東方万事屋録 The Fantasm of Silver soul   作:曙光

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「俺達は永遠になれない刹那だ。どれだけ憧れ求めても、幻想にはなれない」
Dies irae  ロートス・ライヒハート

レミリア「限られた生の中でこそ、人間は輝くものよ。それがどれだけ鈍くとも、目に止まる光を放つわ」
パチュリー「私たちはどうなのかしら?」
レミリア「………タダのガラス細工よ」



第七訓 喧嘩するほど仲良くなる

江戸にいた頃の坂田銀時の朝ははっきり言って遅い。

元々自堕落な性格だからか幻想郷の暮らしに慣れてくると本来の調子が出てきた。

 

銀時にあてがわれた部屋は和式と洋式を足して二で割った内装となっている。

広さは8畳、入り口で靴を脱ぐ土間。

電気は無いから壁に立てかけたランプが明かりになる。

あとやたらでかいシャンデリアも天井に吊されていた。

家具はタンスとクローゼット、座敷用の机、畳を積み上げて作ったベッドなど。

銀時はこの部屋を、

 

「和洋折衷じゃなくて闇鍋じゃね?」

 

と言っている。

要するに節操がないのだ。

因みにこの部屋を監修したのはレミリアである。

 

最初の頃、咲夜が銀時を起こしに言った時、

なかなか起きず終いには

 

「あと五時間寝かせろコノヤロー」

 

と言う始末。

それにキレた咲夜が寝ている銀時の腰に手を回し、

 

「起きろぉぉぉぉぉぉ!」

 

鮮やかなジャーマンスープレックスをかけた。

 

「ギャアァァァァァァァァ!!」

 

館中に響き渡る叫び声。

その様を目撃したフランは

 

「まるで王侯貴族のような気品あるジャーマンだった」

 

と後に語る。

 

あれ以来トラウマになったのか銀時の朝は早くなった。

大体は自主的に、そうでなくても咲夜が来れば飛び起きるようになり、ある意味で進歩したと言えよう。

 

朝食の後の行動は大きく六つ。

二度寝する。図書館で本を読む。フランと遊ぶ。ゴブリン達と雑談する。

美鈴と軽く組み手をする。人里でぶらつく。

以上をランダムに過ごす日々を送っていた。

 

そんな銀時だが今朝は違う。

いつもなら朝食時間ギリギリまで寝ているが、

今日は咲夜の次くらいに食堂に来ている。

 

これは何の前触れだと、紅い悪魔レミリア・スカーレットが最初に思った事だ。

何日か過ごしてきてわかったことは、この男は即ちダメ人間の類であると言うことだ。

そんな奴が咲夜の次に起きている事自体が異変である。

しかし銀時はそんな事を思われてもお構いなしに朝食を食べる。

 

「ごっそさん。俺用事あるから出かけるわ。夕方に帰るな」

「ちょっと銀時、こんな朝早くから出かけるの?」

 

食後のデザートを平らげて銀時は席を立つ。

銀時の生活パターンなら、出かけるのはせめて昼過ぎくらいだ。

朝のうちに出かけることに不審を覚えレミリアは呼び止めた。

 

「万事屋の開店準備やらで早くいかんと行けないからな」

「あっ、お店の場所出来たのね。完成したら見に行くわ」

 

紅茶を入れながら咲夜が言う。

それは楽しみだと笑いながら。

 

「えっ?何それ?私何も聞いてないわよ」

 

なぜ咲夜が知っていて自分は知らないのか。

レミリアは軽く焦り始めた。

 

「私も知ってるわよ」

「私も~」

「私もです」

「私もです。多分知らないのはお嬢様くらいですね」

 

パチュリー、フラン、美鈴、小悪魔の順で万事屋は知っていると答えた。

 

「何それ!?私ここの主よ!?何で私だけハブられてんのよ咲夜!?」

「すみません。もうご存知かと思いまして」 

「いじめの初期か!…てか、万事屋やりたいなら別に館でも構わないわよ?」

「いやだって、ここめったに人来ないじゃん。やるんなら人多いとこじゃないと」

「ぐぬぅ…」

 

正論を言われては黙るしかない。

だがレミリアはなお食い下がる。

 

「そもそも、よく店の都合がついたわね」

「そこはほら、俺の手腕というか。そこんとこは回想に任すわ。はいほわわんわ~ん」

「回想の音はいらんわ腹立つぅぅぅぅぅ!」

 

 

 

 

 

 

俺が守谷神社に行ってから数日後。

慧音先生から都合のいい空き家を紹介された。

大通りから少し外れた一軒家。

幻想郷にやってきた元建築家の外来人が作ったという触れ込みらしい。

幻想郷は外から流れ着いた文化や人材で微々たる発展をしており、外の世界からのやってきた外来人の知識が大いに重宝される。

因みに、この様式が受け着々と改装したいと言う住民が増えてるらしい。

 

俺たちに紹介されたのは初期に建てられた、いわばモデルハウス。

二階建ての1LDK風呂付きという珍しい物件。

長い間使われてなかったからか多少ボロい所もあるけど問題なし。

この程度なら修理も可能だ。

 

慧音先生は、

「後は管理者と家賃交渉を行ってください」

 

と言って帰っていく。

手持ちも少くねぇし、

うまい具合安く済ませてぇな。

 

 

 

「ええと坂田銀時さんね。慧音さんからお話は伺っております」

 

管理者はここら一帯の長屋や一戸建てを取り締まってる、いわゆる不動産屋を営んでる初老の男。

 

「侍だって聞いたけど、道場開いて月謝でも取ったら良かったんじゃない?」

「人に教えんのは苦手なんですよ。前の職と同じが一番気楽ですし」

 

なるほどねと男は言う。

どうでもいいけどこのおっさん、多分ズラ被ってるっぽい。

 

「あの悪魔の館でお世話になってるって言う話ですが、わざわざ家探しなんて奇特なお方ですね~」

「いつまでもヒモやってるわけもいきませんし、自由に使える金が欲しいんすよ。バイクの修理費も稼がにゃならんし、うしおととらとジョジョ全巻買わなきゃならないし」

「後半作者の願望じゃない?」

 

右隣に座っていたアリスが言う。

因みに俺の左には早苗が座って出されたお茶を飲んでいる。

 

「解りました。では家賃はこれぐらいでどうでしょう」

 

パチパチと算盤を弾き、出された金額を見る。

 

「えっ…」

「ちょっとこれ…」

 

二人は驚いてるが、ここの基準がわからない俺には何がなんだか。

 

「何?これ安いの?高いの?」

「……外の基準で言えば30万円くらいですね」

 

早苗が教えてくれた金額に絶句する。いくら何でもボリすぎだろ。

 

