Silver Lining ~ BanG Dream Story~ 作:おたか丸
学校の授業が終わってから、あたしは貴嗣君と一緒に駅前の図書館に来ていた。落ち着いたBGMが流れる館内には、一般客の他にも、一生懸命自習している学生の姿もあった。恐らく受験生なのだろう、一心不乱にペンを動かす先輩たちの集中力は凄まじいものだった。
「心理学のブースはここだな」
「うわっ、いっぱい本があるや。流石町で一番大きな図書館だね」
昨日家に帰ってから、あたしは共感性・感受性についてネットで調べた。かなでちゃんの特徴である高い感受性、共感性について、もっと深く知らきゃって思ったから。そして色んな記事を読んでいて、1つ気になる言葉を見つけた。
「あった。この本なら分かりやすいと思う」
「ありがとう。なになに……『わたしはHSP』?」
「そう。これ、HSPの作者さんが実体験をもとに書いた本なんだ。イラストとか図が多くてすごく分かりやすいと思う」
それがHSP——Highly Sensitive Personという言葉だ。簡単に訳すると、人一倍敏感な人。貴嗣君が教えてくれた本には、HSPのことが詳しく、でも分かりやすく書かれていた。
HSPとは、アメリカのとある心理学者によって提唱された心理学的概念。極めて繊細で高い感受性を持った人のことで、全人口の約5人に1人がHSPと考えられている。
HSPの特徴は様々だ。五感が敏感である為、大きな音や強い光などの強い刺激に弱い。場や人の空気を読み取る能力に長けているがそのせいで疲れが溜まりやすい。表情や雰囲気、声色の些細な変化から人の気持ちを読み取ることができる、等々。
要するにHSPとは通常の人と比べて、刺激に対する感度がとても高い人達のことみたいだ。そしてかなでちゃんのように、感覚が鋭すぎて疲れてしまったりストレスが溜まってしまう人が多いみたいだった。
「ふむふむ、『HSPには、D.O.E.S(ダズ)という4つの特性がある』……あっ! ねえ貴嗣君、ここの『E』の特性に、高い共感性って書いてある!」
「ああ。Emotional reactivity and high Empathy(感情反応、高い共感性)、かなでちゃんの特徴に当てはまっている」
ちなみに貴嗣君もHSPって言葉が思い浮かんでいたみたい。というか、あたしと違って、この言葉を知っていた。あたしの話を聞いた貴嗣君はすぐに「おすすめの本がいくつかあるんだ」って言って、図書館の中を案内してくれた。前からこういう心理学系の本を頻繁に読んでいるみたい。
「あたし、ちょっとずつかなでちゃんのこと分かってきたかも。貴嗣君ってほんと色んなこと知ってるんだね。説明も分かりやすいし、いてくれて助かるよ」
「力になれたなら良かったよ」
それにしても『他の人の気持ちに共感しすぎる』かぁ……毎日生活するのも大変なんだろうなぁ。想像するだけでしんどいもん。でもだからこそ、かなでちゃんには笑って欲しいって、あたしは思う。ハロハピの音楽で、あの子の心を楽しい気持ちで満たしてあげたい。
「それじゃあもうちょっと調べものしてから、こころの家に行こうか。貴嗣君もそれでいい?」
「勿論。じゃあ俺も同じ内容の本、もう何冊か持って来るよ」
あたし達はその後も本を読んで(分からない部分は貴嗣君に説明してもらって)、共感性について勉強した。この後のミーティングで皆に説明するためにも、分かりやすい本を何冊か図書館で借りてから、あたし達はこころの家へと向かった。
◇◆◇◆
図書館で美咲ちゃんと選んだ本を数冊借りて、こころの家へと向かった。応接間にはハロハピ、そしてSilver Liningのメンバーが集まっている。俺と美咲ちゃんはこの前の面会での出来事、そしてかなでちゃんの特性について説明した。スピリチュアルな内容の話だから最初は皆難しそうにしていたが、本やホワイトボードを使って解説することで、皆話の内容を理解してくれた。
「なるほどなぁ。音楽に込められたメッセージみたいなのを、かなでちゃんは読み取れるってことか。何だか超能力みたいな話になってきたけど、そのHSPって言葉も作られてるくらいだし、そういう鋭すぎる人って実際にいるんだな」
「なんかでもさ、小学校とか中学校とかにもいなかった? 何だかものすごーく空気読むの上手な人。あたし何人かそういう人知ってるんだけど、もしかしたらあの人達も2人が説明してくれたHSPっていう人だったのかもだね」
穂乃花の言う通り、今までの学校生活の中でも、何かと鋭い人がいたような気がする。大河も思い当たる節があるのか、穂乃花の話を聞いて「ああ、確かになー」と頷いていた。
「かなでちゃんはずっとそうやって辛い思いをしてきたんだね……。美咲ちゃんが言う通り、私もかなでちゃんの為に何かしたいな」
「ありがとうございます、花音さん。さて、それじゃあ『どうやってあたし達がかなでちゃんを笑顔にするか』という話になんだけど……」
皆の注目が美咲ちゃんに集まる。一呼吸置いてから、美咲ちゃんが言った。
「かなでちゃんの為に合同ライブをするっていうのはどうかな?」
「「「合同ライブ?」」」
美咲ちゃんが考えていたアイデアというのは、ハロハピとSilver Liningの音楽でかなでちゃんを笑顔にする、というものだった。
