対魔忍にはなりたくない!!!(必死)   作:胡椒こしょこしょ

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朝、家に来るのやめてくれへんか?

俺はあの日のことを忘れない。

俺のことを見て、爺ちゃんが残した言葉。

 

「この子は武器に愛されちょる!!百年に一度の逸材じゃァ!!!!!」

 

死に間際にジジイが俺を見て叫んだ言葉。

この言葉が今の俺の首を絞めていた。

昔は初めて認められた気がして嬉しかったが、今では迷惑この上ない。

あの時のジジイを思い出すとこう思うのだ。

 

ファッキン、クソジジイ。

お盆になっても戻ってこなくていいぞってな。

 

 

 

 

 

 

朝。

窓の外で小鳥が囀り、朝の陽ざしが窓から入ってきて目を刺激する。

まだ起きたくねぇ.....。

 

布団を被ったところで下の階から母親の声が聞こえる。

 

「さだくーん!ゆきかぜちゃん来てるよー!はやく降りてらっしゃい!!」

 

「ヴぅぅぅぅうううう、嫌ぁァァァ!」

 

余りの怠さにベッドからバイブの稼働音のような声を上げながらも叫びをあげる。

未だかつてここまでぐっすり気持ちよく寝れたことがあっただろうか?

いや、ない。

そう思っていると、階段を上る音がして、ドアが叩かれる。

母ちゃんだろうか。

うっせぇなぁ....。

 

ベッドの頭を埋める。

すると外から鈴を転がしたような若い女の声が響く。

 

「ねぇ、毎回毎回いい加減にしてよね。早く学校行くよ。」

 

この声....ゆきかぜか。

相も変わらずみんな勤勉に学校に行ってご苦労さんですねぇ。

態々対魔忍なんぞになる為に貴重な朝の時間を浪費するなんておかしいと思わないのかな?

俺は対魔忍なんかに興味ねーんだよ!二度とくんじゃねーよ!

 

「えー、現在刃渡貞一君は留守でございます。ぴーっという音声と共に要件を告げてとっとと去ってください。ピー。」

 

「いや、アンタ居るでしょうが。しょうもないことしてんじゃないわよ。」

 

扉の先でゆきかぜが呆れた声を出す。

まだ分かんねぇのかよ。

純粋に行きたくないという事がよぉ!

 

「プー、ピポパポパピピポピポ...ピーピーピーピーヒョロロロ....ピーブピブーピーガーーーーー」

 

「ダイアルアップ音とか分かるわけないでしょ。」

 

「わかってんじゃねぇかよ。」

 

ゆきかぜの返答を聞いてベッドから起き上がる。

まさか奴がダイアルアップ音声を知っているとは.....。

中々見どころがあんじゃねぇか。

 

するとゆきかぜが呆れに怒りを滲ませた声を出す。

 

「あのさぁ....毎度のことアンタを起こしに行かされる私の気持ちにもなってくれない?てか待たされてる達郎達の気持ちになりなさいよ。なんで早く家を出てるのに、アンタのせいで遅刻寸前のラインを攻めないといけないのよ。」

 

なんだこの女。

そんなに嫌なら俺を放って学校に行けばいいのに....。

当たり屋かな?

そう思って時計を見ると、奴らがいつも来る時間から一時間も早かった。

 

「おい、いつもより一時間も早いぞ。こんな早い時間に家に来るなんて非常識だとは思わないのか?」

 

「だからぁ!いつもアンタのせいで遅刻寸前だから早く来てやったのよ!!!さっさと出なさいよ!!出ないなら力尽くで....」

 

そんなのお前らの都合なんだよなぁ....。

てかコイツ今力尽くって言った?

ハッ、バカが代.....

 

「ハッ、やれるもんならやってみろよ。俺の両親が多額の修理費を払うことになるがな!!!」

 

「っチィ....この馬鹿のせいで迷惑かけるなんて見ていられない....。てかお父さんお母さんのこと口に出すならそれこそ学校に行きなさいよ!毎朝私に申し訳なさそうな顔してるのよ!?」

 

「それが子供を持つってことだな。まさかこんなドラ息子が生まれるなんて思わなかったんだろう。まっ、お気の毒ってことで....おやすみ~!テメェはそこで俺の寝息を指を咥えて見てるんだな!!」

 

鍵はしっかり閉まっている。

アイツが実力行使しない限り入ることはない。

そして実力行使をした場合、奴の忍術の都合上家自体に被害が出ることは請負だ。

完璧だな。

早く来ようがお前が俺の安眠を妨げることなど出来やしないのだよ!!!