「あの家は珍しくてね。これでも安いもんですよ?」

「いくら何でも高すぎんだろ。月30万なんて金持ちじゃねぇし無理に決まってんだろ」

「嫌ならいいんですよ。他の物件探せばいいですし。まぁどこでもこの値段が相場ですが」

 

まぁでも、と両隣に座っていたアリスと早苗に目向けて、

 

「そこのお嬢さん方が夜のお相手してくれるなら多少安くしてあげますよ」

 

この上なく下卑た笑みを浮かべた。

 

「本性晒したわねこの男」

 

男の下卑た顔に冷めた目をするアリスと嫌悪感を露わにする早苗。

要するにこのおっさん、紅魔館に住んでる俺からたかろうという魂胆か。

 

「さぁどうします?素直に家賃払うか、お嬢さん方を身売りするか。断ってもいいですけどこの里で家手に入れるのが難しくなりますがね~。あははははははははははははははははははははははははははは!」

 

──────イラっ。

 

「いい加減ウザくなってきたな。ほれ」

 

ウザく笑ってる隙におっさんの頭頂に乗ってるナイロンを分捕った。

予想道理てっぺんが更地になってた。

 

「ははははは…はっ?あああああああああ!?何やってんのあんたぁぁぁぁぁ!」

 

しかも結構高そうなやつっぽいし。

よほどあこぎな商売してんだねぇ。

 

「ちょっ!返せぇぇぇぇ!私の相棒をぉぉぉぉ!」

 

取り戻そうと手を伸ばすおっさん。

それを遠ざけて回避する。残念だがそう簡単に渡さなぇよ。

 

すると横にいた早苗が俺からズラをひったくりおっさんから距離を置く。

 

「このカツラを返して欲しかったら、大人しく家賃を安くしなさい!」

 

どこから出したのか。

ジッポをズラに近づけ脅し始めた。

このはっちゃけ具合。それでこそ万事屋の一員だ。

アリスは展開についていけてないっぽい。

まだまだ修行が足りないな。

 

「おのれ貴様らぁぁぁぁぁ!そう来るならこっちも考えがあるぞ!貴様らの所行、包み隠さず言いふらし───!?」

 

瞬間───おっさんを拘束するように糸が巻きついた。

糸の先にある人形がたちがおっさんの体を雁字搦めにしている。

 

「あ~これじゃやってることチンピラじゃないの…。何が俺の交渉に任せろよ。交渉(脅迫)じゃない…」

「おおアリス、ナイスフォロ─。お前はやる女だって信じてたぜ。新八とは大違いだな」

「言い触らされたらこっちも商売あがったりだからこうしたの。てか新八て誰?」

 

さてと、と向き直る。

このおっさんには少しお仕置きしてやらないとな。

自分がなにされるか解ってるようでおっさんがびくりと反応する。

もう今更許す気は無いけどな!

 

「よし早苗は猿轡かけろ。アリスは拘束しつつ誰かこないか見張ってろ。俺はこのおっさんの後頭部と側面の毛をむしり取るから」

「これがいわゆる拷問だ!拷問にかけろですね!わかりました!」

「いやなんでそんなノリノリなの!?ねぇ流石にやり過ぎだと思うけど…」

「いいんだよ。古今東西、この手の子悪党には何をしてもいいの。レーベンスボルンの子供達も「いいぞもっとやれ」ってはしゃぎまくってるし、リザさんも大喜びだよ」

「どこにいるのよレーベンスボルンの子供達!?」

 

もういいから早くしないと人くるし、

あまり露骨なDies iraeネタもつまんないから早く終わらそう。

 

「いやっあのっ勘弁してください。もうこの毛だけが最後の希望何ですよ!お願い止めて!家賃安くしますから!止め───ムグゥ!」

 

早苗がおっさんの背後に回り込み猿轡を噛ませる。

よしさっさと済ませるか。

指を鳴らし終えてからおっさんの髪の毛を掴む。

 

「─────────!!」

 

おっさんのくぐもった悲鳴が響いたのは、

アリスが外に出た直後だった。

 

 

 

 

「そんなわけで家賃も大幅に下げて貰ったぜ。因みにおっさんが俺たちのやったこと喋ったら頭が爆発四散する呪いをアリスがかけたし、万事丸くおさまったわけよ。万事屋だけに」

「うまくないしやりすぎでしょあんた!?悪魔の私ですらドン引きだわ!」

 

万事屋となる家を手に入れた経緯を話し終わり、レミリアは大いに引いた。

悪魔と呼ばれる彼女だが、違う意味で悪魔の所行を行った銀時に恐怖を抱く。

因みに咲夜たちも引いている。

だがここでレミリアの中で一つ疑問が浮かぶ。

 

「いやちょっと待って、なんで人形使いや山の巫女が出てきたの?」

「そりゃあいつらも万事屋の一員だからな」

「何それ!?いつから決まったのよ!?」

「だってアリスは俺がスカウトしたし、早苗は自分から手伝いたいって言ってきたし。てか何なの?俺がなにしようじゃねぇか」

「それは……」

 

レミリアは言葉を詰まらせた。

何か言いたい顔をしているが、口にするのを躊躇っている印象を銀時は感じた。

周りの面子も2人のやりとりに口を出さずに見守っている。

 

「お前にゃ感謝してるよ。けどな、俺はお前の部下でも従者でもない、ただの居候だよ。いちいちお前に言う義理も無いわけだし……」

 

ここで銀時は言葉を止める。

レミリアが、泣いているのを見たから。

眼に大粒の涙を浮かべ、顔をくしゃくしゃに歪ませて、肩をわなわなと震わせて。

 

「……もういい……」

 

酷く、震えた声が室内に響いた。

 

「もういいわよ!勝手にどこへいくなり何をするなりすればいいわ!あいつみたいに……勝手に消えちゃえばいいんだぁっ!」

 

堰を切ったようにレミリアが声を荒げる。

そのまま部屋を飛び出した。

 

「お嬢様!」

「ついてこないで!」

 

咲夜の制止を振り切って走り去っていく。

行き先は外ではなく部屋に向かって行ったのでひとまず咲夜は安堵する。

吸血鬼の最大の弱点、日光をが差すこの時間に、

傘もささずに外に出ればレミリアでも無事じゃ済まない。

 

「………………」

 

空気が重い。誰も何も言わない。

ただ皆の目が、銀時に「どうするの?」と言っていた。

銀時は何も言わず気まずそうに頭をかく。

そして気まずい空気のまま、朝食の時間が終了した。

 

 

 

レミリアが引きこもって数時間後。

咲夜が様子を見に行ったときにはレミリアは棺桶の中に。

吸血鬼の安息の寝床に引きこもり出てくる気配はない。

仕方がないので一旦戻る。  

ラウンジにいくと銀時がソファに腰掛けている姿を見つけた。

 

