Silver Lining ~ BanG Dream Story~ 作:おたか丸
新たにお気に入り登録をして下さった皆様、ありがとうございます。
パスパレ編最終話です。相変わらず駆け足気味な展開ですが、読んでくださると幸いです。
それではどうぞー。
【余談】
今更ではありますが、5月(Ch.1)、6月(Ch.2)、7月(Ch.2.5)、8月(夏休み)、9月(Ch.3)という時系列で書かせてもらっています。夏休み編の話は今後また書く予定なので、よろしくお願いします。
9月の終わりに差し掛かった今日、俺は大河達と一緒にPastel*Palettesが所属する事務所に来ていた。臨時コーチの件でお礼と話がしたいということで、スタッフさん(俺達に依頼をしてきた人)に呼ばれたのだ。
「ここに来るのも今日で最後かぁ~」
「なんだかんだ、結構長い間お世話になったよね。1か月くらい?」
「初めはここに来るの緊張したけど……明日から来られなくなるって考えると、ちょっと寂しいかも」
「俺も~」
「ふふっ。2人とも芸能事務所通いにすっかり慣れちゃったね」
事務所の中を歩いていく。
名残惜しそうに話す大河と穂乃花、そしてそんな2人に花蓮が相槌を打つ。
「貴嗣君は……寂しいとは思わないか。貴嗣君にとって、ここはあんまりいい思い出ないもんね」
「でもそれと同じくらいいい思い出が、今回新しく出来た。臨時コーチは大変なこともあったけれど……いい経験が出来たって思う」
「おお~! いいじゃん貴嗣、ポジティブシンキング!」
「頼りになるぜぇ」
「だろ~?」
他愛もない雑談をしていると、小さな会議室の前に着いた。ここで話を聞く予定なのだが、まだスタッフさんは来ていないみたいだ。
「ちょっと早く来ちゃったね。ここで待っておこうか」
「だな。……ん? あれは……」
花蓮の提案に答えてからふと通路の先を見ると、見覚えのある人影が見えた。彩さんとイヴちゃんだ。
「皆さん! こんにちは!」
「やっほー皆! 今日はどうしたの? 何か用事?」
「お疲れ様です、彩さん。今日はスタッフさんに呼ばれたんです。ほら、今日で臨時コーチお終いですから」
「なるほどー! ……って、今日でコーチお終い!?」
「もう来てくれないんですか……!?」
事務所に来た理由を伝えると、彩さんとイヴちゃんは驚いた。彩さんは「そんなの初めて聞いたんですけど!」と言った様子で、悲しそうなイヴちゃんからは「ガーン!」という効果音が出てきそうだ。
臨時コーチの期間は事前に伝えているはずなのだが……彩さんは忘れているっぽい。
「ううっ……タカツグさん、タイガさん、ホノカさん、そしてカレンさん……っ……今までのご恩、私は一生忘れません……っ!」
「お、大袈裟だよイヴちゃん……私達はここに来なくなるだけで、会えなくなるわけじゃないよ?」
「この別れの悲しみに耐えるのも……真のサムライになるための試練ということですね……っ……!」
「そういうことじゃないよ~!」
涙を堪えているイヴちゃんを見て花蓮が慌てている。やっぱりこの子、ピュアすぎる。
「ホントに今日でおしまいなの……?」
「そうですよ。……もう、そんな寂しい顔しないでくださいよ。別に一生会えなくなるんじゃないですよ?」
「そ、そうだけど……やっぱり寂しいよ~!」
「あはは……」
「皆さん、大変お待たせしました」
彩さん達と話していると、男性の声が聞こえた。声のした方を見ると、資料を持ったスタッフさんが立っていた。
「それではこちらへどうぞ」
「ありがとうございます。……それじゃあ彩さん、失礼します。イヴちゃんもまたね」
「あっ……う、うん……」
「……はい……」
スタッフさんの後に続いて、俺達4人は会議室へと入っていった。
「アヤさん。私、タカツグさん達とスタッフさんが何を話すのか、すごく気になります」
「私も。ねえイヴちゃん?」
「何ですかアヤさん?」
「……ちょっとだけ聞いていかない?」
「……はい! 忍者のようにこっそりと、ですね!」
◇◆◇◆
