丈夫ですか? もしかしたら俺の説明、分かりづらかったですかね?」

「い、いいえ! そんなことないわ。……とにかく11:20発の電車に乗ればいいのよね?」

「まあそうですね。……なんて言ってる間に、もうすぐ電車が出そうですね。早めに行った方が良いかもです」

「えっ……!? あ、あと2分……!?」

 

 

 千聖さんは腕時計を見て驚いた。

 

 

「い、色々教えてくれてありがとう! それじゃあ私は行くわ!」

「はい。どういたしま――……って、行っちゃった……」

 

 

 千聖さんは慌てて改札口を抜けていった。4番ホームはすぐそこだし、そんなに急ぐ必要はないのだが……意外と心配性なんだろうか?

 

 

「(時間に人一倍厳しい……とか?)」

 

 

 千聖さんは芸能人として沢山の仕事をこなしてきた。仕事に遅刻なんて論外だろうし、そういうところは厳しいのかもしれない。うん、きっとそうだ。

 

 

「……あれ?」

 

 

 そんなことを考えていると、少し離れたところに千聖さんが見えた。無事ホームに着けたみたいだが……千聖さんは不安そうに周りを見渡していた。まるで1人で電車に乗るのが初めての子どものようにオドオドしていた。何度も電子時刻表とスマホの画面を交互に見て、首を傾げていた。

 

 

 そして電車が到着したのだが……そこで問題が発生した。

 

 

「(……って、千聖さん逆のホームの電車乗ってる!?)」

 

 

 まさかの反対側に停車していた電車(同じく11:20発)に千聖さんは乗ってしまったのだ。このままだと全く別の場所に行ってしまう。

 

 どうにかして千聖さんの元に行って知らせなければ――そう考えて、俺は鞄やポケットに手を入れて、何か使えるものは無いかと探した。そして俺はあるものを見つけた。

 

 

「(そうだ! IC〇CA!)」

 

 

 水色のカモノハシがマスコットキャラクターのカード式乗車券だ。この前Silver Liningの皆で遊びに行った時にいくらかチャージしたから、このまま改札を通れるはずだ。

 

 カードを手に持って改札を抜け、ダッシュで千聖さんの元に向かった。

 

 

 

 

 

『まもなく、3番乗り場から電車が発車いたします。ご利用のお客様は――』

 

 

 

 

 

「千聖さん……!」

「えっ!? 貴嗣君……!?」

 

 

 電車の奥の方に座っていた千聖さんを何とか見つけた。電車に入り、千聖さんの元に行って説明する。

 

 

「千聖さん。この電車じゃないです。今反対側に泊まっている方の電車に乗るんです」

「そ、そうなの……!?」

「はい。ほら、早くあっちの電車に乗り――」

 

 

 

 ――ウィーン(扉が閉まる音)

 

 

 

「「あっ……」」

 

 

 2人の声が重なる。

千聖さんが立ち上がろうとしたタイミングで、電車の扉が閉まった。そのままガタンゴトンとリズミカルな音を鳴らしながら、電車は動き始めた。

 

 

「……た、貴嗣君……その……本当にごめんなさい……」

「全然大丈夫ですよ。とりあえず次の駅で降りて、また戻りましょう」

 

 

 座っている千聖さんはとても申し訳なさそうにしている。そんな千聖さんに気にしていませんよと伝えてから、車両の上に付けられている液晶画面を見る。次の停車駅を確認してから、スマホで新しく経路を調べる。

 

 

「……」

「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ、千聖さん。どうやったら戻れるか、今から調べてみますね」

「ええ……ありがとう……」

 

 

 不安そうにしている千聖さんにそう話しかける。席は満員なので、俺は席の端に座っている千聖さんの隣に立って、これからどうするべきかを考え始めた。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 電車に揺られること十数分。無事に次の駅に到着し、俺と千聖さんは電車から降りた。隣のホームに移動して、今は電車を待っている最中だ。

 

 

