Silver Lining ~ BanG Dream Story~   作:おたか丸

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第59話 挑戦

 

 

 

 

 

 Next Era Contest——N.E.Cの事前審査(Phase 1)当日。俺達4人は楽器を持って、他の参加者と一緒に控室で自分達の出番を待っていた。

 

 

「いよいよだな」

「ああ。今までとは違う雰囲気……控室にいてもピリピリ感が伝わってくるぜ。……って、おい穂乃花、さっきから緊張しすぎじゃないか? 焦んなくても大丈夫だって。いつも通り、演奏を楽しもうぜ」

「うん。ありがとう大河。……ちょっと緊張ほぐれた」

「友希那さん達も応援に来てくれてるから、大丈夫だよ。今までの練習の成果、皆に見てもらおう」

 

 

 控室に設置された大きなスクリーンを見ながら話す。どのバンドも素晴らしい演奏をして、そのたびに観客席から拍手喝采が送られている。それだけならいいのだが、今回はただのライブイベントじゃない。審査員の人達が、自分達の演奏を見る。

 

 そう考えるだけで、緊張感が一気に上がる。

 これはライブイベントであると同時に厳しい審査なのだ。いつもそこまで緊張しない穂乃花(寧ろいつもテンションが高い)が若干尻込みして口数が少なくなっているくらいだ、周りを見ても、余裕そうな参加者は1人もいなかった。

 

 

「……貴嗣は平気そうだね」

 

 

 穂乃花は言った。

 

 

「いやいや、俺も今緊張してるぞ。緊張の捉え方は違うかもだけど」

「捉え方?」

「緊張するってことは、今の自分にとって難しいことに挑戦してる証拠だって思ってるからさ。そう考えたら、緊張って案外悪いものじゃないのかなーって……って、ちょっと楽観的過ぎるかもだけど」

「おおー……挑戦してる証拠……なんかそれいいかも!」

 

 

 しょんぼり気味だった穂乃花だったが、少しずつ声に元気が戻って来た。

 

 

「緊張は挑戦、頑張ってる証拠……うんうん! なんか元気出てきた!」

「ふふっ、いつもの穂乃花ちゃんが戻って来たね」

「ありがとねリーダー! ポジティブシンキングで頑張ってみる!」

「おう。リズム取るの、頼んだぞ」

 

 

 座ったまま、穂乃花と笑顔でハイタッチ。その様子から、穂乃花の緊張が少し和らいだのが感じられた。

 

 

「大河もありがとね。ライブ終わったら、2人に飲み物奢るよ」

「「よっしゃぁ」」

「えー穂乃花ちゃん、私にはー?」

「勿論花蓮にも奢るよー! ……炭酸ジュース限定で」

「ちょ、私炭酸無理なの知ってるでしょ……!? ひどいな~穂乃花ちゃん……」

「ああっ、もう冗談だってー! そんな拗ねないでよ花蓮~!」

「プクーッ(頬を膨らませて拗ねてますアピール)」

「「あははっ!」」

 

 

 穂乃花と花蓮のやり取りに、俺と大河は笑ってしまう。勿論花蓮は本気で拗ねているわけではなく、穂乃花の緊張をほぐそうと思っての行動だ。

 

 笑っている俺達につられて、花蓮と穂乃花もクスクスと笑う。そのおかげで緊張がかなり緩んで、普段通りのライブ前の雰囲気が戻って来た。

 

 

 そんな時、3回のノック音に続いて、控室の扉が開かれた。

 

 

「Silver Liningの皆さん、準備をお願いします」

 

 

 前のバンドの出番は終了。スタッフさんが俺達を呼びに来てくれた。

 

 

「了解しました。……よし、皆いくか」

「おう!」

「「うん!」」

 

 

 俺達は楽器を持って、スタッフさんの後に続いていった。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

「皆さんこんにちは! Silver Liningです!」

 

 

 ステージに立った俺達を出迎えてくれたのは、観客と、そして観客席の前方に設置された専用席に座る審査員の方々の盛大な拍手だった。その中には、俺達をCiRCLEのライブ後にスカウトしてくれた女性もいた。

 

 拍手が鳴りやんだタイミングで、真ん中に座る審査員(恐らくトップの人)さんがマイクを持った。壮年の男性で、かなりのベテランの人なんだとすぐに分かった。

 

 

「Silver Liningの皆さん、こんにちは。私は天井。このコンテストで審査員をやらせてもらっている。今日はよろしく頼む」

「はい。よろしくお願いします」

 

 

 声だけで覇気が伝わってくる。緊張によって心拍数が上がっていくのを感じながら、天井さんは話を続けた。

 

 

「君達の噂は聞いているよ。高い調和性を持つバンドだと。それがどれほどのものか見させてもらうよ。君達が今持つ力、その全てを私達に伝えて欲しい。期待しているよ」

「はい! ありがとうございます!」

「いい返事だ。……和田君、彼らと話したいことはないかい?」

 

 

 天井さんは隣に座る女性——俺達を推薦した女性に話しかけた。和田さんは「では、少しだけ」と言って、ゆっくりとこちらを向いた。

 

 

「Silver Liningの皆さん、お久しぶりです。皆さんをスカウトさせてもらった和田です。……どうですか? やっぱり緊張していますか?」

「少しは緊張しています。けどそれ以上に楽しみです」

「それなら良かった。……私は以前からあなた達に注目していました。CiRCLEでのライブイベントの演奏を見て、あなた達からは“何か”を感じました。見る者を惹きつける“何か”です」

 

 

 和田さんは若々しくも、どこか威厳のある女性だった。彼女の言葉からは、強い自信が感じられた。

 

 

