東方万事屋録 The Fantasm of Silver soul   作:曙光

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「女は所詮駄菓子に過ぎん。欲しい時にいくらでも転がっているものの一つ一つになど、私はいちいち拘らん」
Dies irae ラインハルト・ハイドリヒ

レミリア「舐められたものね。私は安くないわよ。私の価値はプレミアムショコラに匹敵するわ!」
銀時「少し高いだけで結局駄菓子じゃねぇか」




第十四訓 餅搗きはタイミングが大事

禁忌を犯した少女の話をしよう。

 

貴き少女は退屈を嫌って地上に墜ちた。

 

その在り方(いきざま)は、やがて最古の物語として語り継がれる。

 

 

 

 

 

 

 

初めに抱いたのは退屈からの逃避だった。

少女の願いはそれ唯一つ。

牢獄から脱走。満ち足りない生活(ちじょう)への憧れ。

彼女は(そら)から地を見下ろした。

 

月の都。

幻想郷が山なら月の世界は海と呼ばれる。

遥か古代───地上には貴い神々が存在した。

やがて地上に生き物が生まれると、神々は地上を捨てて月に居を構える。

 

何故か?

端的に言えば、穢れが生まれたからだ。

生物が持つ生への欲望。 

他者を喰らい、財を集め、他者を貶める。

全ての存在が寿命を持ち、早期に朽ち果てるのは、地上に穢れが存在するからだと言われる。

 

不浄が存在しない浄土の世界。

月の都は移り住んだ神々とその子孫たちの創った都市。

高度な科学によって存在する、穢れなき天上楽土。

聞こえは良いが───少なくとも少女はそう思わなかった。

 

蓬莱山輝夜は地上への憧れを人一倍強く持っていた。

変わり映えしない毎日。

彼女は退屈が嫌いだった。

だからそう───彼女は地上に追放される方法(かたち)を選んだのだった。

 

月の都で禁忌とされる事は二つある。

 

一つは穢れを持ち込む事。

月の民にとって穢れは最も忌み嫌うものだ。

穢れは寿命を生み出す。

穢れが無い月だからこそ、月の民は悠久に近い寿命を得た。

しかし死なないという訳ではない。

永いとは言え寿命はあるし事故などで死ぬ事もある。

必ずしも不変では無いのだ。

 

そして二つ目は不老不死に成る事。

不老不死に成ると言うことは、死ぬことも無く永劫生きなければならない。

苦しみという罪を背負う為に穢れを生み出すゆえに、月の都では不老不死は禁忌とされた。 

 

 

輝夜は自分の教師である月の賢人にとある禁薬の精製を依頼する。

 

蓬莱の薬。

蓬莱とは中国の伝説に登場する霊山。

そこに住まう者は蓬莱人と呼ばれ、不老不死である。

服用すれば蓬莱人に成る禁薬───それが蓬莱の薬。

 

賢人は禁薬を作ることに反対したが、輝夜は一切引かない。

口論の末に遂に賢人は折れた。

己の薬の知識、そして輝夜の永遠を操る能力で蓬莱の薬は作られる。

服用する前に賢人は問い掛ける。

 

「本当に後悔しない?」

 

それに対して輝夜は答える。

 

(ここ)では得るものも知る事も殆ど手に入れた。海の魚が淡水を求めるように、私は未知を求めたい」

 

最後にありがとうと言って、輝夜は禁薬を飲み込んだ。

禁忌を破った輝夜は拘束され、直ぐに処刑される事になった。

しかし、いくら処刑しようとも輝夜は死なない。

首を落とそうとも、心臓を抉ろうとも、血を抜かれようとも、何度も何度も蘇る。

業を煮やした月人たちは輝夜を地上に追放する事を決断した。

その罪が許されるまで地上に住む事が輝夜の罰。

しかしこれこそが彼女の思惑通り。

体を極小にされてカプセルに押し込まれても、輝夜は地上に行ける事の方が大きく、さほど苦にはならなかった。

 

 

 

 

 

 

「………」

 

地上に来るまでの顛末を語り終えた輝夜は深く息を吸い込み吐き出す。

懐かしむように遠い日の出来事を語る彼女の横顔は、月光と相俟ってひどく幻想的に見えた。

銀時は黙って輝夜の話を聞くだけだった。

 

「これが地上に来るまでの話よ。私は、あなたの世界で言う天人。月の世界の元住人」

 

自嘲するように笑ってから輝夜は銀時の方へ顔を向ける。

 

「さてここまでで何か質問はあるかしら?聞かれた事は出来る範囲で答えるわよ」

「………」

 

やがて腕を組みながら銀時は顔を伏せる。

おそらくは整理している所だろう。

 

「さっきさ、永琳先生も不老不死って言ってたよな?つまり薬を作った賢人って……」

「それについては後で纏めて話すわ。そうね、ここで一つ問題を出すわ。月から地上に追放された後の私は、とある物語で語り継がれる存在になった。ではその物語の名前は?」

「え~と…」

 

頭を掻きながら考える。

今までの情報を整理すると輝夜は月の国出身。

かなり身分の高い存在だと予測出来る。

様々な要素を思い浮かべては違うと考える。

繰り返して一つ、ある物語が思い至った。

 

「まさか……」

 

輝夜はそう、と首を揺らし───

 

「ドラゴンボールか!?」

「違うゥゥゥゥゥゥ!!」 

 

────掛けたが寸でで止めた。

 

「なんでそれが出たの!?カプセルか!?カプセルに詰まれた事か!?」

「いや、お姫様っつうからあの富士額と関係あるかなって」

「私はベジータか!あんなヘタレ王子と一緒にしないでよ!せめてカカロットが良かったわ!」

 

やがて深呼吸で落ち着きを取り戻すと額に浮かんだ汗を拭う。

少し取り乱したが特に問題は無いと銀時に向き合った。

 

「今は昔 竹取の翁といふものありけり 竹をとりつつ萬の事につかひけり 名をば讃岐造麿となんいひける。……聞いた事があるでしょう?」

 

それは日本最古として語られる物語。

今代まで御伽噺として語り継がれる不朽の名作。

 

「竹取物語のなよ竹のかぐやとは、この私の事よ」

 

むんと胸を張るように仰け反る輝夜。 

銀時はしばし呆然としていたが──────

 

「ええええええええええ!?ブロリーじゃ無かったのォォォォォォ!?」

「驚くとこそこォォォォォォッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地上に墜とされた輝夜は、竹取物語と同じように老夫婦に拾われる。

