Silver Lining ~ BanG Dream Story~ 作:おたか丸
前回からお気に入り登録をしてくださった皆様、ありがとうございます。
今回は燐子とのお話です。あまり燐子を上手に表現できていないかもしれませんが、読んでくださると嬉しいです。
それではどうぞー。
左手に持った紙を見つつ、自分の身長以上の大きさの本棚から、目的の本を探す。本の下に貼られたシールに書かれている番号を右手で1冊ずつ確認していると、すぐに目当ての本を見つけることができた。
「(こう図書室が広いと、検索機は本当に役に立つよな)」
検索機で印刷した紙を見ながらそう心の中で呟く。
紗夜さんがうちに来てくれた次の日、俺は本を借りるため、放課後に学校の図書室に来ていた。窓をしっかりと閉めているため暖房が効いており、室内はとても温かい。
チラリと窓からグラウンドの方を見ると、部活動に励んでいる人達がいるのを確認できた。もう11月の初旬、外は相当に寒いはずだが、部員達の服装は軽装だ。運動しているから体は温まっているだろうが、ここから見ている限りではとても寒そうだ。
「(そういえば紗夜さんって弓道部だっけ。今日も来てたりするのだろうか?)」
頭の片隅でそんなことを考えつつ、借りたい本を持って受付に向かった。
そして受付の席に座っていた人は、とても見覚えのある先輩だった。
「あっ……山城君……」
「白金さん。お疲れ様です。今来たばかりですか? 俺が来た時は、受付が違う人だったので」
「はい……今ちょうど……交代の時間だったんです……」
Roseliaのキーボーディストである白金さんがいた。白金さんが図書委員なのは、頻繁に図書室に来るので知ってはいたのだが、意外にもこうやって受付してもらうのは初めてだった。
「そうだったんですね。それじゃあ交代してすぐの仕事ってなっちゃいますけど……この本、借りさせてもらってもいいですか?」
「は、はい……申請……しますね」
本を3冊、白金さんに渡す。
「……あ、あの……」
「はい?」
「山城君は……本がお好きなんですか……?」
ボーっとしていたところに声を掛けられた。白金さんは管理用のパソコンの方に体を向けたまま、目と顔を少しだけ俺の方に向けていた。
「はい。色んな知識や考え方を身に着けられますから」
「色んな知識や……考え方……」
「もちろん純粋に物語を楽しむって意味でも、本は大好きですよ。白金さんも本がお好きなんですよね?」
「は、はい。色んな本を読みますが……最近はSF小説に興味があって……山城君はどういった本を読むんですか?」
「僕も色々ですね。最近だとミステリー本がマイブームですかね」
「ミステリー……私も好きです……面白いですよね」
白金さんの顔に、小さな笑顔が生まれる。やっぱり自分の好きなものの話になると、嬉しくなってしまうものだ。
「……あっ……! す、すみません……話に夢中になってしまって……し、申請終わりました……」
ペコペコと謝ってくれる白金さん。俺は大丈夫ですよと答えて、白金さんから本を受け取る。
「ありがとうございます。じゃあ俺はこの辺りで。図書委員のお仕事、頑張ってください」
「はい……ありがとう……ございます……」
白金さんに軽く頭を下げてから、俺は本を鞄に入れ、図書室を後にした。
*
静かな図書室に、私はポツンと1人で座っている。
座ったまま、私はついさっきの会話の余韻に浸っていた。
「(……初めて……あんなに話した……)」
本を持って受付に来た山城君を見た時、少しビクッとしてしまった。人と話すのが苦手な私が男性と話すなんて……と思っていたけれど、山城君はそれを知ってか、ゆっくりと話してくれた。
「(それに……あんなに本が好きだったなんて……)」
本が好きなんですか? と聞いたのは、本の貸し出しの申請をするために、パソコンの中にある彼の貸し出しデータを開いたからだった。画面に表示されたのは、数え切れない程の貸し出し記録。山城君は頻繁にこの図書館に来て、本を借りていたのだ。
「(またお話してみたい……けど緊張する……)」
さっきも話している間、ずっと緊張していた。怖いけれど、やっぱり彼とはもう一度、本の話をしてみたい。
「(……! そうだ……あの人に相談してみよう)」
彼と近しい存在で、かつ私が緊張せずに話せる人がいる。彼女のことを思い出し、私はこっそりと携帯でメッセージを入力した。
◇◆◇◆
「なるほど。それで私に相談してきたんですね」
「はい……花蓮さんは山城君と同じバンドだし、練習の時もよく話してたから……」
CiRCLEのカフェで、私は先輩である燐子さんの相談を聞いていた。
燐子さんとはピアノ繋がりで昔からの知り合い。一緒に遊んだり……とかはないけれど、コンクールで何度も顔を合わせる内にお話しするようになった。昔から仲良くしてもらっている先輩だ。
そんな燐子さんから、この前放課後に「相談に乗ってほしいことがある」とL〇NEが来た。突然のことで少し驚いたけれど、いつもお世話になっている先輩からの頼みだ、是非話を聞かせてくださいと答えて、今に至る。
「分かりました。この件、私にお手伝いさせてください」