「次の電車は7分後の快速ですねー。休憩スペースも埋まってますし、仕方ないですけど立って待っておきましょうか」

「そうね。……ねえ貴嗣君。隣に止まっている電車も同じ行き先のようだけれど、乗らないの?」

「ああ、あれは普通車ですから各駅に止まって、着くのに時間が掛かっちゃうんです。快速に乗る方が早く着きます」

「ふ、普通……? 快速……?」

 

 

 俺の説明に、千聖さんは難しそうな顔をしながら首を傾げた。普通電車と快速電車のことなのだが……やっぱり自分の説明が良くなかったのかもしれない。

 

 

「ごめんなさい千聖さん。俺の説明が下手でしたよね」

「ち、違うの! そうじゃなくて……その……」

 

 

 俺の謝罪を、千聖さんは慌てて否定した。そして少し恥ずかしそうに口を開いた。

 

 

「あ、あのね貴嗣君……笑わないで聞いてくれる……?」

「え、ええ……」

 

 

 どうしたどうした? 一体何を言い出すつもりなんだ?

 

 

「私……電車の乗り換えが苦手なの……」

「……へ?」

 

 

 で、電車の乗り換えが苦手……? 千聖さんが……?

 

 

「じゃあ俺が喫茶店への行き方を説明していた時も、全然どの電車に乗って良いのか分からなかったってことですか?」

「……ええ」

 

 

 思い返せば、千聖さんはあの時とても困った顔をしていた。半分放心状態のようにボーっとしていたのも、千聖さんにとっては、電車の乗り換えの説明が難しすぎたからだったのか。

 

 

「ごめんなさい……分かったようなフリをして、結局貴嗣君に迷惑を掛けてしまったわ……」

「いえいえ。全然大丈夫ですよ。それじゃあ千聖さんが無事喫茶店に着けるよう、俺が案内しますね」

「そ、それは流石にダメよ……! 今でも貴嗣君に迷惑かけてばっかりなのに、お店までついてきてもらうなんて……」

「それじゃあ1人で行けます?」

「そ、それは……」

 

 

 千聖さんは黙ってしまった。少し意地悪な質問だったかもしれない。

 

 

「じゃあ決まりですね。安心してください、ちゃんとお店まで案内しますから」

「……本当にありがとう」

「どういたしまして。ほら、そろそろ電車が着ますから、これに乗ってとりあえずさっきの駅まで戻りましょう」

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 そしてお昼の2時頃。千聖さんと俺は無事に目的の喫茶店にたどり着くことができた。千聖さんを案内するという仕事を終えた俺はそのまま帰った――

 

 

「貴嗣君、このお店の紅茶はどう?」

「……すっごい美味しいです。ほろ苦さが絶妙ですね」

「でしょ? お口にあって良かったわ」

 

 

 ――のではなく、千聖さんと一緒に喫茶店で紅茶を飲んでいた。

 

 今日は千聖さんの貴重なプライベートの時間だし、一般人は邪魔しないでおこうと思ってそのまま帰ろうとしたのだが、千聖さんが「折角ここまで来たのだから、一緒にお店に入らない?」と提案したのだ。

 

 千聖さんは多くの人に顔が知られている女優兼アイドルだし、一般人である自分と一緒にいるところを見られたら面倒になる。そう考えて断ったのだが……――

 

 

 

 

 

『お気持ちは凄く嬉しいですけど……ほら、千聖さんって女優でアイドルなんだから、男の俺と一緒にいるのを見られたらヤバイでしょ?』

『それなら大丈夫よ。今日はこうやって変装しているから』

『変装って……しかも今日千聖さんオフなんでしょ? 元々1人で来る予定だったんだし、俺がいたら邪魔になるんじゃ……』

『それも問題ないわ。だって貴嗣君と話すのは楽しいもの』

『うっ……』

『……決まりね♪』

 

 

 

 

 

 ――という感じで、上手いこと言い包められてしまったのだ。前から思っていたが、やっぱり千聖さん、口が上手い。

 

 

「どうしたの? そんなにソワソワして」

「いやいや、千聖さんと一緒にいるのがバレてないか心配なんですって……」

「大丈夫よ。席も奥の方だし、この変装がバレたことはないわ。……というより、貴嗣君だって真優貴ちゃんとよく出かけているじゃない。それと何が違うのかしら?」

「真優貴は妹だからまた違いますって。仮にバレても『兄妹なんですよ~』って言って逃げられるし」

「じゃあもしバレたら『従兄です』って答えるようにするわね」

「そういうことじゃないですよ……あと従兄じゃないし……

 

