Silver Lining ~ BanG Dream Story~   作:おたか丸

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 暑さで体調を崩しておりました……本来なら昨日投稿するはずだったのですが、申し訳ありません。やっぱり頭痛ってキツイですね……ベッドから動けないとか何年振りだよ……(震え声)。

 新たにお気に入り登録をして下さった皆様、ありがとうございます。素敵な感想も頂いて、モチベーションがアップしております。

 それではどうぞー。


【注意点】
 今更ではありますが、本小説では作者である私個人の解釈が大きく含まれております。今回の話からそれが顕著になってくると思います。ご了承下さい。


第51話 羨望

 

 

 

 

 

 ロビーで受付をして、俺と氷川さんはスタジオに入る。ケースからギターを取り出し、チューナーを使って音を整える。

 

 チューニングをした後は、練習中の曲をギターで弾く。スコアを見ながら弾いて、ミスをしたところにはメモをして、また弾いて。その繰り返しで、少しずつミスを減らしていく。

 

 

「……」

 

 

 氷川さんは一言も話さず、黙々とRoseliaの曲を弾く。昨日と違うのは、特定のフレーズでミスをし続けていることだ。

 

 ミスをする度に氷川さんは悔しそうに顔を歪め、また同じ箇所を弾く。さっきからこれの繰り返し。氷川さんが先程の楽器屋さんの件を引きずっているのは明白だった。

 

 

 そしてお互いの音が止んだタイミングで、俺は氷川さんに声をかけた。

 

 

「氷川さん。もしよろしければ、これを見てもらってもいいですか?」

「これは……昨日山城君に渡した、BLACK SHOUTのスコアですか。このメモは……」

「昨日家に帰ってから録音を聞き直して、僕が気になったことをメモしたものです。赤ペンの印がミスのあった部分。青ペンのメモは、僕なりの改善案というか、アドバイスです」

 

 

 勝手ながらメモをさせていただきましたと断りを入れ、俺はスコアを氷川さんに渡す。まあまあびっしり書いてしまったのだが、氷川さんは嫌な顔一つせずに受け取ってくれた。

 

 

「……すごい」

 

 

 のめり込むようにスコアを見る氷川さん。その顔には先程の辛そうな表情は無く、いつものように真面目な氷川さんに戻っていた。

 

 

「……こんなに細かく分析してくれるなんて……どうして……?」

「ふと思い立って、家に帰ってからやってみたんです。氷川さんの助けになるかなーと思いまして」

 

 

 メモだらけのスコアを見ながら、俺は氷川さんに提案する。

 

 

「そこで1つ提案なんですけど、今日はそのミスを徹底的に潰すっていうのはどうですか?」

「そうですね。メモの箇所は絶対に改善する必要がありますから」

「決まりですね。僕も昨日、ちょっとだけ練習してきたので、お手伝いします」

「……この曲を練習してきたのですか?」

「メモしてる部分だけですけどね。そうすれば氷川さんの手伝いができると思ったんで」

「……私なんかために?」

「はい。そうですよ」

 

 

 信じられない——そう言っているような顔で、氷川さんは俺の顔を見ている。一方で俺は笑顔を作って答えながら、氷川さんの反応と、氷川さんのある言葉について思考を巡らせていた。

 

 “私なんか(・・・・)”という言葉が物凄く引っかかった。このたった4文字の言葉は、目の前にいる先輩の異常なまでの自己肯定感の低さを表しているような気がしてならなかった。

 

 

「……どうしてですか?」

「どうして、とは?」

「……どうしてそこまでしてくれるのですか?」

 

 

 “どうして私なんかに親切にしてくれるのか分からない”という反応は、決して無視していいものじゃない。何故なら自己受容や自尊心、自己肯定感の低さは、ありとあらゆる事象に良くない影響を与えるからだ。ギターだって例外ではない。

 

 

「どうしてって……そんなの簡単ですよ。俺が氷川さんの手伝いをするって決めたからですよ」

「で、でもっ! それなら別に、ここで教えるだけでも大丈夫なはずです。わざわざ家で練習なんてしなくても……それじゃああなたに迷惑が——」

「俺がやりたいからやったんです」

 

 

 氷川さんの言葉を遮るように、少し声に勢いをつける。

 

 

「練習したかったから練習した。氷川さんの助けになると思って、俺が勝手にやっただけです」

 

 

 とてもシンプルで、単純な考え。ただやりたかったからやっただけだという、自分の意思を氷川さんに伝える。

 

 ギターを構え直して、氷川さんの顔を見る。

 

 

「……私には……」

 

 

 困惑した顔をしている氷川さんは、視線を逸らしながら言葉を続けた。

 

 

「……私には、山城君の考えが理解できない……」

「はい。それで構いません。……さあ、そんなよく分からん野郎と練習するのが嫌でなければ、練習を続けませんか?」

 

 

 ゆっくりと問いかけると、氷川さんは一瞬考え込む表情を見せた後、気持ちを固めてこちらを見つめてきた。

 

 

「はい。練習を再開しましょう。よろしくお願いします」

 

 

 そしてその声には、僅かではあるものの、力強さが戻っていた。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 ピピピッ! ピピピッ! 

