Silver Lining ~ BanG Dream Story~ 作:おたか丸
スタジオの中に私達以外のバンドがいるというのは、今までのRoseliaでは有り得ない光景だ。ここはCiRCLEの中では1番大きなスタジオだけれど、同じ空間に9人も入っているためか、なんだか狭く感じる。
「よーし、そんじゃあ、今日も練習やっちゃいますか」
「「「おー!」」」
私達が準備している前で掛け声をしているこの4人組こそが、今日一緒に練習をするバンド、Silver Liningだ。
「Roseliaの皆さんも、今日はよろしくお願いします。準備が終わったら、まずはお互いの演奏を見せ合いましょうか」
「そうね。その後に各自意見を出していくようにしましょう」
「了解です」
広々としたスタジオを大雑把に2つに区切り、片方をRoseliaが、その向かい側を彼らが使うことにした。お互いの練習を正面から見ることができる形だ。
準備を進めながら、彼らの様子を見る。
「ねえリーダー、この前貸してくれたスティックって今持ってたりする?」
「持ってるぞー。ちょい待ってな……はいよー」
「ありがとー! ……まさか本当に持ってるとは思わなかったよ」
「貸してーって言われると思って持ってきた」
「おおっ、流石エスパー……!」
ドラムの松田穂乃花さん。
彼女のプレイングは一見暴れ馬のようだけれど、ライブでは走りすぎる様子を見せたことが無い。激しい音と正確なリズムを両立させているその腕前は、目を見張るものがある。
「貴嗣。この間の練習でミスしてたところ、家で特訓してきたから見てもらっていいか?」
「りょーかい。俺も大河に見てもらいたいフレーズあるんだけど、いいか?」
「もちろん」
ベースの須賀大河君。
松田さんと同じくリズム楽器担当。彼のベースが奏でる重低音は、その筋力と繊細な技術によるものだろう。強くはっきりと、でも決して派手過ぎないという彼の音は、彼らの演奏に重厚感を与えている。
「貴嗣君。この前言ってたバイオリンの音だけど、こんなのはどうかな?」
「どれどれ~……うおすっげ。ばっちりじゃん。でもバイオリンの音も出すってなると花蓮の負担増えないか?」
「打ち込みでもいいとは思うけど、私はやってみたいかな。とりあえず挑戦、でしょ?」
「ははっ、間違いない」
キーボードの高野花蓮さん。
幼い頃からピアノを続けているその実力は折り紙つき。リーダーの彼に注目しがちだけれど、多種多様な音でライブを彩る高野さんの腕前も相当なものだ。
そして——
「そういえばリーダー、今日の自主練何してたの?」
「今日はこれ使ってた」
「あっ、目隠しだ。あれすごいよね。また見てみたいかも」
「練習終わりに余裕があれば、また見せるよ」
彼がSilver Liningのリーダーであり、ギターボーカルの山城貴嗣君。温和な雰囲気を持つ彼だけれど、その印象に反して高い演奏技術を持つ。自由自在にギターを操りながら歌うその姿は目を見張るものがある。
彼らの練習を目にすることで、今の私達に足りないものが分かるかもしれない。今日はいつも以上に集中して練習に臨むとしましょう。
「湊さん。どっちが先に演奏します?」
「それじゃあ、まずは私達の演奏を見てもらえないかしら? あなた達からの意見が欲しいわ」
「了解しました」
最初は私達の番だ。私達の演奏を見てもらい、彼らから意見やアドバイス、改善点を言ってもらう。各自の準備ができたことを確認し、彼らの方を向く。
「それじゃあ行くわよ——BLACK SHOUT」
~♪♪~
「……どうもありがとう」
「「「……す、すげえ……」」」
パチパチパチパチ!