 

そう思い、ベッドを再度被った瞬間、自分の部屋の中からこれまた女の声が聞こえてきた。

 

「...ハァ、母親が聞いたら泣きそうな言葉だな。」

 

ベッドを自分から剥ぐと声の主とがっつり目が合う。

五車学園の制服に身を包んだ胸の大きい長髪の女子。

秋山凜子。

俺の幼馴染の一人だ。

くっせぇ言い方するとセカンド幼馴染だ。

達郎がサードだな。

サードチルドレンみてぇだな。

やっぱこの言い方やめよ。

 

というより....コイツまさか空遁を使ってまで部屋に入ってきたのか.....

あれたしか一時的とはいえ、かなり疲労を伴う術だった気がするだが....

見ると肩で息をしており、疲労が窺える。

 

「わざわざ俺の部屋にそれしてまで入るの労力の無駄じゃない....?」

 

「...それが分かってるなら今度からは自分から出てくれ。ほら、早く部屋から出ろ。」

 

そう言って促してくる凜子。

おいおい、俺を甘く見てもらっちゃ困る。

たかが部屋に入ったくらいで俺がこの部屋から出ると?

俺はただでは転ばないぞ.....。

 

「悪いが、俺は学校に行くつもりはない。どうしても行かせたいなら今すぐ押し入れの右側のコスに袖を通し....」

 

「あっ、凜子先輩有難うございます....。」

 

俺が言葉を発しているのにも関わらず、それをスルーして凜子が鍵を開けてドアを開け放つ。

そしてゆきかぜがずかずかと無神経にも部屋に入ってくる。

ドアの前では達郎が笑っている。

 

「なぁ、それは反則じゃないか?」

 

「そうね。でも出ないアンタが悪いんじゃない。」

 

まるで至極当然のように言ってくるゆきかぜ。

ハァ....これだから目覚めてない奴は。

対魔忍になることを疑問に思っていない奴はこうまでして頭が弱いのか。

哀れだな。

 

「だが、お前らは悪くない。.....気にするな!」

 

「あっ、窓から!!」

 

「やらせるわけないでしょ!!!」

 

窓を開けて出ようとすると、ゆきかぜが俺の背中を掴んで引く。

しかし、女一人に負けるわけにはいかない!

窓枠をがっちり掴み、抵抗するとゆきかぜが舌打ちをする。

 

「コイツ、窓枠をがっちり.....凜子先輩!達郎!手伝って!!」

 

「分かっている!観念するんだ!」

 

「も、もうやめよ?ね?」

 

すると達郎と凜子が窓枠から指を引っぺがそうとする。

ダメだ....このままじゃ朝飯を食わせられる。

そうなればなし崩しに学校に行かされるのは明白。

 

「ヤメルルォ!放せ!馬鹿野郎お前、俺は勝つぞお前!」

 

俺の叫び声が無常に部屋に響く。

しかし、三人の対魔忍に勝てるわけがない。

指を引っぺがされた。

 

 

 

「俺の腕が....俺の王の力がぁぁぁ!!!」

 

「アンタ、どんだけ学校行きたくないのよ.....。」

 

凜子に腕を拘束されながら、通学路を歩かされる俺。

これ縄まで使ってるよ.....厳重だなぁ。

そんな俺を見て、苦笑いを浮かべる達郎。

 

「あはは....貞一は相変わらずだよね......。」

 

相変わらずってなんだ。

達郎を睨み付ける。

 

「そう思うならなぜ家に来た。俺が嫌がると分かっていながら何故だ?」

 

「そりゃ幼馴染を学校に連れていくためだよ....。君の両親からも頼まれたわけだし、なにより心配だしね。」

 

そう言って笑いかける。

 

「ハッ!優等生クンは良い事言うねぇ...まっ、心に響かなきゃ意味がないけどな!」

 

「.....」

 

俺が達郎の言葉を鼻で笑うと背後で凜子がより一層強く腕を締め上げる。

痛ェ....このブラコン女。

 

