Silver Lining ~ BanG Dream Story~ 作:おたか丸
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今回は紗夜のキャラエピ前編です。今回の話は紗夜の話というより主人公の話になっちゃったので、前編後編の2回に分ける形にしました。ダラダラと主人公の昔話が続きますが、読んでいただけると嬉しいです。
それではどうぞー。
※シリアスな描写、不快な描写があります。ご注意ください。
オーディションに合格してからの真優貴は、持ち前の才能でどんどん演技力を伸ばしていった。
表情の作り方、イントネーション、体の動かし方……挙げだしたらキリがないが、とにかく真優貴は教わったことを完璧に吸収し、自分のものにしていった。正しく“一を聞いて十を知る”——自分では到底できないようなことを、真優貴は軽々とこなしていった。
可愛らしい見た目、溢れる才能、しかも性格も良いと来た。こんな完璧武装の子役を見逃す者なんて誰もいない。初出演のドラマで真優貴は多くの注目を集め、瞬く間にテレビに引っ張りだことなった。
実のところ、真優貴がテレビに出始めた時は凄く嬉しかったし、別に嫉妬もしていなかった。いやまあ、嫉妬するのはおかしいんだけど、兎に角真優貴が売れっ子となって活躍し始めた頃は、すれ違いもなく仲良し双子のままだった。
普通に家でも話したし、何なら真優貴がする仕事の話を聞いて、「自分も真優貴みたいに演技の仕事がしたい。絶対今度のオーディションに受かってやる!」ってやる気になっていたくらいだった。真優貴がいたからこそ、自分も夢を目指そうと思えた。
でもやっぱり、夢に向かって進むことは楽じゃなかった。
*
「真優貴ちゃんは受かって、貴嗣君は落ちたんだな」
「そりゃあほら、真優貴ちゃんって天才じゃん? レッスンの時も凄かったし。……でも貴嗣君は……」
「彼も頑張ってたけどねー。やっぱり才能には勝てないってやつかな。ぶっちゃけ貴嗣君、才能とかは全然ないし」
「真優貴ちゃんが1回練習してできること、貴嗣君だと20回くらい練習しないといけないって感じだもんね」
「来年のオーディション狙ってるっぽいけど……正直受かるか怪しいね」
こんな言葉が、スクール内で増え始めた。同じくデビューを目指す仲間達が遠巻きに俺を見て、こんな話をする機会が増えていた。
多分自分達もデビューできないことにイライラして、そのストレスのはけ口が欲しかったんだと思う。芸能界で毎日活躍をしている真優貴と、スクールで毎日練習している俺。小言を言って苛立ちを紛らわせるのには格好のネタだった。
直接言われたことはない。
ただどうしてか、人間とは自分の話には敏感で、話の内容に関係なく耳が良くなってしまう。すれ違い様や遠巻きにそのような話をしているのを聞くと、ズキズキと胸が痛んだ。どれだけ小声で話していても、俺と真優貴を比較する話が耳に入って来た。
我慢した。辛かったけど我慢した。
腹も立ったし、言い返したいって何度も思ったけど、「言い返したら負ける」という父さんの言葉がブレーキとなって、グッとこらえた。結果的に言い返さなくて良かったと思う。多分喧嘩になって、皆が傷ついてしまっただろうから。
特別光る才能は無かったけれど、自分は生まれつき妙に打たれ強いというか、メンタルが強いというか、とにかく我慢するのは得意だった。だからこの陰口も我慢すればいい、自分は一生懸命頑張ればいい、そう言い聞かせて毎日練習に励んだ。
でもやっぱり、自分が気付かなかっただけで、真優貴と比べられる度に、自分の心は確実にすり減っていった。
*
ヘトヘトになってレッスンから帰って来た日があった。
自分ができる精一杯のことをしているのに全然技術が上達せず、でもオーディションの日は近づいてきてで、その頃の俺は内心かなり焦っていた。無茶な自主練をしたり、周りから真優貴と比べられるのに耐えていたのもあって、とにかくもう心身共にグッタリで家に帰って来た日があった。
「……ただいまぁ」
「おかえりー……って、ちょ、どうしたの貴!? 顔げっそりじゃん……!」
丁度中学1年生に上がったばっかりの姉ちゃんが俺を出迎えてくれたのを覚えてる。部活終わりで俺よりも少し前に帰って来た姉ちゃんは、リビングで遅めの晩御飯を食べていた。