一瞬の沈黙の後、彼らからの賞賛と拍手が与えられた。
「どうかしら。何か気になる点はあったかしら?」
「そうですね。それじゃあ……誰が最初に行く?」
「それじゃああたしから行ってもいい?」
「おう。頼んだ」
まずは松田さんから。ということは……あこね。
「じゃああたしから行きます! あこちゃん、いいかな?」
「は、はいっ!」
「あこちゃんのドラム、すっごく良かったと思います! 力強くて、聞いていて気持ちよかったです! でも、ちょっと走りすぎな気もしたかな? もしかしたらテンション上がっちゃった?」
「ギクッ……」
驚いた。
私も演奏中同じことを考えていたけれど、やっぱり彼女も気づいていたのね。
「あたしもよくテンション上がるから良く分かるんだ~。でも演奏は1人でやってるわけじゃないから、出来るだけ抑えるようにしてみて。後であこちゃんが走ってた場所教えるから、参考にしてみてね」
「ほ、ほんとですか!? ありがとうございます!」
彼女の手にはスマホがある。聞きながらメモをしていたのね。これなら改善点が分かりやすくていいわね。
「はーい! あたしからは以上です!」
「サンキュー穂乃花。んじゃ、次は……」
「私が行ってもいいかな?」
「おっ、花蓮か。それじゃあ頼む」
次は高野さんね。彼女の腕前も相当なもの、これは期待できるわね。
「私からは燐子さんにいくつか。まず感想なんですけど……やっぱりというか、コンクール出場経験者の腕前だなと感じました。流石です」
「は、はい……ありがとう……ございます……」
「気になったのは、運指が上手くいかなかった時に焦ってしまっている箇所がいくつか。あとは……うーん……」
高野さんは難しそうな顔をして、何かを考え始めた。その様子を見て、燐子が不安そうな表情を見せる。
「あの……どうかしましたか……?」
「演奏技術の話じゃないんですけど……音に自信が無さげだったように感じました」
「……!?」
音に自信がない……?
確かに燐子は、自信に満ち溢れているとは言えないけれど……燐子の演奏からそこまで感じ取るなんて、高野さんは鋭い感性の持ち主のようね。
「演奏技術に関しては、欠点らしい欠点がないと思います。だから、もっと自分の音を積極的に出そうとする意識を育てていけばいいと思います。必要なら、私もお手伝いします」
「は、はい……ありがとう……ございます……」
山城君に似て、穏やかな性格ね。燐子も彼女のことをあまり怖がっていないようで安心したわ。
「私からは以上かな。さあ、残るは大河君と貴嗣君だね」
「ああ。じゃあ大河が今井さん、俺が氷川さんと湊さんにアドバイスって感じだな」
「だな。それじゃあ俺から行きますね。今井さん、いいですか?」
「いいよー☆」
須賀君は爽やかな表情をこちらに向けて、リサにアドバイスを始めた。
「さっきの穂乃花と被るんですけど、今井さんも所々走ってたように感じました。その部分をもう一度練習するのがいいと思います」
「あはは……やっぱそうか~。アタシも思ってた……」
やはり走りすぎなのはリズム隊に共通するわね。2人には頑張ってもらわないと。
「俺も穂乃花と一緒で、スマホに気になった箇所をまとめておきました。後で共有しますんで、参考にしてください」
「うん! ありがとね~!」
そして残るは紗夜と私となった。私達は山城君の方を向いて、彼の感想やアドバイスを聞くことになった。
「では氷川さんから。そうですね……サビの所でミスを繰り返していたように思いました。もっと言うと、サビの中盤です」
「サビの中盤……」
「サビにスムーズに入ろうと意識するあまり力が入ってしまい、そのせいで腕が疲れて中盤以降のミスが増えてるんじゃないかと思います」
彼のきめ細かな分析に、紗夜だけでなく、私も聞き入ってしまっていた。
「力み過ぎるのは手へのダメージも大きいです。必要以上に腕の筋肉を傷めない様に、出来る範囲で良いので、力を入れ過ぎないように意識してみてください」
「……難しいですね……」
「また後で僕もお手伝いします」
「ありがとうございます……お願いします」
「了解です。それじゃあ、最後は湊さんですね」
そしてついに私の番がやってきた。彼は私の歌をどう感じたのかしら?
