対魔忍にはなりたくない!!!(必死)   作:胡椒こしょこしょ

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幼馴染は居るに越したことはない。

「...どうやら揃ったようね。まさか、風紀委員長に連れてこられるとは思わなかったけれど。」

 

校長室。

氷室風紀委員長に連れてこられた先は校長室。

そこには何故かゆきかぜと凜子が居る。

向かいには座っているアサギ先生と、その傍らに付き添っている紫先生とサクラ先生。

俺が入ってきたのを確認すると、アサギ先生は口を開いた。

 

「私が居ると支障があるのなら戻ります。アサギ先生。」

 

氷室は優等生らしく礼儀正しい態度でアサギ先生に言う。

すると、アサギ先生は微笑んだ。

 

「...えぇ。そうしてくれるとありがたいわ。彼を連れて来てくれて有難う。」

 

「い、いえ!私は風紀委員長の職務を全うしただけですから....それでは失礼します。」

 

彼女は一瞬嬉しそうな顔をするも、すぐに神妙な顔をして一礼すると部屋を出る。

まぁ相手は伝説の対魔忍井川アサギ。

彼女のような対魔忍になりたいと心から憧れられる人だけあって、あの風紀委員長からも彼女は尊敬の対象なのだろう。

 

「...どーせ、また逃げようとしたんでしょ?」

 

「...分かってるなら聞くな。」

 

隣でゆきかぜがこちらにジト目を向けながら、小さな声で言ってくる。

...まぁ、風紀委員長に連れられた様子を見れば、幼馴染である彼女には俺がどうしようとしていたか分かるだろう。

心なしか、凜子の目も残念な物を見るかのような目だったし。

 

「...悪いが、私語はそのへんで。これからアサギ様の話すことは公的な事柄でもある。」

 

後ろに控えている紫先生がコソコソと小声で話す俺とゆきかぜに注意する。

周りをちらちらと見回す。

しっかりと落ち着いた内装。

そして目の前には3人の教師。

見回しているとサクラ先生と視線が合う。

すると、彼女は少しにこっとこちらに微笑んでくれた。

まぁこういう親しみやすさって言うのか?

それが彼女の人気の要因なのだろう。

 

そんでもって紫先生とアサギ先生はクール系だ。

彼女達もサクラ先生とは違った方面、なんだろう...お姉さま的な?感じの人気を集めている。

そう考えると、サクラ先生とアサギ先生は姉妹なのに結構対照的な系統だ。

...というより、なんで俺の周りには人気者しか集まらないのか。

類友理論で言えば俺も人気者扱いされていないとおかしいだろ。

 

「今日、貴方たちを呼び出したのは他でもない。...この写真を見て。」

 

そう言って彼女はこちらに写真を差し出す。

凜子はそれを手に取ると、目を見張る。

 

「これは.....!」

 

「ど、どうしたんですか?凜子先輩。」

 

ゆきかぜが凜子の様子を見て、首を傾げる。

すると、凜子は一瞬逡巡するも、アサギ達の方を見るとゆきかぜに写真を渡す。

それを受け取ると、彼女は写真を見る。

そしてただ一言呟いた。

 

「....お母さん、なんで.....?」

 

「あ?いなくなった母ちゃんがどうしたんだ?こっちにも写真回せよ。俺も一応ここに居るんだからさぁ。」

 

そう言って写真をゆきかぜの手から奪い取る。

そして見ると、そこには確かにゆきかぜの母親である水城不知火が写っていた。

居なくなったはずの母親。

もはや生存すら怪しいと見られていた筈の彼女が写りは悪いが、確かに写っている。

てか、この人は仮にも子供一人産んでいるんだろう?