「最近練習頑張りすぎだって。真優も心配してたよ? ……まあほら、早くお風呂入っておいで。それとも先ご飯食べる?」
「うーん……ご飯かな」
姉ちゃんと話しながらテーブル席に着こうとした時に、テレビに映っていた真優貴が目に入った。話題のドラマに出演して、インタビューに答えている様子だった。
「いやはや、真優もすごいねぇ。あんなに大人に囲まれてんのに堂々と受け答えしてるし。私だったらビビっちゃうなー」
「……」
真優貴のことを羨ましいって思ったのは、この時が初めてだった。さっきまでご飯を食べようと思っていたのに、急に「すぐにこの場から離れたい」「テレビを見ていたくない」と思った。
「……ごめん、やっぱ先お風呂入って来る」
「えっ? ちょ、貴?」
姉ちゃんの呼びかけを背に、俺はフラフラとした足取りで浴室に向かった。
*
「……っ……なんで……なんで僕には才能がないんだろうなぁ……」
風呂に入って最初に出てきたのは、涙だった。今まで我慢してきたものが溢れたんだろう、三角座りをしたままうずくまって、ずっと泣き続けた。
「才能がないなんて……っ……そんなこと言われなくても……っ……分かってるんだよ……でもこっちだって必死にやってるんだよ……」
口は自然に動いた。誰にも聞こえないくらいの小声で、この場にいないスクールのメンバーへの愚痴がもれた。
同時に、さっきテレビに出ていた真優貴のことを考える。
自分がやっとの思いで身に着ける技術を、真優貴はほんの一瞬で自分のものにする。
羨ましい、妬ましい——心の中に潜んでいた悪意が、顔を出し始めた。
「……っ! ダメだダメだ! それはダメだ……! 真優貴に嫉妬するなんて……それはダメだ……! 何考えてるんだよ僕は……っ!」
湧いた感情を振り払うように、バシャン! と水面を叩く。水飛沫が宙を舞って、自分の頭に降りかかった。
言い訳でしかないが、精神的に疲労していたのもあっただろう。真優貴に対して「羨ましい」「妬ましい」という気持ちが芽生えてしまった。勝手に自分と真優貴を比べて、あまつさえ嫉妬してしまった。
「……僕……ほんとサイアクな奴だ……」
毎日のように周りから真優貴と比べられるのが悲しくて。
努力しても先が見えないのが辛くて。
そして頑張っている妹に嫉妬している自分が、嫌で嫌でたまらなくて。
「……っ……ごめん……ごめんよ真優貴……」
グッと歯を食いしばっても、涙は全然止まらなかった。
家にいる姉ちゃんと母さん、そして父さんに聞こえないように声を殺して泣きながら、必死に頑張っている真優貴に、ごめんごめんと言い続けた。
◇◆◇◆
そこまで言って、目の前にいる紗夜さんを見た。コーヒーを飲む手はピタリと止まっていて、俺の話に集中している様子だった。
「……貴嗣君は」
紗夜さんの声は、ほんの少し震えていた。
「……毎日真優貴さんと比べられて、テレビで活躍する真優貴さんを見て……それでもずっと我慢して、オーディションのために努力し続けたんですか?」
「それしかできませんでしたからね。言い返したらそれこそトラブルになるし、真優貴に冷たく当たるのとか論外、真優貴を傷つけてしまうことになります……それだけは絶対にしちゃダメだって、ガキの頭でも分かってたみたいです」
「……っ」
紗夜さんの息が詰まるのが分かる。何と言えばいいのか、紗夜さんは分からなくなっているんだと思う。
「……なんで……」
「自分、生まれつき妙に我慢強かったんです。それだけは人並み以上にできましたから。我慢して努力して、絶対夢を勝ち取ってやる……その一心だけで毎日を過ごしてました」
コーヒーを飲む。注文してから時間が経っていて、温かくもないし冷たくもない、微妙な温度になっていた。
「それから俺は、無意識の内に真優貴を避けるようになりました。真優貴を見たら、普段は抑えている嫉妬の気持ちが溢れそうになってしまいそうで。でもそれは絶対にしてはいけないと思って……同じ時間を過ごすことを避けていました」
紗夜さんの目が大きく開かれる。
そりゃそうだ、驚きますよね。今の真優貴との関係からは想像できないですよね。
「真優貴には辛い思いをさせてしまいました。俺の避け方は露骨だったし……家族を傷つけるなんて、ほんと最低野郎です」
紗夜さんから視線を外して、外の風景を見る。マフラーやコートを着込んで街の中を行き来する人達が見える。