刻一刻と五車学園が近づいていると思うと気が滅入ってくる。

全身が重くなっていくのだ。

 

「なぁ?ちょっと30秒だけ俺から目を離してみないか?300円上げるから。目を離すだけで300円だぞ!?こんないい話なくないか!?なぁ!!?」

 

「悪いが、断る。きびきび歩けっ。」

 

後ろで凜子が俺をわずかに押した。

これでは連行されている犯罪者だ。

俺は何も悪いことはしていない。

こんな扱いは間違っている。

 

「クソッ、なんで対魔忍になる為に朝早くから時間を拘束されないといけないんだ....。」

 

ボソリとぼやくと、達郎が笑う。

 

「しょうがないよ....対魔忍の家に生まれたわけだし...そもそも君の両親は君に家督を継いで欲しいみたいだし。」

 

そんなことは分かっている。

分かっているからこそ嫌なのだ。

 

「お前らみたいにデカい家でもないのに、なんで家督とかそう言う話になってんだよ。どうせ、死んだジジイの言葉にでも引っ張られて俺に期待でもしてんだろ?重すぎるっつうの。」

 

そう言うと、ゆきかぜが眉根を顰める。

 

「両親の思っていることなんだから、親孝行くらいしなさいよ。...親は、いつまでも居てくれるわけじゃないんだから。」

 

「ゆきかぜ....。」

 

達郎が神妙な顔をする。

母親が失踪し、その4年後に父を亡くした。

今の彼女には屋敷の執事とかしか屋敷にいないのである。

実質両親を失った少女なのだ。

 

...まぁだからといってそんな勝手な感傷を俺に押し付けられてもと思うがな。

だがそう言えば彼女は傷つくし、周りの俺の印象が悪くなる。

なんてたって凜子や達郎もゆきかぜと似た感じで両親を失っているからである。

嘘.....私しかまともに両親存命してないじゃない.....!

ここは首を縦に振るしかないだろう。

 

「分かってんだよ....分かってるけど、嫌なんだよなぁ.....。」

 

「贅沢な奴。」

 

ゆきかぜは俺をジト目で見た。

そんな目で見られようが俺は変らないね。

 

「俺はな、働きたくないから言ってるんじゃない。寧ろ逆だ。働くのは良い。でも対魔忍はお国の犬っころになって魔族と殺し合わないといけないんだろ?なんでそんな危険な職業に就かないといけないんだよ。その為にこんな青春時代を無駄にするなんてばからしいと思わんか?なぁ?」

 

そう言うと、後ろでクスクスと笑う声。

それは凜子だ。

その笑みはまるで子供を見ているかのような微笑ましさが込められていた。

 

「なんだ貞一、怖いのか?ふふ...昔からお前は怖がりだったからなぁ....。」

 

「ちげぇよ!そう思ってんのはアンタだけだろ!!いい加減にしろ!!」

 

俺が声を荒げるも、みんな耳でも詰まってんのか同じような反応をする。

 

「アンタさぁ....達郎を見てみなさいよ。普段好き勝手してる癖に怖いからとか...ププッ!注射を嫌がる子供の駄々っ子と同じじゃないw」

 

「あ、あはは...大丈夫だよ。その、僕よりも度胸があるから、貞一なら成れればきっと立派な対魔忍になれるよ!」

 

ゆきかぜはこちらを馬鹿にした笑いを浮かべ、達郎は俺に対して純粋にそう言ってくる。

コイツら....相変わらず話聞かねぇなぁ....

もういいや、なんか五車学園着いちゃったし.......

周囲の人間と周りの状況の諦めから項垂れる。

 

そう思い、学校の敷地に入ると視線を多く感じる。

...まぁ俺以外の面子は家柄も良ければ見た目も良いし、素行も良い。

憧れの先輩だったり、好きな人と言った対象にはなりやすいよな。

なんなら凜子様ファンクラブなるものがあると聞いた時には爆笑したものだ。

そして....。

 

「.....」

 

俺にも視線が飛ぶが、それは大体そういう連中と幼馴染でありながら、足を引っ張る行為しかしていないことに対しての咎めるような目線。

これもやなんだよなぁ...。

文句があるなら直接言って来いよ。

まっ、僕たち私達が不愉快だから幼馴染やめてくだちゃい~とか言い出したら頭おかしい以外の何者でもないけどな。

そういう意味では恐れるに足りない連中だ。

かぁ~つれぇ、つれぇわぁ~。

正論で武装するの気持ちよすぎ、馬鹿ども冷えてるか~?