ならよくこのレオタードタイプの対魔忍スーツ着れるな。

本人の趣味なのだろうか。

 

「...これはヨミハラに潜入している対魔忍の一人が撮った物よ。そして....それ以外にもヨミハラに出入りしている政治家の身辺に潜入させた者からもヨミハラで水城不知火が活動しているという情報も入っているわ。」

 

「お母さんが生きて....生きてるってことですか?今も、そのヨミハラに!」

 

ゆきかぜはアサギに詰め寄る。

まぁゆきかぜからしたらこれほど嬉しいことはないだろう。

消息不明になった母親が生きている。

父親が没した今、彼女の身内などいなかったのだから。

 

しかし、アサギの表情はあまり明るくない。

どこか複雑な表情をしている。

まぁ、俺もヨミハラと聞いた時点で少し嫌な予感もしていた。

ヨミハラなんか魔族が幅利かせてて、潜入したが最後大体の対魔忍は音信不通になったりするような魔境だ。

流石にそのくらいはやる気がなくて学校にすら行ってないような俺でも知っている。

そんな場所で母親が発見された?

正直、良い展開とは思えない。

....ま、正直人の親だからどうでもいいんだけどね。

 

「えぇ。その可能性が高いわ。....ただ、仮にそうだったとしても懸念はある。」

 

「懸念....ですか?」

 

ゆきかぜはアサギに聞き返す。

すると紫は返答した。

 

「あぁ。情報によると不知火を娼館アンダーエデンで見たという情報が入っているわ。それも、娼館の主に連れられていたと。」

 

「つまりお母さんは....」

 

アサギは頷く。

 

「えぇ、堕とされている可能性がある。彼女がいなくなって5年。その年月の間、ヨミハラに居たのだと考えれば堕とされていてもおかしくはない。でなければ優秀な対魔忍である彼女がここに戻ってこられないはずがないもの。」

 

そう言うアサギ。

まぁ確かに任務で突然失踪して五年後、その後に娼館でコンパニオン的なことをしている姿を見たとかいう情報が入ったらそういう悪い方面に考えても不思議ではない...というかどう考えてもその方が可能性は高い。

 

「そ、そんな!お母さんが...そんなわけッ!」

 

「ゆきかぜ、落ち着いて.....」

 

凜子が身を乗り出さんほどのゆきかぜを押さえる。

俺は、そんなゆきかぜに対して口を開いた。

 

「いや、どう考えてもアサギ先生の懸念は正しい....っていうかそっちの方が可能性が高いだろ。」

 

「アンタ.....ッ!!」

 

ゆきかぜがこちらを睨む。

しかし、俺も彼女を睨み返す。

俺は人に睨まれたら絶対に目を背けないと決めている。

背けたら負けを受け入れたような気がするから。

 

「確かに、ゆきかぜ....君の母親はえーと、なんだっけ?幻影の対魔忍だったか?そんな感じで有名になるほど強い。だが、逆に言えばそんな彼女が5年物間消息不明になって、今や娼館に居る。一度行方不明になっているんだよ。堕とされていないとおかしい。じゃないと5年も音信不通なわけがないでしょ。そして....その前提を踏まえれば、相手はそれだけ強大ということになる。」

 

うわっ...そう考えるとマジでそんな奴とはお関わり合いになりたくない。

あの幻影の対魔忍が消息不明になり、5年後に娼館勤め。

そんな状態に出来る敵なんて、対峙したくねぇな。

 

「...私も、貞一の言葉には同意する。ゆきかぜの気持ちもわかるが....」

 

「....大丈夫です、凜子先輩。本当は分かっていますから。分かっているけれど....」

 

認めたくないのだろう。

彼女にとっては母親は憧れだ。

理屈では分かっても心では認めたくない。

母親が堕とされているかもしれないなんて。

 

...あぶねぇ、これ凜子が諫めてくれなかったら危なかったかもなぁ。

余計な口は挟むまい、藪蛇になりかねない。

 

「今回私達が貴方たちを呼び出したのは、纏の任務を与える為。水城不知火の捜索と救出をね。」

 

纏の任務。

ということは潜入ということになるのか。

....えっ、てか任務ってマジで?

貴方たちってどっからどこまでだ?

凜子からゆきかぜまでだろ?