窓ガラスに自分の顔が映った。気難しそうな顔をしていた。話を聞いてくれている人の前でその顔はダメだぞ、そう心の中で自分を戒めてから、口角を挙げて下手な笑顔を作った。
「そしてオーディションまであと1カ月になったある日に、事件が起きました」
「じ、事件……!?」
「ああいや、その大袈裟なものじゃないですよ? 事件って言うか、出来事って言うか……とにかく、すれ違っていた自分達の関係を一気に変える出来事があったんです」
多分紗夜さん驚くだろうなぁ、そう思いながら俺は言った。
「陰口を言っていた皆に、真優貴がブチギレたんです」
◇◆◇◆
その日のことは今になっても忘れない。土曜日で、朝から昼過ぎまでレッスンのある日だった。休憩時間に、スクールに真優貴が来たのだ。
「貴!」
「えっ……? 真優貴? どうしてここに……?」
「忘れ物届けにきたの! ほらこれ、休憩時間に食べるおやつ、忘れてるよ」
仕事が休みだった真優貴は、わざわざ俺の忘れ物をスクールまで届けに来てくれた。
「あっ……ありがとう……」
「うん! 今日お昼までだよね? 練習頑張ってね」
「うん……ありがとう」
少ない会話を交わした後、久しぶりにレッスンの先生達と話してくると行って、真優貴はレッスンルームを後にした。
そして真優貴が俺の元を離れようとしたことが、事件のきっかけとなった。いつものように遠巻きに俺のことを見ていた皆の陰口を、真優貴が聞いてしまったのだ。
「ねえねえあれ、真優貴ちゃんじゃん……!」
「うわぁ久しぶりに見た! ってかなんでここにいるの? もしかしたら私達の冷やかし?」
「そんなんじゃないでしょ。ほら見て、お兄ちゃんと話している。なんか忘れ物がどうたら……って言ってた」
「ほんといい子だよねー真優貴ちゃん。あれで天才とかもう最高じゃん。……それに比べてお兄ちゃんの方は……」
「可哀想なくらいダメダメだよね。毎日あれだけ練習しても成果が出ないって、もう望みなしだよね」
「なんで諦めないんだろうね? 真優貴ちゃんと違って才能ないって、自分でも分かってるはずなのに」
「もしかしたら……それすら分からないくらい頭も悪いとか?」
「それはないでしょ~! あっ、でもそう言えば……噂で聞いたんだけど、貴嗣君、真優貴ちゃんよりテストの点良かったことないんだって」
「えっ、それホント!? 才能も無くて頭も良くないって、貴嗣君もう真優貴ちゃんに勝てるとこないじゃん」
真優貴が来ていたのもあって、その日の陰口はかなりヒートアップしていた。彼ら彼女らのイライラやストレスも溜まっていたのだろう、いつも以上にキツイ話が聞こえてきた。
ところがこれまた良くない話なのだが、その時の俺はというと、あまり動揺していなかった。メンタルが強くなったとかではなく、陰口や真優貴と比較されることに慣れてしまっていたのだ。感覚が麻痺して、辛いはずなのに辛いと思わなくなってきていたのだ。
ああ、またあそこで何か言ってるよ、暇な奴らだなぁ。まあいつものことだけど。
そんな風に思って真優貴が持ってきてくれていたおやつを口に運んでいた時、遠くから怒鳴り声が聞こえた。
「ほんっっっと……最低!」
「何なのみんな!? そうやって貴の悪口言ってストレス発散!? ふざけないでよ!」
「貴は毎日毎日、頑張ってるの! 寝る間も惜しんで努力してるの! そんな人のことをバカにして……人として恥ずかしくないの!?」
「
真優貴がここまで怒ったのは、この時が最初で最後。
いつも温厚な真優貴をあそこまで怒らせた彼らには、ある意味尊敬の念を抱くべきなのかもしれない。
*
その日の練習が終わり、俺は真優貴と一緒に帰っていた。2人とも黙ったまま、全く同じ歩幅で家に向かっていた。
そして家の近くにある公園の近くまで来た時、隣からすすり泣くような声が聞こえてきた。慌てて振り向くと、隣を歩いていた真優貴が嗚咽を鳴らして泣いていた。
「ううっ……」
「ちょっ、真優貴!? ど、どうしたんだよ……!?」
「ごめん……ごめんね貴……っ……私のせいで……」
「私のせいって……と、とりあえずあそこのベンチに座ろう……!」
運が良いことに、丁度その時俺達は家から少し離れた所にある公園の前を歩いていた。俺は真優貴を落ち着かせるために、とりあえず公園に入って彼女をベンチに座らせた。
「……ずっと……」