「行かないの?」

「流石に行ける程薄情じゃねえさ。あいつらには、掃除と修理が必要な箇所のチェックするよう連絡したし」

 

言って懐から出したのは赤と黒の二色が混じった宝石。

パチュリーが作ったという遠距離通信端末。

同じ宝石ならどこでも通信が出来るトランシーバーの役割があり、

銀時とアリスと早苗の三人分渡されている。

 

「あなたが冷たい男じゃなくてよかったわ。…紅茶飲む?」

 

あぁと頷くのを確認すると、咲夜は直ぐに紅茶の用意を出す。

相も変わらず銀時は紅茶に砂糖を山ほど入れ、

紅茶を湿らせた砂糖の塊状態と化していた。

 

「レミリアってさ、なんか俺に良くしすぎんてんだよな」

「…どうしてそう思うの?」

 

向かいに座った咲夜はそれを聞いて、

ちょっとよくわからなかったので銀時に問いかける。

 

「いやなんかさ、移動手段欲しいって言ったらバイク買ってくれたり、修理費の肩代わりも、気が変わったって言って結局利子取らなかったし。返済は

何時でもいいってさ。部屋作る時も、俺に合わせて和室っぽくにしてくれたし。あとさ、最初の日のこと覚えてる?」

 

最初の日。

つまり銀時がレミリアに召喚された運命の夜。

 

「私と一緒に寝なさいだとよ。会って間もない男をいきなり部屋に誘うなんて、お前の主はそこまで尻の軽い女なのか?」

 

それはないと咲夜は断言出来る。

少なくとも、自分の主は会って間もない男を易々と閨に誘うことはない。

余程銀時を特別視しているとしか言えない。

 

「あっ、もしかしたらあれが関係してるかも」

「何だよ」

 

心当たりある咲夜に銀時は問う。

 

「いつだったか、お酒の席で聞いたのだけどね。300年くらい前に、お嬢様はある吸血鬼ハンターに敗れた話をしてくれたのよ」

 

つまり、レミリアが200歳の頃の出来事。

若輩ながらも吸血鬼として強大な力を持つ彼女が初めて敗北した物語。

 

 

「そのハンターと銀時は、私が聞いた特徴…いや性格が一致してんのよ」

「つまりあれか?昔倒した奴と似てるから良くしてくれたってか」

「いえ、あれは積年の怨みからというより───」

 

好きな男の気を引こうとしてる女みたいな。

そんな印象があった。

 

「つまり異種恋愛譚ね」

 

扉が開かれ現れたのは、紅魔館の魔女パチュリー・ノーレッジと小悪魔。

私の出番ねと言わんばかりの自信溢れた顔。

即ちドヤ顔を浮かべている。

 

「道具制作や解説キャラとしてこの小説に定着してきた私にお任せなさい」

「ありがたいけど、いつからスタンバってた?」

「咲夜が紅茶入れてるあたりから」

 

さてと、と二人に向き合うパチュリ─。控えてる小悪魔に命じてボードを用意させる。

 

「異種恋愛譚。つまり、人間と人外の恋愛をテーマとした物語よ。雪女、信太の狐、人魚姫。世界中探せばいくらでも見つかるわ。民俗学者の見解によると、独身男性の理想を表したものという見方もあるらしいわ。考える事はどこの国も同じよねぇ」

 

私にも紅茶を、と言いつつ空いてる席に座るパチュリ─。

 

「で、これが重要だけど、どうして好きになるのかってこと。人間と妖怪、本来なら交わる事は有り得ない。妖怪にとって人間は食料よ。そして人間は妖怪を退治する。

この関係を壊してまで何故愛し合うのか。それは助けて貰ったとか差別しないでくれたとか、または自分を倒したり、戯れに人に尽くしたいと思ったか。動機なら幾らでもある。でも一番言えるのは、禁断の愛ほど多くの人の心を撃つものは無いことよ。しかしこれらの物語は9割悲劇に終わる。正体がバレる、周りから迫害されるなどでね。当然よね。本来なら相容れない存在何同士だから」

 

パチュリーは一旦間を置いて紅茶を飲む。

 

「レミィは、自分を倒したハンターに惚れてたのかもね。

大方、いつか復讐してやるって思いつつも、いつの間にかコロッと落ちたのかも。

まぁ人間だし、寿命か事故死で告る前に死んだから引きずってんでしょうね」

 

自分と昔好きだった男を重ねてみてる。銀時にとってあまり嬉しくないことだ。

ソファにもたれかかり上を向く。

 

「で、どうするの?このまま放っておくか、ちゃんと話し合うか。レミィを救えるのはあなたしかいないのよ」

「……」

 

銀時は何も言わない。ただじっと天井を見ている。

やがて、頭をかきながら口を開く。

 

「昔の男と比べられるなんて嫌だけど、俺も言い過ぎたかもしれねぇ。一回腹割って話すか」

 

それを聞いたパチュリーはよしと立ち上がる。

 

「じゃあいまから行くわよ」

「え?今からって…、あいつ寝てんだろ?無理に起こしたら余計に怒って話を聞くどころじゃ…」

「その点抜かりは無いわ。小悪魔。D─03の棚にある道具持ってきて」

「分かりました」

 

小悪魔が出て行くと、銀時は本当に大丈夫なのか?といいたげな顔をする。

しかし、心配無用とパチュリーは胸を叩きながら笑う。

 

「この魔改造のパッチェさんに任せなさい」

 

それを聞いて銀時は呟く。

 

「パチュリーってこんなキャラか?」

「……」

 

咲夜は何も言えなかった。

 

 

 

 

レミリアの自室。

銀時が召喚された場所でもある。

レミリアはまだ寝ているようで、多少の物音でも起きる様子は無い。

吸血鬼は棺桶の中で死んだように眠るという伝承通り、余程の事が無い限り起きる事は無いだろう。

部屋にやってきた銀時と咲夜とパチュリーは、順序よく行えるように打ち合わせを行っていた。

 

「さて、レミィはぐっすり寝てるし、さっさと済ませるわよ」

「だからさ、どうやって話すんだよ。寝てるんだし無理じゃん」

「何も起こす訳じゃ無いわよ」

 

何?と訝しむ銀時をよそに、小悪魔が持ってきた箱を取り出す。

中に入っていたのは、端的に言えばゴーグル。

水中眼鏡によくある小さめの形をした物を取り出した。

 

「これが私が開発した他人の夢の中に入れる魔道具、

その名も、夢と現の狭間で未知の結末を見る(アクタ・エスト・ファーブラ)よ!」

「えらく簡素な造りだけど、ほんとに大丈夫か?」

 

もちろんとパチュリーは親指を立てる。

 