そこからは物語の通りだ。

地上の暮らしは輝夜にとって未知の連続。

ささやかながら幸福だった。

成長……とは言えないが、月から墜とされる際に小さくされた体が徐々に大きくなり、輝夜の身体は見目麗しい女性の身体に戻った。

───そんなある日の事。

 

"常夜を照らす程の美女がいる"

 

そんな噂を聞きつけて、五人の公家たちが輝夜に結婚を申し込んできた。

 

石作皇子。

車持皇子。

阿部御主人。

大伴御行。

石上麻呂。

 

何れも高貴な身分であると同時に生粋の色好みであった。

結婚には興味はあったが、移り気ある男とは結婚したくない。

そこで輝夜は、彼らにある物を要求した。

これがかの有名な五つの難題。

 

仏の石鉢。

蓬莱の玉の枝。

火鼠の皮衣。

龍の頸の玉。

燕の子安貝。

 

これらを持って来た人と結婚しましょう。

そう言って輝夜は彼らを試したのだ。

 

 

 

 

 

「で、結局誰も達成出来なかったんだろ?」

 

いつの間にか出された酒を飲みながら銀時は言う。

輝夜も同じように飲みながらそうよ、頷いた。

 

「まぁ殆ど伝説の品だしね。この中で一番危なかったのは車持皇子……藤原不比等殿ね。彼は職人を雇って、三年掛けて蓬莱の玉の枝を贋作を作ったのよ。私ですら騙されるほど精巧なものをね」

「結局給料未払いにキレた職人達がバラしたんだっけか?」

「助かったお礼に私が代わりに払ったけど、その後職人達をフルボッコにして回収してたから元は取れた方かな?」

 

酒のせいか、輝夜の口がよく回る。

気分を良くしたのか、その後は銀時に難題の裏話を語ってくれた。

 

「石作皇子殿は、その辺にあった石鉢で誤魔化そうとしたけど、お釈迦様のお鉢なら天竺(インド)にあるのに何で日焼けしてないの?って言ったら降参したわ。その後しばらくストーカーされたけど」

「何時の時代もストーカーっているんだな~」

「大伴行脚殿もさ、龍を探すって言うんで船団率いて海に出たのよ。龍に遭遇出来たけど案の定ボコボコにされて、その後顔が異形になる呪いを掛けられたわ」

「龍の玉探すんだったらさ、その龍に願いを叶えて貰った方が早くない?」

「まだ引っ張ってたのね…。後は石上麻呂殿がさ、燕の巣を片っ端から探してる時に、途中ハシゴを踏み外して大怪我したのよ」

「あらら、残念だったね」

「いや、流石に悪いと思って手紙を送ったら、「あなたから手紙を貰えるだけでも満足です」って返信が来て数日後に亡くなったわ」

「最期に幸福感に包まれて死ねたら幸せじゃねぇか」

「ちなみに、この為に別れた奥さんがこれを聞いて腸が捻れる程に笑ったとか」

「ああ、石上麻呂さんはジョーカーだったんだ」

「では続きを話していくわよ」

 

そう言って輝夜は杯の中身を飲み干した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

五人の挑戦者を退けた輝夜の下に意外な人物からの使者がやって来た。

──帝である。

輝夜の噂は、遂に帝の耳に入ったのだ。

是非お会いしたいと申し出る使者に対して輝夜は、

 

「面倒なので嫌です」

 

そう返した。

と言うのも、難題を達成出来ない五人に対して落胆したので、しばらくは結婚はいいやと考えていたからだった。

 

ある晩の事。

輝夜は日課の日誌を書いていた所、カタッと、物音がしたのでそちらの方に振り向いた。

そこにいたのは、なんと帝だった。

是非とも会ってみたいと、わざわざ忍んで会いに来たのだ。

これには流石に輝夜も驚いた。

帝が供を付けず直々に自分に会いに来た。

これだけでも大騒ぎになる事を何故するのか。

そう聞いた時に帝は、

 

「あなたと一度お話してみたかったから」

 

苦笑するようにそう答えた。

予想通り、帝は輝夜に求婚を申し込む。

しかし輝夜に結婚する意志は無かった。

そこで、

 

「私は人間ではありません」

 

そう言って月の魔術を用いて己が人外であるアピールをして諦めて貰おうとするが、

 

「ああ、だからあなたはそんなに美しいのか……」

 

恐れられるどころかますます気に入らてしまったのだ。 

それに呆れたように笑う輝夜は、とりあえず友達からと言う訳で、二人は文通友達になった。

 

「先の五人涙目じゃねーか」

 

と言う銀時のツッコミは置いておこう。

手紙の内容は、日常であった事の報告や歌を送ったりと他愛の無い事である。

 

そんな三年間を過ごしていたある日。

輝夜のもとに手紙が届いた。

帝からの返信かと思っていたが違う。

───月の都からだ。

 

"あなたの罪は赦されました。葉月の十五夜に迎えに参ります"

 

輝夜は本来月の民。

貴き民を何時までも地上に置いとけないと、建て前上は赦した上で連れて帰ろうとなった訳だ。

 

なんで今更……。

 

たまらず憤慨してしまい、手紙を放り捨てる。

だが月の民たちは絶対に自分を連れ帰る。

地上で得た新しい世界。

様々な経験が目まぐるしく頭を駆け回り、知らずに――戻りたくないと涙を零してしまった。

 

月から迎えが来る。

その事を老夫婦と帝に伝えると、彼らは泣きながらも見送る覚悟を固めてくれた。

帝は自ら率いる精鋭部隊で見送りますと席を用意したが、あわよくば輝夜を月に帰さない魂胆もあった。

 

そして運命の十五夜。

最も月が地上に近づく日、その一団は現れた。

 

空を自在に飛ぶ船に乗り、眩いばかりの光を纏い現れた月からの使者。

その神々しさに逃げ惑う者もいれば、果敢に立ち向かう者もいた。

しかし───月の民の不思議な術に弓矢と槍の攻撃が通らない。

次第に戦おうとする者はいなくなった。

 

やがて騒ぎが収まった頃を見計らい、月の使者の責任者――輝夜にとって馴染み深い人物が前に進み出る。

 

「姫様、お迎えに参りました」

 

そう言って差し出した手を取る前に――輝夜はやり残した事を片付ける為に待って貰った。

 

地上に墜ちた際に自分を拾い、愛情を持って育ててくれた老夫婦に感謝の言葉を。

 

外見の美しさだけではなく、内面まで知ろうとしてくれた帝には三つの贈り物を。

 