 

まっ、こんな感じで俺はあまり好かれてはいない。

なので話しかけてくる奴も....。

 

「あっ、今日はちゃんと来てくれたんだね。刃渡君。」

 

こちらを見ると、一人の少女が駆け寄ってくる。

駆け寄る際にデカい胸がブルンブルンと揺れている。

すれ違う男子生徒がちらっと見ていた。

俺のクラスの委員長、篠原まり。

明るくニコニコしてて男女問わず人気の高い人だ。

....俺の周り人気者多くないか?

オセロ効果でオラもにんきものにしてくれよな~頼むよ~。

 

すると、まりを見て凜子が微笑む。

 

「ちゃんと捕まえておいたから....私達が居ない時に、頼まれてくれるか?」

 

そう言ってずいっと俺を押す。

...身柄引き渡しかな?

それを見て、篠原は縦に頷いた。

 

「はい!私が今度こそ刃渡君に授業を受けさせてみせます!」

 

ある胸を張ってとんでもないことになる篠原。

それにチラッと視線を向ける達郎とそんな達郎を睨み付け、そしてまりの胸も睨みつけるゆきかぜ。

負け犬の姿がそこにあった。

 

「貧乳でも、スリムなんだから一定の需要はあると思うぞ。俺も刀みたいにシャープで無駄がなくて良いと思うぞ?」

 

「はぁ!?誰もそんな話してないし!てか誰が貧乳だ、死ね!」

 

脚に蹴りを入れられる。

づぅ~~~、くっそ痛い。

脛はないだろ、お前....頭ヤバいんじゃねーの?

痛みから片足でピョンピョンしながら痛みを散らしていると篠原が後ろに回って縄を掴んだ。

 

「それじゃあ行こっか、刃渡君!」

 

そう言って俺を押そうとする。

フッ、この刃渡貞一を舐めるなよ?

 

「篠原さん、少しでも縄を押してみな。さながらサッカーのファウルを取る為の演技の如く地面を転がりまわった後に、地面で即座に赤ちゃんになるという醜態を晒すぞ。君は人一人の将来を壊す覚悟はあるのか?」

 

篠原さんを脅す。

だが、彼女は表情を笑顔から変えずに、俺を押した。

 

「そうですねぇ~、じゃあ行きましょうか!」

 

「んぐぁああああ!!!ほぎゃっ!おぎゃぎゃっ!!ばぶぅ~!!!」

 

その瞬間、俺は手を振り払い姿勢を低くして地面に転がる。

そして恥ずかしげもなく赤子の真似をする。

周りの生徒が俺に対して信じられない物を見るような目で見てくる。

しかし、それがどうした。

元々疎まれているのだ。

であれば今更そうなった所で失う物はなにもない。

いや、逆に言えば手を振り払うことに成功した。

戸惑っている間に逃げてしまえば....

 

そう思った瞬間、篠原まりが俺の縄を取る。

 

「うわぁ、可愛い赤ちゃんがこんな所に居ますねぇ~。じゃ、刃渡君行きまちゅよ~。」

 

「待てっ!それはおかしい!少しは戸惑うのが普通だろ!!」

 

なんだコイツ乗ってきたぞ!?

やべぇよ...本当にヤバい子身近に居たよ....

俺のようなファッションでは勝てないヤバさ。

これが篠原まりの実力とでも言うのか...?

 

「正直、いつも刃渡君から逃げられてるからね.....もう、赤ちゃん扱いして授業受けてくれるならそれでもいいかなって.....。」

 

違った、単なる諦めだった。

よくよく考えたら彼女、責任感ある子なんだよなぁ。

委員長として頑張っていることはなんか聞くし。

そんな彼女が先輩から任された同級生を何度も逃がしていたら責任とか感じたりしてもおかしくはないな。

まぁ、俺には俺の都合があるわけだし、隙あらばサボろうとするのだが。

でも、それでも少し可哀想にも感じるな。

俺の事放っておいて、どうぞ?

