Silver Lining ~ BanG Dream Story~   作:おたか丸

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 お気に入り登録をして下さった皆様、ありがとうございます。

 今回は原作からの改変がとても大きいです。完全オリジナル展開ですので、あまり深く考えずに、気軽な気持ちで読んでくださると幸いです。

 それではどうぞー。


第54話 双子

 

 

 

 

 

 とある日の学校終わり。あたしは真優貴ちゃんと貴嗣君に誘われて、喫茶店Sterne Hafenに来ていた。静かな雰囲気のお店で、あたしは2人におねーちゃんの話をしていた。

 

 

「……あたしね、おねーちゃんのこといっぱい傷つけちゃったんだ。そんなつもりなくても、あたしが言ったことが、おねーちゃんを追い詰めちゃって……」

 

 

 真優貴ちゃんから、「日菜さんのお姉さんの話を聞きたい」とお願いされたのは、つい最近のことだった。貴嗣君がおねーちゃんからあたし達の関係について話を聞いたらしく、あたしからも詳しい話が聞きたいとのことだった。

 

 あたし達の関係を修復する手助けをしたい、だからあたしから見たおねーちゃんの日々の様子や、あたしの素直な想いを教えて欲しい——貴嗣君と真優貴ちゃんはこう言った。

 

 2人ともいい人だってことは知ってるし、嘘をついているような感じでもなかった。あたしは2人のお願いを聞き入れて、あたしとおねーちゃんとの関係について詳しく話していた。そして一通り話した後、貴嗣君がこう聞いてきた。

 

 

「日菜さんは、お姉さんと今のままでもいいですか? それとも例え時間がかかっても、関係を修復したいですか?」

 

 

 そんなの、答えは決まっている。

 

 

「あたしは……おねーちゃんとまた仲良くなりたい。昔みたいに……一緒に笑い合いたい」

「その言葉が聞きたかったんです。話してくれて、ありがとうございました」

「うんうん! ありがとうね、日菜さん!」

 

 

 優しい兄妹なんだなーと思う。

 貴嗣君と真優貴ちゃんが笑い合っているのを見て、もしあたしとおねーちゃんが、この2人みたいに一緒に笑えたら……と考えてしまう。

 

 

「日菜さんが話してくれたおかげで、何とかなりそうです。後は私達に任せてください」

「ま、任せてくださいって……どうするつもりなの?」

 

 

 あたしがそう聞くと、真優貴ちゃんがポーチから紙のようなものを取り出した。そしてその紙を、あたしに渡してきた。

 

 

「これは……チケット?」

 

 

 彼から渡された紙には、“Stern Hafen Night Live”の文字が書かれていた。

 

 

「今週の土曜日に、うちの店で小さなライブがあります。それのチケットです」

「そのライブに行けばいいの?」

「はい」

 

 

 この日は何も予定がないから大丈夫だけど……どうしてライブのチケットを?

 

 

「日菜さんは、うちのお店に来てもらって、店員さんにそのチケット見せるだけで大丈夫です」

「日菜さん達の関係を戻すきっかけを作るために、1つ案があるんですけど……今は詳しいことが言えないんです。……『ライブを見るだけじゃ関係が戻るわけない』と思うでしょうけど……俺達を信じて欲しいんです」

 

 

 真優貴ちゃんと貴嗣君は、真剣な眼差しであたしにそう言った。

 

 貴嗣君がこう言うんだから、多分ライブに何かからくりを仕込んでいるんだと思う。でも……貴嗣君の言う通り、ライブに行けばあたしとおねーちゃんが仲直りできるのか、そこがやっぱり不安だった。

 

 それでも目の前の2人を見ると……「この2人なら何とかしてくれるんじゃないか?」と思った。

 

 

「……わかった。貴嗣君と真優貴ちゃんを……信じるね」

 

 

 もう一度お姉ちゃんと笑い合いたい。

 そんな夢を抱いて、あたしは2人のお願いを受け入れた。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

「……ここのようね」

 

 

 チケットを取り出し、そこに書かれている名前と、目の前のお店の看板を見比べる。どうやらこのお店で合っているみたいだ。

 

 一昨日の練習終わりに、山城君から渡されたこのチケットには、“Stern Hafen Night Live”と書かれてあった。

 

 扉を開けると、カランカランと心地よい音が鳴った。入ってすぐのところで、店員さんがこちらにやってきた。

 

 