「二つ有るから咲夜も連れて行きなさい。私はここでナビするから」

 

二人は半信半疑でゴーグルをつける。

それを確認すると、

 

「横にあるボタンを押したらスタートよ。健闘を祈るわ」

 

言われてボタンを押す銀時と咲夜。

押した瞬間、心地よい眠気と共に視界が暗転する。

 

「これはあれだろ?ゲームオーバーになったら視界が暗くなるっていう演出。怖ぇなぁあれ。せっかくの苦労が水の泡って感じで」

「いいからさっさと行きましょう…」

 

やがて二人は眠りに落ちた。静寂とした部屋で、パチュリ─は取り敢えず第一段階終了とほくそ笑むのだった。

 

 

 

 

 

 

──────眼を覚ました。

最初に映ったのは天上の月。

雲一つ無い夜空には無量大数の星々が煌めく。

満月───いやあの形は既に満月を越えた月齢だ。

 

「今月の満月はまだ先よね…」

 

十六夜咲夜は吸血鬼の従者。月齢の把握は必須だ。

記憶にある月齢と違うということは、無事にレミリアの夢の世界に入り込めた訳だ。

顔を触ると、夢と現の狭間で未知の結末を見る(アクタ・エスト・ファーブラ)は着けている。

とりあえず帰る手立てはあると安堵した。

横にいる銀髪頭の侍はまだ目覚めていない。

この男は夢の中でも夢を見るつもりなのか。

 

「銀時、起きて」

 

揺さぶっても起きる気配なし。

仕方ないので自分の足と銀時の足を絡めて、

 

「起きろぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

一気に締め上げた。

 

「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

知る人がいれば、それはスプリングトゥホ─ルドという技が決まり、銀時の悲鳴が夜空に響き渡った。

 

 

 

 

「お前さ、起こすときなんでプロレス技?好きなのプロレス技?キン肉マン読んでんの?」

「スカーレット家のメイド長たるもの、この程度出来なくてどうするの?因みに私はケビンマスクが好きよ」

「じゃあなんでテリーマン何だよ…」

 

痛む足を押さえながら起きた銀時と現状把握をする。

周りを見渡した後、銀時が口を開いた。

 

「つか、ここ日本じゃねぇよな?」

「欧州の景色みたいだけどそれだけじゃねぇ」

 

地平線の彼方まで続く大草原。目印といえば後ろの大木くらい。

建物は愚か山すら見えない。   

ここがレミリアの夢の中だから余計なものが無く、

記憶に残るものしかないのだろう。

しばらく遠くを見ていた咲夜が何かに気付いた。

 

「誰か来た?銀時隠れて」

 

銀時の手を引いて大木の後ろに隠れる。

大木から顔を出してやってくる人物を確認した。

 

「こんな夜中に誰かしら?十中八九妖怪だろうけど」

「うわ~なにアレ?すっげー美人」

 

銀時の言うとおり、現れたのは妖艶な美女。

ウェーブのかかった水色の長髪。豊かな肢体。

シンプルながらも美しいドレスを着こなし、

歩く動作すらも気品が感じられる。

 

いやなんであろうか…。

その姿に咲夜はどこか既知感を感じた。

記憶を手繰り寄せる。

そして思い至った。

 

「銀時あれ、お嬢様よ」

「はぁ!?なにそれ!?あいつ実は大人でしたっいうオチ!?」

「いえ、あれは擬態よ。吸血鬼の変身能力ね。前宴会で酔った勢いで見せて貰ったわ」

「う~わ。詐欺じゃんそれ…」

 

ここまでの音量での会話でも気付かれていない。

自分たちは観客と同じ。

舞台に上がらない限り、どれだけ近くに陣取ろうとも意に返さない。

隠れる必要もなかったが、念を入れてここから観戦しようと咲夜は判断した。

 

やがて、レミリアの反対からまた1人誰かがやってくる。

体格から男と判断できる。ボロボロのローブを着込んだ中年の男は、帯剣といくつもの道具を身につけ、明らかに一般人では無いと分かる。

ハンター。

魑魅魍魎を討伐するプロフェッショナル。

 

「まさか、あれがゲオルグ?」

「誰それ?」

「お嬢様を倒したハンターよ。実際見るのは初めてだけど、いい男ね」

 

レミリアが語ってくれたのは己を倒した男の物語。

臆せず己に向かってきて、死闘の末倒した唯一の人間。

その雄々しき勇姿。彼こそ最強のハンターだと語る。

その名がゲオルグ。

 

「遅かったわね。怖じ気づいたのかしら?」

 

鈴のような声を少し低くした声が夜の帳を駆け抜ける。

それを受けて、ゲオルグは申し訳なく笑った。

 

「すまん。急に便意に襲われてな。昼間食い過ぎたのが敗因かもしれねぇ」

「どうでもいいわ!…あなたの方から決闘を申し込んで置いて、約束の時間に女より遅れてくるなんてマナーがなってないわよ」

 

両者の距離は10メートル。レミリアなら一瞬で詰め寄り、

男の首をザクロのように潰す事も可能だ。

勝負は一瞬で決まる。そうしないのは、

ひとえに興味本位が強い。自分に決闘を申し込んだ男と話したいという戯れ。

 

「悪かったって。その代わり、キッチリ楽しませるから期待しとけよ?」

 

レミリアはここまでの状況を頭の中で整理する。

吸血鬼が本領を発揮出来るのは大きく二つ。

 

一つは拠点である建物の中。

自分の拠点、紅魔館の中なら地の利もあり罠に誘うなりなんなりとできる。

果たし状を送って来たのはプライドの高い吸血鬼を挑発し誘い出すため。

 

二つ目は月齢。

妖怪と月は密接に関わっている。

満月に近づくほど能力が上昇し、逆に新月に近づくほど下降する。

ピークの満月は過ぎた。

十分に力を奮えない。

以上を考慮して得意の戦法が使えず、

万全の力が発揮出来ない。

 

「浅はかね。館から出てくれば互角とでも言うのかしら?」

「そんなに甘くないけどさ、まぁこっちがやりやすくなったわ」

 

風が吹く。

対峙した両者は構えた。

互いに腰を低く、飛びかかる前の獣のように出方を窺う。

 

 

 

「───シィッ!」

 

先手を切ったのはレミリア。

一足で詰め寄り、ナイフの切れ味を持つ爪が首筋を狙う。

 

「───っと!」

 

ゲオルグが体勢をさらにかがめ斬撃をかわす。

そのまま懐のナイフを抜き、レミリアに斬りつけた。

しかしレミリアはバックステップで回避。

再び距離を開け、再び元の位置に戻る。

 

この一合でレミリアの中が歓喜に震える。

今まで自分を退治しに来た奴らは、どいつもこいつも一撃で終わる。

半ばゴミ掃除と化す撃退は、彼女を満足させることがなかった。

だがこの男は違う。

鍛練、経験、戦術眼。

どれを取っても一流。有象無象とは違う、本物のハンター。

ああ、ならば全力で相手しよう。

それがこの男への敬意。わが力を示す敵。

 

「いくわよぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

突風と形容すべき突撃。

狙うは心臓、穿つは魂。

小細工なしの全力全開。

 

「この後ろだったかな……」

 

ゲオルグは避ける素振りを見せない。

避けるつもりなど無いのか?

