Silver Lining ~ BanG Dream Story~   作:おたか丸

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 お待たせしました。パスパレ編キャラエピソード最後のメンバー、日菜ちゃんのお話です。日菜ちゃんを上手く表現できたか不安ですが、楽しんでいただけると幸いです。

 それではどうぞー。


【追記】
 違和感を感じる箇所があったので、一部編集しました。ご指摘ありがとうございました。


第44話 全然分かんなくて、面白い!

 

 

 

 

 

 Prrrr! Prrrr!

 

 

う~ん……なんだ……?

 

 

 休日の朝、スヤスヤと気持ちよく寝ていると、枕元に置いていた携帯が突然鳴った。まだ意識が覚醒しきっておらず、音が遠く感じる。

 

 そして着信音と一緒に、部屋の中をテテテテッと聞き覚えのある足音が。その音の主は器用にベッドに上り、ペロペロと俺の耳を舐め始めた。

 

 

「あははっ……! 分かった分かった! 起きるから耳だけはやめてくれホープ……!」

 

 

 イタズラの犯人(人というより犬だけど)は我が家の愛犬、ミニチュアダックスフンドのホープだった。ホープは俺の耳が敏感なことを知っており、俺を起こそうとするときは今みたいに耳を舐める。こればかりはくすぐったすぎて、どう頑張っても飛び起きてしまう。

 

 笑いながら体を起こすと、ホープはこれまた器用にスマホを俺の手元に持ってきてくれた。電話が鳴っているよーと知らせてくれているのだ。

 

 

「ありがとなホープ。さて誰から電話だ……?」

 

 

 眠気が覚めず、目を擦りながら携帯の画面を見ると、意外な人物から電話がかかってきていることが分かった。

 

 

「彩さん?」

 

 

 アイドルでバイトの先輩である彩さんからだった。

 今日は何も予定が無いし、特に彩さんと何か約束をしていたわけじゃない。彩さんが俺に電話を掛けて来る理由なんてないはずなのだが……どうしたのだろうか?

 

 「シフトを変わってほしい」みたいな内容かなーなんて考えながら、とりあえず電話に出ることにした。

 

 

「もしもしー?」

「あっ! やっと電話に出た! もしもーし!」

 

 

 ……んん?? 

 

 

 

「あの……どちら様ですか?」

「どちら様って……あたしだよ貴嗣君! 彩だよ~!」

 

 

 いやいや、微妙に声違うし。しかも彩さんは自分のこと「あたし」って呼ばないし。

 

 

「ほら、『まん丸お山に彩りを!』の彩だよ!」

ちょ、ちょっと日菜ちゃん……! 貴嗣君にそれ言うの恥ずかしいから辞めてよ~!

 

 

 小さい声だけど、電話越しに彩さんの声が聞こえる。どうやら電話を掛けている人物に抗議しているみたいだ。そして彩さんの声から、今俺と通話しているのが誰か分かった。

 

 

「……日菜さんですね」

「えーっ!? なんで分かったのー!?」

「話声聞こえてますよ……彩さんの携帯取って俺に電話掛けてきているんでしょ?」

「せいかーい! なになに、貴嗣君ってエスパーなの~?」

「なんですかエスパーって……だって俺と日菜さん、連絡先交換してないじゃないですか」

 

 

 まだ完全に覚醒しておらず、フワフワとした睡魔が抜けきらない。胡坐の隙間にスポッと丸まって収まっているホープを片手で撫でながら、日菜さんとの電話を頑張る。

 

 

「うーん、これバレたのは彩ちゃんのせいかな~?」

「えっ!? 私!?」

「彩ちゃんがあたしの名前を言わなかったらバレなかったかもだしさー。というわけで……罰ゲームだー♪」

「罰ゲーム? ……あはははっ! 日菜ちゃんくすぐるのはやめ……あはははっ!」

 

 

 彩さんの笑い声が聞こえる。くすぐりの刑に処されているみたいだ。ニコニコ顔で彩さんを弄っている日菜さんの姿が容易に想像できる。

 

 

「あのー日菜さん……そろそろ要件を聞いてもいいですか?」

「ああ、そうだった! 貴嗣君、今日何か予定ある?」

「今日ですか? 特に何もないですけど」

「ほんと!? なら良かった!」

 

 

 特に予定は入っていないことを伝えると、日菜さんは嬉しそうに答えた。

 

 

 

「じゃああたしと遊ぼ!」

 

 

 

 ……?????

