Silver Lining ~ BanG Dream Story~ 作:おたか丸
さて、今回から第6話までは、本筋とは少し離れた日常を描いて参ります。今回の話は誰が登場するのか、題名で予想はつく……かも?
それではどうぞ!
アルバイト、というものがある。学生の人なら聞きなれた言葉であろう、企業によって雇用される従業員の俗称だ。ちなみに語源はドイツ語らしい。
「へえ、家がカフェを経営してて、自分も手伝いをすることがある、と」
「はい。同じ飲食業なので、この経験を活かせると思います」
どうしていきなりこんなことを話したのかというと、今丁度ファストフード店のアルバイトの面接の最中なのだ。
うちの手伝いも一応バイトの扱いなのだが、「色んな経験をしておいで」という母さんからのアドバイスもあって、こうして面接を受けている。
「じゃあ、来週の火曜日から来てもらってもいいかな?」
「はい! 来週の火曜日ですね」
「最初の2週間は研修期間だから、先輩をつけるね。基本はその子から仕事のやり方を教えてもらうってことで。来週からよろしくね」
「はい! こちらこそ、よろしくお願いします!」
といった感じで、面接は問題なく終わり、来週からこのファストフード店で働かせてもらえることになった。
◇◆◇◆
「はじめまして。山城貴嗣といいます。本日からお世話になります」
「えっと……松原花音です……店長から話は聞いてます。よろしくね……」
そして火曜日。研修期間の間お世話になる松原花音さんと挨拶をする。水色の髪とふわふわとした雰囲気が特徴的な、1年上の先輩だ。
「じゃあ、今日はレジの操作から教えるね……まず、注文をレジの機械に送るには、机にあるメニューの下のバーコードをこのリーダーで読み取って 」
松原さんの説明はとても丁寧で、分かりやすかった。
店の手伝いでレジなんて何百回って触ってきたけど、だからといって余裕をかますのは違う。初心を忘れず、教えてくれる先輩に感謝し、また1から勉強しよう。
集中していると面白いもので、時間が進むのが早く感じる。初日で緊張していたというのもあるのか、今日の研修はあっという間だった。入学式の時もそうだったが、自分は環境の変化というものに意外と敏感なのかもしれない。
「山城君、研修お疲れ様。どうだった、初めてのアルバイトは?」
シフトが終わるタイミングで店長が声をかけてくれた。
「そうですね……うちの手伝いとは似ているようでまた違う、というのが第一ですね。覚えることが多いですが、先輩が丁寧に教えてくれるので安心です」
「それはよかった。松原さんを付けて正解だったかな。僕もちらっと見てたけど、山城君手際よくできてたから、僕としても安心かな。今日はゆっくり休んでね」
「はい! 本日はありがとうございました! お先に失礼します」
更衣室でエプロンを外し、学生服に着替える。部屋を出たところに松原がいたので、挨拶をする。
「松原さん。今日はありがとうございました。松原さんの説明、すごく分かりやすかったです」
「あっ、山城君……おつかれさま。山城君覚えるのが早くてびっくりしたよ……」
「ありがとうございます。うちがカフェやってて僕も手伝いすることがあるんで、その経験が活きたのかもしれません」
実際レジに関しては、専用のアプリでの割引のやり方といった特殊なものを除けば、家の手伝いの時と何ら変わりはなかった。
「そうなんだ……ちなみに、なんていうカフェなの?」
「
「えっ!? 今人気沸騰中のあの、
俺が言い終わる前に、松原さんが驚きの反応を見せた。
「はい。母が経営していて、俺もたまに手伝うって感じです」
「そうなんだ。今あそこの紅茶がとっても美味しいって評判で、私も今週末に行こうって思ってたんだ」
「へえ~そうなんですね。是非来てください。サービスしますよ」
どうやら松原さんはカフェが好きで、SNSでおすすめのお店を探していたところ、うちのアカウントを見つけたらしい。気になってネットの評価を調べてみると、それはそれは高評価の嵐らしく、興味が湧いたので今週末に行こうと思った、というわけである。
折角なので使って下さい、ということで松原さんに割引券を渡した。その後はカフェの話をしながら先輩を駅まで送り、俺も自宅へと向かった。
◇◆◇◆
「ふんふふ~ん♪」
「どうした真優貴? なんかいつもより楽しそうやな」
「そりゃあだって、久しぶりにお兄ちゃんと遊びに行けたんやもーん!」
鼻歌を歌いながら幸せオーラを溢れさせる真優貴。今は町にある大型モールに行った帰りだ。服やら本やら、お互いが欲しいものを色々購入してきた。