 

 ああ言えばこう言うで、こちらの発言の裏をかかれてしまう。さっきから負けっぱなしだし、千聖さんはご満悦といった様子でニコニコしている。

 

 

「そういえば……」

「はい?」

「家での真優貴ちゃんってどんな感じなの? 私は現場でのあの子しか知らないから、少し気になるの」

「家での真優貴ですか。そうですねー……」

 

 

 顎に手を当てて、日頃の真優貴について色々考える。

 

 

「甘えん坊ですかね」

「あら、甘えん坊とはちょっと意外ね」

「元々真面目な性格ですから、現場ではすごくしっかりしていると思います。その反動もあって、家では母さんや俺に甘えたくなるらしいです」

「なるほど……確かに仕事の休憩中だと、真優貴ちゃんから家族の話を聞くことが殆どだわ。……特に貴嗣君の話題が」

「俺ですか?」

 

 

 紅茶と一緒に注文していたパンケーキを一口食べてから、千聖さんは話を続けた。

 

 

「『お兄ちゃんに作ってもらったお弁当が美味しい』だったり」

「おおっ、それは嬉しい」

「『新しい服を選び合いっこして楽しかった』とか」

「ついこの間の話ですね。俺も楽しかったぞー」

「『お願いしたらお風呂上りに髪を乾かしてくれる』とも」

「いつも頑張っているんだし、それくらいお安い御用です」

「あとは……『休みの日、お昼寝の時に膝枕してくれる』とも言っていたわね」

「おうおう、そこまで話しているとは驚きですな」

 

 

 確かに膝枕はよくするし、そのまま俺も一緒に寝てしまうことも多い。だがそれを千聖さんに知られているのは……何だか気恥ずかしい感じがする。

 

 

「仲良しなのは良いことだわ。膝枕はその……兄妹としてはやりすぎだとは思うけれど」

「あはは……まあそこは大目に見てくれるとありがたいです。真優貴も毎日頑張っているから、俺としては可能な限り真優貴の望みは叶えてあげたいなーって思うんです。それに……」

「それに?」

「やっぱり兄妹仲良しって、良いじゃないですか。家族なんだし、仲良しの方が絶対いいです」

「ふふっ、そうね」

 

 

 千聖さんは微笑みながらそう答えた。

 会話が途切れて、暫しの沈黙。お互い同じタイミングで紅茶を飲む。紅茶の香りと苦みを堪能していると、再び千聖さんが話しかけてきた。

 

 

「その……今日はごめんなさい。私のせいで貴嗣君を連れまわしてしまったわね……」

「またそのことですか? 俺は気にしてないから大丈夫ですよ」

 

 

 先程の楽しそうな雰囲気から変わって、千聖さんは申し訳なさそうにそう告げた。電車に乗っていた間もずっとこんな様子だった。

 

 喫茶店で楽しい時間を過ごせば千聖さんも気が紛れるかなーなんて思っていたのだが、俺は少し楽観的すぎたみたいだ。千聖さんはずっと今日のことを気にしている。俺は全然気にしていないし、千聖さんにはオフの日を楽しんでもらいたい……もうちょっと踏み込んだ声掛けをしてみよう。

 

 

「確かに俺は訳あって千聖さんと行動を共にしていますけど、何一つ嫌じゃないですよ。それに誤解を招くかもしれないんですけど、何だか楽しいんです」

「た、楽しい……?」

 

 

 理解ができないといったように、千聖さんは首を傾げた。

 

 

「電車の乗り換えが苦手だっていう千聖さんの一面を知ることができました。それにそれがあったからこそ、今俺はこんなお洒落なお店で女優さんと一緒に、美味しい紅茶とパンケーキを頂いているわけです。これが嫌なわけないじゃないですか」

 

 

 笑顔で千聖さんにそう話す。俺の話を聞いた千聖さんは一瞬驚いた顔を見せてから、困ったように笑った。

 