 

 

「あ、遊ぶ……?」

「そう! 今日のレッスンお昼前に終わるからさ、そうだなー……ショッピングモールに13時集合ね!」

「えっ、あの、ちょ――」

「じゃあねー!」

 

 

 元気一杯の日菜さんの声に続いて聞こえたのは、「ツー……ツー……」という通話終了を意味する、無機質なあの音だった。

 

 

 少し状況を整理しよう。

 1.朝早くから突然彩さんから電話が掛かってきた。

 2.でも電話を掛けてきたのは彩さんではなく、日菜さんだった。

 3.日菜さんは突然「一緒に遊ぼう!」と言ってきた。

 4.集合場所と時間を伝えてから、すぐに電話は切られた。

 

 

 

「……うーん?」

 

 

 頭が追い付かなくて、気の抜けた声が思わず漏れる。

 ボケーッとしている俺を不思議に思ったのか、ホープがモゾモゾと動き体勢を変え、俺の顔をジーッと見つめ始めた。

 

 

「なあホープ」

「?」

「個性が強い人ってとことん強いんだな」

「ク~ン」

「とりあえず落ち着きたいからナデナデさせてな」

「♪」

 

 

 俺の体にもたれかかって来たホープを撫でる。綺麗なベージュ色の毛だなぁなんて思いつつ、これからの予定を考える。

 

 だが選択肢なんて「行く」か「行かない」の2択しかない。とは言っても今日は元々予定が無かったし、行かない理由というのも見つからない。

 

 

「……行くしかないよなぁ」

 

 

 膝の上でリラックスしている愛犬を愛でながら、1人でそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 そして集合時間の10分程前に、俺はショッピングモールに到着した。今はベンチに座って、日菜さんの到着を待ちながら持ってきた小説を読んでいる。

 

 

「――?」

 

 

 本の世界に入り込んでいると、突然視界が真っ暗になった。誰かが後ろから手で目隠ししているみたいだった。

 

 

「だーれだ?」

 

 

 楽しそうな声が聞こえた。突然のことに一瞬驚いたが、声で誰なのかすぐに分かった。

 

 

「日菜さんですね」

「えーっ! 即答なんてつまんないなー」

 

 

 不満そうな声を漏らしながら、その人は手を俺の目からどけた。後ろを振り向くと、笑顔の日菜さんが立っていた。

 

 

「やっぱり貴嗣君なら来てくれるって思ってたよ。ありがとね~♪」

「無視する訳にもいかないですからね。……まずは色々聞きたいことがあるんですけど」

「あーうん。分かってるよ。でもまずはお昼食べようよ。そこで話は聞くからさ」

「分かりました。フードコートでいいですか?」

「いいよー! それじゃ、いこ!」

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 20分後、俺達はフードコートに移動し、昼食をいただいていた。

 

 

「……それで」

「んー?」

「まず初めに、どうしていきなり遊ぼうなんて誘ってきたんですか?」

 

 

 豚骨ラーメンを堪能しながら、俺は最も重要な質問を日菜さんにした。いきなり遊びに誘うにしても、何か理由があるはずだ。

 

 

「それはねー……貴嗣君のことをたくさん知りたいからだよ!」

「……俺のことを?」

 

 

 思わず首を傾げてしまう。日菜さんは説明を続けた。

 

 

「あたしね、パスパレに入ってから他人の存在っていうのを意識するようになったんだ。そしたらね……」

「そしたら……?」

「すっごく面白いなって思ったの! だって、他人って全然分かんないんだもん!」

「……ほうほう?」

 

 

 日菜さんは目を輝かせて話している。

 何となくだけど、日菜さんの言っていることは分かる。自分とは違う存在である他人に、強い興味を持っているということか。

 

 

「それでその他人の中には、俺も入っているってことですか?」

「その通り! ……なんだけど」

「?」

 

 

 そこまで言いかけて、日菜さんは少し難しそうな顔をした。

 

 

「あたしも上手く表現できないんだけど……貴嗣君はね、何だか他の人と違うんだ」

「違う?」

「そう! 彩ちゃんと同じような感覚なんだけど、でも何かが違う。すっごくるんっ♪ ってするんだけど、今までに経験したことが無い感じっていうか……」

 

 

 話が抽象的になってきて、俺も分からなくなってきた。日菜さん自身が分からないって言っているんだから、俺が理解しようとしても難しいのは当たり前なのだが。

 

 