うん、そうだ。

きっとそうだ。

 

「私達が....お母さんを救出....」

 

「ですが、その...さっきも貞一が言ったように、相手はあの不知火さんを堕としたかもしれない相手。私達で本当によろしいのですか?」

 

凜子がそう尋ねる。

まぁそりゃそうだ。

凜子もゆきかぜもかなり強い。

俺なんかとは比べれば月とすっぽん。

正直、他の現役の人達と比べても頭抜きんでていると思う。

そもそも忍術もチート臭いしな。

 

だが、それでも学生だ。

経験は現役の人と比べると足りないだろう。

そんな学生相手にヨミハラへの潜入だなんて荷が勝っているようにも思えてならない。

 

「...水城は不知火の娘である分、本人確認がスムーズに行える。そして秋山は空遁によって逃走においても潜入においても秀でている。...なにより、私達は二人の能力の高さを買っているんだ。ですよね?アサギ様。」

 

紫がアサギに聞くと、彼女は頷く。

そしてただ...と言葉を濁した。

 

「確かに不知火を救出するにあたっての適正面では貴方たちが一番よ。ただ、貴方達が躊躇うのも分かる。場所はヨミハラ。危険であるのは間違いない。だからこそ、断るのであれば構わないわ。」

 

そういうと黙りこくる二人。

なんか凜子とゆきかぜの良い所しか言ってない。

あれ、俺なんでこんな所に居るんだろう?

,,,,もしかしてアレかな?

この件が終わってから俺の退学通告になるのかな?

てかなれ。なってくれ。

どうまかり間違っても危険地帯なんかには行きたくないぞ俺は。

 

俺がそう思っていると、ゆきかぜが顔を上げる。

 

「....行きます!行かせてください!!」

 

「ゆきかぜ....!?」

 

凜子が驚いた声を上げる。

すると、ゆきかぜが彼女に向き直る。

 

「凜子先輩、ごめんなさい。危険なことは分かっている。...でも、私、お母さんを助けたい!私が助けたいんです!」

 

「ゆきかぜ....ふっ、どうやら心変わりはないようだな。良い目をしている。なら、私も行きます!ゆきかぜを一人で向かわせるわけにはいかない!!」

 

「凜子先輩....!!」

 

おー、なんか良い話っぽく進んでんなぁ。

どことなく百合感も出てるってはっきりわかんだね。

流石はレズ説が出ている凜子お姉さまですわ。

これは百合クマ嵐巻き起こりますわ。

避難しよ、挟まると殺されかねない。

 

「...貴方たちの気持ちは分かったわ。では、水城ゆきかぜ、秋山凜子...そして刃渡貞一。貴方達には水城不知火の捜索及び救出を命じます。」

 

「「はい!」」

 

「ちょっ、ちょっと待ってもらっていいですか!?ちょっ、ちょっち待ってもらって....!!」

 

動揺のあまり声を震わせながら、制止する。

皆は俺に視線を向けているが、それどころではない。

はぁ....はぁ!?

マジで言ってのか!?

俺、名前呼ばれたのか....何かの間違いでもなく、任務に参加するメンバーの一人として?

そ、そんなの.....許容できるわけがないだろ!!!

 

「えっ、な、なんで僕の名前まで呼ばれてるんすか?」

 

「...そりゃ貴方もこの任務を行うメンバーの一人だからよ。放送で呼び出したでしょ?」

 

正直、この場で不知火さんの話を聞いていて、嫌な予感はしていた。

だが、まさかだった。

あの時に氷室に止められていなかったら、俺はこの話をブッチできたのだろうか。

クソっ....今日の俺は、運にそっぽ向かれている。

ガチで厄日じゃねぇか....。

歯噛みしつつも、相手は目上。

なんとか笑顔を取り繕いながら口を開く。

 

「えっ、あの...俺は退学になると聞いて喜び勇んでここまで来たんですが.....」

 

「えーと、刃渡君は氷室さんに連れてこられてなかったっけ?というか退学で喜ぶって....」

 

サクラ先生は苦笑いを浮かべる。

クソッ、氷室め....。

こんな所まで足を引っ張ってくるとは....。

本当、大した女だ....。

流石天敵だけあるぜ...。

出来れば晩年は苦しんで死んでくれ。

 

彼女に対して恨めしさを感じていると、アサギ先生が口を開く。

 

「...そもそも、君は出席率とサボタージュの頻度の多さ、その点において問題児なだけあって今すぐ退学になるような問題は起こしていないでしょう?」

 