「いらっしゃいませ。お1人様ですか?」

「はい……あの、これを……」

 

 

 エプロンを着けた、若く綺麗な女性だった。私は彼から貰ったチケットをその人に見せた。

 

 

「ライブに来られたんですね。ありがとうございます。それではご案内しますね」

 

 

 やんわりとした口調にどこか既視感を覚えながら、私は店員さんについていった。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

「こちらの席へどうぞ」

「はい。ありがとうございます」

 

 

 チケットを見せると、あたしは下の階のある席に誘導された。どうやらここがあたしの席みたいだ。

 

 周りを見ると、夜なのにも関わらず、多くの人が集まっていた。決して大きなステージじゃないけれど、それでも席はビッシリと埋まっている。そんなにすごいライブなのかな?

 

 そんなことを考えて周りをボーっと見渡していると、数分後にまた1人、この下の階に降りてきたのが見えた。しかもその人物は——

 

 

「……おねーちゃん?」

 

 

 あたしのおねーちゃんだった。

 

 おねーちゃんはあたしの時と同じように、綺麗な茶髪の店員さんに案内してもらっていた。おねーちゃんの元へ行こうかどうか悩んでいる内に、突然パッと店の照明が小さくなり始めた。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 部屋の照明が薄くなり、他のお客さん達から小さい歓声が出た。これからライブが始まるのだと分かった。

 

 ステージを隠していた幕がゆっくりと開き、スポットライトが当たる。舞台が照らされ、演奏者の姿が見えると、またもや歓声と拍手が興った。

 

 ステージには、数名の演奏者がそれぞれの楽器を持って立っていた。その中でも、ステージ端に置かれているグランドピアノに座っている女性と、中央のマイクスタンドに立っている男性は、とても見覚えのある人物だった。

 

 

「山城君と……真優貴さん?」

 

 

 山城君と双子の妹、真優貴さんだった。白のシャツに黒のジャケットを着た2人は、同じくステージに上がっている人達のように、お客さんの歓声に手を振って応えていた。

 

 拍手が静まり始めたタイミングで、彼はマイクに顔を近づけた。

 

 

 

「皆さん、今日は僕達のライブに来てくれて、本当にありがとうございます。うちのお店が東京に引っ越してきてからの初ライブですが、多くの方に来ていただいて、とても嬉しいです」

 

 

 山城君はハキハキとした声でそう話す。

 

 

「今日は素敵な曲を2曲演奏します。短い時間ではありますが、僕達と一緒に楽しんでくれると嬉しいです」

 

 

 彼に応えるように、所々で歓声が上がる。

 

 

「ありがとうございます。それでは早速行きましょう。1曲目はD〇n Di〇bloさんから“Thousand Faces”……なのですが」

 

 

 予想外の彼の言葉に、お客さん達は「おお??」と、どこか期待するような反応を見せる。

 

 

「元々の英語の歌詞ではなく、今回は僕達兄妹が考えた、オリジナルの英語歌詞で歌わせていただきます。その歌詞なのですが……とある双子の姉妹の話です」

「(……えっ?)」

 

 

 双子の姉妹——その言葉を聞いて、ドキッとした。

 

 

「とても努力家で頑張り屋さんなお姉さんと、生まれつき素晴らしい才能を持った妹さんの物語です。……色々な理由があって、今2人はすれ違っています」

 

 

 間違いない。私と日菜のことだ。

 

 

「でも2人はお互いに歩み寄ろうと、今一生懸命頑張っています。聞いてくれる皆さんに、そんな彼女達の想いを感じて欲しい……そんな気持ちで歌詞を考えました。歌詞の意味は後ろのスクリーンに表示されるので、ご安心を」

 

 

 彼はマイクの位置を調節し、真優貴さんとアイコンタクトを取った。そして姿勢を正してから、凛々しい声で曲の開始を告げた。

 

 

「それでは聞いてください。“Thousand Faces”」

 

 

 

 

 

 

 

 たくさんの人がいたけれど、あなたは近くにいない。

 

 もし今のあなたを見たら、私はあなたと向き合えるのだろうか。

 

 

 

 小さかった頃を、まだ覚えている。

 

 何をするのも、私達は一緒だった。

 

 いつからかそれが辛くなって、あなたを避けてしまった。

 

 何も悪くないあなたを、私は傷つけてしまった。

 

 

 

 なんとかここまで来たけれど、いつも挫けそうなの。

 