 

 スマホのアラームが休憩時間を告げ、俺と氷川さんは手を止める。

 

 

「もう休憩時間ですか。早いですね」

「ですね。丁度キリが良いところですし、予定通り休憩にしましょう」

 

 

 そう言って俺は真優貴に貰ったクッキーの袋を取り出す。スマホと貴重品を持って、ラウンジに向かう準備をする。

 

 

「あっ……クッキー……」

「俺は休憩時間に食べますけど、氷川さんはどうします?」

「そうですね……私もいただこうと思います」

「分かりました。じゃあちょっと気分転換でもしましょうか」

 

 

 氷川さんが準備を終えた後、俺達はスタジオを後にした。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

「おおっ、やっぱうまい。氷川さんはどうですか? 真優貴が作ったクッキーは?」

「……とても美味しいです。優しい甘さが口に広がって……妹さんはお菓子作りがお上手なんですね」

 

 

 どうやら氷川さんにも気に入ってもらえたみたいだ。練習中の時と比べ、声にトゲが無くなっている。真優貴グッジョブ。

 

 

「そうですね。真優貴はこう……なんでもできちゃうんで。俺が教えたらすぐ理解して、自分でやっちゃうんです」

「では、クッキー作りは山城君が教えたということですか?」

「はい。俺が元々お菓子作りとか、料理とか好きなんです。俺が何か作っているところに真優貴が来て真似をするっていうのが、いつものパターンなんです」

 

 

 ちなみにこのクッキー作りに挑戦し始めたのは、高校に入ってからすぐ。ある程度上手く作れるようになった頃に真優貴が「私も作ってみたい!」と言ってきたので、休みの日に作り方を教えることに。

 

 

「小さい頃からいつもそうです。俺が何かすると、真優貴もやりたがる。兄の自分が言うのもなんですけど、お兄ちゃんっ子なんです。末っ子なんで、ちょっと甘えん坊なところもありますし」

「……」

「なんか双子なのにお兄ちゃんっ子って、変な感じですけどね」

 

 

 軽く笑いながらそう言うと、前に座っている氷川さんの表情が複雑なものに変わっていった。

 

 

「……」

「氷川さん? 難しい顔してますけど……もしかしたら俺、嫌な事言っちゃいましたか?」

「い、いえ! そうではなくて……」

 

 

 数秒間の静寂の後、氷川さんはゆっくりと口を開いた。

 

 

「……山城君は……嫌じゃないんですか?」

「嫌?」

 

 

 目的語がない問いに、思わず聞き返してしまった。

 

 

「妹さんが自分の真似をするのは……嫌じゃないんですか?」

 

 

 そう言う氷川さんはとても怯えているように見えて、俺はその言葉の意味がすぐには理解出来なかった。

 

 

「……っ……ごめんなさい。変な事を聞いてしまいました。忘れてください……」

 

 

 弱々しい声でそう答える氷川さん。どう見ても正常ではないこの先輩に、とりあえずさっきの質問の意味を考えるのは後にして、話を続けることに意識を向ける。

 

 

「嫌かどうかを答えるんだったら、俺は全然嫌じゃないですよ」

「……どうしてですか?」

「だって、同じことをすれば、一緒に話す機会が増えるじゃないですか」

 

 

 俺は自分の手元にある、真優貴が作ってくれたクッキーの袋を見つめる。

 

 

「氷川さんもご存知の通り、真優貴は女優です。当然仕事があり、プライベートな時間というのが、一般的な女の子と比べ少ないです。そして俺は中学3年間、イギリスに留学していました。俺達は兄妹でありながら、一緒に話したり過ごしたりする経験というのが少ないんです」

 

 

 クッキーを一口。サクッとした食感と、甘い味が口いっぱいに広がる。

 

 

「だから俺達にとって、何かを一緒にする時間っていうのは、とても貴重なんです。お菓子作りや料理、登下校や何気ない会話。全てが大切な時間なんです」

 

 

 真優貴の顔を思い浮かべながら、俺はクッキーの袋を手に取る。

 

 

「俺が何かをして、それを真似する。そうすれば同じ時間を共有出来て、色んな話をして、楽しい時間を過ごせる。こんなに嬉しいことはないですよ」

 

 

 ふと袋から視線を上げると、氷川さんと目があった。

 

 

 その目は様々な感情を含んでいて。

 

 

 その中で1番強かったのは——

 

 

 

 

 

「私は……あなた達が羨ましいです。……あなた達のような……仲良しの双子が……」

 

 

 

 

 

 ——それは間違いなく、“羨望”だった。

 

 

 

 

 





 読んでいただき、ありがとうございました。


 読んでいただいた方なら分かるかもしれませんが、前書きで書かせていただいた【注意点】というのは、紗夜と日菜に関する問題のことです。後にこの辺りについては別で詳しく書くつもりではありますが、「お互いこんなことを思っていたのかも」「主人公達兄妹を見たらどんな気持ちになっていたのか」という個人的考察が入ってきます。


 違和感がある描写も出てくるかもしれませんが、難しく考えずに「こういう解釈の小説なんだな」くらいの軽い気持ちで読んでくださると幸いです。出来る限り原作を再現できるように頑張りますので、よろしくお願いします。


 次回はまた今週中に投稿する予定ですので、よろしくお願いします。

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