「多くの人を惹きつけて止まないあなた達の魅力を、この舞台で披露して欲しい。そう思って、このコンテストに招待させてもらいました。……皆さんの演奏、すごく楽しみにしていますね。頑張ってください」

 

 

 そう言って、和田さんは話を終えた。

 

 

「ありがとう、和田君。さて、そろそろ演奏に移ろうか。今日君達が演奏する曲を教えてくれ」

「はい。スキマ〇イッチさんの〈奏〉です」

 

 

 曲名を伝えると、観客席からおおっ! と期待の歓声が沸いた。

 

 

「いい曲を選んだね。演奏技術は勿論だが……この曲で大切なのはボーカル、つまり山城君、君だ。この曲に込められた魅力を引き出せるかどうか、それは君の歌声にかかっている。君がどのように歌うのか、楽しみにしているよ」

「ありがとうございます」

「うむ。では……始めよう」

 

 

 重みのある天井さんの声をきっかけに、会場の空気が変わった。これから演奏が始まるのだと、観客たちの期待と興奮が伝わって来た。

 

 

 演奏のスイッチを入れるため、深呼吸。

 

 すうーっ、はぁー。

 深く呼吸して、ゆっくりと目を開ける。

 

 

 両隣にいる大河と花蓮、そして後ろにいる穂乃花を見る。いつでも大丈夫だぞと、3人とも目線で教えてくれた。

 

 

 前を向いたその時、会場の真ん中あたりに、見覚えのある人達がいた。Roseliaの皆さんだ。

 

 

 そしてこれは俺の勘違いかもしれないけれど、紗夜さんと目が合った。紗夜さんは俺を見て、ニコッと笑ってくれたように見えた。かなり遠くに座っていたから見間違えかもしれないけれど、それだけで緊張がほぐれるように思えた。

 

 

「それでは聞いてください。〈奏〉」

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 事前審査から数日後。

 気が付けば11月初旬。気温も低くなり、町を彩っていた木々も徐々に色を落とし、季節は本格的に冬に入っていた。

 

 ハァっと吐く息は白い。鞄からマフラーを出して、歩きながら首に巻く。手を温めようと、両手を擦って熱を発生させる。

 

 

「貴嗣君。よかったら、これを使ってください」

「これは……カイロですか?」

「はい。手、寒いのでしょう? これで温めてください」

「ありがとうございます。それじゃあ、使わせてもらいます」

 

 

 休日のギター練習の帰り、お昼時を過ぎて人の動きが落ち着いた街中を、俺は紗夜さんと歩いていた。

 

 紗夜さんからカイロを受け取る。シャカシャカと振ると、すぐにカイロは温かくなり始めた。それを両手で握りしめると、気持ちのよい温かさが伝わって来た。

 

 

「今日も練習に付き合ってくれてありがとうございました。事前審査が終わったばかりなのに、無理を言ってしまいましたね」

「そんなことないですよ。俺も練習したかったですし」

「なら良かった。……1次審査、合格おめでとうございます。素敵な演奏でした」

「あははっ、ありがとうございます。何とか1次は突破できました」

 

 

 紗夜さんは笑ってそう言ってくれた。

 

 コンテスト出場を決める1次審査、Silver Liningは何とか無事に合格できた。上手く演奏できた自信はあったが、やはり名前を呼ばれるまでは、4人ともドキドキしぱなっしだった。

 

 

「Roseliaの皆さんが練習に付き合ってくれたおかげです。紗夜さんも直前までギター練習に付き合ってくれて、ありがとうございます」

「お互い様ですよ。皆さんが良い結果を出せて、私達も嬉しいです。Roseliaも負けていられませんね」

「はい。目指しているステージは違いますけど、お互い頑張りましょう」

「ええ」

 

 

 紗夜さんと話しながら歩いていると、目的地である店に着いた。最近できたお洒落なカフェだ。

 

 店に入って、2人用のテーブル席に座って注文を見る。さっきまで寒い外にいたこともあって、俺達はホットコーヒーを注文した。

 

 

「お待たせしました。ホットコーヒーでございます」

 

 

 注文して数分後、店員さんがコーヒーを持ってきてくれた。香ばしく、良い匂いが漂ってきた。

 

 

「……おいしい」

「はい。とてもいい味です」

 

 

 さっきとは打って変わって、紗夜さんの口数は少なくなった。コーヒーを1口飲んで、カップを置いて、こちらをチラッと見て、また飲む。これをさっきから繰り返している。

 

 

「紗夜さん。ちょっと緊張しすぎじゃないですか?」

「うっ……その……どう話を切り出せばいいのか分からなくて……」

「まあその気持ちは分かりますけどね。……そんなにハッピーな話じゃないですからね」

「……っ……」

 

 

 その、と言って、紗夜さんは遠慮がちにこちらを見つめてきた。

 

 

「話すのが嫌なら、無理に言わなくても……」

「お気遣い、ありがとうございます。でも大丈夫です。話すのが嫌とか、全然そんなのじゃないので。それに……」

「それに?」

「紗夜さんの助けになれるのなら、嫌なんて思う訳ないですよ」

「!?」

 

 

 心配そうな紗夜さんに、笑顔で答える。紗夜さんは一瞬驚いた表情を見せてから、優しく微笑んだ。

 

 

「貴嗣君は本当に相手を安心させるのが得意ですね。……気を遣ってくれて、ありがとうございます」

「どういたしまして。……それじゃあ話しましょうか」

 

 

 俺と真優貴の今までについて。

 あなた達のように、1度すれ違ってしまった双子の話を。





 読んでいただき、ありがとうございました。

 次回からはキャラエピソードになります。テンポよく進めていけるよう、頑張って参ります。

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