Silver Lining ~ BanG Dream Story~   作:おたか丸

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新たに☆9評価をくださった睦月稲荷様、坂田銀時様、あこまやぬやゆののゆよや様、☆10評価をくださった夢見ネル様、本当にありがとうございます! 評価コメントも書いてくださって、感謝感激です。

 Roselia編もあと少しです。頑張って書き切ります。

 それではどうぞー。


第56話 決意

 

 

 

 

 

「お待たせ~! ごめん、ちょっと待たせちゃったかな?」

「全然大丈夫ですよ。それじゃあ立ち話もなんですし、どこか座れる場所でも探しましょうか」

「あっ、それじゃあ少し歩いたところの川はどう? あそこ、休憩用のベンチあったしさ」

「いいですね。行きましょう」

 

 

 急ぎ気味でコンビニから出てきたリサさんと合流する。

 

 俺達は今日の件について話をするために、近くの川まで行くことになった。川岸には休憩用のベンチが多く設置されており、ゆっくりと話をするにはうってつけであった。

 

 

「ねえ貴嗣。あそこ見て」

「ん?」

 

 ベースを持ったリサさんと歩き、川の近くまで来たところで、リサさんが唐突にそう言った。リサさんの視線を追うと、あるものが目に入った。

 

 

「おおっ、カフェの出店ですか。お洒落ですね」

「うんうん! 手ぶらで話をするのもアレだしさ、何か買っていこうよ」

「了解です」

 

 

 リサさんの提案によって、川の近くに偶然開かれていた出店で飲み物を買うことに。2人でアイスコーヒーを買ってから、近くのベンチに座った。

 

そしてお互い1口コーヒーを飲んでから、リサさんがこちらに問いかけてきた。

 

 

「貴嗣はさ、Roseliaで歌ってる時の友希那って、どういう風に見えてる?」

「どういう風に、ですか? うーん、そうですねー……」

 

 

 これまでの練習風景、湊さんが歌っている姿を頭に思い浮かべる。

 

 

「——……辛そう」

「えっ?」

「何て言うんだろ……歌ってる時の湊さんって、何か我慢している感じなんです。本当は歌うことが大好きで楽しいんだけれど、その気持ちを抑え込んでいるっていうか……」

 

 

 自分の考えを伝えると、リサさんは目を開いて驚いていた。

 

 

「そっか。うん……やっぱりそうだよね」

「?」

「アタシにはね……歌ってる時の友希那、すっごく幸せそうに見えてたんだ。……友希那のお父さんと一緒にセッションしてた頃みたいに、楽しそうに歌ってた」

「お父さん?」

「そう。……友希那のお父さん」

 

 

 リサさんの声はとても寂しそうだった。暫しの沈黙の後、リサさんは心を決めたような真剣な表情で、こちらを見つめてきた。

 

 

「貴嗣に聞いてほしい話があるんだ。ちょっと長い話になるんだけど、聞いてくれる?」

「勿論です」

 

 

 リサさんはありがとうと言ってから、正面を流れている川へと視線を移した。

 

 そしてすうっと息を吸ってから、ゆっくりと話を始めた。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 それから10分くらい、アタシは貴嗣に友希那の話をした。

 

 友希那がRoseliaを結成したのは、友希那のお父さんの無念を晴らすため。

 

 アタシがRoseliaに入ったのは、そんな友希那を支えたいと思ったから。

 

 今までのことを全部、貴嗣に話した。

 

 

 貴嗣はアタシが話している間、何も言わずにじっくりと話を聞いてくれた。でも、アタシが話し終わった後も、貴嗣は黙ったままだった。

 

 

「貴嗣? どうかした?」

「ああ、大丈夫です。リサさんの話を聞いて、考え事をしてました」

 

 

 アタシは考え事? と貴嗣に尋ねた。

 

 

「ずっと気になってたんです。『どうして湊さんは笑わないのか』って」

「えっ……」

「出会ってからずっと、湊さんは何かに追い詰められているように見えました。練習に対する姿勢、メンバーに対する態度、そして音楽に対する考え方……明らかに何かを抱えているような感じでした」

 

 

 貴嗣は続けた。

 

 