突き出された腕は槍のごとく伸びる。

穂先の爪が男の胸元を貫く────!

 

「え?」

 

一瞬何が起こったか理解出来ない。

ゲオルグに向かっていた筈が、何故空を見上げているのか。

単純な話。男が自分に向かって来た腕を半身で避け、

勢いを殺さずにレミリアを投げ飛ばした。

 

"こいつっ、これが狙いかっ!"

 

自分の失態に歯噛みする。

まんまと誘い込まれ、挙げ句乗ってしまった。

だが甘い。地面に叩きつけた程度では、吸血鬼を殺すことは出来ない。

直ぐに体勢を立て直し、息の根を止める───!

だが、その目論見は容易く崩れた。

 

バッシャァァァァァン!!

 

「はっ………ああ…?」

 

叩きつけられた先は地面ではなく水溜まり。

ちょうど子供が水遊び出来るくらいの深さと広さの穴があった。

落ち葉やロープらしき物が合ったので上手く隠してたのだろうか。

 

"流水!?いや、これはただの水溜まりか?"

 

穢れを祓う概念がある流水は吸血鬼にとって鬼門だ。

しかし、あくまで流れる水なので、ただの水溜まりでは効果が無い。

 

「愚かね!ただの水では私を倒せないわっ───!?」

 

立ち上がり、再び臨戦態勢をとろうとしたが、思うように力が入らず穴の中で膝をつく。

そこで気付く。この穴に溜まっているのは、ただの水ではないことを。  

 

「まさか、聖水!?いやぁ!」

 

魔を祓う聖水。

それが穴の中に大量に溜まっていた。

 

「いや~、引っかかった引っかかった。借金覚悟で大量の聖水買い込んで正解だったぜ。昼のうちに穴掘ってよかったな。ここまで上手くいくと笑えてくるなアハハハハハハハハハハハハハ!」

「貴様…!あっだめ…変身が保てない…!」

 

瞬間、レミリアの姿が変わる。

そこにいたのは、ブカブカのドレスを着た幼い少女。

それを見たゲオルグはふむと顎に手を当てる。

 

「それがお前の本当の姿か?やっぱりガキだったか…。成長遅いタイプかねぇ。俺はガキは殺さない主義だから」

 

ゲオルグは落胆したように頭をかく。

 

「おかしいと思ったんだよねぇ。大人一人分の血も吸えずこぼしたり、子供騙しの脅かしやったりと、成熟した吸血鬼ならそんなことしないからカマかけたらビンゴだったな。ガチでやるなら館に忍び込んで寝込み襲ってたんだぜ。俺の英断に感謝しろよな」

「キサマ…!キサマキサマキサマキサマキサマキサマァァァァァァァァァァァァァァ!」

 

動けないながらも威嚇を続けるレミリア。

許さない。必ず殺すとその眼が告げていた。

 

「まぁ殺さないけど、お仕置きはしねぇとな」  

「へ?」

 

ヒョイと、猫を掴むように持ち上げられたレミリアは、

ゲオルグの膝上に乗せられる。

 

「ちょっと!?何するの!?」

「ハンター何人も殺しただろうけど、この商売やるなら死ぬ事前提だからそれは咎めねぇ。でも近隣の人たちに迷惑かけた分の罰を受けてもらいま~す」

 

血が引くようにレミリアの顔が青くなる。

なんとか抜け出そうと暴れるが、弱体化した彼女はただの子供に等しいのであっさり組み伏せられた。

そしてドレスの裾を上げられ、小さな臀部が露わになる。

 

「下着履いてないのか、マニアックだなぁ。にしても、あの大人形態は俺の好みド真ん中だったぜ。あ~あ勿体無いなぁ」

「ぐぅ……!」

 

すでに泣きそうなほどの羞恥と屈辱を味わい、

レミリアのプライドはズタズタにされた。

それでも最後の意地が彼女の心を支えていた。

 

「ほらいくぞ~。気をしっかり保っていけよ~」

 

ゲオルグの巌のように大きな手のひらが振り上げられる。

 

「ひっ!?やだ!いやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 

 

「……………………」

 

なんだこれ…。

 

咲夜は絶句するしかなかった。

目の前にはゲオルグの大きな手のひらで尻を打たれて、

泣き叫びながら必死に許しを乞う主の姿。

すでに殺伐とした空気は無い。

シリアスからコメディに鞍替えしたような展開。

咲夜がレミリアから聞いた、神話もかくやという展開では断じて無い。

 

「ああ思い出補正か…。これはストレートに話したくないわよね…」

 

記憶を都合良く改竄して脚色する。

よくある手法だが、事実を知った時の落胆もまた大きい。

 

丹念に叩かれて陶器のようにまっさらな臀部が見る影もなく真っ赤に染まる。

打たれる音と共にレミリアの泣きじゃくった声が夜の帳に響き渡る。

 

「ほ~ら半分過ぎたぞ~。後少しだ頑張れよ」

「ヒィっ!ヒグッ!やめて…!もう許してよ…!」

「悪い事したら怒られるのは道理だろう。それとも回数増やして欲しいのか?」

「やだぁぁぁぁぁ!ごめんなさいぃぃぃぃぃぃぃぃ!」

 

 

 

 

 

「うわどうしようあれ…。助けるべきだろうけど、今介入したらお嬢様怒るだろうなぁ…。どうする銀時。……銀時?」

 

横にいた筈の男がいない。

どこにいったと周りを見渡すと既に向かっている所だった。

 

「ちょっと銀時!?」

 

咲夜の制止も聞かず銀時は進む。

やがて、男の近くにやってきた銀時は口を開いた。

 

「おいオッサン。その辺にしてくんねぇか?確かにそいつはくそ生意気だが、もう懲りただろう」

 

するとゲオルグは叩くのを止めて銀時を見る。

 

「誰だ?こいつの眷属……じゃなさそうだな。こんなとこでなにしてんだ?」

 

そっとレミリアを地面に下ろして立ち上がる。

並ぶと身長は銀時と同じぐらいか。

互いに顔を近づけてのガンを飛ばしあう。

 