「い、いやそうだけど.....あっ、そうだ!確かに横の二人はメッチャ強いし、適正面としては申し分はないですね!でも、僕はどうですか!?さっきアサギ先生は二人の事しか言わなかったけど、つまりはそういうこと。僕の忍術は二人のような強い忍術でもない。この学校で言えば雑魚でサボタージュ常習犯の協調性皆無の社会のクズです!そんなゴミクズを任務に参加させるような乱心を起こすのはやめましょうよアサギ先生!!ね!?」

 

俺は笑顔で詰め寄る。

すると、後ろでゆきかぜが呆れた声で呟く。

 

「...アイツ、テンパると早口になるのよねぇ。」

 

うるせぇ。

分かったような口利く貧乳にイラつきを覚えながらそれを表に出さないようにあくまで笑顔を作る。

 

するとアサギ先生は溜息を吐く。

 

「...はぁ。今回の任務において、貴方には二人のサポートを行ってもらうわ。貴方の才覚を買っているのよ。言わなかったのは....そうね、貴方の人間性を考慮して言わなかったのだけど。」

 

そう言われて、納得する。

あー、なるほどね。

そんなこと態々こんな相手に言った奴は誰なのだろう?

ぶん殴りたくなる。

俺の才覚を買った?

冗談としても笑えない。

学校でも碌に対魔忍としての訓練もせずにいる子供の何が分かるというのか。

俺の忍術は家紋を刻み込んだ武器を、巻物経由で呼び出すだけ。

しかも一度に呼び出せるのは2~3本。

 

そんな術使うくらいならジャケットとか改造して持てる武器増やした方が良いに決まっている。

巻物開いて血を付ける手間が無駄。

本当ゴミ忍術。

爺さんが叫んだ言葉は確実にボケから出た戯言だという証明だ。

俺は、俺の術が嫌い。

 

こんな餓鬼捕まえて才覚を認めたから死地に向かえとかホンマ馬鹿らしい。

そんな言葉で浮かれるほど馬鹿でもないぞ。

それともアンタらは僕の使えなさに気づかない程に見る目がないのか?

言いたいことは色々ある。

だが、相手は年齢的にも立場的にもかなり上の人物。

ここで噛み付いても損するのは俺だけだ。

笑え....笑え......。

 

「そうですか?ハハ、そんなことないですよ。」

 

「....大人の目は、誤魔化せないわ。」

 

アサギ先生は目を細める。

どうやら少し気に障ったらしい。

まぁでもそれならそれで計画通り。

彼女たち高名な対魔忍に嫌われたら、対魔忍としてやっていくのは厳しいだろう。

そうにちがいない。

 

「すみません。」

 

ただ、怒られるのは嫌いだ。

一番望ましいのは良くない印象を累積させて、見放してもらうこと。

だからこそ、素直に謝る。

 

後ろから二人にジト目で見られているのを感じる。

なんだ...文句あるのか。

文句あるなら直接言ってこいやホラホラホラホラ!!!

 

「ま、まぁまぁ!とにかく刃渡君にはこの任務に参加してもらうってことで....」

 

サクラがニコニコと愛想笑いを浮かべて宥めるように言ってくる。

いやいや、何しれっと俺も行く感じで話し進めてんだよ。

ゆきかぜや凛子には選択肢が与えられていた。

なのに、なぜ俺には与えられないのか。

 

「凜子やゆきかぜには任務を受けるかどうかの選択権が与えられていたはずです。なら、俺も選んで然るべきではないですか?なので、僕は参加しません!」

 

高らかにそう言う。

すると背後からゆきかぜの声が聞こえる。

 

「アンタは.....私のお母さんを助けるの、手伝ってくれないの?」

 

振り返ると、こちらを窺うように見る彼女。

....その目は一抹の不安を見せる。

もしかすれば.....彼女の不安を見抜いて凜子は一緒に行く決心をしたのだろうか。

だけど、それは彼女の都合だ。

正直、彼女の母親がどうとか本当にどうでもいい。

それに、俺なんかいなくてもお前らだけで出来るだろうが。

寧ろ、足手まといになると思わない?