「色々考えました。『フェスに出てプロとしてデビューし、そのお金で家族を養うため』とか『実力を誇示することで誰かを見返すため』とか。……まあ全部はずれだったわけですけど」

 

 

 真剣な表情で、貴嗣はそう言った。さっき貴嗣が言った「誰かを見返す」っていうのは、ある意味合っているのかもしれない。

 

 

「湊さんはお父さんのこと、尊敬しているんですね。だからこそ、自分を追い詰めてしまっていたのかもしれませんね」

「うん……でも、最初からあんな感じじゃなかったんだよ? アタシ達が子どもの頃なんて、すっごく楽しそうに歌ってたし」

 

 

 そう。あの頃の友希那は楽しそうだった。それに、そんな友希那を見るのが嬉しかった。

 

 

「そうですね。なんだかその光景、思い浮かびます」

 

 

 そう言う貴嗣は、どこか嬉しそうだった。自分の子どもが楽しそうに遊んでいる姿を見て幸せになっているお父さんのような、そんな表情。

 

 

「アタシさ、友希那に幸せになってほしいってずっと思ってたんだ。昔みたいに楽しそうに歌って欲しいって……そのためにアタシはアタシが出来ることを友希那にしてあげたいって」

 

 

 手元に視線を移す。膝の上に置いている両手に、力が入って来る。

 

 

「でも……今回のスカウトのこと、アタシ全然気づけなかった。今から思い返したら、何だか友希那が悩んでそうな素振り見せてたのにさ……あの時気付けてたら何か出来たかもって……でもそんなの今更だよね……っ……」

 

 

 目元に熱がせりあがってくる。何とか堪えようとして、両手をギュッと握りしめる。

 

 

「今までお父さんのことも、Roseliaもフェスのことも……全部友希那に背負わせてさ……結局何にもしてこなかったなぁって……!」

 

 

 もう途中から震え声だった。視界が歪んだかと思えば、手の上にポタポタと温かい雫が堕ちてきた。

 

 

「今までずっと友希那のこと隣で見てきただけで……偉そうなこと言っときながら……っ……アタシ……っ……何もできなかった……」

 

 

 嗚咽交じりの涙声。さっきから何度も何度も制服で拭っているけれど、涙は全然止まってくれなかった。

 

 その時、涙を拭っている腕を、隣からゆっくりと掴まれた。そのまま腕を少し離されて、目元に柔らかい感触が伝わった。

 

 

「それだと制服が汚れちゃいます。このハンカチ、使ってください」

「……っ……貴嗣……?」

 

 

 目元にあったのは、とても綺麗なハンカチ。そのハンカチで、貴嗣はアタシの涙を優しく拭いてくれていた。

 

 

「ア、アハハ……後輩にこんなみっともない姿見せちゃうなんて……ちょっと恥ずかしいなぁ……」

「泣くことは自分の気持ちと素直に向き合っている証拠。みっともなくないです」

「もう……そんな優しいこと言われたら……もっと泣きたくなっちゃうじゃん……」

「別に良いじゃないですか。気持ちもスッキリします。……幸い周りに人はいませんから、ね?」

「うん……じゃあさ貴嗣……ちょっと背中、貸してくれる……?」

「もちろんです」

 

 

 貴嗣は体を少し動かして、こちらに背中を向けた。

 

 その背中はとっても大きくて、アタシを包み込んでくれているみたいだった。

 

 アタシは貴嗣の背中にギュッとしがみついて、5分程泣き続けた。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

「ごめんね貴嗣。制服、汚しちゃった……」

「全然大丈夫ですよ」

 

 

 貴嗣は笑顔で応える。

 

 泣いたおかげか、気持ちはかなり落ち着いた。それと同時に「男の子に背中を貸してもらって泣いた」という行為が、今になって恥ずかしくなった。

 

 

「(勢いに任せて結構積極的なことをしちゃったなぁ……なんて)」

 

 

 気恥ずかしくなってちょっとソワソワしている自分がいる。横目でチラチラと貴嗣の方を見ると、何かを考えている様子だった。

 

 

「(……あれ?)」

 

 

 ふと、貴嗣の上着の襟の部分に、何だが濡れた後があるのに気付いた。

 

 アタシが濡らしちゃったかなと思ったけど、貴嗣の首が濡れるとは考えにくかった。そこで貴嗣に聞こうと思って、こっそり顔を見た。

 