会議室で俺達は、男性スタッフさんから今回の件での御礼の言葉と報酬を受け取っていた。別に金が目的で依頼を引き受けたわけじゃないが、高校生のお小遣いとしては破格の金額だった。流石は大手芸能事務所と言ったところか。
「皆様には多くの面で助けていただきました。本当にありがとうございました」
「こちらこそありがとうございました。……それで、話というのは何でしょうか?」
「はい。今日皆様にこうやって集まっていただいたのは、報酬を渡すためだけではないのです」
「「「?」」」
テーブルを挟んで反対側に座っているスタッフさん――名前を
「今回の一連の出来事について――皆様が一生懸命頑張ってくれていた後ろで何が行われていたのかを、お伝えしたいのです」
今から1カ月ほど前の事です。アイドルバンドであるPastel*Palettes、その運営方針を決める会議が行われていました。そこで「楽器を演奏しない・アテフリでいく」という方針が提案され、その場にいた多くのスタッフがその方針に賛成の意を示していました。
『ちょ、ちょっと待ってください……! それでは観客を騙すことになります……私はこの方針に反対です……!』
そんな中で私は1人、思わず反対の声を挙げてしまいました。
新人の丸山さんを舞台に立たせるためには、アテフリが近道である――それは充分理解できたのですが、やはりファンの期待を裏切るような方針には賛成できませんでした。
ですが多勢に無勢、他のスタッフは賛成か、もしくは思うところもあるが受け入れているといった様子。周りからの説得もあって、その時私は不本意ながら、アテフリという方針を受け入れました。
私1人がどれだけ騒いだところで仕方ないし、自分ができることをやってPastel*Palettesというバンドをサポートしよう――そう気持ちを切り替えた矢先、アテフリがバレてしまい炎上。活動休止を余儀なくされました。
『このままだと彼女達は二度とステージに立てなくなる……何とかしないと……! このまま終わらせる訳にはいかない……!』
彼女達の信頼を取り戻しもう一度ステージに立たせるには、生演奏しかないと考えました。危険な賭けでしたが、方針を変えるにはこのタイミングしかないと思い、私は上司やプロジェクトリーダーに直談判をしました。
『彼女達が再びステージに立つには生演奏しかありません! どうかお願いします!』
当然最初は断られましたが、私は何度も交渉をしました。来る日も来る日も、普段の業務をこなしながら交渉しました。そして……。
『……樋室君の意志は伝わった。彼女達の練習の出来次第で、こちらも前向きに考えることにするよ』
そしてその結果……『メンバー達の練習次第で前向きに考える』というチャンスを貰えました。
「彩さん達に練習するように指示を出したのは、実力をつけることで上の人達からのゴーサインを貰い、Pastel*Palettesを再びステージに立たせるため……ということだったんですね」
俺がそう尋ねると、樋室さんはそうです、と答えた。
「それじゃあステージでの再演奏が決まった時、彩さんだけ口パクにするという方針を話し合ったときも……?」
「ええ。自分は反対でした。ですが黙ってしまったが故に、丸山さんを精神的に苦しめてしまうという事態を防ぐことができませんでした……ほんと、一体何のために仕事をしているんだという感じです」
樋室さんは自嘲気味にそう言って、窓の外に視線を移した。少し間をおいてから、ボソッと呟いた。
「私は来年度……別の部署に移ろうと思っています」
「「えっ!?」」
突然扉が開いて、彩さんとイヴちゃんが勢いよく入って来た。樋室さんは一瞬驚いた様子を見せたが、すぐにまた真面目そうな、そして穏やかな表情に戻った。
「ヒムロさん! 私は『今度から練習するように』って言われた時……ヒムロさんにひどいことを言ってしまいました……。ヒムロさんの気持ちも考えないで……本当にすみませんでした……!」
「若宮さんは何も悪くないですよ。悪いのは周りの雰囲気に押されて何も言えず、そのせいで皆さんに辛い思いをさせた私なんです」