 

俺は態々魔族と争うような危険な仕事に就きたくないから対魔忍にはなりたくないのだ。

ヨミハラなんかもってのほかだ。

誰だって自分が可愛い、俺もそうだ。

俺が言ったって誰も文句は言えないはずだ。

 

そう思い、口を開く。

そんな時に限ってあの光景を想起する。

 

母を失って、父を喪った少女。

俺達の前では気丈に振る舞っていたあの子は見えないところで泣いていた。

借りたままにしてたゲームをこっそり返しに来た時に見た光景だ。

その光景が俺を躊躇わせた。

 

「....俺は、出来れば行きたくない。」

 

何とか絞り出した言葉。

俺の本心。

それを聞くと、彼女は少し残念そうな、それでいて失望したかのような表情をする。

そして凜子も彼女と同じ表情だ。

なんだろう....胃がキリキリする。

 

「.....そこまで言うなら無理強いは出来ないわ。....ただ、少し残念ね。」

 

アサギ先生は俺に対してそう言う。

その目には感情がない。

いや、見せていないのだろう。

明確な失望を見せれば俺が傷つくと思っているのか、それとも俺には失望していることすら気づく価値もないと思っているのか。

 

「では、これから任務について詳細を説明するから、関係のない人には退室願いたいわ。」

 

「はい、分かりました。失礼します。」

 

そう笑顔で言うと、後ろに振り返る。

そしてドアに向かって一歩踏み出す。

そんな俺に視線を向けて、凜子は小声で尋ねた。

 

「....お前は、それで良いのか?貞一.....。」

 

「.....」

 

良いに決まってんだろバカが代。

その簡単な言葉が口から出なかった。

 

 

 

家に帰宅すると、部屋に籠る。

あれからどこか胸に突っかかるような感じがする。

無性に気晴らししたくなって、達郎を誘おうとした。

だが凜子やゆきかぜに背を向けた以上、誘うのが憚られて一人で遊んでいたのだ。

...が、一向に心が晴れない。

一人で居れば居る程、自分のやるせなさを考えさせられる。

俺の心模様を表しているかのように外では雨が降っていた。

 

...よくよく考えてみれば俺、友達とか幼馴染しかいないじゃん。

そんな俺が彼女たちに背を向けるとか、孤立するに決まっている。

.....いや、でもやっぱどう考えても俺じゃなくて良い。

ぶっちゃけ達郎の方が良かったはずだ。

 

「....これで、良かった。」

 

まるで言い聞かせるように言葉を吐いた。

その時、家のインターホンが鳴る。

下にはマッマが居る。

だからこそ、俺が出る必要もない。

このまま横になっておこう。

 

そう思うと、階段を勢いよく昇る音がする。

え、なんだ。

母ちゃんどうしたんだろう。

こんなドタバタ走って階段を上るような人ではなかったはず.....。

 

そう思っていると、急にドアを滅茶苦茶叩かれる。

 

「ちょっ、な、なに!?なんなの!?ちょっと!ママン!」

 

聞くも何も言わずにドアを叩きまくる。

ちょっ、なんで答えないんだよ。

まるで連打ゲーのように叩かれるドアに痺れを切らし、ドアを開ける。

 

「聞いてんだから何か言えや!このババ.....えっ、お前なんで....。」

 

怒鳴りながらドアを勢いよく開けると、そこには母親ではなくてゆきかぜが立っていた。

雨の中をこの家に来たのか、服は濡れて透けている。

首に湿ったタオルが掛かっており、母から貰ったのだろう。

すると、ドアを押さえると無理やり家に入ってくる。

 

「ちょっ、お前何しに来たんだよ!てか、ガチでびっちょびちょ....」

 

「...ゲーム。」

 

彼女は呟く。

は?ゲームゥ?

そんな一言呟かれただけで何もかも分かるわけないだろ!!

俺はニュータイプじゃないんだぞ!

すると彼女は扉を勢いよく閉める。

 

「ちょっ、手荒に扱わないで....いや、確かに人質、つーか物質にしたりしたけど、結局扉壊れたら怒られるの俺.....」

 

「...どーせ、アンタの事だからうじうじ家で寝転がってると思ったのよ。だから....遊びに来てやったのよ。」

 

「え?ごめん。意味わかんない....。」

 

素のテンションで聞き返してしまう。

え?なんで?