 

「……それ、いつもの『別の視点』っていうものかしら?」

「ええ。『別の視点』ってやつです。お気に召しませんでしたか?」

「いいえ。ただ……その言い方はズルいわ」

 

 

 紅茶を飲んで一呼吸。視線をこちらに向けて、千聖さんは優しく微笑んだ。

 

 

「そんな言われ方をしたら……嬉しくなっちゃうじゃない」

 

 

 お昼過ぎの時間帯。窓から日差しが千聖さんを照らしていた。その笑顔はとても綺麗で、一瞬ドキッとしてしまった。

 

 

「ふふっ。貴嗣君、顔が赤いわよ?」

「……気のせいですよー」

「アイドルに一目惚れなんて、貴嗣君も悪い男の子ね」

「……そんなのじゃないでーす」

「あらあら、それじゃあ私は可愛くないのかしら?」

「……また千聖さん俺のこと弄って楽しんでますね」

「ええ♪ その通りよ♪」

 

 

 いつかの自主練で千聖さんと2人で話した時のことを思い出す。弦で指先を切ってしまい、千聖さんに看病をしてもらった時も、今みたいに言葉を変えて弄られてしまった。

 

 そして俺をからかっている時の千聖さんは、この上ない程楽しそうだ。例えるなら、お気に入りの玩具で遊ぶ子どもみたいな……やっぱり千聖さんの本性はS側なのだろうか?

 

 

「やっぱりあなたと話すのは楽しいわね」

「あははっ、それは良かったです」

「あなたの考え方に触れるのは、とても勉強になるし、面白い。よければもっと私とお話ししてくれる?」

「もちろんですよ」

 

 

 流石にここで断る奴なんていないだろう。俺も千聖さんについて、もっと色々知りたい。断る理由なんていない。

 

 

「それじゃあ……紅茶のお替り、頼みませんか?」

「ええ。そうしましょう。アッサムティーはどうかしら? このお店のものは特に濃厚で美味しいわよ」

「おおっ、それは是非飲んでみたいですね。千聖さんはどうします?」

「私はさっき貴嗣君が飲んでいたダージリンにするわ」

「分かりました。……すみません、注文いいですか?」

 

 

 こうして夕方になるまで、俺と千聖さんはゆったりとした1日を過ごした。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

「夕日がとても綺麗ね」

「ですね。電車から見る夕日って俺好きなんですよ。また雰囲気が違いませんか?」

「そうね。こうやって電車から眺める夕日も悪くないわね」

「おっ? それじゃあ千聖さんも、ほんの少しは電車が好きになったり?」

「そ、それはまた別の話よ……」

「あははっ。ですよね。ごめんなさい、冗談です」

 

 

 乗客が少ない車両の中。私の隣に座っているこの大きな男の子は、そう言って楽しそうに笑った。

 

 本来今日貴嗣君とこうやって一日の終わりまで一緒にいる予定ではなかった。家を出る前に何度も調べたのに、いざ駅に着くと不安でどの電車に乗れば良いのか分からなくなってしまった。そんな時に偶然貴嗣君がいて、経路を説明してくれたのだけれど……案の定乗り間違えて、貴嗣君も巻き込んでしまった。

 

 

「貴嗣君は……私が電車の乗り換えが苦手だって聞いてどう思ったの?」

「うーん、ちょっと意外でしたけど、別に何とも思いませんでしたよ」

「そう……そのせいで今日はあなたを色々巻き込んでしまったのに、怒ったりしないのね」

「苦手なことくらい誰にでもあるし、それに腹を立てるとか無いですよ」

「……貴嗣君らしいわね」

 

 

 とは言うものの、貴嗣君は疲れているみたいだ。声のトーンが低くなって、話し方も遅くなっている。何だか眠そうだ。

 

 

「色々ありましたけど、俺は楽しかったですよ。千聖さんの色んな面を知れましたし」

「なら良かったわ。私も凄く楽しかったわ。ありがとう」

 

 

 貴嗣君はいつもこうだ。

 私にとって「良くないこと」を、彼は「良いこと」に変えてしまう。物事の捉え方が、私と貴嗣君とでは大きく異なる。

 