「最近はお仕事忙しかったし、お兄ちゃんも新しいバイト始めたし、家でもあんまり話せへんかったからさ……」
しょぼーん、という文字が頭の上に出てきそうだ。よっぽど寂しかったのだろう。
そうだ。いい機会だ。折角なので、少し妹の真優貴について話しておこう。
“お仕事”という言葉で何となく察した方もいるかもしれないが、実は俺の妹である山城真優貴は
元々は子役として芸能界入りし、その類稀なる才能で多くの役をこなしてきた。俺が言うのも少し変だが、今をときめく天才女優だ。
現在は学業に専念するために前よりは芸能活動を控えているものの、そのルックス、演技力、そして謙虚で思いやりのある性格で、多くのファンがいる真優貴は引く手あまただ。
出演依頼は後を絶たないが、そこは事務所の方々、もっと言うとマネージャーさんがうまくやってくれているらしい。本当にありがたい。
「最近までドラマ撮影やったもんな。お疲れ様、真優貴」
寂しがり屋な妹を労わるため、頭を撫でる。母さんとそっくりの、綺麗な栗色の髪だ。
「えへへ……ありがと、お兄ちゃん///」
嬉しそうにはにかむ真優貴。幸せな気持ちが伝わってくる。
「しばらく撮影ないからさ、また遊びにいこ」
「おう。もちろん。次は何がしたい?」
「そうだなー……最近カフェ行けてないから、この町のカフェ巡りとか!」
「おっ、ええやん。そういやここに来てから、あんまり散策できてないっけ」
高校に入学してからお互い忙しかったのもあり、2人でどこかに出かける機会も無く、どこに何の店があるとかがまだ把握できていないのだ。
「じゃあカフェ巡りしながら、この町を1日かけてぶらぶら回ってみるか」
「あっ、それええやん!! しよしよ! ……って、あれ?」
「どうした?」
「いや、あの人、もしかしたら道に迷ってるのかなって。ほら、あそこの人」
真優貴が指差す先に、キョロキョロしながらいかにも困っています、という顔をした人がいた。
ていうか……あの姿には見覚えしかない。
「……あれ松原さんや」
「松原さん?」
「ああ。うちの学校の2年生。バイト先でお世話になってる先輩」
「そうなんや! じゃあ声かけてみようよ!」
「うむ」
「ふええ……ここ、どこ……?」
「……松原さーん?」
「ひゃあ!?」
俺が後ろから声を掛けると、松原さんの体がビクッ!と震えた。そのまま松原さんはゆっくりと顔をこちらに向けた。
初めは怯えていた松原さんの表情も、俺だと分かると徐々に和らいでいった。
「……あれ、山城君……?」
「こんにちは。なんか困っているような感じだったので。どうかしましたか?」
「えっと……道に迷っちゃって……」
「ああ、そうでしたか。どこへ行くんですか? よければ、お手伝いしますよ」
そう俺が言うと、松原さんは手を後ろでモジモジし始めた。そして少し恥ずかしそうに、申し訳なさそうにしながらこう言った。
「あの……えっと……山城君のお店に、行きたくて……」
◇◆◇◆
色々あったが無事に3人で店に到着。今日は手伝いがないので、客として入店することに。今は3人で紅茶を飲みながらゆったりしている。
客としてお店に入ったとは言ったものの、真優貴からのお願いで、3人分の紅茶は俺が淹れさせていただいた。
「――でも、山城君の妹さんが、あの真優貴ちゃんだったなんて知らなかったよ」
「あはは。でも、顔似てるって結構言われますよ」
「そういえば確かに……。目元とかそっくりだね」
松原さんと真優貴はもう打ち解けたようだ。誰とでもすぐに仲良くなれるのも、真優貴の強みだ。
「山城君に入れてもらったこの紅茶、本当に美味しい……」
「気に入ってもらえてなによりです」
「すごいね……バイトでも仕事はすぐにできるようになるし、紅茶も淹れられるし……このメニューに載ってる料理も作れるの?」
「はい。……って言っても、やっぱり母さんの方が上手ですけどね」
「(ほうほう……? 花音さん、出会って間もないのに中々にお兄ちゃんを褒めますね……これはもしや……!?)」
突然、俺の隣に座っている真優貴がニヤニヤし始めた。このにやけ方は……。
「いやー、実は最初、花音さんがお兄ちゃんの彼女さんかと思っちゃいましたよ♪」
「え、ええっ!? か、かのっ……!?///」
……やっぱり誰かをからかおうと企んでいる時のものだった。
「真優貴ー? あんま困らせちゃだめだぞ?」
「はーい! でもでも、花音さん可愛いし、優しいし、お兄ちゃんとお似合いだと思うけどな~」