 

 でも貴嗣の目を見て、その考えがパッと消えてしまった。

 

 

「(……貴嗣……目が赤い……?)」

 

 

 貴嗣の目は充血していた。まるで泣いた後みたいに、アタシと同じように真っ赤だった。

 

 

「(……貴嗣……泣いてた……?)」

「リサさん? どうしました?」

「へっ!? い、いやっ、何でもないよ……!」

 

 

 明らかに泣いた後の目をしていることが気になりすぎて、貴嗣がアタシを見ていることに気付かなかった。

 

 アタシの反応に貴嗣は首を傾げるが、すぐにいつもの穏やかな顔に戻る。

 

 

「俺、1つ分かったことがあるんです」

 

 

 川を見ながら、貴嗣が言った。

 

 

「色々考えてみたんです。なんで湊さん、あんな悩んでる顔してたんだろうなって。フェスに出るってだけなら、事務所からのオファー受ければいいのにって」

 

 

 アタシは貴嗣の話を聞く。

 

 

「でもリサさんの話を思い出して、分かったんです。……湊さん、本当はRoseliaが大好きなんじゃないかって」

「……!」

「確かに使い捨てで集めたメンバーだったのかもしれない。でも、同じ時間を共有していくにつれて、湊さんの中に“愛着”っていうものが湧いたんじゃないのかなーって」

「愛着……」

「皆さんとたくさん練習して、話して、関わって……そうしていく内に、皆さんは“絆”で繋がっていたんだと思うんです」

「……絆……っていうことは……!」

「ええ。そうです」

 

 

 貴嗣がアタシの顔を見てくる。その顔はとても嬉しそうだった。

 

 

「湊さんはRoseliaを続けたいんだと思います。リサさんや紗夜さん、あこちゃんや白金さんと一緒に、これからもRoseliaとして音を奏でたいって。……ほら、これを見てください」

 

 

 貴嗣はスマホを取り出して、ある動画を見せてくれた。ついこの間の合同練習で、あこが撮ってくれたアタシ達の演奏風景だ。

 

 

「リサさん、皆さんの顔をよーく見てください」

「顔? ……あっ!」

 

 

 一見いつもの練習風景。でも……。

 

 

「皆……笑ってる……!!」

 

 

 アタシも、紗夜も、あこも、燐子も、友希那も。

 皆楽しそうに笑っていた。

 

 

「見てくださいよ、湊さんの顔。すごく楽しそうじゃないですか」

「友希那……楽しそうに歌ってる……」

「これではっきりしました。湊さんは今、自分の目標と自分の気持ちの摩擦で悩んでいるんです。そして事務所からのオファーにオッケーを出していないということは……」

「友希那の気持ちが……Roseliaへの気持ちのほうが強いってこと……!」

「はい。そう考えていいと思います」

 

 

 貴嗣の話を聞いて、今まで暗闇にいて何も見えなかったところに、一筋の光が差し込んできたみたいな……一気に希望が湧くような、そんな気持ちになった。

 

 

「あこちゃんと白金さんが動画を見返していて、ふと気付いたみたいです。……あとはこの動画を見て、湊さんが自分の気持ちを認められるかどうかだと思います」

 

 

 貴嗣がアタシに話しかける。

 

 

「自分はRoseliaが大好きなんだって、音楽が好きなんだって認める……そしてそれを後押しするのが——」

「——アタシの役割、だね!」

「流石リサさん」

 

 

 2人で笑い合う。なんだか、上手く行ける気がしてきた。

 

 

「うん、ありがとう貴嗣。アタシ、友希那の家行ってくる。友希那と話して……自分の気持ちをちゃんと伝えるよ。友希那の背中を押せるように、頑張ってみる!」

「はい。俺も応援してます。……それじゃあ、そろそろ行きますか」

「うん!」

 

 

 楽器のケースを持って、2人同時に立ち上がる。

 

 

 今度はちゃんと友希那の気持ちに向き合うんだ。そう心に決めて、すっかり暗くなった街の中を、アタシは貴嗣と歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 
 読んでいただき、ありがとうございました。リサ姉がメインの話でした。

 次回も来週中に投稿できるように頑張ります。よろしくお願いします。

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