Silver Lining ~ BanG Dream Story~   作:おたか丸

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第1話 人のためになることは率先して引き受けよ

「えー、つまりさっきの和訳は現在完了に注意して……」

 

 

 授業の内容をノートにメモしていく。個人的には英語は一番好きな教科だ。子どもの頃から洋画や洋楽に親しんできた影響で、英語という言語には非常に興味がある。

 

 

「じゃあ次の英文を、山城君、読んでみてくれる?」

「はい。He was very excited because he peeped his girlfriend’s legs.」

「おおー綺麗な発音ね! ありがとう。じゃあ次の文を……」

 

 

 自分の発音を評価されたことに充足感を感じながら、今日最後の授業が進んでいった。

 

 

 

 

 

 ……ていうか、今読んだ英文、学校で教えて大丈夫なのか?(peep=覗く)

 

 

 

 

 

 

 

                                           

 

 

 

「ねえねえ山城君」

「ん?」

 

 

 帰りのHRが終わり荷物を鞄に入れていると、1つ後ろの席の女の子が声をかけてきた。アッシュブラウンのふんわりとした髪をポニーテールでまとめているその子は、ニコッと笑いながら俺を見ていた。

 

 

「山城君ってさ、英語得意だったりするの?」

「ん? どうして?」

「さっきの授業で当てられた時、すっごいスラスラ英文読んでたからさ。すごいなーって思って」

「おーありがと。昔から洋画とか洋楽好きでさ、その影響でね」

 

 

 ほんのりと美味しそうなパンの匂いのする彼女からそう言われ、俺も自然と笑顔になる。

 

 

「なるほどねー。実は帰国子女だったり?」

「……そうだって言ったらどうする?」

「えっ、本当に帰国子女なの!?」

 

 

 そう驚いている彼女は、山吹沙綾さん。名前の順でたまたま席が前後同士になって、そこからちょくちょく話すようになった。そして席替えした今も、席が前後だ。

 

 

「実は中学3年間はイギリスの学校に通っててさ。小学校卒業の時に父さんが海外勤務になって、それについていったって感じ」

「うわ~……すごい! 確かになんか、山城君ってイギリスっていうか、ヨーロッパにいてそう」

「ははっ、そんなイメージあるんだ」

「うん。なんかこう、お洒落な服着てドイツとか、フランスとかの町歩いてそう」

「わーお」

 

 

 ちなみに留学中、夏休み(7~8月の2か月ある!)やクリスマスホリデーといった長期休暇中に、お父さんや友達と一緒にドイツとフランスに行ったことはある。

 

 

「じゃあもう英語はペラペラなんだ?」

「日常会話は大丈夫かな。さすがに3年もいたらね」

「ちょっと山城君が英語話してるとこ見てみたいかも。じゃあテストの時英語教えてもらおうかな~」

 

 

 期待を込めた目で俺を見つめてくる山吹さん。整った顔だなーと思いながら、俺は山吹さんの言葉に頷いた。

 

 

「いいよ。いつでも教えるよ。……そういえば山吹さんは今日も家のお手伝い?」

「うん、そうだよ。山城君も帰りにうちのパン買っていく?」

「うーん、行きたいのはやまやまだけど、今日は俺も家の手伝いあるんだ。また今度買いに行くよ。ありがと」

「そっか。じゃあまた今度ね……って、お店の手伝い?」

 

 

 そう言って山吹さんは首をかしげる。

 

 

「そうそう。うちカフェやってるんだ。つい最近オープンした“Sterne(シュテルン) Hafen(ハーフェン)”っていうお店」

 

 

 

 

 

「えっ!? シュテルン・ハーフェン!?」

 

 

 そう元気な声でニュっと山吹さんの後ろから出てきたこの子は、戸山香澄さん。同じクラスで、すっごい元気で活発な子。そんな彼女の後ろには、大人しそうな子と、身長が高い子の姿が。牛込りみさんと、花園たえさんだ。

 

 

「私たち、今からそこに行こうと思ってたんだ!」

「まじか。それは嬉しい。……てかどうやって知ったの? オープンしたのほんと最近なんだけど」

「インス〇だよ。たまたま見つけたんだ」

「お店の雰囲気とかメニューがおしゃれだねって皆と話してたの。今日は皆予定ないから、行ってみようってことになったんだ」

 