 でもあなたとまた笑い合いたいの。私の半分はあなたなんだから。

 

 

 

 たくさんの人がいたけれど、あなたは近くにいない。

 

 もし今のあなたを見たら、私はあなたと向き合えるのだろうか。

 

 今までずっと、辛くて苦しかった。

 

 でもどれだけ時間がかかっても、あなたと向き合いたいの。

 

 

 

 

 

 

「これは……私の気持ち……」

「おねーちゃんの……私へのメッセージ……」

 

 

 

 

 

 

 おねーちゃんが笑ってる写真、今でも持ってるよ。

 

 おねーちゃんはいつもそばにいて、私を笑顔にしてくれた。

 

 でもあたしが傷つけちゃって、ずっと戦ってきたんだよね。

 

 こんなあたしだけど、おねーちゃんのことが大好きなの。

 

 

 

 なんとかここまで来たけど、本当は不安なんだ。

 

 でもまたおねーちゃんと笑い合いたいの。あたしの半分はおねーちゃんなんだから。

 

 

 

 たくさんの人がいたけれど、おねーちゃんは近くにいない。

 

 もし今のあたしを見てくれたら、おねーちゃんは笑ってくれるかな。

 

 今までいっぱい傷つけて、辛い思いをさせちゃった。

 

 でももしおねーちゃんと並んで歩けるなら、あたし頑張りたいの。

 

 

 

 

 

 

「これ……あたしの気持ち……」

「日菜の……私への想い……」

 

 

 

 

 

 

 今までずっと、辛くて苦しかった。

 

 でもどれだけ時間がかかっても、あなたと向き合いたいの。

 

 

 今までいっぱい傷つけて、辛い思いをさせちゃった。

 

 でももしおねーちゃんと並んで歩けるなら、あたし頑張りたいの。

 

 

 

 

「山城君……また泣いて……」

「貴嗣君……泣きながら……歌ってる……」

 

 

 まるで……。

 

 

「日菜が歌っているみたい……」

「おねーちゃんが歌っているみたい……」

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 パチパチパチパチ!!

 

 観客席から、歓声と共に大きな拍手が送られる。山城君は汗を拭って、他のメンバーの人達と目を合わせ笑い合っている。

 

 

「(お互いの想いを歌に乗せて……伝えてくれたのね)」

 

 

 

 どうして彼が私をこのライブに招待したのか、ようやく分かった。

 

 私の想いと、日菜の想い。その2つを背負って、彼は歌った。歌に私達の想いをのせて、私達の間に架橋を作ってくれたのだ。

 

 

「紗夜さん」

 

 

 誰かに呼ばれ、声の方を向く。そこには先程までピアノを弾いていた真優貴さんがいた。そして彼女の隣には……。

 

 

「……日菜……」

「……おねーちゃん……」

 

 

 真優貴さんの隣には、日菜がいた。

 不安そうな顔をしている日菜を、真優貴さんは肩に手を置いて励ました。

 

 

「日菜さん。今の日菜さんなら、大丈夫です」

「……うん。ありがと、真優貴ちゃん」

 

 

 少し笑ってから、日菜は私の方を向いた。

 

 

「おねーちゃん……隣、座ってもいい?」

 

 

 日菜は少し震えた声で、私にそう聞いてきた。

 

 

「……ええ。いいわよ」

「……! あ、ありがと……!」

 

 

 日菜は嬉しそうな反応を見せ、私の隣に座ってきた。隣に座った日菜は、小さい声で私に話しかけてきた。

 

 

「歌……おねーちゃんも聞いてたんだね」

「ええ……あなたの想い、伝わったわ」

「あたしも……おねーちゃんの気持ち、伝わったよ」

 

 

 日菜の言葉だけが、すうっと耳に入ってくる。

 まるで私達以外誰もいないような、そんな空間が、私達を包み込んでいた。

 

 

 

 

「日菜……今までごめんなさい。私のせいで……日菜もずっと不安だったのよね。……今まで、あなたを沢山傷つけてしまって、本当にごめんなさい。でも……こんな私だけど、いつかあなたと向き合いたいの。……いつか……あなたとまた一緒に笑い合いたいの」

 

「おねーちゃん……あたしこそごめんね。あたしのせいで、毎日辛くて、挫けそうだったんだよね……今までおねーちゃんのこといっぱい傷つけちゃったけど……それでもあたしは、おねーちゃんとまた並んで歩きたい」