「そ、そんなことないです……! 樋室さんは何も悪くないし、それどころか私達の知らないところでずっと私達を支えてくれて……。別の部署なんかに移らなくていいです! だからこれからも今までみたいに、私達の事をサポートしてほしいです……!」
イヴちゃんと彩さんが必死に自分の気持ちを伝えるが、樋室さんは寂しそうな顔をして、首をゆっくりと横に振る。
「やっぱり皆さんは優しいですね。……でも私に皆さんと関わっていく資格はないです」
「ひ、樋室さん……」
「……申し訳ありません。次の仕事があるので、この辺りで失礼します。……Silver Liningの皆様、今回は大変お世話になりました」
そう言って礼をした後、氷室さんは会議室を後にした。
「……っ……待って――」
「彩さん」
「!? 貴嗣君……」
「辛いのは樋室さんも一緒です。だから今はそっとしておきましょう」
「……うん……わかった……」
事務室に戻っていく氷室さんの背中を、彩さんは寂しそうに見つめていた。
◇◆◇◆
「お先に失礼します。お疲れ様でしたー」
「お疲れ様でしたー!」
次の日のバイト終わり、夕方にシフトを終えた私達は店長に挨拶をしてから、ファストフード店を後にした。
シフト終わりの時間が一緒の時は、貴嗣君とこうやって一緒に途中まで帰る。いつもは私がパスパレについて色々話して、それを貴嗣君が聞いてくれる。でも今日の私は静かだった。
「昨日のこと、考えてます?」
「……うん。やっぱり貴嗣君には分かっちゃうよね」
昨日樋室さんから教えてもらった(というより盗み聞きだけど)事実について、私はずっと考えていた。
樋室さんは最初、アテフリに反対だったこと。
活動休止になった私達のために、偉い人達に一生懸命お願いをしてくれたこと。
いきなり実際に演奏する方針になったのは、私達をもう一度ステージに立たせるためだったってこと。
ライブイベントが決まって、でも私だけ口パクでいくって聞かされて、私が落ち込んでしまったことに負い目を感じていたこと。
「樋室さん、ずっと私達のために動いてくれてたんだなって。後で皆にも聞いたけど……やっぱり皆知らなかった」
「別にあの人が悪いって訳じゃないですけど、真面目な性格故に責任を感じていたんだと思います。『自分が何とかしていれば、もっといい方向に変わっていたかもしれない』って考えていましたし……樋室さんも色々悩んでいたんでしょうね」
「うん。……だからね、私決めたんだ」
貴嗣君は興味深そうにこっちを見た。そんな貴嗣君を、私も真っ直ぐ見る。
「これからもPastel*Palettesのボーカルとして、アイドルとして、一生懸命頑張る。樋室さんの期待に応えられるように、今まで以上に頑張ろうって。それが私にできる、樋室さんへの恩返しだから」
私がそう言うと、貴嗣君はいいですね、と言って笑顔になった。
「彩さん達が活躍する姿を見たら、樋室さんも絶対喜ぶと思います。俺も応援しますね」
「ありがとう! ……えへへっ、また目標が1つ増えちゃった」
「そうですね。ちなみに、今のところどれだけ目標があるんですか?」
「へっ? えっとぉ……『体力をつける』に『開脚ができるようになる』でしょ? あとは『もっと上手に歌えるように』もだし……」
両手の指で1つずつ数えてみるけれど、途中で頭がこんがらがってしまった。
「うぅ~……たくさんありすぎて分からなくなってきた……」
「あははっ、いいじゃないですか。目標とか夢とかは多い方がいいです」
「そ、そうだよね! 夢や目標はたくさんあった方が、頑張ろうって思えるもんね!」
貴嗣君がフォローしてくれたおかげで、何とかそれっぽいことを言えた。私も今の貴嗣君みたいにこう……良い感じの言葉をサラッと言えるようになりたいなぁ……なんて。貴嗣君の真似して、読書始めようかな?
「(……夢とか目標といえば……)」
ふと1つ、気になることが思い浮かんだ。
「ねえ、貴嗣君?」
「どうしました?」
「貴嗣君には目標とか夢ってあるの?」
元々俳優さんになりたいって夢があった貴嗣君だけど……今はどうなんだろう?