「むふむふ……要は日菜さんにとって俺は意味不明な存在ってことですよね?」

「そう! そういうこと! だから、あたしはそんな貴嗣君のことを知りたいんだ!」

「……だから朝いきなり遊びに誘ってきたってことですか?」

「うん! だって一緒に遊ぶのが、相手を知るのに一番いい方法でしょ? それに楽しいし!」

「あー……まあそうかもしれませんね」

 

 

 相手を深く知る方法なんて、例えばどこかのカフェにいって軽く話したりとか、ランチを食べたりとか、もっと他にも方法があるのになー……なんて思ったけれど、それをここで言うのは無粋だろう。

 

 

 日菜さんが俺を遊びに誘った理由が分かった。日菜さんにとって俺は、他の人と比べ(何故か)イレギュラーな存在である。その摩訶不思議な存在についてもっと知りたい、そして他の人と違うと感じる理由を明らかにしたいから――といったところだろうか。

 

 

「いきなり誘われたときはビックリしましたけど、日菜さんの気持ちは分かりました。助けになれるか分かりませんが、まあ色々やってみましょうか」

「やったー! ありがとね貴嗣君! じゃあじゃあ、最初何しよっか? 貴嗣君ってショッピングモールに来たら、いつも何するの?」

「そうですねー……」

 

 

 普段ここに来たら何をして友達と遊んでいるのか、考えてみる。

 

 

「映画観たり、ゲーセン行ったり、楽器屋さんに行ったりですかね」

「おお~! じゃあ今言ったの全部やろっ!」

「ぜ、全部!?」

 

 

 ひ、日菜先輩マジっすか……? 全部やったら流石に疲れますよ?

 

 

「だって楽しそうだもん! るんっ♪ ってする!」

「お、おう……」

「じゃあ最初は映画館だね! ほら行こ!」

「えっ、今から!? ちょ、まだ食器片付けてない――って痛い痛い引っ張らないでー!」

 

 

 行動力の塊とはこのことか。言い終わる前に、俺は日菜さんに手を引っ張られ映画館に連れていかれることとなった。

 

 

 何を観るかも決まって無いんだけどね。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 映画館に到着した俺達は、最近話題になっている映画を見ることになった。

 

 

「(まさか日菜さんとこれ見ることになるとは)」

「どうしたの貴嗣君? さっきからずっと黙ってるけど」

「チケット買ってから言うのもおかしいですけど、これ恋愛映画ですよ? 俺なんかと観ていいんですか?」

「? 別にいいけど、どうして?」

 

 

 今から観ようとしている映画は恋愛映画だ。日菜さんがこれを選んだのだが、何だか男女2人で恋愛映画を見るというシチュエーションは、俺達2人には全く合っていないように感じた。

 

 

「普通こういうラブストーリーって、好きな男と観るものだって思いますよ」

「そうなのかなー? あたし貴嗣君のこと異性として全然意識してないけど、まあ面白そうだからいいんじゃない? ……あっ、もしかしたら貴嗣君、あたしと映画観るのドキドキしてるのー?」

「そんなのじゃないですよ」

 

 

 ニヤニヤしながら言ってきた日菜さんに真顔で答える。軽くあしらわれたのが不満なのか、ムーッと頬を膨らませてこちらに身を乗り出してきた。

 

 

「そこはちょっとくらいノッてくれてもいいじゃ~ん! なになに、貴嗣君は女の子と映画を観るなんて慣れっこなのー?」

「何ですかその質問。別に慣れっこって訳じゃないですよ」

「ほんとに?」

「ほんとですよ……ほら、映画始まりますよ」

 

 

 日菜さんにそう促してから、俺は意識をスクリーンに向けた。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 約2時間後、映画の余韻に浸りつつ、俺達は映画館を後にした。

 

 

「良い話だったね。あたしすっごい感動しちゃったよ」

「そうですね。切ないラブストーリーってベタですけど良いですよね」

 

 

 ゆっくり歩きながら日菜さんと話す。

 

 

「けど日菜さん、上映時間の半分くらい俺の顔見てましたよね?」

「もちろん。貴嗣君がどんな感じで映画観るのかなーって観察したかったもん」

「あはは……それで、何か収穫はありましたか?」

 

 

 俺の問いに、日菜さんはうんと言ってから答えてくれた。

 

 

「貴嗣君って結構表情変わるんだね。ちょっと意外だったかも」

「あれ? 意外でした?」

「だってパスパレの練習見てもらってるときは『しっかり者』って感じでいつも落ち着いてたでしょ? でも映画観てる時の貴嗣君、場面ごとにコロコロ表情が変わってたんだ。嬉しそうな表情だったり、悲しそうな表情だったり」