理屈はシンプルだ。かなでちゃんが持っている共感力はとても強く、他人の気持ちを自分の気持ちのように感じてしまう。他人がネガティブな気持ちなら自分も辛くなってしまうが、その逆ならどうだろうか。俺達からかなでちゃんへと、明るくポジティブな気持ちを伝えられるのではないだろうか。
何も根拠のない話ではない。かなでちゃんがSilver Liningの演奏が好きな理由は「ポジティブなメッセージが込められているから」だ。あの子が美咲ちゃんに穏やかな笑顔を見せたのは、俺達の気持ちに共感してくれて、ポジティブな気持ちになっていたから。
ハロハピの音楽には、笑顔や幸せ、明るく前向きな気持ちが満ちている。彼女達の演奏と俺達の演奏、2つのバンドのポジティブな気持ちを合わせてかなでちゃんに伝えることができれば……彼女に花丸の笑顔を届けられるかもしれない。
「あたし達が楽しい気持ちで演奏すれば、かなでも笑顔になれるってことね! いいアイデアだわ、美咲!」
「流石だよみーくん! はぐみ達のライブなら、ぜーったいかなでちゃんを笑顔にできるよ!」
「まだ合同ライブするって決まったわけじゃないよ2人とも。っていうか、貴嗣君達の了解得てないでしょ」
そう言ってから、美咲ちゃんは座っている大河達の方を向く。
「コンテストに向けて練習中の皆にいきなり合同ライブしましょうっていうのは無理矢理な話だってのは分かってるつもり。だけどもし時間があるなら、あたし達に協力してほしいんだ。……どうかな?」
美咲ちゃんは真剣だ。俺達の現状を理解した上でお願いしている。そんな彼女の気持ちがしっかりと伝わったのか、大河と穂乃花、花蓮はお互いの顔を見合った後、ニコッと笑った。
「そんなに申し訳なさそうな顔しなくてもいいよ、美咲ちゃん。今回の件、私達も協力するよ。合同ライブ、しよう」
最初に美咲ちゃんに言葉を掛けたのは花蓮だった。花蓮に続いて、穂乃花と大河も話す。
「コンテストの審査で演奏する曲、実はもうほとんど完成してきたんだ。勿論まだ練習して微調整しなきゃだけど、合同ライブはあたしもやってみたい!」
「俺達のことを応援してくれてるかなでちゃんの為だ、断る理由なんてないよ」
「皆……! うん、ありがとう!」
断られたらどうしようかと、内心不安だったのだろう。3人の言葉を聞いて、美咲ちゃんは喜びと安堵の気持ちが混ざった表情をした。
「ところで美咲、1つ聞きたいことがあるのだけれど、いいかな?」
「どうしたの薫さん?」
「合同ライブで演奏する曲というのは、もう決めてあるのかい?」
「あー……さすがにそこまでは決まってないかな……。かなでちゃんが好きな音楽のジャンルとか分からないし、どうしようかな……」
瀬田先輩の質問に、美咲ちゃんは顔に手を当ててうーんと悩み始めた。そんな美咲ちゃんを見て、瀬田先輩は微笑みながら言った。
「そんなに深刻に悩む必要はないんじゃないかな?」
「ん?」
「また面会に行くのなら、かなでに好きな音楽を直接聞くというのはどうだろう?」
瀬田先輩の言葉に、美咲ちゃんはハッと息を呑んだ。
とてもシンプルで、的確なアドバイスだった。
◇◆◇◆
「わたしの好きな音楽?」
「うん。かなでちゃんは普段どんな曲を聞いてるのかなって気になって」
数日後、俺達は再びかなでちゃんのいる病院に向かった。体調が少しずつ回復しているらしく、初めて会った時と比べると顔色が少し良くなっていた。
「うーん……好きな曲はいくつかあるんだけど……あっ」
かなでちゃんは何か思いついたみたいだ。スマホを操作して、画面を俺達に見せてくれた。
「最近知った曲なんだけど……わたしこの曲大好きなんだ」
「“The Greatest Show”? へえ~、ミュージカル映画の曲なんだ」
かなでちゃんが好きだという曲は、とあるミュージカル映画の1曲だった。映画は実在したとある興行師の成功を描いた物語で、俺も観たことがある作品だった。
ミュージカル映画ということもあり作中では多くの名曲が使われているが、かなでちゃんはその中でも特に人気のある1曲である“The Greatest Show”がお気に入りのようだった。
「この映像……凄いね。パレードみたいに派手な曲で……音楽に引き込まれる」
「でしょ? 他にも好きな曲はあるけど……この曲が一番好きかも」
「そうなんだね。ねえかなでちゃん、良かったらこの映画の話、もっと教えてくれないかな? かなでちゃんの話を聞いてたら、あたしも興味湧いてきたんだ」
「ほんとに? やった。それじゃあ一番初めのシーンから説明するね」
美咲ちゃんが興味を持ってくれたことが嬉しいのだろう、かなでちゃんは楽しそうに映画の話をしてくれた。帰る時間が来るまで、かなでちゃんは映画で使われた曲を一つ一つ解説してくれたり、好きなシーンを教えてくれた。
*
病院を出て、帰り道を歩いていると、美咲ちゃんが俺に話しかけてきた。
「ふふっ。薫さんにありがとうって言わなきゃだね」
「そうだな。流石瀬田先輩だ」
「うん。ライブで演奏する曲、決まったね」
お互いの顔を見合って、2人でふふっと笑った。
「“The Greatest Show”かぁ。いっぱい練習しないとだね」
「俺達ならできるよ。良い演奏にしよう」
「うん。それじゃあ、また練習のスケジュールを組みますかー」
“The Greatest Show”——ハロハピとSilver Liningの合同ライブで演奏する曲が、こうして決まった。
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