 彼は何事も肯定的に捉えて、良い面を見つけようとする。何事も厳しく見てしまう私にとって、それは難しいこと。

 

 そんなある意味正反対な考えの私達だけれど……彼と話すのは嫌ではない。それどころかとても楽しいと感じる。不思議な感覚だ。

 

 

「あははっ、そんなこと言われたら照れちゃいますよ……ふぁあ~……」

「ふふっ、大きな欠伸ね。駅までまだまだ時間があるんだし、少し寝たら?」

「いや、流石にそれは失礼というか……俺も千聖さんと話していたいし……くぁあ~……」

「無理しないでいいわよ。ちゃんと起こすから」

「……じゃあちょっとだけ……」

 

 

 そう言ってから貴嗣君は目を瞑り、すぐに寝入ってしまった。

 

 真優貴ちゃんから聞いたことがある。貴嗣君は車や電車に乗ると、揺られてすぐに眠たくなってしまうんだと。何だか子どもみたいで、可愛らしい。

 

 

「Zzz……」

「……やっぱり疲れていたのね」

 

 

 ぐっすりと寝てしまっている。貴嗣君のことだし、落ち込んでいた私を楽しませるために、色々と気を使ってくれていたんだろう。

 

 

「(本当に色々助けられたわね。あなたがいてくれて良かった)」

 

 

 貴嗣君、今日は本当にありがとう。あなたと沢山お話ができて楽しかったわ。

 

 私は貴嗣君から、これからも色んな事を学んでいきたい。もし機会があれば、また今日みたいにあなたと話したい。

 

 

「これからもよろしくね、貴嗣君」

 

 

 隣でスヤスヤと寝ている男の子に、私はそっと呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【おまけ】

 

 

 

 十数分後。駅に無事到着。

 

 

「貴嗣君、ぐっすり眠れた?」

「おかげさまで。起こしてもらって、ありがとうございます」

「どういたしまして。さあ、帰りま――」

 

 

 向かいのホームに電車が到着。扉が開くと……。

 

 

「あれ? お兄ちゃん?」

「……おうっと」

「えっ、なんでお兄ちゃんがここに……って、ち、千聖さん……!?」

「えっ!? ち、千聖ちゃん!?」

「ま、真優貴ちゃんに花音……!? ど、どうしてここに……!?」

 

 

 まさかの真優貴、花音、美咲3人組とばったり遭遇。

 

 

「お兄ちゃん?」

「……ナンデショウカ?」

「……私に黙って千聖さんと付き合ってたの?」

「「は、はぁ……!?」」

「千聖ちゃんと貴嗣君……つ、付き合ってたの……!?」

「ち、違うの花音。これは誤解で……!」

「ふ、ふえぇ~……!」

「お、落ち着いて花音……!」

 

 

 千聖、混乱する花音に必死に声を掛ける。

 

 

「花音さんも真優貴も落ち着きなって……もう……こんなの誤解に決まってるじゃん……」

「ありがとう美咲ちゃん……今は君が天使に見える……」

「貴嗣君も大袈裟だなぁ。まあ日頃貴嗣君にはこころ達の相手してもらって助けられてるしさ」

「ありがたやぁ」

 

 

 美咲、貴嗣を手招きしてから、コソコソと囁き声で話す。

 

 

「……ところで貴嗣君」

「ん?」

「…………ほんとのところどうなの?」

「やっぱり疑ってるじゃん……」

「い、いやー……やっぱあたしも女子だし? 友達の恋愛話に興味がないわけじゃないっていうか?」

「恋愛話ですらないんだけどなぁ……ちゃんと説明するわ」

 

 

 この後ちゃんと説明して、誤解は晴れましたとさ。

 




 
 読んでいただき、ありがとうございました。千聖さんのお話でした。

 個人的には千聖さんは動かしやすいキャラでした。電車が苦手な千聖さん好き。

 さて、残る最後のパスパレメンバーは日菜ちゃんとなりました。上手く日菜ちゃんが書けたらいいなぁ……(願望)。頑張ります。

 それでは次回もよろしくお願いします。

 

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