 

「というわけで、今日は絶対に逃がしませんからね!!」

 

まるでお姫様抱っこするかのように俺を担ぎ上げる。

わぁ....凄い怪力。

がっちり掴まれてる。

これもうダメみたいですね....(諦観)

 

「....分かった。今は授業を受けてやろう。....今はな。」

 

どうせ昼休みとか授業前休みなど逃げる隙はある。

その時に逃げてしまえば良い。

俺の本領発揮はここからだ....。

これは敗北ではない!

だからこそ、ニヒルに笑っておこう。

 

「...女の子に担がれてカッコつけてる奴なんか初めて見たわ.....。」

 

「安心しろ、ゆきかぜ。私もだ。」

 

「あ、あはは.....。」

 

残された三人は各々複雑な表情をしながらも、連れていかれている幼馴染を見送るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「えーと、そこはこの数式を入れればいいんだよ?」

 

「うす.....」

 

時が経って、昼休み。

度々休んだり抜け出していたりした俺は見事に授業で置いていかれた為、篠原さんに隣で教えてもらっていたのだ。

そもそも、5分休みなどの間時間でさえ篠原さんやゆきかぜに見張られているのだ。

そして挙句の果てにはトイレの中にまでついてくる達郎。

なんだこれは...本当に凶悪犯みたいじゃないか、たまげたなぁ。

これが監視社会か....。

 

また授業中抜けようとした所、ある程度は上手く行っていた。

ある程度は.....。

まさか下で風紀委員長に出くわすことになるなんて。

あの人、俺の事問題児って呼んでて当たりも強いからなぁ。

誤魔化せなかった。

氷室めぇ.....。

 

「うん!正解!うん、飲み込みが早いね刃渡君。私に教えてもらっただけでここまで出来るんだから授業に参加したら私、必要なかったかも.....」

 

篠原さんが笑みを浮かべる。

その度に近くに居る男生徒たちの怨嗟の視線がこちらに突き刺さるのだ。

鬱陶しいんだよなぁ。

 

「そんなことはないだろ。篠原さんの教え方が上手いんだよ。じゃ、頭使ったから外の空気でも吸ってきますね~。」

 

俺はそう言って席を立とうとする。

完璧な作戦。

相手を褒めて気持ち良くしといて、しれっと自分は明確に外に行く事を示す。

しかも勉強したから外の空気を吸うと言っているのだ、止めづらい。

なんてたって止めたら頭疲れてる相手の休息を意図的に邪魔したことになるからな。

そして、その隙に俺は学校から抜け出す寸法よ.....。

 

すると、服の裾の端を掴まれる。

見ると、篠原さんが上目遣いでこちらを見ていた。

 

「そ、それなら....私も付いていく!その....ダメ、かな.....?」

 

その瞬間、怨嗟の視線の濃度が増した。

...今、誰か机を叩いたし。

やめろよ、机は学校の物なんだから。

物に当たるなんて最低だぞ。

 

そう思いつつも、俺は口を開く。

 

「駄目だぞ。俺は一人で外の空気を吸いたいと思ったんだ。人の目があると安らげない。」

 

「....それって、学校から出ようとしていない?」

 

...察しが良いな。

勘の良いガキは嫌いだよ?

だが、どうする。

このままついていくのを許してしまえば、逃げることは難しくなる。

だが、自分には信用がないのは知っている。

このまま目の前のこの子を納得させられるか.....?

 

そう思っていると、開いている窓が目に入る。

...ははぁ、なるほど。

別に目の前の女の子を説き伏せる必要はない。

ただシンプルにあの窓から抜け出せばいい。

落ちたとしてもちゃんと着地できれば大丈夫。

大した高さじゃない。

であればここから教室を出て、後は流れで学校の敷地から出て行けば.....!!!

 

「...はぁ。そこまで言うなら教室から外の空気を吸うよ。」

 

そう言うと、目の前の篠原さんに察されないように窓の方へと近づく。

そして窓を開けた。

このまま窓枠に足を掛けて一気に外に身を乗り出せば....。

 

そう思って窓枠に手を乗せた瞬間、チャイムが鳴る。

 

『一年C組、刃渡貞一。至急校長室に来なさい。繰り返します。一年C組刃渡貞一、至急校長室に来なさい。』

 

動きを止める。

自分の名前が呼ばれた。

しかも校長室に来いと言われたのだ。

固まるに決まっている。

 

「校長室....なんで刃渡君が呼ばれたんだろう?」

 

篠原さんは首を傾げている。

しかし周りの男子生徒はコソコソと何か話していた。

周りが思っている事が手に取る様に分かる。

コイツ、なんかやらかして停学、もしくは退学にされるんじゃね?と。

正直出席率の悪さとサボり以外には何もしていない。

だが、それはそれで望むところだ。

寧ろやめさせてくれ!