 

 

 そういえばお母さん、イン〇タの公式アカウント作ったって言ってたっけ。SNSの拡散力は目を見張るものがある。使わない手はないだろう。

 

 

 

 そんなわけで、皆でうちのお店に行くことになりました。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

「皆おつかれ。着いたよ」

「おお……!」

「ここが……」

「シュテルン・ハーフェン……!」

 

 

 Sterne(シュテルン) Hafen(ハーフェン)――ドイツ語で「星の港」という意味らしい。父さんと母さんが考えてつけた名前で、「色んな人(星)が立ち寄ってくれる場所(港)」という意味が込められている。

 

 

「好きな席どうぞ。俺は準備してくるわ」

 

 

 3人を店に案内してから、俺は控室へ。

 制服から白シャツと黒のスキニーパンツに着替え、髪を整えて、店のエプロンを付けて準備完了。

 

 

 

「ごめん母さん。ちょっと遅なった」

「大丈夫よ~。今はお客さん少ないから。あっ、これ、貴嗣の友達の注文、作ってくれる?」

「オッケー」

 

 

 ふむふむ、戸山さん達は何注文したんだろ。コーヒー2つと紅茶1つ、うちおすすめのミニパンケーキ2つと……ん??

 

 

「……チョココロネ? こんなメニューあったっけ?」

「それは試作メニュー。パンケーキミックスで簡単に作れるから、試しに作ったら結構美味しかったんよ」

「ほえ~まじか。確かに美味しそう。これはここにあるのを持っていったらええん?」

「そう。今作ったばっかりやから、そのまま持っていって~」

 

 

 

 

 

「あっ、山城君だ! ヤッホー! ……おお、髪型変わってる!」

「なんか雰囲気変わるね。いい感じ」

「すごいね~。カフェの店員さんって感じだね」

 

 

 という皆からのコメントを頂いて嬉しくなる。髪型に関しては校則が割と厳しいので、今の俺の髪型はベリーショートだ。かなり短いので、弄るといっても前髪を少し上げるくらいしかできないのだが、これが意外にも好評だった。

 

 

「みんなありがと。さて、おまたせしました」

 

 

 皆に感謝しつつ、お皿をテーブルの上に置いていく。

 

 

「このパンケーキ、すっごいおいしそう! キラキラしてる!」

「この、ラテアートだっけ? すごいや。これは山城君が?」

「そうだよ。気に入ってもらえて何より」

 

 

 花園さんが言う通り、戸山さんと花園さんのコーヒーには、大きなハートのラテアートを描かせていただいた。

 

 SNSの普及もあって、今は“映える”ものが大人気だ。来てくれるお客さんに喜んでもらいたくて、うちではコーヒーにラテアートを描くようにしている。

 

 

「うぅ~……飲むのがもったいないよぉ……」

「その気持ちは分かるけど、やっぱり味を楽しんでほしいかな。ラテアートならいつでも描くからさ」

「ほんとに!? じゃあ毎日来る!」

「香澄ちゃん……毎日来たらお金なくなっちゃうよ?」

「……あっ!!」

 

 

 牛込さんの指摘に、だら~んと脱力してうなだれる戸山さん。コロコロと表情が切り替わって、とても面白い人だ。

 

 

「山城君って賢いね」

「賢い?」

「こんなラテアート見たら、毎日とは言わなくても、また来たくなるもん。っていうことは、お店の売り上げも上がるってことでしょ?」

「あははっ。まあリピーターを増やすため、っていうのも否定はしきれないな。花園さん、中々鋭いじゃん」

「えっへん」

 

 

 俺の言葉に、花園さんがドヤ顔で答える。これまた可愛いドヤ顔だ。

 

 

「でもまあ一番は、来てくれる人を喜ばせたいからだよ」

「喜ばせたいから?」

 

 

 戸山さんがそう言って首を傾げる。

 

 

「そう。お金っていうのは、人を喜ばせて、幸せにした分だけもらうもの。本気で人を喜ばせようとする、そうすればその分のお金が入ってくる……お金だけじゃない、人から愛されたり、幸せをもらったり、助けてもらったり……もうこれでもかってほど良いものが流れ込んでくるんだ」