震えた声で、真優貴は話し始めた。
「ずっと我慢してたの……? 今までずっと……皆に言われてたの……?」
「……」
「……っ……ごめん……ほんとごめんね貴……」
「な、なんで真優貴が謝るんだよ……! 真優貴は何も悪いことしてないじゃん……!」
「ううん……悪いことした……っ……貴のこと傷つけた……」
涙を流しながら、真優貴はそう言ってくれた。
練習で真優貴は俺のために怒ってくれた。泣きながら俺に謝ってくれた。そんな真優貴の姿を見て、俺はようやく大切なことに気付いた。
「今までずっと僕のこと……応援してくれてたんだな……」
「……っ……そうだよ……」
「真優貴のこと、僕避けてたんだぞ……? 真優貴に悪いことしたんだぞ……?」
「そんなの関係ないよ……! 貴が必死に頑張ってるの、私知ってるもん……! 頑張ってる人を応援するのは……当たり前だよ?」
今でも思う。
あの時の俺は、なんでもっと早く気付けなかったんだろうって。
真優貴は今までずっと俺のことを応援してくれていたんだ。自分がどれだけ仕事が忙しくなっても、ずっと俺のことを見てくれていたんだ。
それなのに俺はどうだ? そんなことにも気付かないで、しかも真優貴の才能に嫉妬? もう何と言えばいいのか、最低最悪の兄貴だ。
「……謝るのは僕のほうだよ、真優貴」
「……えっ?」
「僕は……っ……練習してもしても全然成果が出なくて……それが嫌になって……心のどこかでそれを才能のせいにしてた……なんで僕には才能が無いんだろうって……ずっと思ってた……」
「うん……」
「才能がある真優貴に……嫉妬してた……ダメだって分かってるのに……その気持ちがどんどん強くなってきて……だから真優貴のこと避けるようになった……真優貴と話したら、絶対この嫉妬が爆発して、真優貴を傷つけるって思ったから……」
気づけば俺は真優貴のように、泣きながら俯いていた。自分の罪を告白するように、真優貴に話しかけていた。
「ごめん……ごめん真優貴……僕……真優貴に嫉妬してた……」
嫌われるだろうか。軽蔑されるだろうか。いずれにせよ、どんな反応が返ってきても、俺にはそれを受け入れるしかない。そう覚悟を決めて真優貴の言葉を待っていると——
「……ありがとう」
「……えっ?」
目の前には、泣きながらも笑ってくれている真優貴がいた。
「ありがとうって……なんで……?」
「貴が自分の気持ちを我慢しないで……素直に伝えてくれたから……それがすっごく嬉しいの……」
涙を拭って、真優貴は言った。
「毎日ヘトヘトになって帰ってきて、家でもずっと1人で部屋にこもって練習用の台本読んでて……常に私と比べられて、それでも何一つ言わないで努力して……なんかもう、凄いや」
実はね、と真優貴は言った。
「私が負担になってるんだって思ってた。貴にとって私が邪魔になっちゃってるんだって……私と話したらイライラするだろうって……だから私のほうも、貴のこと避けちゃってた。貴と今までみたいに遊びたかったけど、傷つけるくらいなら我慢したほうがマシだって……そう思ってた」
でもやっぱり俺が心配だったと、真優貴は言った。
「ずーっと我慢してたら、いつか貴が壊れちゃうんじゃないかって思ってた。でも今こうやって、貴が今まで抱えてた気持ちを言ってくれて……安心したの」
真優貴はずっと俺のことを想ってくれていた。自分のことで精一杯なはずなのに、俺のことを大切に想ってくれていた。
お互いの本音を伝えあって、ようやく分かった。
だからちゃんと、自分の気持ちを伝えないと。
「……真優貴」
「……なに?」
「……今までごめん」
そして。
「今までありがとう……っ!」
「……うんっ!」
大きな公園に2人きり。
俺達はその日、久しぶりに2人で笑い合った。
◇◆◇◆
「はい。昔話はおしまいです。お疲れ様でした」
パンっと小さく手を鳴らして、貴嗣君はそう言った。その顔は先程までの苦しそうなものではなく、いつもの爽やかな笑顔だった。
「紗夜さんは聞き上手ですね。そんなに真剣に聞かれるもんだから、ついペラペラと話しちゃいました。……いやーな話でごめんなさいね」
「そんなことはありません。変な言い方かもしれませんが、今の貴嗣君の話を聞けて、とても良かったと思っています」
「そう言っていただけると嬉しいですね」