 

 

 驚いた。

 興味深そうにこちらを見ていたことは知っていたけれど、まさかこんなに詳しく観察していたとは。日菜さんはとても鋭い観察眼をお持ちのようだ。

 

 

「やっぱり貴嗣君ってすっごい不思議で、意味分かんない! もっと貴嗣君のことと、教えて!」

「いいですよ。次はどこに行きます?」

「ゲーセン! ダンスゲームとかやってみたい!」

「ダンスゲームとはまた粋ですねぇ。それじゃあ行きましょうか」

「うん!」

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

「やったー! ベストスコアこうし~ん!」

「……なんだこのスコア」

 

 

 場所は変わってゲームセンター。日菜さんが楽しそうにダンスゲームをしているのを眺めていたのだが、まさかのお店のベストスコアをサラッと更新してしまった。その才能恐ろしや。

 

 

「じゃあ次は貴嗣君も一緒にやろ!」

「……マジですか?」

「マジだよー! ほら、こっちきて!」

「イテテテ……行くから引っ張らないでください……」

 

 

 

 

 

 

 

「ゼエ……ゼエ……しんど……」

「どうしたの貴嗣君? 何だかすっごい疲れてるけど」

「いやいや……もうずっとダンスしてるじゃないですか……流石に疲れますって……」

「なんでー? あたし全然平気だよー?」

「(うそん)」

 

 

 これだけ踊って息切れしていないって嘘でしょ……日菜さんの体力一体どうなってんだ……?

 

 

「うーん、そろそろ別のゲームがしたいなー。……そうだ! ねえ貴嗣君、あれやろうよ!」

「あれ……?」

 

 

 日菜さんが指さした先にあったのは、皆大好き“エアホッケー”だった。

 

 

「ま、待ってください日菜さん……ちょっとだけ休憩させて――」

「だーめ♪」

「(あーれー)」

 

 

 結局10セットやって、0勝10敗のフルボッコでした。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 ダンスゲームにエアホッケー、太鼓の〇人やクレーンゲーム等、色々なゲームを楽しんだ(満身創痍)後、最後の目的地である楽器屋さんに来ていた。CiRCLEの近くにあるお店とはまた違う品揃えは、眺めているだけでも楽しい。

 

 

「そういえば貴嗣君ってどんな弦を使ってるの?」

「そうですね、色々使ってますけど、最近はこの弦ですよー」

 

 

 こんな感じの軽い雑談をしつつお店の中を回っていると、ある音楽雑誌が目に入った。

 

 

「おっ。この雑誌、Pastel*Palettes特集じゃないですか」

「あっ、それこの間のお仕事でインタビュー受けたやつだ! そういえばつい最近発売されたって言ってたっけ」

「流石楽器屋さん、雑誌の更新が早いですね~。どれどれ~」

 

 

 雑誌を手に取って表紙を見る。そこにはPastel*Palettesの集合写真が大きく掲載されていた。

 

 

「皆さん、すっごい楽しそうですね」

「うんうん。この集合写真良いでしょ。あたしも気に入ってるんだ」

「ええ。皆さんの楽しそうな気持ちが伝わってきます」

 

 

 ペラペラとページをめくると、それぞれのメンバーのインタビューが載っていた。勿論日菜さんの記事も、ギターを抱えた写真と共に載せられていた。

 

 

「へぇ~、結構色んな事聞かれてたんですね」

「そうだね。このお仕事は楽しかったなー」

「それは良かったです。――そう言えば、今ふと気になったんですけど」

「どうしたの?」

 

 

 日菜さんが笑顔でギターを持っている写真を見て、1つ疑問が湧いたので、日菜さんに聞いてみることにした。

 

 

「どうして日菜さんはギターを始めたんですか?」

「それはねー、お姉ちゃんがギターをやってたから!」

「お姉さん?」

「そう。氷川紗夜って言うんだ。花咲川だけど、貴嗣君知らない?」

「知ってはいますけど、ほとんど話したことはないですね。学年違いますから」

「まあそうだよねー」

 

 

 氷川紗夜さんと話したのは、入学したての1回だけ。もう随分前のことだ。あの人もギターを弾くのか……俺みたいに誰かとバンドを組んでいたりするのだろうか?