 

 

 彼の歌に勇気を貰って、お互いの気持ちを隠すことなく、静かに伝える。

 

 

「ええ……どれだけ時間がかかっても、必ずあなたの元に行くから。……あなたと並んで歩けるように頑張るから」

「うん……うんっ! あたしも頑張る! おねーちゃんと一緒に笑えるように……これから頑張るね!」

「ええ。……ありがとう、日菜」

「うん……! ありがとう、お姉ちゃん……!」

 

 

 

 

 

 そして何年振りだろうか。

 

 日菜と私は、一緒に笑顔になれた。

 

 

 

 

 

「みなさーん! 2曲目に行く準備はいいですか~!?」

 

 

 真優貴さんの声で、私達の意識は現実に引き戻された。彼女の掛け声に、観客は歓声をあげる。

 

 

「今度はお兄ちゃんが得意のアコギを弾くので、楽しんでくださいね~! お兄ちゃん、準備はいい?」

「もちろん。いつでも行けるよ」

「オッケー! 皆さんも手拍子お願いしますよ~? それじゃあ行きます!」

「「E〇 She〇ranさんより、“Nancy Mulligan”!!」」

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

「「ありがとうございましたー!」」

 

 

 お客さんからの拍手喝采に包まれて、ライブは無事終わった。1人、また1人とお客さんは減っていき、そしていつのまにか私達だけになっていた。

 

 優しい光に照らされた薄暗い室内で、私は日菜と話していた。

 

 

「ライブ……すごかったね」

「ええ。とても……楽しかったわね」

 

 

 2曲目はすごかった。曲調が明るいものというのもあるだろうけど、それ以上に彼らは本当に楽しそうに演奏していた。その気持ちがこちら側にも伝わってきて、その場にいた全員が、心の底から音楽を楽しんでいる……そんな不思議な感覚だった。

 

 

「どうだった? 今日のライブ、楽しかったでしょ」

「「えっ?」」

 

 

 私達に声をかけてきたのは、受付をしてくれた店員さんだった。

 

 

「初めまして。山城真愛です。あの子達の母です」

「「ええっ!?」」

 

 

 日菜と一緒に、驚きの余り声を上げてしまった。大学生と見間違うくらい、この人が若く見えたからだ。

 

 

「あの子達があんなに必死になっているのを見たのは久しぶり。でもあなた達を見たら、その理由がよく分かった」

「? それはどういう……?」

「……そうね。折角だから、少し昔話をしましょうか。お隣、失礼するわね」

 

 

 山城君のお母様は席に座ると、優しい声で私達に語り掛けてきた。

 

 

「今はあんなに仲良しな2人だけど……昔は違ったの」

「「……!?」」

 

 

 山城君にそっくりな、ゆっくりで穏やかな口調で、真愛さんは遠くにいる彼らを見ながら話し始めた。

 

 

「真優貴が女優なのは知っていると思うけれど……実はあの子が小学3年生にオーディションを受けた時、貴嗣も一緒に受けたの。兄妹一緒に受けようってね」

 

 

 知らなかった。

 でも山城君は俳優として活動していないはず……ということは……。

 

 

「あの子達には“才能の差”があった。貴嗣が必死に努力してやっとできるようになったことを、真優貴はすぐにできてしまう。それが響いたのかは分からないけれど……合格したのは真優貴だけだった」

 

 

 やっぱりそうだ。

 彼は落ちてしまった。努力したけれど、報われなかった。

 

 

「次の年、彼は再度オーディションを受けた。前回以上に努力をしたけれど……あの子はまた落ちた」

「も、もう1度挑戦して……またダメだったのですか……?」

「ええ。そうよ。それも真優貴がどんどん活躍していく姿を毎日テレビで見ながら……周りの人達にそんな真優貴と常に比べられながら、ね?」

「「……っ!?」」

 

 

 優しく微笑んで、お母様が私を見つめる。その表情は山城君にそっくりだった。

 

 

「真優貴がその才能で沢山の人達から賞賛を浴びる中、貴嗣は必死に頑張った。それでも報われなかった。劣等感、羨望、嫉妬……いつしか2人の間には、大きな溝ができてしまってたの」

 

 

 彼らにそんな過去があったなんて……。

 私はただ、彼らの知られざる一面に驚くしかなかった。

 

 