「どうだったかしら? 遠慮なく意見を言ってちょうだい」
「分かりました……って言っても、歌唱力に関しては……もう、何も言うことないです。上手すぎません? こんな透き通った声、生で久しぶりに聞きましたよ、……まあそれは良いとして、気になったことが1つ」
「! 教えてちょうだい」
彼の言葉を聞こうと意識を集中させる。
「……湊さん。昨日も練習しましたか? バンド練とか、自主練とか?」
「ええ。昨日は1人で練習していたけれど、それがどうしたの?」
「ふむ……湊さん、『あー』って言ってみてください」
「? ……分かったわ」
私は彼の言う通り、ボイストレーニングの時のように声を出した。
その時——
「……っ!」
ほんの一瞬、喉に鋭い痛みが走った。
「さっきの演奏で、少し歌いづらそうにしていました。……練習のやりすぎで喉を傷めてるんじゃないですか?」
彼の言う通り、今の痛みは恐らく、喉を酷使したのが原因。思い返せば、さっきの演奏、ほんの少しだけ歌い辛かったような気がした。
「ちょっと友希那!? 大丈夫なの?」
「大丈夫よリサ。こんなの、すぐに治るわ」
「……それですよ。さっきの湊さんの声、本当に綺麗でしたけど、ほんの少し無理してるように聞こえました。ボーカルはバンドの中でも注目を集めます。……これどうぞ」
「?」
そう言って彼は私に何かを差し出してきた。私は両手で受け取って、その小さい何かを確認する。
「これは……のど飴?」
「のど飴食べたり、加湿器使ったり、ハーブティー飲んだりして、喉を大切にしてください。そうすればさらに調子が良くなると思います」
彼の言う通り、確かにこのまま練習で喉を傷めてしまっては元も子もない。少しでも多く練習をするべきだけれど、私の我儘で他のメンバーに迷惑をかけるわけにはいかない。
「……わかったわ。私のせいでバンドのパフォーマンスが下がってしまうのは避けるべきだものね」
「はい。気になった点はそれだけです。歌唱力や技術については、もう何も言えないくらいお上手でした」
「そう。ありがとう」
「どういたしまして。それじゃあ休憩に入りましょうか。皆さんお疲れ様でした」
「そうね。あなた達も、色んな意見をありがとう」
時計を見ると、丁度休憩時間の30秒前だった。なんとか全員分の意見を聞くことができた。
練習も大切だけれど休息も必要。
私達は楽器を整理した後、休憩をするためにスタジオを後にした。
◇◆◇◆
手に持っている100円玉と50円玉を入れてボタンを押すと、ガチャンという音と共に商品が下に落ちて来る。よっこいしょと呟きながらしゃがみ、少し水滴のついたスポーツドリンクを取り出した。
「……そういや自販機って古代エジプトの時に作られたのが最初なんだっけか」
「えっ、そうなの?」
「えっ?」
1人で自販機に来たはずなのだが、どういうわけか後ろから声がした。
「やっほ~山城君☆ お疲れ様♪」
振り向くと、ふんわりとした明るいブラウンの髪が眩しい女性が立っていた。Roseliaのベーシスト、今井リサさんだった。
「今井さん。お疲れ様です。今井さんも飲み物ですか?」
「そうそう。学校で買うの忘れてたんだ~」
今井さんはそう言いながら、さっきの俺と同じように自販機で飲み物を買った。何なら買ったものも一緒だ。
「今日も暑いですね。今井さんはさっき演奏したばかりですし、喉乾いてますよね」
「ほんとにそうだよ~! ……う~ん! やっぱり美味しいー!」
空腹の時のご飯と同じように、喉が渇いているときは何でも美味しく感じる。蓋を開けてスポドリ特有のほんのりとした甘さを味わう。
「そういえばさ」
「?」
ペットボトルから口を外したタイミングで、今井さんが話しかけてきた。
「こうやって2人で話すのは初めてだね」
「ですね。学校違うと、どうしても会う機会が少なくなっちゃいますからね。今井さんは羽丘ですよね?」
「そうだよー! ……あっ、そうだ。山城君には言ってなかったっけ?」
「?」
今井さんは俺の目を見てきて話を続けた。
「アタシのこと、気軽にリサって呼んでほしいんだ。Silver Liningの皆とは、仲良くなりたいしさ」
「ほんとですか? じゃあ俺のことも好きなように呼んでいただいて結構ですよ」
「やった! じゃあ……貴嗣で! よろしくね♪」
「ええ。よろしくです、リサさん」
社交的な人だ、というのが第一印象。会話を初めて数分程しか経っていないけど、雰囲気も明るく、リサさんとはとても話しやすいように感じる。
「いや~、この前のライブはホントにすごかったよ! もう目が釘付け! って感じ!」