貴嗣君と真優貴さんも、その背景や過程は違えど、私と日菜のようにすれ違ってしまっていた。彼が教えてくれた昔話は、どんよりとした重い話だった。
もし私が貴嗣君だったら、どうなっていただろう? とずっと思っていた。私は彼のように心が強くない、十中八九、真優貴さんとの関係を悪化させてしまっただろう。
彼らはお互いの気持ちを伝えあった。勇気を出して本音で語り合って、自身の感情と向き合い、再び歩み寄れたのだと。すれ違っていてもお互いのことを考えている様子は、やっぱり彼ららしかった。2人の優しい性格は、子どもの頃から変わっていない。
「自分の気持ちを真っ直ぐ伝える。そのためにはまず一歩踏み出さないといけない……とても勇気がいることですが、逃げてばかりでは何も改善しませんね」
「間違いないです。何事も最初の一歩ってめちゃくちゃ怖いんですけど、いざ思い切って前に進むと……案外いけたりします」
「ええ。その通りですね」
勿論私は貴嗣君じゃない。日菜も真優貴さんじゃない。私と日菜、貴嗣君と真優貴さん、違う存在を比べたところで、あまり意味はないのかもしれない。
それでも私は、彼らがいてくれて良かったと思う。
すれ違ったけれど再び歩み寄れた。歩んだ道は違えど、私達以外にも、そういう双子の兄妹がいる。すれ違う痛みを知っているからこそ、私達に手を差し伸べてくれた彼がいる。私にとって、これほど力強い存在はない。
「俺は真優貴にしてしまったことが許されるとは思っていません。真優貴に許してもらおうとも思っていません。でも……そんな俺を真優貴は受け入れてくれています」
だから決めたんです、と彼は言った。
「善い兄になろう。頑張って成長して、善い人間になろうって。そう決めて色々やってきて……まあ、ちょっとは成長できたんじゃないかなと」
あははっと笑って半分冗談のように言う貴嗣君。
私からしたら、もう十分すぎるくらい善い人だけれど、それを伝えても「ありがとうございます。でもまだまだなんで精進します」なんて答えが返ってきそう。
私はあなたの隣にいたわけではないけれど、昔と比べて、あなたが大きく成長したことは分かります。あなたの考え方や態度から、どれだけの努力を積み重ねてきたかが感じられる。
だから、私は決めました。
「私も貴嗣君と同じ気持ちです。日菜と真っ直ぐ向き合えるように、私も成長したいです」
あなたのように前向きな姿勢で、これからの道を進んでいこうと。
「でも私は……とても不器用です。努力する過程で、何度も躓いてしまうかもしれません。だから貴嗣君、もし私が迷ったり躓いてしまった時は……」
「はい。相談に乗るし、紗夜さんが起きられるように手を貸します。お安い御用です」
「はい。ありがとうございます」
彼の言葉を聞いて、温かい気持ちになる。自分の顔に笑顔が出来ているのが分かる。
「貴嗣君。これからもよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いしますね、紗夜さん。ギターもその他のことも頑張っちゃいましょう」
「ええ。頑張っちゃいましょう」
強く優しい彼のように、いつかなりたい。だからこれからも頑張ろう。頑張って、日菜と心から笑い合える、そんな善い姉になろう。
とある冬の1日。
彼と過ごしたこの時間が、私にとっての道標となった。
読んでいただき、ありがとうございました。
シリアスな話書くのすっっっごい疲れた。もう当分の間は書きたくない(白目)
次回からは楽しくてハッピーな話の予定なので、もうしばらくお待ちください。次回も出来る限り早めの更新目指して頑張りますので、よろしくお願いします。
(余談)
前回のアンケート「Roseliaでのあなたの推しは?」の結果を勝手ながら掲載したいと思います。回答数174! 投票していただいた皆様、ありがとうございました!
1位:氷川紗夜 49pt
2位:今井リサ 45pt
3位:白金燐子 42pt
4位:湊友希那 28pt
5位:宇田川あこ 10pt
以上の結果となりました。紗夜さんとリサ姉が強すぎる(確信)。燐子の伸びも凄くて、今回のアンケートではこの3人の人気が高かったように感じました。再度になりますが、ご回答していただいた皆様、本当にありがとうございました!
ハロハピでのあなたの推しは?
-
弦巻こころ
-
瀬田薫
-
北沢はぐみ
-
松原花音
-
奥沢美咲