天の羽衣。

輝夜の手紙。

そして蓬莱の薬。

 

だが帝は───

 

「あなたのいない世界で不死になってなんの意味があろうか。この薬は、この国で最も高い山の頂に納めさせましょう」

 

そう言いながら贈り物を受け取る。

やがて輝夜は使者たちと共に月の世界に帰っていき、竹取物語と言うお話はここで終わるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここまでが一般的に伝わるかぐや姫の話よ。多少違うところはあるけど、大体おとぎ話で語られたように暮らしたのよ」

 

一升の酒瓶が空になった頃、輝夜が語る地上の物語はここで終わる。

銀時は空を見ながら何も言わなかったが、やがて気になる事があると口を開いた。

 

「月に帰ったのに何でまた地上に来たんだ?」

 

その問いに輝夜は、少し考えるように宙を仰ぎ見て、やがて銀時の方を見ながら口を開いた。

 

「私がね、永琳に頼んだのよ。月の都には帰りたくない。今帰っても私は拘束される。一切の自由を奪われ、永劫囚われ続ける。ああ嫌だと永琳に助けを求めたの」

 

そうして輝夜がパチンと指を鳴らすと、空になった酒瓶が消えて新しい酒瓶が現れる。

 

輝夜は蓋を開けると、銀時の杯に酌しようと酒瓶を突き出す。

銀時もそれに応えるように杯を差し出した。

 

「察しの通り、薬を作った賢人は永琳のことよ。彼女は月の都を創設した賢人の一人。まぁ重役ね」

「───ちょっとまて、地上にいたやつらが月に移住し始めたのってたしか……」

「確か恐竜が生まれ始めた頃ね。単純計算で永琳って億歳は行ってるんじゃないかしら」

「億ってお前……」

 

気の遠くなるような時間。

八意永琳の年齢を知った銀時はスケールが違うと引きつった顔をした。

おそらく幻想郷の妖怪たちの年齢を合わせてもお釣りが来るだろう。

 

「何だろう?神様っぽい何かって本人は言ってたけど、定義はそれでいいのか疑問だわ」

「なんかすげーわ。流石幻想郷だって納得する自分が嫌になるけど」

「まぁ女まで捨ててないから心は若い方じゃないかしら?」

「なら俺にも可能性あるかな?」

「頑張りなさい。永琳って結構耳年増だから」

 

クスクスと楽しそうに笑う輝夜。

やがて酒瓶の中身が三分の二になった頃、ここからが本題よと切り出した。

 

「永琳は蓬莱の薬を作ったことに酷く後悔していたわ。私だけ罰を受ける形になって罪悪感を感じてたみたい。蓬莱の薬は作ったり所持したりするだけなら罪にならないから、永琳にはなんのお咎めも無かった。だから、永琳は私の為に動いてくれるのよ」

「………」

「私が月に帰る時、戻りたくないと願ったら――永琳は同行していた使者を皆殺しにして私を連れ出したのよ」

「………!」

 

皆殺し───その言葉に目を開くほど驚愕する。

八意永琳の犯した業。

輝夜の為に己も同等、それ以上の罪を背負うと言う覚悟を持って実行された。

輝夜は一度頷いてから再び口を開いた。

 

「その後は月の民から逃れるために地上を逃げ回った。けど永琳は、私と違って穢れによって寿命が出来た。永遠の時を生きる私の為に蓬莱の薬を飲んだ(同じ罪を背負った)のよ。今思うと申し訳ないと思ったけどね」

 

そうして二人はこの幻想郷に流れ着いた。

隠れ住むに相応しい場所を探す途中、この迷いの竹林を見つけ出した。

どことなく輝夜が最初に降り立った竹林と似ていたから、ここに隠れ家――永遠亭を作る事になった。

 

以降――輝夜の永遠を操る能力で誰も近付かない平穏な日々を送っていたある日、一匹の来訪者がやってきた。

 

かつてこの迷いの竹林は因幡国、現在の鳥取県が高草郡(たかくさのこおり)と呼ばれていた時代に、大津波によって歴史から消え、幻想郷に流れ着いた竹林である。

その竹林に古くから住む妖怪兎、因幡てゐが永遠亭にやってきた。

輝夜の永遠の術は変化を拒む静止の世界。

どうやってやって来たのは分からないが、如何なる用かと問い掛けた。

 

「この竹林は我々が古くから住んでいた土地よ。勝手に住んで貰っては困るの。どうしても住みたいなら───」

 

私たちにあなたの知慧を授けなさい。

 

そう言ってニコリと微笑んだ。

仕方ないので永琳は彼女たちに自分の薬に関する知識を教える代わりに、雑用や手伝いをさせるという契約を結ぶ事になる。

少し賑やかになった永遠亭。

しかしまたその平穏に変化が現れる出来事が起こる。

 

ある日てゐが連れて来た兎。だが地上の兎では無かった。

月の都からやってきた玉兎───名前はレイセン。

そう名乗った玉兎は永琳に助けを求めて来た。

 

「ちょっとまて。鈴仙って月の奴だったのか?」

「そうよ。元は月の都を防衛する兵士だったのよ。何でも、地上の人間が月に攻め込んでくるとか言って逃げて来たんだってさ」

「ああ、逃亡兵か。そんな感じはしなかったけどなぁ」

「まぁ自分からペラペラ喋らない子だしね。あの子は気位が高い癖に臆病で自分勝手な性格でさ、戦争が怖いからって、仲間放り出して逃げ出した。言っちゃ悪いけど」

 

臆病者なのよ。

 

そう言って輝夜は再び自分の杯に酒を入れる。

対して銀時はふーん、と言って月を眺めるだけだった。

月は頂点を過ぎ、これから沈んでいく所に差し掛かる頃だ。

 

「あら?何も言わないのね。てっきり臆病者め!……とか言うかと思った」

「もう終わった事だろう。今更俺から言う事はねぇし、そいつが決めた事なんだしよ。俺の馬鹿(しりあい)も似たような事してたし」

「逃げた……では無さそうね」

「途中まで戦ってたけどさ、ある日そいつが言ったんだ。"宙にいく"ってな。このまま戦ってもジリ貧になる。だったら、戦い以外で天人たちと渡り合える方法――商売で地球を救うっての言いやがったよ」

「貿易か……。なるほど彼を知れば百戦危うからずってことか。その後その人はどうなったの?」

「一艦隊を率いる商人になったよ」

「あら成功したのね」

「まぁな。偶に出てくると厄介事を押し付けて来る馬鹿だよ。その割にOPEDには必ず出てくるしよぉ…」

 