俺は彼女の母親を救出する任務に明確に参加したくないと意思を示した。

幼馴染である彼女ならば、俺が我が身可愛さに任務から逃げたことが分かったはずだ。

正直、失望されても仕方ない。

なのに、なんでここに彼女が来たのか....。

 

「アンタ、確か前に学校行かずに最新ゲーム機買ってたでしょ?....やっぱ服が濡れてて...気持ち悪い....。」

 

戸惑う俺を他所に勝手に人のゲーム機を弄りながら、愚痴るゆきかぜ。

いや、俺もゆきかぜの家にお邪魔した時には勝手にゲーム機で遊んでたりするから文句言えないけど....

 

勝手にゲームを起動すると、これでもかと言わんばかりに俺のベッドに座り込む。

 

「ちょっお前、ベッド湿っちゃうからやめ....っ!!」

 

「いいから!.....隣、座んなさいよ。」

 

コントローラーを投げ渡され、それを咄嗟に受け取る。

コイツ....顔面に投げやがった。

もしや、これお礼参り的なアレか?

人生最後のゲームだぞ楽しめとでも言いたいのだろうか。

プレイが終わったら奴の手で直々にアイガッタビリー♪してしまうのか。

俺は不滅だぞ。

 

そうびくびくしながらも隣に腰かける。

やるゲームは....格ゲーか。

確か隣の馬鹿はなんか有名ゲーマーだったろ?

 

「んじゃぁ。有名ガチゲーマーY-kazeXさんの実力でも見せてもらいましょうかね....っつめた!何すんだ!」

 

「次、それを言ったら今度は頭ぶっ飛ばすから。」

 

彼女は冷たい手を首筋に付けると、そう俺を脅す。

怖いなぁ....戸締りすとこ....あっ、もう意味ねぇか。

まぁそういうネットやゲームでの活動名はリアルで関わりのある人には知られたくない物だろう。

俺も、コイツの部屋に遊びに行って偶然奴がゲームしてる所見なければ知らなかっただろうし。

 

そうして、俺達はキャラを選択すると戦闘を始めた。

 

 

 

「なぁ、ゆきかぜさんや。もう良くないか?まるで親の仇の如くボコボコにされ続けて俺楽しくないよ。お前とやるゲーム、息苦しいよ。」

 

「当たり前でしょ。私はただふざけた態度取ったアンタに対してのイライラをぶつけてるだけなんだから。」

 

30回中30回完封負け。

そしてしれっとゆきかぜはストレス発散の為にゲームをしていることをぶちまけた。

やっぱ根に持ってたか....まぁ根に持っているよな。

おぉ...こわ。

でも、暴力ではなくゲーム方面でぶつけられていることが唯一の救いだった。

 

すると、不意にゆきかぜは口を開く。

 

「アンタさぁ、対魔忍になりたくないとはよく言うけど。.....じゃあ何になりたいとかあるの?」

 

「ん?そりゃお前公務員....とか?なんか安定性的なサムシングが.....。」

 

「嘘。アンタ、本当は何も考えていないでしょ。」

 

俺の言葉に被せるように否定するゆきかぜ。

何を言うんだと彼女に言おうとすると、目が合った。

その目は真剣な話をしていると物語っている。

 

「...おう、そうだよ。何も考えてねぇよ。なんで分かったんだ。」

 

「やっぱり.....、あのね、五車学園は一般課程さえ終わっておけば別に対魔忍にならなくて良いの。そしてどんな職業でも勉強は必要よ。それすらサボってるような奴が将来の事なんか考えているわけないでしょ?さしずめ....対魔忍にはなりたくないけど、やりたいこともなければやる気もないし面倒くさい。だから学校行かない。でしょ?」

 

何だコイツ、母ちゃんかな?