「その顔……“信じられない”って顔ね」

「だって……山城君はいつも笑顔だから……強い心を持っていて、私みたいに劣等感を抱いたりなんて……」

「あの子だって傷つくし、妬むし、羨ましいって思うわ。……貴嗣だって人の子、超人じゃないのよ?」

 

 

 その言葉を聞いて、一昨日の出来事を思い出す。

 

 

『……分かりますか……私の気持ち……? 何をやっても比べられる苦しさが……あなたには分かりますか……?』

 

 

 分からない訳がない。山城君は同じような経験をしたのだから。だから私の気持ちを分かってくれて、一緒に泣いてくれた。

 

 

「けれどあの子達は優しかった。妹と比べられて辛かっただろうに、それでも貴嗣は真優貴を応援し続けた。兄を傷つけていることが悲しかっただろうに、それでも真優貴は貴嗣を支え続けた。……今日のあなた達みたいに自分の気持ちを伝えあって、少しずつ和解していって……そうやってあの子達はまた、お互いに笑い合える関係になったの」

 

 

 今では一緒に笑い合っている彼らだけど、その笑顔の下には、私が想像できないほどの涙があるのかもしれない。

 

 

「あの子達は、すれ違うことの痛みを知っている。だからあなた達を放っとけなかったんだと思う。あの子達は今日、“音楽”であなた達の心を繋げた。あなた達の間に橋を作って、歩み寄れるように手助けをした。……ほら、来たわよ」

 

 

 気が付くと、向こうから2人が近づいてきた。

 

 

「もしあの子達の過去をもっと知りたいなら、尋ねてみるといいわ。絶対に教えてくれるから」

「山城君達の……過去……」

「それじゃあ私はこれで失礼するわね。後はあなた達でゆっくり楽しんでね」

 

 

 山城君のお母様はそう言って立ち上がり、静かに上の階へ上がっていった。そして入れ違うように、彼らがこちらに来た。

 

 

「お2人とも、今日は来てくれてありがとうございます。どうでしたか?」

「うんっ! もうすーっごくるんっ♪ ってきたよ!」

「日菜……それやめなさい。山城君達が理解できないわよ」

「ははっ。大丈夫ですよ……あれ?」

 

 

 山城君がそう言った時だった。

 

 

「クゥ~ン」

 

 

 えっ? 犬の鳴き声……?

 

 

「あれ、ホープ!?」

「どうしてここに……よいしょっと」

 

 

 い、犬がいる……どうして……?

 

 

「お母さんだね。絶対」

「だな。ほんとならもう家にいる時間だもんな。ごめんなーホープ。寂しかったよな~」

「クゥ~ンクゥ~ン」

「えっ? 何々?」

 

 

 彼の腕の中にいるその子は、真っ直ぐ私達の方を見つめていた。可愛らしい声で鳴きながら、山城君に何かを伝えているみたいだった。

 

 

「ほほーなるほど」

 

 

 い、いまので分かったの……!?

 

 

「お姉さん達が気になるのか。よしよし分かった。……氷川さん、隣失礼しますね」

「えっ……や、山城君!?」

「じゃあ私は日菜さんの隣座りますね~! お邪魔しまーす!」

「いいよ~! いらっしゃい! わあ……ワンちゃん可愛いー!」

 

 

 彼はいきなり私の隣に座ってきた。子犬は私達の方に身を乗り出して、クンクンと匂いをかいでいる。

 

 

「この子はホープって言います。お2人と仲良くなりたいみたいです」

「な、仲良く……ひゃっ!」

 

 

 このホープ君はいきなり私の膝の上に移動してきて、そのままペタンと座ってしまった。

 

 膝に温かさを感じる。

 こんなに体が温かいのね……それに、私を見つめながら尻尾をフリフリと振っているのが、とても可愛い。

 

 

「ねえおねーちゃん、ホープ君撫でてあげたら?」

「な、撫でるの!? もし嫌がられたら……?」

「嫌だったら膝の上に乗ったりしませんから、大丈夫ですよ。ほら、どうぞ」

 

 

 真優貴さんにそう言われて、心を決めてホープ君の体を撫でる。するとホープ君は目を細め、気持ちよさそうな表情を見せてくれた。

 

 

「……かわいい……」

「ホープも気持ちいいって言ってますよ」

「そ、そうなんですか……ふふっ……♪」

 

 

 山城君の言葉に、自然と笑みがこぼれる。

 