 

 

 父さんと母さんから教わった、大切な考え方だ。

 

 今までに大きな成功してきた人達は、皆須らく、本気で人を幸せにしたいと思い、行動してきた人達だ。その純粋な気持ちが大事なんだよと、俺と真優貴は教えられてきたし、俺達もその考えを持って生きているつもりだ。

 

 

「か、かっこいい~……!!」

「かっこいい?」

「うん。山城君のその考え方、すごくかっこいい」

「そっか……ありがと」

 

 

 戸山さんは目を輝かせて、花園さんは笑顔でそう言ってくれる。そんな2人を見て、また俺も嬉しくなる。

 

 またお客さんに幸せを分けてもらったなと思い、美味しそうにパンケーキを頬張っている戸山さんと花園さんを見ていると、ふとさっきの母さんとの会話を思い出した。

 

 

 

 

 

『……チョココロネ? こんなメニューあったっけ?』

『それは試作メニュー。パンケーキミックスで簡単に作れるから、試しに作ったら結構美味しかったんよ』

 

 

 

 

 

 ……ん? ってことはチョココロネを頼んだのは……。

 

 

 

 

 

「こ、このチョココロネめっちゃおいしい!!」

 

 

 そこには目を輝かせている牛込さんが。

 

 さっきから黙っていたのは、チョココロネを必死に味わっていたからだと、今更になって気付いた。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 その日はお客さんも少なかったので、母さんに許可をもらって、合間に食器洗いや片づけをしながら、俺は3人との会話を楽しんでいた。

 

 

 4人で笑いながら雑談をしていると、ふと花園さんの視線があるものに集中していることに気付いた。

 

 

「もしかしたら花園さん、ギター好きなの?」

「うん。大好き。なんでわかったの?」

「そりゃあ、あそこにあるギターをそんなにじっと見てたら分かるよ」

 

 

 実はこの店ではライブをすることがある。イメージ的には、ヨーロッパの酒場で楽器を演奏して皆が踊っている光景が一番近いと思う。

 

 

「あれ俺のアコギなんだ。店で時々ライブをすることがあるんだけど、その時に弾くんだよ」

「えっ、山城君ギター弾けるの!? 見てみたいなー!」

 

 

 そう言って戸山は目をキラキラさせてこちらを見つめてきた。

 どうやら戸山さんはバンドを組みたいと思っているらしく、最近ギターを始めたそうだ。最近流行りのガールズバンドというものらしい。花園さんはギター経験者、牛込さんはベースを弾けるとのことだ。

 

 

「ねえねえ、よかったらギター教えてよ!」

「別にいいけど……花園さんに教えてもらってるんじゃないの?」

「だってみんなでやるほうが絶対たのしいもん!」

「それには賛成。それに、私も山城君の演奏見てみたい」

「私も見てみたいかも。あっ、でも無理しなくても大丈夫だよ?」

「ううん、全然大丈夫。店の手伝いもあるし、バイトも始めようと思ってるから毎日は無理だけど、予定空いてる日ならオッケーだよ」

 

 

 というわけで、その後4人で予定を合わせて来週一緒に練習することに。それからは皆とSNSを交換したり、雑談したり。そして皆が帰る時間になった。

 

 

「皆今日は来てくれてありがとう。楽しかった」

「こちらこそ。パンケーキ美味しかった。また来るね」

「チョココロネめっちゃ美味しかったよ。私もまた来たいな」

「うん! またみんなで来よ! 山城君! 来週はよろしくね!」

「おう。まかせときな」

 

 

 戸山さんが手を振り終わるまで、俺も店の前で手を振り続けた。

 

 戸山さん達のおかげで、来週もいい1週間になりそう。こっちに引っ越してきてからは、荷物の整理やらお店のオープンの手伝いやらでバタバタしていたこともあり、まだ1回もギターを触っていない。

 

 今日の夜に少しだけ練習しようと決め、俺は店の手伝いに戻った。

 

 

 




 読んでいただき、ありがとうございました!

 早めの更新を目指して、頑張っていきます。

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