思い出したのか若干顔付きが悪くなる。

輝夜はそれに察したのか何も言わずに頷くだけだった。

 

「話を戻すわ。永琳は最初は消そうと考えてたけど、月の情報が手に入るからとりあえず弟子って形で匿う事になったのよ。地上に住むなら名前を変えなきゃって事で、レイセンを当て字で鈴仙に、優曇華院を永琳が、イナバは私が付けたのよ。まぁそんな訳でだいぶ賑やかになってそれなりに楽しくなって来たわねでもね……」

 

今から数年前の事。

鈴仙からの情報に永琳と輝夜は戦慄した。

 

"地上の人間が再びやってくる。次の満月の晩に迎えに行く"

 

ついに月の民たちに居場所を突き止められた。

これに焦った永琳はすぐさま行動に移す。

すなわち、月の使者が来れないようにする事だ。

 

天文密葬法。

幻想郷の月を満月一歩手前の偽物の月にすり替える事で、幻想郷を地上の密室にする術式。

これで使者は来れない。後は満月が過ぎるまでこのままにするだけだが、新たな問題が起こる。

 

人間には満月がすり替えられても毛ほども影響はないが、妖怪たちは違った。

月の機微に敏感な妖怪は月が偽物になったと騒ぎ立てた。

そうして───月を取り戻す為に人間と妖怪がチームを組んで異変の解決に乗り出す。

妖怪たちが各々の術で夜を止め、今夜のうちに解決すると行動し出した。

 

 

「なんで夜を止めたんだよ?」

「多分、これが動かぬ証拠よ!って感じじゃないの?」

 

そうして永遠亭に辿り着いた人間と妖怪のチーム。

 

博麗霊夢と八雲紫の結界組。

霧雨魔理沙とアリス・マーガトロイドの禁呪組。

十六夜咲夜とレミリア・スカーレットの紅魔組。

魂魄妖夢と西行寺幽ヶ子の冥界組。

 

彼女らと戦い敗れたが後悔はない。

それ以上に羨ましく思えた。

互いに敵対関係にある両者が協力しあう。

それは輝夜の好奇心をくすぐるものだった。

しかし、それ以上に解決していない問題がまだあった。

───夜が明けないという事だ。

 

 

「今回の異変は、表向きには夜が明けなかった異変───永夜異変と呼ばれてるけど、そもそもの発端は、永琳が偽の月にすり替えた事なの。それで妖怪たちは夜が明けないようにしたのを私が解決したのよ」

「……ちょっとまてよ、整理すると、永琳先生が月をすり替えて、それをレミリアたちが夜の間に解決するために夜明けが来ないようにした。で、最終的に解決したのが姫さんて事か?」

「そもそも月がおかしくなっても困るのは妖怪だけだし、人間たちには朝が来ない事の方が大きかったのよ。いや、私もいつまで立っても朝にならない事に疑問を覚えてね、真実知った時に私の力で無理矢理時間を動かしたの」

 

おかげで、「なんか月がすごい速さで沈んだと思ったら次の瞬間に太陽が出ていた」というちょっとした騒ぎが起きたが、事態は収拾する。

この異変の真相を知っているのは当事者たちだけである。

解決する側が異変を起こしていた、などという卵が先か鶏が先かの真相に、当事者たちは口を噤む事になった。

 

「下手すりゃマッチポンプって言われてもおかしくないからな」

「まぁね。そんな訳で異変が終わった後、屋敷に掛けた永遠の術は解いたの。幻想郷(ここ)は強力な結界で覆われているから、月の使者はやすやすと来れない。もう隠れる必要はないと、私たちは地上の民として生きる事になった。永琳は医者として永遠亭を診療所として開いて今に至るって訳よ」

 

語り終えた輝夜は天を仰ぐ。

月は東の空に沈みかけ、後数刻で夜明けがやってくる。

二人は黙りながら月を眺めた。

 

「───私は、この"今"が大事だと思うの」

 

やがて口を開いた輝夜は、唐突にそう言った。

 

時間(みらい)は無限に存在する。過去なんて、安い本と同じ。この今こそが、至高なのよ」

「………」

「ではあなたは?過去現在未来、どれを持って至高とするの?」

 

薄ら笑いながら問い掛ける。

それに対して銀時は───

 

「全部かな」

 

脈絡なく即答した。

 

「欲張りかもしれねぇがな、過去があるから今があり、そして未来に続く。少し振り返れば今までの歴史(じんせい)、辛い事も楽しい事も、全てが俺であるという証だ。だからさ、過去が安い本なんて、寂しい事言うなよ。地上で暮らしてた話の時のあんた、すげぇ楽しそうだったぞ」

「──────」

 

呆気に取られたように呆ける輝夜だが、やがて堰を切ったように笑った。

 

───ああ、自分はなんと馬鹿だったのか。

永く生きて来たせいか、当たり前な事を忘れ掛けていた。

老夫婦が自分を育ててくれたのはその美貌や富の為では無い。

子供のいない夫婦だから、実の娘のように育ててくれた。

その思い出を、安っぽいなどと片付けるとは断じてあってはいけない。

 

「………そうね。過去の全てが安い本は言い過ぎたわ。お爺さまとお婆さまと暮らした過去(あのひ)は、私にとって代え難い宝よ。───ああ、危うく切り捨てそうになってたわ」

「育ての親ならなおさらだな。その過去は忘れちゃなんねぇもんだよ」

 

やがて立ち上がった銀時は、多少ふらつく足取りで歩き出そうとする。

 

「───(せつな)を愛する……てか。うちのメイド長が聞いたら意気投合しそうだな」

「私の場合は須臾を愛するだけどね。───もう戻るの?」

「今夜は色々聞けて腹いっぱいだ。夜這いはいずれのお楽しみって事で」

 

ピッ、と指を出して銀時は部屋に戻ろうとするが、

 

「………?」

 

何かに見られているような視線を感じたが、酔いのせいだろうとこの場を後にしようとした時───

 

「明日の例月祭、良かったら参加してみなさいよ。じゃあお休みなさい」

 

琴と酒瓶を片づけた輝夜の挨拶と同時に聞こえた障子のピシャリと閉める音。

銀時は酔いに浸りながら自分の病室に戻る為に長い廊下の奥に消えていった。

 

 

 

 

 

 

翌日の夜。

満月の下でそれは行われた。

 