「ありがとう……ございます……!」
「自分と趣味が同じ人とは、やっぱり話したくなりますもんね。それに燐子さんがそうやって自分の苦手を克服しようとするの、応援したいですから」
そう。燐子さんが貴嗣君と話したがっているのは、単に本の話がしたいからだけではない。燐子さんにとっての苦手を——人見知りを克服しようとしているのだ。
燐子さんは、Roseliaの一員として成長したいと思っている。今回の人見知り克服以外にも、色んな事に挑戦していているみたい。変わろうとして頑張っている人を見たら、私は応援したくなるし、自分にできることなら是非やりたいって思う。
「でも……具体的に私はどうすればいいのでしょうか……?」
「安心してください燐子さん。私、1ついいアイデアを思いつきました」
「ほ、本当ですか……!?」
「はい。読書について話すのにとっておきの場所、この町にもあります」
「とっておきの……場所……?」
私の言葉に、燐子さんは首を傾げる。そんな燐子さんに、私は指を立てて提案した。
「図書館です。次の休み、3人で図書館に行きませんか?」
◇◆◇◆
この町の中央駅に隣接している大きな図書館に、俺は花蓮と白金さんと一緒に来ていた。ゆったりとしたBGMに包まれた図書館の中を3人で回りながら、自分達が好きな本を紹介し合ったり、好きなジャンルについて話し合ったりしていた。
「あっ、このSF小説、この前見た映画の原作だ」
「今劇場で公開している映画……ですよね? 原作の再現度がとても高いって……この前ネットニュースで見ました……」
「それで、貴嗣君的にはその映画、どうだったの?」
「もう最高だったよ。SF映画好きとして、すっごい楽しませてもらった」
今日の目的については、事前に花蓮から聞いている。白金さんが俺と本について話したいと思っていること、そして俺達との会話を通して、少しでも人見知りを克服したいと思っていること。だから白金さんが話しやすいようにフォローしてあげてと、花蓮から頼まれている。
『フォローって……善処はするけど、超絶会話テクニックとかは期待しないでくれよ?』
『あははっ。そんなものに頼らなくても大丈夫だよ。燐子さんが話しやすいように雰囲気作ったり、サラッと話題を振ったりとか、いつも通りの貴嗣君で接してあげて欲しいんだ』
『ははは……なんかプレッシャーあるなぁ。でも花蓮からの頼みだ。白金さんの為にも、自分なりに考えて上手くやってみるよ』
『うんっ。お願いね』
みたいな会話が前日に行われていたりする。変に意識しすぎると会話がぎこちなくなって、白金さんを余計に混乱させるだろうから逆効果だろう。いつも通りの自然な状態で白金さんと話すことを心掛ける。
「あっ……」
「ん?」
ふと白金さんが立ち止まった。彼女の視線を辿ると、一番上の棚にある1冊の本が目に入った。
「(あの一番上の棚にある本……この間山城君が借りてた哲学の本だ……。私もあの本に興味があるから話してみたい……けど私の身長じゃ届かない……)」
少し分厚い本を、白金さんはジーッと見つめる。真剣な眼差しだ、この本を取りたいのかもしれない。そう思って、俺は少し背伸びをして手を伸ばし、その本を手に取った。
「(あっ……取ってくれた……)」
「ふうーっ、あんな高いところにあると、取るのも一苦労ですね。はい、どうぞ」
「あっ……ありがとう……ございます……あ、あの、山城君……」
「はい?」
「この本……この間山城君が借りていた本ですよね? 私もこの哲学本に興味があって……もしよければ、どんな内容なのか教えてもらってもいいですか?」
「勿論ですよ」
白金さんのお願い通り、俺はこの本の内容について簡単な説明をした。俺達高校生に向けて書かれた哲学の入門書みたいな本で、「愛とは何か?」とか「生きることとは何か?」といったシンプルな疑問をいくつか取り上げて、浅く広く解説してくれているものだ。
「わあ……とても……面白そうですね……これ、借りてみます」
「ありゃ、そんな即決でいいんですか?」
「はい。元々興味があった本ですし……山城君の説明を聞いて、もっと読みたくなりました……」
本を両手で持って、にっこりと微笑む白金さん。とても可愛らしい笑みだった。白金さんがじっくり俺の話を聞いてくれたこともそうだが、やっぱり自分が好きなジャンルに興味を持ってくれたことが嬉しかった。
「あの……この前も行ったんですけど……私、今SF小説にはまっていて……おススメしたい本があるんです……」
「白金さんのおススメだったら外れナシですね。よければ聞かせてもらってもいいですか?」
「……! は、はい……! えっと、最初におススメしたい作品は隣の棚にあって……と、取ってきてもいいですか?」
もちろんですよと答えると、白金さんは嬉しそうに笑ってトテトテと隣の列に本を取りに行った。
白金さんが隣で目を輝かせて本を探しているので、この場に残っているのは俺と花蓮の2人。
花蓮の方を見ると、花蓮はグッ! とサムズアップをした。俺も胸の前で小さくサムズアップを作って応える。
「流石は貴嗣君。良い感じだね。燐子さん、すっごい楽しそう」