「彩さん、いきなり凄い質問しますね」
「あはは……いきなりごめんね?」
「いえいえ、大丈夫ですよ。そうですね……ふーむ……」
町を流れる川、その上に掛けられている橋の上で、貴嗣君は立ち止まった。そして手すりに手を置いて、まん丸の夕日さんが映っている綺麗な川を見つめ始めた。
「Silver Liningとしてメジャーデビュー……とか」
「えっ? め、メジャーデビュー?」
思わず聞き返してしまう。すると貴嗣君は笑い始めた。
「あははっ! 冗談ですよ、冗談! ちょっと言ってみただけです。メジャーデビューなんて夢のまた夢、俺達みたいなアマチュアバンドには無縁の話です」
「……そうかな?」
「……へっ?」
「私はすっごくいい夢だと思うよ、それ」
私の反応が予想外だったのか、貴嗣君は少し驚いていた。
「私ね、貴嗣君達の演奏が大好きなんだ。雨の中チケットを手売りしてた時、皆の演奏が挫けそうになった私を励ましてくれたの。誰もチケットを買ってくれなくて、もう無理だって思ったんだけど……『頑張って。あなたなら出来る』って、皆が傍で言ってくれたように感じて……すっごい勇気を貰えたんだよ」
隣にいる彼に、自分の気持ちを素直に伝える。
「皆の演奏には、聞く人の心を癒したり、勇気を与えたり、励ましたり……人を助ける優しい力があるように思うんだ。だから私を助けてくれたみたいに、大きな舞台に立って色んな人達を助けてあげてほしい」
「彩さん……」
「ご、ごめんね? 私、勝手にしゃべりすぎだよね……あはは……」
私が慌てて謝ると、貴嗣君は首を横に振った。
「ありがとうございます、彩さん。凄く嬉しいです」
「うんっ! どういたしまして♪」
「メジャーデビューは夢が大きすぎるかもですけど……何かのイベントとかコンテストで優勝を目指すっていうのも……良いかもしれません。メンバーで話し合ってみますね」
「うん! Silver Liningの名前を歴史に刻んじゃおうよ!」
「歴史って……またまた規模が大きくなりすぎじゃないですか?」
「夢は大きい方が良いと思うよ?」
「ははっ、その通りですね。お互いこれからも頑張りましょう」
「うん! ……あっ、そうだ。ねえ貴嗣君、こっち向いて」
「?」
貴嗣君が私の方を振り向いたのと同時に、私は左手の小指を差し出した。
「……指切りげんまんですか?」
「そう! 『これからお互い頑張ろう!』の約束!」
「あははっ、彩さんらしいですね。いいですよ、はい」
貴嗣君も左手の小指を差し出して、私の指とくっつけた。大きくて分厚い指だった。
「えへへっ……♪ なんかこういうの、嬉しいね……///」
ギュッと小指を重ねる。
簡単な仕草だけど、気持ちが繋がっているみたいな感覚。嬉しくて、ちょっぴり照れくさい。
「大変なこともあるだろうけど、これからお互い頑張ろうね、貴嗣君!」
「はい。これからもよろしくお願いしますね、彩さん」
夕日が落ちかけてきた頃。
私は優しい男の子と、そんなささやかな約束を交わした。
【おまけ】
〈彩と貴嗣が帰っているのと同時刻。少し離れた場所での出来事〉
「あれは……」
夕方、彩と歩いている貴嗣を見つめる少女が1人。
「紗夜~? どうしたの?」
「今井さん、あそこにいるのはもしかしたら……」
「あそこ? ……あっ、あれって……Silver Liningのギターボーカルくん?」
「ええ。……山城貴嗣君ですね」
「わぁ~……ホンモノ初めて見たよ~。……ねえねえ紗夜、彼の隣にいるの、彼女さんだったりするのかな?」
「そんなこと私に聞かれても知りませんし、興味もありません」
「もう~! 紗夜ったら、ちょっとくらいノッてくれてもいいじゃん! 花咲川だと彼、結構噂になってるんでしょ? どんな子と仲が良いとか……興味湧かない?」
「いいえ、全く」
「……でも紗夜ってば、そんなこと言って最近ずっと彼の動画見てるの、アタシ知ってるよ~? 興味津々じゃん♪」
「興味があるのは彼の演奏技術についてです。……彼の演奏法は私ととても似ている。何か学べることがあるはず……」
「ああ、ほらほら紗夜! ギターのことは向こうで存分考えられるんだからさ、今はとにかくCiRCLEに行こうよ。友希那達のこと待たせちゃってるし」
「……そうですね。行きましょう」
【To Be Continued in Chapter 4 Roselia】
読んでいただき、ありがとうございました。
皆様のおかげで、Chapter 3 Pastel*Palettesを終えることができました。亀更新になったり書き直したりで凄く時間がかかってしまい、皆様には大変ご迷惑をおかけしました。話の展開も荒削りな部分が多いものでしたが、それでも読んでくださった皆様には感謝しきれません。本当にありがとうございました。
さて、次回からは皆様お待ちかね(?)のRoselia編に入ります。頑張って更新していくのでよろしくお願いいたします。
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