 

 

「じゃあ日菜さんはお姉さんと一緒にギターを弾いたりするんですか?」

「……えっ?」

「だってお姉さんがきっかけでギターを始めたんでしょ? お姉さんに教えてもらったりとかしてたのかなーって思って」

 

 

 

 だが俺がそう聞くと、日菜さんの様子が少し変わった。

 

 

 

「あー、うん……えっと……」

 

 

 

 ついさっきまで絶えることがなかった笑顔はどこかに行ってしまった。目を泳がせている日菜さんは、必死に答えを探しているように見えた。

 

 

 やらかした。

 多分これ、聞いちゃいけない質問だ。

 

 

 

「ごめんなさい日菜さん。急に変な質問しちゃいました」

「あっ……その……」

「ただの気まぐれですから、忘れてください」

 

 

 笑顔を作って日菜さんにそう伝える。日菜さんも俺の意図を何となく感じ取ったのか、何かを言いかける素振りを止めた。

 

 

「さてと、どうしましょうか。もうちょっとここのお店見てから帰ります?」

「……ううん。今日はいいかな。もう夕方だし、そろそろ帰ろうよ」

「了解です」

 

 

 こうして今日の波乱万丈で楽しい時間は、ゆっくりと終了した。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

「日菜さん。今日は楽しかったですか?」

「うん! すっごく楽しかったよ!」

「それなら良かったです」

 

 

 ショッピングモールからの帰り道、隣を歩いていた背の高い男の子は、あたしにそう聞いてきた。

 

 

「それで、俺を今日1日観察したわけですけど……どうです? 満足してもらえましたか?」

「ううん! 全然! まだまだ貴嗣君のこと、分からないことだらけだもん!」

「あははっ、まあそうでしょうねー」

「でも分かったこともいくつかあるよ」

「おっ? 是非教えてくださいよ」

 

 

 分かったと答えてから、今日1日を振り返る。

 映画を観ている時、ゲームセンターで遊んでいる時、そして楽器屋さんを回っている時――貴嗣君は色んな一面を見せてくれた。

 

 

「貴嗣君はあたしと真逆だね」

「真逆?」

「そう。貴嗣君は他の人の気持ちに共感出来る人ってこと。他の人の気持ちが分からないあたしと正反対」

「ふむふむ」

 

 

 そう。貴嗣君とあたしは真逆の存在。陰と陽、太陽と月、男と女……って、それは事実か。とにかく今日貴嗣君と一緒に遊んでいて分かったこと、それは彼が「共感できる人だ」ってこと。

 

 

 映画を観ていた時、スクリーンの中にいる俳優さんや女優さんが嬉しそうに笑うと、貴嗣君もどこか嬉しそうだった。逆に悲しんでいたり泣いていたりといった場面では、貴嗣君も悲しそうだった。

 

 

 他にもパスパレの特集雑誌を見ていた時、貴嗣君はあたし達の写真を見て、幸せそうに笑っていた。変に聞こえるかもしれないけど、あの時の貴嗣君の笑顔、写真のあたし達とすっごい似てるように見えたんだ(雰囲気ってことね)。

 

 

「だから貴嗣君はあたしと真逆で、他の人の気持ちに共感出来て、理解できる人なのかなーって思ったんだ」

「ほうほう」

「あとはそうだなー、やっぱり優しい人だなって思ったかな」

「そういう人間であるように心掛けてはいますね」

「あははっ、そっか」

 

 

 この男の子が優しいのは前から知っていたし、彩ちゃんとかイヴちゃんから散々聞いていた。だから驚くことなんてないんだけど、いざその優しさや気遣いを自分が体験すると、これまた不思議な感覚だった。

 

 

 それは楽器屋さんでの出来事だ。お姉ちゃんとの関係性を聞かれてドキッとした。まるでギュッと何かに心臓を掴まれたみたいで、気持ち悪かった。

 

 

 ギターを始めたきっかけはあたしのお姉ちゃんなんだけど、お姉ちゃんと一緒にギターを弾いたりとか、お姉ちゃんに教えてもらったりとか……そういうのは今まで一度もない。お姉ちゃんとは今……その……家でほどんど話さないし。

 

 

 どうにかして誤魔化そうとした。そんなあたしを見て貴嗣君は優しそうに笑って、「ごめんなさい、気にしないでください」って言ってくれた。多分あの時の貴嗣君、あたしが困っているのを見抜いて助けてくれたんだよね。

 

 

 