 毛並みがとても綺麗で、撫でていて気持ちいい。犬のブラッシングは大変だとテレビで見たことがあるけれど……彼らが愛情深く接している証拠だろう。

 

 

「あっ、あたしのほうに来た!」

 

 

 ゆっくりと体を起こし、ホープ君は日菜の膝に行ってしまった。

 

 

「わあっ、かわいい! 毛並みもサラサラだね」

「お兄ちゃんが週1でブラッシングやってますからね~。もう最高の毛並みですよ」

「流石ですね。……日菜、耳の後ろを軽く撫でてあげて。そこにツボがあって、気持ちいと感じるらしいわよ」

「わかった! ……ほんとだあ~! すっごく気持ちよさそう!」

 

 

 日菜の言う通り、とても気持ちよさそうにしているホープ君。日菜の撫で方も上手だ。

 

 

「詳しいですね。実は犬好きだったり?」

「……はい。私、犬が好きなんです」

「昔から好きだよねー! ……あっ、そうだ! この前お父さんが録画してくれたワンちゃんの特集番組、今度また一緒に見ようよ!」

「そうね。また一緒に見ましょう」

 

 

 また見つめ合って、一緒に笑う。日菜はこんなに明るく笑うのだと、今更ながら気付くことができた。

 

 

「氷川さん、気づいてます?」

「何をですか?」

「今の氷川さん、日菜さんとちゃんとお話しできてます。どっからどう見ても、仲良しな双子です」

「……あっ……」

 

 

 彼に言われて初めて気が付いた。

 

 今の私は、日菜を真っ直ぐ見ながら、この子と話ができるようになっていた。まだ完璧とは言えないけれど、日菜の目を見ながら話せるようになっていた。

 

 

「ちょっとずつでいいです。ちょっとずつ、色んな思い出や経験、気持ちを共有してみてください。必ずいい方向に向かいます」

 

 

 いつの間にか膝の上に戻っていたホープ君を撫でながら、山城君は私を見つめた。

 

 

「氷川さんなら……氷川さんと日菜さんなら、絶対にできます」

 

 

 もちろん確証なんてない。保証なんてない。

 でも彼の目を見ると、なんだかいけるような……うまくいくような気がした。

 

 

「……紗夜でいいです」

「えっ?」

「苗字読みだと、日菜と紛らわしいでしょう。それに日菜は名前で呼ぶのに私だけ苗字なのは……その……」

「?」

「と、とにかくっ! これからはその……私のことも名前で……」

「分かりました……“紗夜さん”」

 

 

 お父さん以外の男性に名前を呼ばれるなんて、思ってもなかった。

 

 ……お願いをする時、妙に緊張したのは内緒だ。

 

 

「それじゃあ俺のことも名前で呼んでください。山城だと、真優貴と紛らわしいですから」

「はい……“貴嗣君”」

 

 

 今度は私も彼の名前を呼ぶ。何だか少し恥ずかしいけれど、嫌な感覚ではない。

 

 

「う~ん! 何だか今のお姉ちゃんと貴嗣君、すっごいるんっ♪ って感じ!」

「日菜……だからその“るんっ♪” は止めなさいってさっきも言ったでしょ」

「あっ、今のお姉ちゃんの“るんっ♪”、すごい可愛かった! もう1回言って!」

「ええっ!? い、言わないわよっ!」

「えーなんでー! 言って言って言って~!」

「だ、だから言わないって言ってるでしょ……!」

 

 

 全くこの子は……すぐ自分のペースで話すんだから……。

 

 

「紗夜さん」「日菜さん」

 

「はい?」「んー?」

 

「「——楽しそうですね♪」」

 

「「……!」」

 

 

 貴嗣君と真優貴さんは、優しそうに笑って私達を見つめていた。

 

 

 そして私達も自然とお互いの顔を見て——

 

 

「……ふふっ♪」

「……えへへっ♪」

 

 

 ——いつの日かと同じように、一緒に笑うことができた。

 

 

 

 

 

 

 

 





 読んでいただき、ありがとうございました。

 今回は本小説を書くにあたって一番最初に思いついた展開、紗夜と日菜に関わる問題について書かせていただきました。もう原作ガン無視オリジナル展開でしたが、「この小説ではこういう展開なんだな」くらいの気持ちで捉えてくださるとありがたいです。

 次回は来週までに投稿する予定です。よろしくお願いします。

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