「どうでもいいだろ。早く寄越せよ。こっちはそいつを連れて帰るんだから」

「ふざけんな。こちとら今からこいつの家にお邪魔してお宝を貰う事で手を打つ算段があんだよ。部外者は帰れ。なんだその死んだ魚の目は?今まで会ってきたやつの誰よりも死んでんぞ」

「テメーに言われたくねぇ無精髭生やしまくってよ。なにそれかっこいいの?ちょい悪オヤジ意識してんの?」

「めんどくさいから剃ってないだけです~。これ終わったら剃るつもりです~。テメーもなにその頭?鳥の巣か?ねぇ鳥の巣なのか?カッコウでも飼ってんの?」

「俺の頭には鳳凰が住んでます~。でもブクブク太る前に追い出しました~」

 

罵詈雑言はまだ続く。

互いに嫌な所を突きまくり、ドンドンと空気が悪くなっていく。

 

「あの二人とも…」

「こいよこらぁぁぁぁぁ!拳で勝負じゃぁぁぁぁぁ!」

「上等だよ!一撃で幕引いてやらぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

咲夜の声を引き金に殴り合いが始まった。

 

「このバカどもは…」

 

頭を押さえるがこれはチャンスと思い、リアルファイトを繰り広げるバカ二人を無視してレミリアの下へ向かう。

 

「ひぃ……ぐす……」

 

レミリアは地面にうつ伏せになりながら泣きじゃくっていた。

主の下に駆け寄った咲夜はさっとレミリアを抱え起こす。

 

「お嬢様大丈夫ですか?あ~あお尻こんなに真っ赤になっちゃって…。綺麗な服も泥まみれね…」

 

抱え起こしたレミリアを咲夜は子をあやす母親のように抱きしめる。

着崩れた服を直す最中にレミリアが咲夜の顔を見て、ギョッとした顔をする。

 

「…さくや?…アレ!?なんでここにいるの!?」

「パチュリー様のマジックアイテムの力でお嬢様の夢の中に入りました」

「なにそれこわい!便利過ぎんでしょあいつのアイテム!」

「銀時も一緒に来てますよ」

「……銀時が?」

 

銀時の名を聞いてレミリアの顔が一気に曇る。

そしてそのまま顔を伏せ始めた。

 

「言い過ぎたから謝りたいとここまで来てくれたのですよ」

「余計な事を…。で?あいつはどこにいるのよ?」

「ゲオルグと元気に殴り合ってます」

「死ねおらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「お前が死ねぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

「なにしてんのよあいつらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

咲夜が指差す方を見ると、ヤンキ─マンガのように痣を作りながら殴り合いに興じる男が二人。

それを見たレミリアはシャウトと同時に咲夜から降りる。

 

「なにしてんのよあんたち!?私の夢の中で暴れないでよ!」

『やかましい!すっこんでろボケっ!!』

「あっ…すいません…」

 

止めようとしたが二人の剣幕に押され、とりあえず謝るしかなかった。

 

その時、世界が歪み始めた。

景色、空間自体が朧気になり始め世界そのものが消えかかる。

咲夜は何事かと訝しんでいると、頭の中に聞き覚えのある声が聞こえてくる。

 

(……咲夜!聞こえる!?応答して!)

「パチュリー様?」

 

外にいる筈のパチュリ─からの通信。

ナビをすると言っていたが全然絡んで来ないのですっかり忘れていた。

 

(よかった通じたわ!レミィが覚醒状態に入ったぽいの!早く出ないと、精神がレミィの中に閉じ込められるわ!)

「そうなったらお嬢様はどうなりますか?」

(恐らく、多重人格者になるかも)

「あら、それなら探偵になるしかないですね」

「言ってる場合か!早く帰ってよ!」

 

せかすレミリアを宥め、咲夜は未だ決着がつかない銀時達の間に割って入り、両者の喉元にナイフを突きつけ無理やり止める。

 

「銀時帰るわよ。早く出ないと、お嬢様が探偵を始めなきゃならないわ」

「え?もう終わり?しゃぁねえが決着は次回に持ち越しだ。次は潰す!」

「上等だよ。次こそワンパンで仕留めてやるからな!」

「いや多分次ないから……」

 

憎まれ口を叩きながらも銀時は殴り合いを中断する。

視界の端に、顔を伏せたままのレミリアが見えた。

 

「レミリア…」

「話は帰ってからよ」

 

銀時は何か言おうとしたが咲夜に止められる。

 

(もう一度ボタンを押せばOKよ)

 

パチュリーからの指示通りにボタンを押すと、

行きと同じ様に眠気が包み込み、二人はレミリアの夢から脱出した。

何か言おうとしているレミリアの姿が視界を掠めながら。

 

 

 

目を覚ますと無事にレミリアの自室にいた。

ちょうど銀時も目を覚まし、パチュリーもお帰りと言う。

 

「よかった。無事に戻れたようね」

「あ~くそ。あいつ腹立つわ~。あんなのと似てるってだけでも屈辱だよ」

「ふむ。覚醒状態にならないと通話が出来ないのね。今後の課題にしないと」

「いやあんたら私に言うことあるでしょう!」

 

バンっと音がした方を向く。

ベッドの上の棺桶からレミリアが飛び起きながら蓋を開け、目のつり上がった顔を出した。

 

「あっ、お嬢様おはようございます」

「おはようございますじゃないわよ!人の夢に入って好き勝手やって────」

 

怒鳴ろうとしたが、ふと何かを思い出したような顔をして、恐る恐る咲夜にあることを聞いてきた。

 

「ねぇ…、もしかして最初から見てたとか?」

「ええ、聞いてた話と違って大変おもしろかったですよ」

「なになに?映像も見れなかったし、何があったか教えて」

「わぁぁぁぁぁぁ!や~め~て~よ~!」

「オイ、お前もっかい寝てくんねぇ?次こそあいつしとめるから」

「あんたはどんだけあいつが嫌いなのよ!?」

 

一通りツッコむと、レミリアは呼吸を正して真面目な顔をする。

 

「それでなに?謝りに来たって?」

「あぁそうだった。そのために来たんだよな」

 

銀時は頭を掻きながら本題を思い出しレミリアと向き合う。

気恥ずかしいのか若干目を逸らしながら口を開いた。

 

「なんつうか、悪かったよ。居候の身で勝手に決めたりして」

「……」

「こんなんで許されないのは分かってるし、何かしら償うからさ」

 

しばしの無言。

やがてレミリアの口が開いた。

 

「じゃあ、私の話を聞いてくれる?」

 

そしてベッドに腰掛けたレミリアは沈んだ目をしながら話を始めた。

 

「ゲオルグ…あいつは、私の初恋の相手なのよ」

 

 

 

 