『一つ搗いてはダイコク様~。二つ搗いてはダイコク様~。百八十柱の御子のため、搗き続けましょう、はぁ~続けましょう』

 

陽気な歌声。

人の姿をした兎たちは杵を担いで臼を囲う。

ペッタンペッタン。

拍子に合わせて餅を搗く。

俺は縁側に座りながら眺めているだけだが、みんな心底楽しそうに餅を搗いていた。

せっかくの祭りなんで新調した服を着ているが、どうやら無駄だったかね。

 

『三つ搗いてはカグヤ様~。四つ搗いてはエイリン様~。月に御座す高貴で永遠の御方のために、搗き続けましょ、はぁ~続けましょう』

 

ペッタンペッタン。

兎たちの餅搗きを眺めながら昨日の事を思い返していた。

 

永琳先生と輝夜の姫さん、そして鈴仙。

彼女らは月の都から地上にやってきた。

もう月に帰らないのかと思っていたが、姫さんは地上の暮らしが好きだと言っていたので帰る事はないだろうな。

 

「しかし、永琳先生が億歳とはねぇ…」

 

年上ってレベルじゃねぇよな。

まぁ俺的には全然OKだけど。

 

「………」

 

月の使者を皆殺しにした。

永琳先生が犯した罪を聞いた時には度肝を抜かれたもんだ。

そういやあの二人って教育係と教え子の関係でいいんだよな?

地上に墜ちた教え子の願いの為にかつての仲間を切り捨てる。

あの人は何よりも姫さんを優先した。

自分の作った薬で教え子が罪を被ったが、本人は何のお咎め無しという罪悪感に苦しんだ。

だからそんな凶行に及んで同じように不死となって一緒に暮らした……ってことか。

 

「お侍さん。どうだい?例月祭は」

 

思考の海から戻ってみると、いつの間にか目の前にてゐがいた。

……少し考えすぎたなと、姿勢を直して座り直す。

 

「なかなか楽しそうだな。みんなイキイキとしてるよ」

「そう誉めてくれると有り難いねぇ。こっちも張り切った甲斐があるってもんさ。どうだい一つ?」

「?」

 

差し出した手のひら。

その上には丸められたら団子が乗っていた。

見ると、既に餅搗きが終わったのか、団子を作る作業に入っている。

せっかくなので頂こうと思ったが、なんか忘れてる気がするな。何だっけ?

まぁいいかと団子を手に取り口に運ぼうとした瞬間。

 

「こらこら、勝手にお団子食べさせちゃ駄目でしょう」

 

寸でで横から声がしたのでそっちを向くと、永琳先生と姫さんがいた。 

 

「ありゃ、お師匠様と姫様。珍しいね、いつもは出てこないのに」

「姫様がね、偶には参加しないかって誘ったのよ」

 

そういって俺の隣に座る永琳先生。

姫さんも同じ様に永琳先生の隣に座った。

 

「あの団子の中にはね、兎たちを興奮させる薬草を混ぜ混んでるのよ。祭りが盛り上がるようにね。───見てみなさい」

 

そういや昨日そんな事言ってたなと、兎たちを見る。

なるほど確かに飛びはねたり声を上げたりと騒がしくなってきた。

が、一部の兎は───

 

「この団子をみろぉっ!私が丸めた七つの団子よ!この美しさは天上の月に勝るぅ!」

「おお…おお……、我は三国一の餅搗き師(マスラオ)なりぃ!我と並ぶ者は名乗り挙げよ!召しとってくれるぅ!」

「餅…餅はもう無いのかぁっ!」

 

 

「……………」

 

なんか違う意味で騒がしくないか?

大欲界天狗道。ここに完成───なんてテロップが出ても違和感ないぞ。

やがて伝播しだしたのか、紡がれ始める我、俺、私の大合唱。

段々収拾が着かなくなってきたぞ。

 

「うーん、薬の量を間違えたかしら。あそこまで狂乱するとは思ってたかったわ」

「仕方ないなぁ。ほらお前たち、騒ぐのもいいけどお師匠様たちが来てるんだからもう少し節度を───」

 

ベチャッ!

瞬間飛んできた餅の生地がてゐの顔面に直撃した。

歓声を上げ、てゐを指差しゲラゲラ笑う兎たち。

やがて剥がれた餅が地面につく瞬間───

 

「───上等だぁやってやらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 

怒鳴り散らしながら群れに突っ込み、それを皮きりに兎たちの大乱闘が始まった。

これで勝ち残っても最終的にヤツに潰されるんだろうな。

 

「あ~あ、とうとう始まっちゃったわね」

「……今夜は徹夜かしらね」

 

呑気に茶を飲みながらバトルロワイアルを観戦する二人。

せっかくだから今の内に聞ける事を聞いてみよう。

 

「昨日姫さんから聞いたけど、あんたも月の国から来たんだって?」

 

すると一瞬ドキリとしたように目を開いた永琳先生。

すぐに横の輝夜に目を向ける。

 

「ちょっと輝夜、あなた私たちの事を話したの?」

「酒の肴にちょこっとね」

 

悪びれたような雰囲気を出さず姫さんは受け流す。

しかし、プライベートでは輝夜ってちゃんと名前で呼ぶんだな。

 

「だからって私たちの素姓を明かすなんて…」

「もう永琳は堅いなぁ。私が好きでやっただけよ。もっと柔らかくなさいよ」

「……………」

 

やがて諦めたのか、永琳先生は溜め息混じりに頭に手を添える。

 

「………。どこまで聞いたの?」

「姫さんが地上に来た経緯と幻想郷での暮らしまでなら」

 

問われた事に答える。

なるほどと頷いてから永琳先生は口を開いた。

 

「この例月祭は、地上に墜ちた私たちの罪を祓う為に行わせてるのよ。丸い物……この場合は団子ね、それを供えて月から地上を遠ざける儀式なのよ」

 

淡々と祭りの概要を話す。

その顔は暗い。俺としてはそんな顔をして欲しくなかった。

 

「私はね、輝夜に蓬莱の薬を作ったのを後悔してる。月から地上に墜とされたのは輝夜だけで、私に何の罪もなかった事を後悔したの。だから───」

 

同じ様に罪を背負おう。

 

そう思って同じ禁忌を犯したってか。

 

「永琳……」

「今更月の都に未練は無いけどね。私も今の生活は好きよ。輝夜のそばにいる。それが私の生きる意味なのよ」

「………。そうかい」

 

立ち上がる。

つかつかとまだ狂乱している兎たちの横を過ぎて杵を手に取る。

 