そうすれば親もあきらめるだろ!!!

 

てか、そもそも呼び出されたところで向かう必要なくね?

怠いし、対魔忍になりたくないのなら伝説の対魔忍であるアサギを始めとした先輩対魔忍の皆々様方に嫌われていた方が都合がいい。

よし!このまま飛び降りちゃおう。

 

そう思って足を窓に掛けた。

 

「ちょっ、なにして....」

 

席を立つ篠原さん。

彼女は隣の席。

だが、俺が外に出る方が早い!!

 

そのまま外に躍り出る。

地面が近づいてくる。

冷静に姿勢を整えると、着地の衝撃を転がって緩和する。

スーパーヒーロ着地と迷ったが、あれは膝を壊しそうだからやめた。

あんなの出来るのはパワードスーツ着てるスタークだけだよ。

お前が、ナンバーワンだ....

 

ま、教室から出るのは成功した。

それにこれならゆきかぜや達郎も追跡できてはいないはずだ。

鞄は教室に起きっぱになるが...どうせ携帯や財布は上着に入ってる。

何も痛くはない。

ふふ...やはり俺を学校に留めるのは無理だったな!

俺の為にファンファーレでも吹いてろや!

 

笑みを浮かべ、フェンスに向かって走り出そうとしたその矢先。

肩を掴まれる。

凄い力で握りしめられて痛みを感じる。

ゆっくりと背後を振り返ると、水色の髪の女子生徒。

ネクタイの色からして三年生だ。

そして、顔見知りでもある。

そんでもって授業の間の5分休みにさっき会った。

また君かぁ、壊れるなぁ.....。

 

その少女は笑顔を浮かべている。

...が、背後から怒気があふれ出て鬼のようになっている。

はえ~羅刹ってこんなに身近に居るんすねぇ。

 

「あら、奇遇ね刃渡君。こんな所で会うなんて。....フェンスに向かって走り出してどうしたのかしら?」

 

「いや、フェンスに無性に飛び付きたくなったんです。そういう異常性癖なんで放っておいてもらっていいですか?」

 

なんとか誤魔化そうとするも、彼女の目はより一層鋭くなる。

無理があったか....。

相対するのは五車学園風紀委員長サマ、氷室花蓮。

幾度となく俺を取り締まった、天敵だ。

俺はこの女に問題児として目を付けられている。

まさか、降りた先にこの女が居るなんて......

 

「...確か貴方、放送で呼び出されていたわね。まさか逃げるつもりなのかしら?」

 

「そ、そんなこと.....ハハハ....」

 

愛想笑いを浮かべるも、目の鋭さは緩まない。

しょうがない.....このような状況は俺の無理で押し通る!!

彼女の存在を無視して一気にフェンスに駆け寄ろうとしたその瞬間、回り込まれる。

そして腕を取られるとそのまま締め上げられた。

 

「あー痛い痛い痛いぃぃぃ!」

 

「...はぁ、私が貴方をみすみす逃がすと思う?私の目が黒い内はそんな学生の風上にも置けないような不埒な真似は許さないわ。ましてや校長先生に呼び出されてるのに無視しようとするだなんて....とにかく来なさい!」

 

「ああああああああもうやだあああああああ!!!!」

 

「うるさいわ、少し黙りなさい!」

 

デスボイスを上げる俺を叱りつける氷室風紀委員長。

このまま成す術もなく、俺は校長室へと連行されていく。

なんて運が悪いんだ...今日は厄日だ。

せっかくのチャンスを不運で不意にした俺は失意のままただ彼女に引っ張られるままに歩き続ける。

その様はドナドナドーナと運ばれていく子牛の如き有様だった。




祖父の遺言を思い出した時、不快感を覚えた自分に驚いたんだよねw
次は校長室からです。
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