「ありがとうございます。さっきの皆さんの演奏も素晴らしかったです。息するの忘れてました」
「あははっ! もうっ、褒めすぎだって~! ……そうだ。ねえ貴嗣?」
「はい?」
「貴嗣から見てさ、アタシのベースどうだった? 何かアドバイスとか気になることとかあったら、教えて欲しいかな」
リサさんの表情が、どこか真剣なものに変わった。
さっきのリサさんの演奏を思い出す。気になった点……気になった点……。
「……演奏技術の話ではないですけど、1つだけ気になったところが……」
「ほんと!? 教えてもらってもいい?」
「うーん……俺の考えすぎかもしれませんし、本当に技術関係ないですよ?」
「それでも、だよ。アタシは皆についていかなきゃいけないから、どんなことでも自分のものにしないと」
リサさんの声から本気度が伝わってくる。だが……。
「……やっぱり」
「えっ?」
「さっきリサさんから感じたのは、“焦り”です。無理して周りに追いつこうとしてるっていうか……そんな雰囲気がありました」
「!?」
リサさんは驚いた表情をする。目があちこちに泳いでおり、図星のようだった。
「Roseliaは全体的にレベルが非常に高い。それにリサさんは一生懸命合わせようとして息が切れそうになってるように見えました。……ごめんなさい、失礼なこと言って」
「ううん。貴嗣が言ってること、間違ってないよ。……皆アタシより上手だし……アタシはブランクもあるから。ほんと皆演奏上手で、何とかついていけてるって感じだよ」
「でもRoseliaにいるってことは、リサさんなりに理由があるんですね」
「……うん」
俺から目を逸らし俯くリサさん。さっき買ったスポドリを手で弄っている。
リサさんが下手だという意味じゃない。寧ろとても上手だ。それでもRoseliaの練習はレベルが高く、リサさんは何とか追い付いているといった印象を受けた。
「今こうやって話していると、リサさんはとてもしっかりした人だと分かります。だから、ちゃんとした理由があるんだと思いますし、僕も詮索する気はありません」
「うん……」
「でも無理しすぎるのもよくないです。お節介かもしれませんが、しんどかったら相談を……って言っても、リサさんからはしてこなさそうですね」
「……貴嗣って心読めるの?」
「いやいや、ただの勘ですよ」
多分だけど、この人は世話を焼くのは得意だけど逆は苦手。あまりこっちからガツガツ行くのは悪手だ。
「なので、見ていてヤバそうだったらこっちから聞きますね。それに答えるかは、リサさんの自由です」
「……そこは強引に聞くところじゃないの?」
「リサさんだって答えたくないときもあるだろうし、言いたかったら言うって感じでいいですよ」
そう言いながら視線を正面からリサさんに向け、安心させるために笑顔を作る。リサさんも俺の顔を見て、少しだけど笑顔を取り戻してくれた。
「……貴嗣って優しいね。心配してくれてありがとね」
「どういたしまして。さあ、そろそろ戻りますか。もうリサさん、飲み切っちゃってますし」
「えっ? ……わっ、ほんとだ……気づかなかった」
「湿っぽい話ばっかりしてごめんなさいね。じゃあお詫びとして……」
財布から200円を出して自販機に入れる。これならどの飲み物でも買うことができる。
「はい。好きなの選んでください」
「……奢ってくれるの?」
「はい。俺とたくさん話してくれたことへの感謝と、面白くない話をしたことのお詫びに」
左手の親指で自販機を指すと、リサさんはこちらに来てくれた。さて、どれを買うのだろうか。
「……じゃあ、お言葉に甘えて♪」
機械からピッと音がする。ガチャンという音と共に出てきたのは、やっぱりさっきのスポドリだった。
「やっぱりそれ選ぶと思ってましたよ」
「ほんとに? やっぱ貴嗣って心読めるんじゃ……」
「またそれですか? たまたまですよ」
「あはは、じょーだんだよ☆ それじゃあ、そろそろ中に戻ろっか。もうすぐ休憩終わるしさ」
「ですね」
背中に持って行った右腕を左手でストレッチしながらそう答える。この人達の前で演奏するのは緊張するけれど、緊張は困難に挑戦している証拠だ、頑張ろう。
「貴嗣の演奏、期待してるねっ♪」
「あははっ。じゃあ、リサさんのお願いに応えましょうか」
なんてない冗談を言いながら、俺はリサさんと一緒に、皆が待っているであろうスタジオへと戻った。
読んでいただき、ありがとうございました。
次回は来週の週末に投稿する予定です。よろしくお願いします。
ハロハピでのあなたの推しは?
-
弦巻こころ
-
瀬田薫
-
北沢はぐみ
-
松原花音
-
奥沢美咲