「ちょっと…なにを…」

 

振り上げて新しく補充した臼の餅を───

 

「そぉい!」

 

渾身の力で打ち下ろす。

パァンと空気が抜ける小気味良い音が竹林に響く。

一瞬水を打ったように静まり返った気がしたが、多分気のせいだろう。

現に兎たちはまだ騒いでるし。

 

「……この祭り、要はあんたらの罪を償う為なんだろ。じゃあ俺もやってやるよ」

「あなた……」

「こんなもんで罪が償えるほど人の業ってのは甘くねぇ、それこそ墨汁垂らしたシミに匹敵するわ」

「ああ分かるわ。直ぐに洗わないと絶対に跡が残るからね」

「いやそんな意味じゃ無いから!」

「それでも、同じ様に罪を背負えるんだよ」

 

真っ直ぐ二人を見る。

一人は呆気に取られた顔を、もう一人は、はてさて何を言うのかと心待ちする顔を。

 

「犯したもんはそう償えないなら、俺も背負ってやるよ。これでちったぁ軽くなるだろ?」

 

………あれ?これってプロポーズじゃね?

言ってて恥ずかしくなってきたぞ。

やべぇ、超顔隠してぇ……。

 

「──────そんな事して、あなたまで潰されちゃうわよ」

「なにこの程度は軽い軽い。俺もあんた程じゃねぇが───それなりに重いもん背負ってるから今更さ」

 

……少し喋り過ぎたか?

あまり思い出したく無いもんまで思い出しそうだ。

首を振って気分を入れ替え、さてどうだと二人を見る。

姫さんはクスクス笑っているが、永琳先生はポカンと口を開けていた。

 

「───は、あははははははっ!」

 

やがて笑い出した。

こりゃ一本取られたわと、心底可笑しく笑う。

───ああ、やっぱ美人は笑うのが一番だよな。

 

「あはは、──────ああ、笑った笑った。あなた程面白い人は久しぶりよ」

「それは光栄、さて……」

 

杵を置いて戻ろうとする時、兎たちに目を向ける。

それぞれ憔悴したように倒れ込んでいたが、肝心のヤツの姿がなかった。

 

「───そういや鈴仙は?」

 

今朝は見たのに今はいない。

そういや朝食や最後の回診の時、あまり言葉を交わしていなかった。

淡々と、事務的に仕事をこなすその顔に掛ける言葉がなかったから黙っていたけど。

 

「確かに見ないわね。一応この祭りの指揮を取ってるのに」

「───鈴仙なら裏の竹林の方に行ったよ」

 

その疑問に答えたのはてゐだった。

すげぇボコボコにされたような顔してるが、動けるならまだ大丈夫だろう。

 

「なんか、少し考えたい事があるって席を外したの。えらく沈んだ顔してたけど」

「………しゃあねぇ、ちょっくら迎えに行ってくらぁ」

「裏口から出て真っ直ぐ行けば広めの広場があるわ」

「私と妹紅の決闘場ね」

 

決闘場ってなんだよと思いながら俺は永遠亭の裏口に向かった。

 

 

 

 

 

満月の竹林を歩く。

月光に照らされた夜道は多少なりとも恐怖感があった。

遠くから狼の遠吠えが聞こえるのでムード満点である。

この道は他より舗装されていて歩きやすい。

ザクザクと進んで行った先に開けた場所が見えてきた。

 

月明かりに照らされた広場。

満月がスポットライトだとすると、広場はさながら舞台か。

なるほどいい場所だと感心すると、端の方に件のヤツを見つけた。 

 

「お~い。そんなとこで何してんだ?」

 

鈴仙・優曇華院・イナバ。 

見た目女子高生の格好をした兎が、恐らく観戦用であろうベンチに座っていた。

 

「……………ああ、」

 

やがて気づいたのかこっちに振り向ける。

目を合わせて来ずにおずおずと視線が宙を泳いだ。 

 

「今日の祭ってお前さんも主役だろう。こんなとこにいないで戻ろうぜ」

「銀時さん」

 

帰ろうと促しても頑なに動こうとし無かったが、やがて決心したように顔を上げた。

 

「私からも一つ問答してもいいですか?」

「……あ?」

 

また問答か。

幻想郷の奴らって問答が好きなのか?

面倒くさいけど帰らないなら付き合うか。

そういやしっかりと話をしてなかったし。

 

よいしょと隣に座る。

先に座っていた鈴仙は俯いていたが、

 

「──────。昨日、私はあなたと姫様が話してた所にいました」

 

やがてポツリと口を開いた。

 

「ああ、あの時感じた視線はやっぱお前か」

「姫様が琴の演奏を中断した辺りから隠れて見てました。輝夜様がご自身の過去を人に語るなんて珍しいですからね」

 

そうなのか。

俺は結構気さくに話してくれそうな印象が合ったけどな。

 

「銀時さん。あなたは――死ぬことが怖くないのですか?」

 

鈴仙からの問いは、死ぬことが怖くないのか。

いやにストレートに聞いて来る。

一応、理由を聞いとくか。

 

「何でそんなの聞くんだよ」

「───姫様のお話し通り、私は月の都から逃げて来ました。地上の人間たちが月にやってくる。それをいち早く察知した私は逃げ出した。地上に降り立った先が運良く幻想郷で、師匠───八意様に出会えました」

 

そのあたりは姫さんから聞いたから分かる。

俺が気になるのは、戦いが始まる前に逃げ出した事だ。

 

「お前さん、結構優秀な兵士だって聞いたぞ」

「………優秀だから戦えると、そう思いますか?」

「──────」

 

そういう事か。

いくら腕が立っても、根が臆病だから戦えなかった。

だから一人だけ一目散に逃げてきたのか。

 

「銀時さんはなんで、戦争に行くのが平気なの?死ぬことが怖くないのですか?」

「──────いや、俺も死ぬのが怖いさ」

「なら……」

「行かなくても俺は死ぬんだよ」

 

言いながら立ち上がる。

数歩前に進んで、また鈴仙の方に振り返る。

 

「前にも同じ様に聞かれた事があったな。これが既知感ってやつかね。───俺にはさ、心臓よりも大事なもんがある。そいつは目に見えないが、確かに俺の頭のてっぺんから股間の先まで真っ直ぐブッ刺さってる。そいつがあるから俺は立っていられる。ふらふらしても真っ直ぐ歩いて行ける。ここで立ち止まったら、魂が折れちまうんだよ」

 