「またそうやって……松原さんごめんなさい。気にしないでください」
真優貴には仲良くなった人を少しからかう癖がある。だがこのからかう度合いが絶妙で、相手が不快に思うことは決してない。
しっかり反応を見ているなーと感心することもあるのだが、本人は感覚的にその度合いが分かるのだろう、ただ相手の反応を見るのが面白くてやっている節がある。
「(ねえねえお兄ちゃん)」
「(どうした?)」
「(確かにからかったのは謝るけどさ、花音さんの顔見て)」
「(ん?)」
耳元でそう囁いてきたので従うと――
「ふええ……か、彼女……///」
そこには顔を真っ赤にしている松原さんが。
「(ねっ? すっごく可愛くない?)」
「(なんやねんこれ可愛すぎやろ)」
「(でしょー? この真優貴さんに感謝してほしいね)」
「(でも去年まで女子高だったわけだし、単に男との絡みが少なくて慣れてないだけかも)」
「……2人とも、どうかした?」
「「いえ、なんでもないです(フルシンクロ)」」
「あ、あはは……仲良しだね、2人とも」
それからは再びのんびりお話タイム。途中またカフェの話で盛り上がり、さっき真優貴と話していたカフェ巡りに、松原さんも一緒に行くことに。松原さんのおすすめのカフェを中心に町を散策することになった。そして連絡用ということで、3人でSNSのアカウントの交換もした。
その後は、流石にもう一度道に迷うとまずいので、3人で一緒に駅まで向かった。
駅でも松原さんが乗る電車がどこか分からず、迷路のような駅の中をグルグル回ってしまったり、やっと着いたと思ったらその電車が間違っていたり……結構スリリングな経験をした。
「ごめんね2人とも……私のせいで連れまわしちゃった……」
「全然大丈夫ですよ」
「そうですよ~! 花音さんと一緒にいられる時間が増えて、私は嬉しかってですよ!」
「ほ、ほんとに……?」
「はい。俺も真優貴と一緒です」
「……ありがとう。2人とも優しいんだね」
そしてついに正解のホームに到着。ベンチに座って話していると、電車がやってきた。
「電車来ましたね。……今日はありがとうございました。松原さんと話せて楽しかったです」
「うん……私もすっごく楽しかった……! また行かせてもらってもいいかな?」
「もちろんですよ! いつでもお待ちしてまーす!」
「ありがとう……! それじゃあまたね、真優貴ちゃん、山城君」
電車に乗り込んだ松原さんが優しく笑う。そのままドアが閉まり、電車が発車した。
松原さんの姿が見えなくなるまで、俺と真優貴は手を振り続けた。
「真優貴」
「んー?」
「今日は楽しかった?」
「――うん! めっちゃ楽しかった!」
満面の笑みの天才女優。最近まで仕事ばかりで疲れているはずなのだが、ここまで元気だと、無理はしていないだろうかと一瞬心配になる。
「お兄ちゃん、来週のカフェ巡り、楽しみやね!」
「ああ。そうやな。さあ、俺らも帰ろっか」
だがその心配も、真優貴の笑顔ですぐに消える。この笑顔は無理して作っているものじゃない、心から嬉しいと思って笑ってくれていることなんて、15年も一緒に生活していれば分かる。
真優貴が嬉しそうで、俺も嬉しいよ。
お互いに忙しいけど、一緒にいられる間は沢山楽しい思い出を作っていこうな。
【おまけ】
同日夜。山城家1Fリビング。夕食後。
「ところでお兄ちゃん」
「どした?」
「花音さんのことどう思ってるん?」
「またそれか~? ……優しくて頼りになる先輩って感じやな」
「“可愛い”は!? “可愛い”の言葉は!?」
「言わせたいだけやろ……まあでも、確かに可愛いな」
「おおーいいですなぁ! さすがお兄ちゃん、思ったことはストレートに言うね」
「まあねー」
「じゃあ今言ったのを花音さんにL〇NEで送っとくね~」
「ほーい…………ってちょい待てい!!」
「あっちゃ~もう送ってもうた! テヘっ♪」
「Oh, my……」
後でしっかりとLIN〇で謝りまくった貴嗣だった。
読んでいただき、ありがとうございました。花音と真優貴のお話でした。
女優ということが明らかになった真優貴。芸能人、女優、そして子役からデビュー……となると、あるキャラクターとの繋がりが見えてくるかもしれません。
今回の花音を含め、バンドリのキャラクターの描き方、解釈が正確にできているかは分かりませんが、これからも頑張っていこうと思っています。
それでは、次回もよろしくお願いいたします。
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