チンピラ乙女ゲー騎士転生者様 作:自己顕示欲
この世界は乙女ゲームの世界かもしれない。そんなトチ狂った考えに至ったのは、俺がweb小説でしか乙女ゲームというものを知らないからだろう。
俺がこの世界にやって来たのは17年前の事だ。いわゆる『異世界転生』というやつ。
友人だと思っていた相手に刺し殺されたかと思えば、いつの間にか赤子として見知らぬ場所に生を受け。そこがなろう系異世界とでも言うべき、ありふれたファンタジー中世だった、というweb小説で飽きるほど見た展開。
しかもそこそこのチート──
実家の伝手で城勤めの騎士に任命され、そこからチート的武力で成り上がり、気づけば最優の騎士、つまりこの国の個人で最高戦力を保持している存在だと認められた。
そこまで行き着いてしまえば、国としても軽率に俺を動かせなくなる。つまりお飾りとしてのほぼニート生活の始まりである。
朝王城に出勤し、適当に内部を散歩しつつ、知り合いを見かけたらちょっとした雑談を交わし、腕利きの庭師に整備された庭園を愛で、図書館でダラダラと読書し、時間がくれば帰宅。それでいて高給取りだと言うのだから、これはもう完璧に成功者である。異世界最高!騎士最高!
────そんな平穏が崩されたのは、おおよそ半年前の事だ。
異世界の地球にある日本という国家より、一人の少女がやって来た。
姓を
王国で最も賢いと賞される王宮最高顧問魔術師のフィーア・ディーノは彼女を愛している。
彼女の為に禁書庫の扉を頻繁に開け、直々にその魔術知識を惜しみ無く与えるほどに。
その警戒の為俺を含む大勢の騎士が何度も駆り出された。また、嫉妬した彼の弟子が暴れた時、対処に当たるのは主に俺である。死ね。
権力で言えば俺よりも上の第一騎士団団長ツイン・ベータは彼女を愛している。
彼女の護衛任務に就く為に奔走した堅物の騎士団長の恋の噂は、騎士の間でも有名だ。
麒麟児と名高いモノ・エイン皇太子殿下は彼女を愛している。
不審者でしかない少女を手厚く保護し、彼女に対して熱心なアプローチを掛けている。その為なら手間も財も時間も惜しまず、自身の通う学院に彼女の席を用意するほどだ。
尚殿下には隣国の姫という婚約者がいたが、その存在はもはや意識の外にあるらしい。殿下の知らぬところで起きた関係悪化に外務大臣は大慌てで、緊張状態にある国境の警戒に俺も参加した。死ね。
民衆は彼女を愛している。
それは聖女という呼び名からもわかる事で、熱心に彼女を称賛するあまり、反聖女派の貴族にとって大きなプレッシャーになっている。
この半年だけで十ヶ所は地方の貴族領で小競り合い──民衆のデモとそれを受け自棄になった貴族の過剰な武力行使など──が起き、内三ヶ所は俺が単身で鎮圧した。死ね。
半年前まで悠々自適に暮らしていたのに。ここ最近は戦争に政争に紛争にと大人気である。マジ死ね。なにが悪いってタチが悪い。なにせ聖女は別に悪女ではない、ちょっと有能なだけの一般的な日本人だった。だが周辺の人間が無能過ぎる。我らが王国万歳じゃねえよ。死ね。
もう我慢出来ない。死ね。王国滅びろ。神聖大帝国に栄光あれ!いややっぱ帝国も滅びろ。お前らがアールス人迫害するせいで王国の領土がパッツパツなんだよ。難民を生むなクソが。
いやそんな話じゃねえや。そう。俺はもう我慢出来ない。するつもりもない。
騎士を辞めてやる!
雑務で鍛えた速筆で退職届を書き上げると、疲弊しきった人事担当の机にそっと添える。
絶望した表情でこちらを見る人事担当に穏やかな微笑みを見せ、俺は城を後にした。
形ばかりの王政と、すっかり普及した人権意識、労働に対する意識改革。聖女によってなされたこれらがなければ、なし得なかった退職である。ありがとう聖女様。
同時に、聖女がいなければする必要のなかった退職である。
死ね。
顧問魔術師
イケメン紳士な優男。その正体はヲタ童貞。
わりと良識的な恋愛をしているが、ライバルポジの男どもが完全にブレーキが壊れており、その影響を受けて周囲に被害を発生させてしまった。被害者でもある。二十歳。
騎士団長
部下から影で『公私混同ロリコンクソ団長』と呼ばれているが気づいていない。尚完全無欠に事実である。御年41歳。
治安維持を担当する第三騎士団からも警戒対象として認識されており、民衆からも変態と名高い。流れる噂は基本不名誉。しかして事実。
皇太子
民からの支持厚く、明晰な頭脳と整った容姿に武勇も優れているという完璧超人。ただし王城勤めの連中からの覚えは悪く、このままだと就任直後にクーデターから王国滅亡真っ逆さまになる。大体現国王のせい。
ゲーム的な視点だと、バッドエンド以外のすべてのルートで好感度が自然とマックスになるので『チョロ太子』と呼ばれている。十七歳。
聖女
一般転移日本人。半年で成し遂げた政治改革は、そもそも昔から別のやつが根回ししていたものが、彼女の転移をキッカケとして動き出しただけであって、頭脳も含めガチの一般人。
最近学院でお友達が出来た。よく水を溢したり、階段で転んだりするちょっとドジなお友達である。十七歳。
ノウキンゴリラ(小声)
主人公くん
語彙が小学生。中身は十九+十七歳。
チートというほどチートでもないけどチート。言わばオーガ。