今までだってそうしてきた。

今でもそうしてきた。

これからもそうしていく。

誰に言われようが変わらない、変えられない。

俺の武士道(いきかた)

 

「心臓が止まるなんてより、俺にはそっちの方が重要でね。こいつは腰が曲がっても真っ直ぐじゃないといけねぇのさ」

「………そんなの、殆ど根性論じゃないですかっ」

「そうだよ。武士道の八割が根性論で出来てんだよ。国の為、主君の為、護る為なら何があっても我を通すのが武士道だよ」

「じゃあ残りの二割は?」

「───優しさ?」

「バファリン!?」

 

なんだ。随分と憂いが晴れたような顔するようになったじゃねぇか。

 

「お前さんが逃げた事には、俺からは何もねぇよ。お前が決めた事だ。それでもまだ心残りがあるなら、偶には帰ったらどうだ?あ、でもお前逃亡兵だから最悪処刑か?」

「───いえ、私の罪は時効扱いですよ」

 

自嘲するように笑う鈴仙。

そうかと俺はまたベンチに座りこんだ。

 

「ならさ、仲間の墓参りに行ってやれよ。ゲンコツくらいは覚悟してさ」

「───いや、私の仲間は誰も死んでませんよ」

「………え?」

「いや死んでませんよ。確かに地上の民達はやって来ましたが、殆ど何もさせずに帰らせましたよ。というか、普通の手段で月の都には立ち入れませ────イダダダダタダダダダタ!?」

 

最後まで言う前に、鈴仙のウサ耳を掴む。

なかなかのモフモフ感を楽しみつつ、破裂するんじゃねえかくらいの力で握り締めた。

 

「テメェふざけんなよコラァ!なに?じゃあ逃げる必要ねぇじゃねぇかよォッ!!」

「アダダダダダダダダダ!!だ、だって!万が一って事があるかもしれないじゃないのよぉ!」

「心配して損したわ!もうお前は鈴仙じゃねぇ、まるでダメなウサギのお姉さん。略してマダオだ!」

「なにその不名誉な名前!?」

 

互いに掴み掛かる。

相変わらず俺は耳を、鈴せ……マダオは俺の顔にアイアンクローで返して来た。

ギャーギャーと騒ぎながら互いに掴み掛かっていた時、

 

「ほらほら二人とも、仲が良いのは結構だけどその辺にしなさい」

「あ……」

「師匠……」

 

永琳先生と姫さんがやってきた。

どうやら盗み聞きされてたみたいだった。

 

「や~面白いわね。腰は曲がっても真っ直ぐにか。ほんとあなたは名言メーカーね」

「……いつからいたんだよ」

「気配を隠してこっそりとね。忍び足差し足よ」

 

─────全く、抜け目無い姫様だこと。

最初から聞かれてたって事か。

 

「ウドンゲ。あなたに私が送った名前、優曇華院ってどういう意味か分かる?」

 

っと、こっちでは永琳先生が鈴仙と会話していた。

 

「……いえ、変な名前だなど思ってました」

「普通ならそうね。優曇華とは地上の穢れを栄養に宝石を付ける植物。あなたも地上に住むならば、地上に触れ、才能を伸ばすようにと付けた名前よ」

 

郷に入れば郷に従え。

多様な価値観、認識を身に付けろと永琳先生は言う。

月から来た鈴仙に期待を込めた名前(おくりもの)

 

「だからそう、あなたはもっと世界をみた方がいいわ。上に見るのも下に見るのも好きになさい。けど、見ようともしないで世界を語るなんてしちゃ駄目よ」

 

そう言って天を仰ぐ。

釣られて見ると、夜空を穿つ白い(つき)

真円を描く月を見ながら、もう届かないかつての世界を思いつつ、目を細めた。

 

「あなたが月から逃げて来た事を、未だに悔いがあるなら、それを償う方法を探しなさい。困ったら手を貸してあげるから」

 

そう言って微笑む永琳先生。

慈愛に満ちた、教え子に期待する師の顔。

 

「……はいっ」

 

泣きそうな顔を必死に堪えるように鈴仙は笑う。

もう俺の役目は無いなと思った時に、姫さんがポンと手をたたく。

 

「さぁ、帰りましょう。月を見ながら酒宴と洒落込みましょうよ」

 

……そうだな。こんな綺麗な満月だ。

眺めるだけじゃもったいねぇ。

俺たちは踵を返すように夜道を歩き始める。いよいよ明日には紅魔館に、万事屋に帰る。

それまでに永琳先生を口説けるかなと思いながら俺たちは夜道を歩くのだった。

 

「ところでさ、鈴仙のあだ名、マダオって良くない?」

「可愛く無いんじゃないですか?」

「じゃああれだ。何かしたらしばらくマダオ呼びで良いんじゃね?」

「ちっともよくないですよ!もうやだこの人達ィィィィィィィィィ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

永遠亭から退院する日の朝。

入口には既に迎えが来ていた。

 

「退院おめでとう。今日は祝いの宴を用意してるわよ」

 

レミリア、咲夜、アリス、早苗、文が、みなお帰りと言う。

永琳先生と姫さんと鈴仙とてゐも、俺を見送る為に来てくれた。

 

「いやぁ、色々世話になりましたわ」

「また怪我したらいらっしゃい。で、私から退院祝いよ」

 

言って渡してきたのは……薬箱か?

 

永遠亭(うち)では"置き薬"という販売形式なのよ。使った分だけ補充して代金を貰うの。まぁ薬で治せない病気ならここに来るのに限るけど」

 

ふーん。そりゃ面白い。

中を確認すると、風邪薬、痛み止め、下痢止め、傷薬など、ある程度揃っていた。

 

「ありがたく貰っときますよ」

「薬の販売はウドンゲに任せてるからその時は宜しくお願いね」

 

言われてぺこりとお辞儀する鈴仙。

憑き物が取れたように爽やかじゃねぇか。

これなら心配は要らないだろう。

名残惜しいが、ここらで帰るとするか。

 

「じゃあ、また来ますわ」

「銀時さん!」

「……?」

 

踵を返して行こうとした瞬間、鈴仙が声を上げて呼び止める。

 

「あの、ありがとうございました!」

 

そうして頭を下げた。

永遠組以外は何の事か分からない顔をしていたが、何かしたのかという認識だろうな。

 

「ああ、気にするなよ。俺の言葉なんて説教とはほど遠いよ。まぁでもさ、お前さんが地上に来てやりたい事をボチボチ見つけて行きゃいいんだよ」

 