「何とかやれてる感じかな。話しやすい雰囲気って作れてるかな?」
「もうバッチリだよ」
「なら良かった」
なんて会話を小さな声でしていると、白金さんがたくさんの本を抱えて帰って来た。
「わーお、分厚い本がたくさん。それ、全部白金さんのおススメ本ですか?」
「はい……とても面白くて奥が深いテーマ性の本なんです……その……山城君にも読んで欲しくて……」
1冊だけ持ってくるつもりだったのが、思いのほか自分が好きな小説が隣の棚に揃っていたらしく、1冊に絞れずに全部持ってきたみたいだ。俺のために白金さんが一生懸命本を選んでくれたということが、とても嬉しかった。
「ありがとうございます。それじゃあ本の内容、教えてもらってもいいですか?」
「はい……! えっと、まずはこの本なんですけど……これは人間とアンドロイドが共存する社会の話で、ある日突然アンドロイドが心を持ち始めるんです。変異体と呼ばれる彼らをめぐって、3人のアンドロイドが主人公として活躍します。彼らの活躍を通して人間の在り方を問う……そんな小説です……」
「おおっ、めっちゃ面白そうです……! 機械が人の心を持つというテーマは昔からありますけど、とても奥が深いですよね。これ、読んでみますね。……あっ、この本も面白そうですね」
「これはスペースオペラものですね……綿密な世界観の設定が素晴らしい物語で——」
「(燐子さん、楽しそうに話せてるみたいでよかった♪)」
こうして白金さんのおススメ話を聞いて、俺達は図書館でのゆったりとした時間を過ごした。
◇◆◇◆
時間は過ぎて、夕方。図書館で本を借りた私達は、3人でお話をしながら帰路についていた。
「山城君……その……1つお聞きしたいことがあるんですけど……いいですか?」
「はい。何でしょうか?」
「山城君が人と話す時に……意識していることとか、大切にしていることってありますか?」
花蓮さんの助力もあって、今日は山城君と本について沢山話すことができた。1日ずっとお話をしていたからだろうか、まだ緊張はするけれど、山城君とはかなり自然とリラックスして話すことができていた。
「そうだなぁ……うーん……」
「ん? 貴嗣君ならサラッと答えると思ってけど……そんな考えることなの?」
「いやなー、花蓮の言う通りサラッと答えられたらいいんだけど、いざじっくり考えると、大切にしてることが色々思い浮かぶんだよ」
やっぱり山城君のように相手と楽しそうに話せるようになるには、多くの事を同時に考えなければいけないのかも……。ただでさえ人と話すのは緊張するのに……そんな状態で複雑なことなんて考えられない……。
「でも、やっぱり……」
「?」
ぐるぐるとネガティブなことを考えているところで、山城君が顔を上げた。
「なんだかんだ『相手の話をしっかり聞く』ってことを一番大切にしてるかも」
「おおー。シンプルイズベスト」
「相手の話をしっかり聞く……ですか?」
「そうです。ほら、やっぱり自分の話を聞いてくれている時って嬉しいもんですから。相手がどんなことを伝えたいのか、何に興味を持っているのか……それが分かれば、そこから話を広げていけばもっと会話は続けられるだろうし」
そういう意味で、『相手の話をしっかり聞く』を大切にしてますね——山城君は落ち着いた声でそう言った。
今日の図書館での会話を思い出してみる。山城君や花蓮ちゃんは、私の話をしっかりと聞いてくれていた。私が好きな本の話を聞いてくれている時はとても嬉しくて……嬉しいからもっと話したいって思った。
「山城君と花蓮さんは……私の話を聞いてくれて……私の話に関する質問をしてくれていましたよね……。思えばそれだけで会話ができていました……」
「そうですね。流石に質問ばっかりなのはダメですけど、相手の話に耳を傾けて、疑問に思ったことを聞いてみる……それだけで楽しくコミュニケーションできちゃったりします」
なるほど。
それだったら……私でもできるかもしれない。
「山城君、花蓮さん……今日はありがとうございました……初めは緊張したけれど……とても楽しかったです。『相手の話をしっかり聞いて、質問で話を広げる』というのなら……今の私でもできそうです……」
「どういたしまして。そう言ってくれて俺も嬉しいです。大変な時もあるでしょうけど、頑張ってくださいね。今日も上手くできたんだし、白金さんなら大丈夫ですよ」
「私達でよければいつでも力になりますから、遠慮なく相談してくださいね」
やっぱり2人とも、とても優しい。優しくて、心強い人達。 2人だけじゃない。穂乃花さんに須賀君、それにRoseliaのメンバー。皆、私の大切な人達。
そうだ。今の私には、心強い人達がいる。不安な事も多いけれど、私は1人じゃない。
「はい……! ありがとう……ございます……!」
これからも挑戦を続けていこう。
私も……皆の役に立ちたいから!
読んでいただき、ありがとうございました。燐子のお話でした。
次回は燐子と仲良しなあの子とのお話になる予定です。よろしくお願いします。
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