あの日の屈辱と仕打ちを受けて私が最初に思ったのは復讐だった。

夜毎にあいつの所に表れては勝負したわ。

けどあっさり退けたり逃げられたり。

向こうは命を狙われているのにまるで子供と遊ぶように相手してくる。

それでムキになっちゃって構わず襲っていく。

あいつは飄々とした態度で相手する。

ある日、なんで私を殺さないって聞いたの。

そしたらあいつは言ったわ。

 

「お前がガキだから」

 

それでキレかけたけどあいつは続けて言ったの。

 

「勘違いすんなよ。お前はまだ伸びる。どんどん強くなるだろうな。普通なら今の内に摘み取れって言うけど、俺はお前がどれほどになるか見てみたくてね」

 

それを聞いて呆れたわよ。あなたは人間と妖怪どっちの味方よって。

 

「そりゃ人間さ。けどさぁ…あいつらも生きるためにやってるし、何か事情もあるさ。もういっそのこと、人間と妖怪が共存出来る世界ないかなぁ。あっ、それじゃ俺失業じゃん……」

 

人間と妖怪の共存?それは無理よ。

襲い襲われ、退治して退治されの繰り返し。

分かり合える事なんて出来ない。

けどあいつはそれを願うと共に職が無くなると悩む。

それがおかしくて笑っちゃった。

今思えば、好きになったのはこの時かも知れない。

 

あいつに会うのが楽しみになって、

もう殺す気も無くなった。けど告白はしなかった。

人と妖怪の障害もあったし、何よりあれ…恥ずかしい…。

あいつにさり気なく好きな人はいないか聞いたの。

 

「今はいないな。こんな仕事やってるし、女作ってる暇ねぇわ」

 

それ聞いて安心して、なら私はどうだって聞いたら、

 

「アウトだな。俺ガキは範疇外。あのエロいねえちゃん風なら大歓迎だわ」

 

とりあえず一発殴るけど、難なくかわされそのまま鬼ごっこ。

そんな日々を送ったわ。

 

 

転機が訪れたのは唐突だった。

巷を騒がす怪物達の討伐を依頼されたあいつは直ぐに出かけたから、

私も興味本位でついてったわ。

子供を攫ったらしくて迂闊に手は出せないから、

まずは人質の解放してから殲滅に移る作戦で行くつもりだった。

無事に解放して、後は殲滅だけだった。

誤算があったとするなら、

人質が数人別の所にいたこと。

調理する直前だったらしく、奥の方から連れてきたのよ。

 

「このガキを助けたかったら大人しぶ──────!?」

 

繰り出したナイフが見事に怪物の眉間に刺さった。

お決まりのセリフを言い切る前に瞬殺された怪物も哀れだったわ。

後は一方的な攻勢。手堅く終わる筈だった。

新たな誤算が生じたのよ。

少数になった奴らは、せめてもの道連れに逃げ遅れた子供を殺そうとしたのよ。

あいつは、子供を庇って致命傷を負った。

剣にガタが来たらしくて、防いだら折られてそのまま……。

激昂した私は一瞬で残りの奴らを殺してあいつの下へ駆け寄った。

なんでこんな無茶をしたのよと問い詰めたら、

 

「俺の命でガキが助かるなら安いもんだよ…」

 

──────解らなかった。

こいつは自分より他人を優先した。

自分の方がなによりも大切な筈なのに。

 

「そりゃ…、世の中色々いるさ。他人を食い物にする奴。自分より他人を優先する奴。お前さんの言うとおり、自分より他人を救う奴は、どこか壊れてるかもしれない。なら俺も壊れてたんだろう。…ガキの頃さ、住んでた村が魍魎に滅ぼされたんだ。親兄弟、友達も隣人もみんな殺された。そして俺だけ生き残った。この命は俺のもんじゃない。同じ様な事が起こらないようにするためにあるんだって誓ったんだ」

 

ゲオルグの体の力が抜けていく。

 

「色々見て回って、色んな奴と戦って、そして気づいた……。奴らも俺たちと同じ様に生きてるんだって。善悪や価値観は違うけど、通じる所はあるんだってな。なら俺が倒すのは邪なモノ、滅ぼして然るべき邪悪。生きるためにじゃない。愉悦、娯楽の為に人を襲う奴らを……」

 

声が小さくなり、体が冷たくなる。

死ぬ。こいつはもうすぐ死ぬ。

いやだいやだと涙を流して、せめて自分の思いを告げようとしたら、

口に、手を当てられた。

 

「レミリア…お前と出会えた日々は楽しかったぜ…。娘ができた気分だ…。お前の気持ちも分かってたんだ……。けど、人はいずれ死ぬ塵芥。お前と一生いることは出来ない……。それは……俺以上のやつに……出会えるまで…取っとけ」

 

そうしてゲオルグは天に浮かぶ月を見る。

あいつはここまでの道程を思い返して笑っていた。

 

「色々あったけど……まぁ悪くない人生……だった…」

 

そうしてゲオルグは死んだ。

私はあいつの体を抱いて泣きじゃくった。

今なら、吸血鬼として蘇らせる事も出来た。

けどそれは出来なかった。

人間として生きて、人間として死んだこの男に対する冒涜。

ただあいつを抱きしめて泣くくらいしか出来なかった。

 

 

その後は墓を建てて、紅魔館に戻って死んだように眠りについた。

一年は起きては血を飲んで寝る日々。

ある程度整理がついたから、これからなにするか考えた。

とりあえず吸血鬼としての活動と人を襲う怪異の殲滅。

 

───そんな300年。

今の面子が揃って来た所で時代も科学の時代に入った。

そこである噂を聞いたのよ。

忘れ去られし物達が集う世界。

最も人と妖怪が隣り合う幻想郷の存在を。

私は直ぐに移住を決意したわ。

 

あいつが求めてた世界。

そこを手に入れる為に躍起になってた。

そうして起こったのがスペルカードルールが生まれるきっかけとなった"吸血鬼異変"

その後に起こした、スペルカードルールが初めて使用された"紅霧異変”

そうして私は敗れた。完膚なきまでに。

そこでようやく悟ったの。

 

この世界はわざわざ殺し合う必要は無い。

人間も妖怪も楽しくやれる世界を、無理やり支配するのは間違ってたって気づいたのよ。

そんなことしたら、またあいつにお尻叩かれそうだもん。

日々楽しくその日暮らし。

至高の世界は此処にありってね。

 

 

 

語り終えたレミリアは一度だけ深呼吸をする。

銀時は何も言わない。

咲夜とパチュリーは目頭を押さえて顔を逸らす。 

 

「銀時。あなたをみたとき、何でかあいつの姿がチラついたわ。姿も声も全然違うのに、どこかあいつに似てた。贔屓してたわけじゃ無いけど、多分無意識にあいつと重ねてたみたい」