俺に出来るのはそれだけだ。

人様の人生観変えれるほど徳のあるもんじゃないと自覚している。

だが───

 

「困った事があったら是非万事屋に来いよ。格安でサービスしてやるさ」

「………はいっ!」

 

今度こそ俺たちは永遠亭を後にする。

竹林の道ながら、何かあったのか話すのが面倒だったが、これはこれで良いなと思う。

(むね)に満ちる暖かさを感じながら俺たちは帰る。

懐かしき、万事屋(あの場所へ)……。

 

 

 

 

 

「行っちゃったわね」

 

不満そうに唇を尖らせる姫様。

やがて遠く、小さくなる銀時さんたち。

たった三日が濃く感じた。

言葉も態度も振る舞いも、すべてが桁外れ。

ああ、確かに妖夢どころか私も及ばない。

私程度ではあの人に太刀打ち出来ないだろう。

腕が立つとかそんな理由じゃない。

気概、魂の質。

それらが私のそれを凌駕する。

 

劇的に何かが変われるものではないが、一つ変わったとするなら、もっと世界を見ようとしたくらい。

ちっぽけかもしれない。 

けどそんなちっぽけなことでも、あとで大きな変化になるかもしれない。

 

「さ、ウドンゲ。片付けたら薬の調合よ」

 

師匠が呼ぶ。

私はこの地上で見つけた居場所を再認識した。

いつか私も自分の道を見つける。

まだ漠然だけど、なに、時間はまだまだある。

私の罪が消えないなら、それと付き合えるようになろう。

それが、私の贖罪───

 

「はいっ!直ぐ行きます!」

 

鈴仙・優曇華院・イナバ。

今日も地上で生きていきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………」

 

それは、遥か上空から見下ろしていた。

纏ったローブは黒尽くめ。

顔が伺えないが、その眼は不気味なほど赤かった。

影のように黒い男の見ている先は、竹林を抜け人里に向かう銀髪の男。

 

「……………」

 

内に渦巻く感情は憎悪。

憎い憎いと鳴き声を上げる獣の唸り声。

だがまだだ。まだ落ち着けと宥める。

我が悲願、野望の為にあの男は邪魔だ。

時至らば、必ず絶殺しよう。

その為には準備だ。先にオーダーを片付けよう。

 

黒い影は最後に一瞥すると、瞬く間に虚空から姿を消し、後に残ったのは、澄み渡るような青空だった。

 

 

 

 

 

 




グダグダ座談会 Final Wars

銀八「祝!2016年日本ゴジラふっかぁぁぁぁぁつ!!」
三人「イエェェェェェェイ!!」
銀八「いや~ファイナルウォーズから十年か~。長かったよなぁ。当時小学生がもう大学生くらいじゃね?」
アリス「ふりかえれば一瞬だったわね」
レミリア「ギャレゴジ人気のおかげよね。今から楽しみだわ」
早苗「私はメカゴジラが楽しみですよ。機龍を超えるデザインになるかどうか不安ですが」
銀八「俺としてはモスラが出ればそれで十分だな」
レミリア「ほんとモスラ好きよねあんた…」
銀八「曙光のやつが好きだからな。俺は言わばやつの触覚だから趣味が出るし。よし、なら作者がモスラを好きになった経緯を話してやろう」
アリス「こんな事話して大丈夫なの?」
銀八「個人特定出来るほど話さねぇよ。…ええとな、作者が小学生の頃、父親の影響で趣味が昆虫採集ーーとりわけ蝶を集めるのが好きだったんだ。その時に採ったオオムラサキの標本は今でも宝物だよ」
早苗「最近オオムラサキ見ませんよね~。もっと山奥に行かないと無理ですかね」
銀八「それで蝶や蛾に思い入れがあったんだ。ある日父親のビデオ棚から「モスラ」のビデオ見つけてな。どんな怪獣か知ってたし面白そうだと見たんだよ。因みに父親はモスラとラドンがお気に入りだ」
レミリア「ファイナルウォーズの登場シーンは美しかったわね。それで感想は?」
銀八「めっちゃ面白かった。昭和の特撮は味があって良かったね。モスラの動きとか、小美人の歌もめっちゃ耳に残るし。どこぞの二番まで歌わないと起きない守護神(笑)とは大違いの心地よさだよ」
アリス「キングシーサーの悪口はやめい!」
銀八「幼虫もさ、最初はキモかったけどよく見ると可愛く見えて来てさ、成虫も優雅な佇まいと色合いに心奪われたよ。その後東京SOSが公開してさ、もうとにかくモスラがかっこいい。羽や足の動きが初代の繰演を再現してたから感動ものだよ」
早苗「私は機龍を見てましたからそこまで見てませんでしたね」
銀八「機龍も良いけど、モスラは昭和板見てた人向けの演出だからな。で、その後平成三部作をビデオで借りて見たぜ。一言言えば、ドラゴンボールだな」
レミリア「サイヤ人?ていうくらい変身してたわね。てか鎧モスラがチート過ぎる」
銀八「かっこいいよな鎧モスラ。さすが守護神だよ。また見たいけどレンタルDVDが見つからないんだよな」
アリス「通販で買おうか迷ってるの?」
銀八「そうなんだよ。まだいいけどさ、いずれこれが終わったら、モスラをもふりたいという渇望で「東方×モスラ」を流出しようかなって思ってるんだよ。見直す為に見なきゃって」
アリス「モスラをもふったら鱗粉で死ぬわよ」
銀八「そんな訳で作者はモスラが大好きだ。好きなゴジラ怪獣ベスト5の堂々一位だよ。因みに順位が、
二位ゴジラ
三位メカゴジラ
四位バトラ
五位ジェットジャガー
の順番だよ」
レミリア「明らかにジャガーが浮いてね?」
銀八「やつはゴジラ怪獣最大の謎だ。触れるなよ」
早苗「PS3のゴジラは買います?」
銀八「買うな。だが今は忙しいからいずれのお楽しみで。それでは皆さんーーー」
アリス「ちょっと待った!」
銀八「何だよ」
アリス「今回の〆はなに?」
銀八「……Dies iraeだよ」
アリス「目を合わせて答えなさい!」
銀八「分かったって、今回だけ11eyesのアレやるから。次回からちゃんともとに戻るよ」
アリス「本当でしょうね……」
銀八「俺は約束を破らねえよ。それでは皆さん」
四人「友と、明日の為に!」
銀八「……やっぱ六人でやらねぇと締まらないな。あと、全話に前書き追加しといたから、暇な人は見てみてね」

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