「ねえ貴嗣君」

「?」

「今日は色々ありがとうね。貴嗣君のこと、前よりも分かった気がする」

「ええ。どういたしまして」

「でもやっぱり、まだまだ全然分からないことばっかり。貴嗣君はやっぱり他の人とは違う、何か不思議な感じがする。だからね――」

 

 

 

 一瞬歩みを早めてから、貴嗣君の前にぴょんと飛び出す。お互い向かい合っている状態になって、貴嗣君の綺麗な瞳を見つめる。

 

 

「あたし、もっと貴嗣君のこと知りたいんだ! だから今日みたいに、また一緒に話したり遊びたい!」

 

 

 あたしの言葉を聞いた貴嗣君は、いつものように笑顔になった。

 

 

「ええ。わかりました。ただし、今日みたいに当日いきなり誘うとかはナシにしてくださいよ?」

「えーっ!? サプライズって感じで面白いのに~! ……あっ! そうだ!」

「どうしました?」

「連絡先だよ! 交換しよ!」

「いいですよ。はい、どうぞ」

 

 

 QRコードを読み取って、LI〇EのIDを交換した。これでいつでも連絡が取れる。

 

 

「嬉しそうですね、日菜さん」

「うん! るんるんるんっ♪ ってする!」 

「おお、るんっ♪ が進化した」

「それじゃあ今日遊んだ記念に……はい、チーズ!」

「えっ――」

 

 

 パシャリと1枚写真を撮ってみた。確認してみると、笑顔のあたしと、不意打ちをくらっておかしな顔になっている貴嗣君が映っていた。

 

 

「あははっ! 貴嗣君の顔おもしろーい!」

「そんな笑わなくてもいいでしょ……突然だったからそんな顔にもなりますって」

「でもこの顔はおもしろすぎるよー! 折角だし、パスパレのグループに写真載せようっと♪」

「えっ……ちょ、ちょ、ちょっと日菜さんそれはダメですって!」

「ごめんもう送っちゃった☆」

「何ィー!?」

 

 

 貴嗣君が叫んだ直後、彼の携帯がピコンピコン♪ となり始めた。

 

 

「……ハッ!? 彩さんからのメッセージ……め、めっちゃ送られてくるんですけど……!?」

「あははっ! 頑張ってね~♪」

「一体誰のせいだと思ってるんですかぁ~!」

 

 

 貴嗣君、すっごい慌ててる! 焦ってる貴嗣君、彩ちゃんみたい♪

 

 

 やっぱり貴嗣君は面白いや! まだまだ分からないことだらけだし、これからも貴嗣君のこと、じっくり観察させてもらうね~!

 

 

 

 

 

 

 

【おまけ】

 

 

「――そうそう、そういうことだよイヴちゃん! あれはただの写真! 俺と日菜さんは別に付き合ってない! OK? Understand? よし! じゃあもう家に着くから電話切るねーバイバーイ!」

 

 

 貴嗣、帰宅と同時にイヴとの通話終了。誤解を解くことに成功。

 

 

「お兄ちゃんおかえり~」

「ただいまぁ……ふう……今日はなんだか疲れた……」

「いっつも頑張ってるもんねー。明日も休みだし、たまにはゆっくり寝てね」

「おう……ありがとな」

 

 

 Prrrr! Prrrr!

 

 

「あれ? 電話だ? ……あっ、もしもし! ああ、お疲れ様です! ……えっ? ああ、はい、大丈夫ですけど……了解です、今変わりますね~」

 

 

 真優貴、貴嗣に携帯を差し出す。

 

 

「お兄ちゃんに変わってーだって」

「俺に? 一体誰から――」

 

 

 

“白 鷺 千 聖”

 

 

 

「」

「じゃあ頑張ってねーお兄ちゃん☆」

 

 

 真優貴、その場を去る。貴嗣君、深呼吸をしてから通話ボタンを押す。

 

 

「…………もしもし?」

『こんばんは貴嗣君♪ さっきまで日菜ちゃんと随分お楽しみだったようね♪』

「あ、あはは……おかげさまで……」

『その件について貴嗣君と少し話がしたいのだけれど……いいわよね?』

「……はい」

 

 

 日菜が如何に恐ろしいトラブルメーカーであるかを、その身を以て味わった貴嗣であった。

 




 
 読んでいただき、ありがとうございました。日菜ちゃんのお話でした。

 次回でやっとパスパレ編終了の予定です。しっかりと一段落付けられるように頑張ります。

 それでは次回もよろしくお願いします。

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