 

棺桶の中から何かを取り出す。

それは剣。刀身が折れた西洋の剣。

 

「あいつの形見よ。寝るときの御守りみたいなものね。道具が動き出す異変の時、暴れてしょうがなかったわ」

 

咲夜も見たことがある。

なぜ一緒に寝るのか疑問だったから、

今回の話で合点がいった。

 

「道具は使えば使うほど強力な概念となるの。これはもう戦う力は無いけど、守るという概念があるわ。これを抱いてるとよく眠れるの」

 

愛おしく柄を撫でる。今はいない持ち主の事を想いながら。

 

「長い話に付き合ってくれてありがとう。お陰で楽になったわ」

 

憑き物が落ちたかのようにレミリアは笑う。

銀時は気難しそうに頭を掻いた。

 

「まぁあれだ。俺はヤロウの事はきにくわねぇが、あいつも幸せだったんじゃねぇか?最期を看取ってくれるやつがいてよ。本当の死ってのは、忘れられる事だと思うから、あいつの事を覚えてやれば十分な供養だよ」

 

それを聞いたレミリアは笑う。

 

「ありがとう。…ああ。まだもう一つ埋め合わせが有ったわ。銀時、そこに座って」

 

言われた通り座る。レミリアがベッドから降りて近づく。

ちょうどレミリアと同じ位の高さ。

 

「おい?」

「じっとしてて……」

 

顔が近づく。このままいけば…。

それに気づいた銀時は焦り始めた。

 

「いやちょっと待ててって!そりゃ何でもするって言ったけどこん───ムグゥ!」

「ん……」 

 

喚く銀時の顔を抑えつけて、

レミリアは自分の柔らかい唇を銀時の口に重ねた。

咲夜とパチュリ─は唖然としたが、

直ぐに空気を読んで顔を逸らした。

やがて唇を離したレミリアは真剣な眼で言う。

 

「これは誓いの証よ。あなたは勝手をする事は許さない。その代わり、私に出来ることは何でもする。悪魔の契約は絶対だから」

 

銀時は何も言わない。呆然とした顔で固まっていた。

不思議に思ったレミリアがぺちぺちと頭を叩く。

 

「あれ?フリーズした?ちょっと銀時─────」

「なにしてんだこのガキァァァァァァ!!」

「あぐん!?」

 

復活した銀時がやったことはとりあえず殴る。

レミリアは頭を抑えてうずくまった。

 

「何が誓いの証!?う~わ最悪だよこんなガキに唇奪われました~!」

「なによそれ!?私の初めてよ!?もっと喜びなさいよ!?」

「何が初めてだよ!重い!重すぎて足腰ガクガクだよ!」

「なんだとぉぉぉぉぉぉ!?重く無いチューなんて何の価値が有るのよ!」

 

 

 

二人の口喧嘩の脇を通り、咲夜とパチュリーは部屋を出た。

廊下には、小悪魔とフラン、美鈴の姿があった。

 

「またこんなとこでサボって…」

「すみません。小悪魔さんが面白くなってるから来てって言うもんですから…」

 

何かあればゴブリン達が騒ぐからの安心だろうと、

美鈴も一部始終を覗きに来ていた。

 

「仲直りしたみたいだね。ゲオルグの話は聞いたことがあるわ。お姉様を倒したって言うからあってみたかったけど、あいつは私の獲物だって凄い顔してた」

 

フランはやれやれと首を振る。

 

「女の独占欲ね。怖い怖い。じゃあ私は図書館に戻って今回の実験を纏めるわ。小悪魔おいで」 

 

小悪魔を連れてパチュリーは図書館に向かう。

咲夜はもう一度部屋を覗き、まだ喧嘩してる二人を見てフランと美鈴に向き合う。

 

「はいはい二人共早く行きなさい。美鈴は門番。フラン様はお勉強。私は夕食の支度よ」

 

言われて二人は立ち去った。

瀟洒な従者は夕食は豪華にいこうと考えながら館の奥に消えて行くのだった。

 

 

 




教えて銀八先生のコーナーとなんかぐだぐだ喋る雑談会
銀八「ペンネームピヨ麿さんからの質問。「作者の好きな東方と銀魂キャラは何ですか?」はいそれぞれトップ5でお答えします。
東方:霊夢、アリス、早苗、咲夜、妖夢。
銀魂:銀時、土方、新八、桂、近藤。
以上です。質問ありがとうございました。ああそうだアリス。ピヨ麿さんからお前に追伸があったわ」
アリス「何よ?嫌な予感しかしないけど」
銀八「アイドルデビューしねぇかって来たんだかどうよ?」
アリス「ハッ!?ムリムリ!私そんなんする柄じゃないし!」
銀八「大丈夫だって。小粋な音楽でぱっぱぱらぱっぱらっぱ踊れば直ぐにダブルミリオンいくぜ?」
アリス「それにがもん式アリスゥゥゥゥゥゥゥ!!」
銀八「というわけでピヨ麿さん。三時間耐久でsweet magicを踊ってなさい」






アリス「今回やたら時間かかったわね」
早苗「週一ペースとは何だったのか…うごご」
銀八「17000文字はさすがに詰め込み過ぎたな。分割しても良かったけどもうせっかくだから書けるとこ書こうとしたからこうなった訳だ」
アリス「ちょっと聞きたいんだけど、あれ…レミリアのお仕置きって…」
銀八「そう、作者の趣味」
アリス「ああやっぱり…?」
銀八「やっぱさ、自分の悪いとこ認めない強情な子のお仕置きほど燃えるもんはないよな」
早苗「分かりますね。私も弾幕ごっこで負けを認めない妖精や妖怪相手にすると、こう滾って来るものがあります」
アリス「想像以上に外道だこの子!」
銀八「後一つ、不測の事態が発生したんだ」
アリス「何よ?」
銀八「先日、白神って方からメールが来てな。作者のDies irae好きを見込んで頼まれたのよ」
アリス「え?何を?」
銀八「銀魂とデート・ア・ライブのクロス作品書きたいからそれに使うDies風の詠唱考えて欲しいって頼まれた」
早苗「まじでか!」
銀八「だから作者は、史実やら元ネタやら読み漁って能力と詠唱考えてる。それと並行してるから遅れたのも原因の一つ。あいつは頼まれたら律儀にやるからな~」
アリス「大丈夫なの?」
銀八「なんとかな。二、三話先のプロットは出来てるし。これ以上やるとさらにグダグダになりそうだ。今日は解散!」
早苗「はーい」
アリス「ところでレミリアは?今日の主役だったのに来なかったわね」
銀八「恥ずかしい過去見られたって不貞寝してる」
アリス「またか…」
銀八「では皆さん。ご意見ご感想お待ちしてます。さようなら~」


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