俺のことを完全に言い当てていた。

彼女の言う通り、俺にはやりたいことなんかない。

目指すべき場所もなく、やる気もないし面倒くさい。

だから学校も休みがちだ。

 

「....すげぇな。ここまで言い当てられると不気味だわ。お前メンタリストか?その内どっかの大学の論文とか引っ張り出しそうだな。」

 

「なにそれ.....。まぁメンタリスト云々は置いといて、改めてアンタの口から聞くと、本当にダメ人間ね。アンタ。」

 

「....まっ、そこは自分でも分かり切っているからな。逆に....お前は対魔忍がやりたいことなのか?」

 

俺が聞くと、彼女は頷く。

 

「えぇ。私はお母さんみたいな対魔忍になりたい。」

 

頷く彼女を見て、笑ってしまう。

 

「そうか....それはすごいな、やりたいことが分かってるとか。....で、ダメ人間だって俺に言いに来るためにここに来たのか?」

 

俺が聞くと、ゆきかぜが笑う。

 

「そんなわけないでしょ。私が言いに来たのは....私と一緒に任務に来なさい。それがアンタにとって一番いいわ。やりたいこともなく、その辺でグダグダするなら私の言った通り動けって言いに来たのよ。」

 

「えっ、なにこわ......」

 

なんかこの子、勝手に俺にとって任務に行くのが一番良いとか言い出したんだけど....。

目を見開くと、彼女は俺の肩を掴む。

 

「...やりたいこともなく、学校にも行かない。その先に待つのはただの破滅よ。アンタは、何も成し得ることなく終わる。」

 

「お前、滅茶苦茶言うな....。」

 

このままお前を誰も愛さないとか言い出しそうな雰囲気だ。

ここまでボロカスに言われたことなんかないぞ。

悪戯に俺を傷つけるのはやめろぉ!!

 

「それが、私には分かる。....分かるから、私がまともに生きられるように世話焼いてやるって言ってんの。」

 

「いや、お前にそんなこと....」

 

「出来るわ。私はアンタの幼馴染よ。....アンタの事は、一番よく分かってる。」

 

真っ直ぐ俺の目を見つめてそう言ってくるゆきかぜ。

その目は冗談でもなく、本気で言っているのだと物語っていた。

 

「...俺は分かったような口を利かれるのが嫌いだ。」

 

「そんなこと、知ってるわ。でも、言わないとアンタは分からないでしょ。」

 

彼女は悪びれずにそう言ってくる。

そして彼女は言葉を続ける。

 

「アンタ....聞いたわ。単位ヤバいんですって?....このままじゃ留年らしいわ。そんでその先はいずれ退学とか?...ふざけてんの?学もなく高校も中退の子供が幸せに生きていけるのかしら?」

 

「少なくとも同じような境遇でも幸せに生きている人は居るだろ。」

 

「でも、アンタは絶対ないわ。仕事を探すやる気もないから、親に言ってもらって適当に対魔忍することになるのよ、結局。」

 

何だコイツ....さっきからなんでそんな悲観的な未来しか言わないんだ。

いや、でもそれも充分あり得る話だ。

そんな状況を生き抜いていく能力など俺にはない。

結局は親の脛ちゅばってやりたくもない対魔忍をやらされることになりそうだ。

そんな未来は確かに容易に想像できた。

 

「それで?それがなんだよ。」

 

「...アンタが居なくなった後、アサギ先生に頼んだわ。」

 

は?

えっ、なにを!?

戸惑う俺を他所にゆきかぜは続ける。

 

「任務が成功した場合、アイツが進級できるように単位をくれませんか?説得はしますって。」

 

「え?なんでお前がそんなことしてんの?」

 

ぶっちゃけ意外だった。

コイツが俺の為に頭を下げるなんてことは。

 

「そりゃ....心配だからよ。私たちの中で一番危なっかしいのはアンタ。....というかさ、賢く生きなさいよ。」

 

呆れたように俺に向けて言うゆきかぜ。

 

「アンタはただの後方支援。つまりはアタシたちがさっさと終わらせたら手柄ただ取りできんのよ?なら、それで良いじゃない。」

 

「いや、確かにそうだがそうじゃなくて....俺はとにかく危険な所に行きたくなくてだなぁ....それに俺じゃなくても達郎とか他の人が居るでしょうが!」

 

俺が言うとゆきかぜがまだ分かんねぇのかコイツと言わんばかりに呆れた表情をする。

 

「あのねぇ....アンタは武器を他所から口寄せできる。それはつまり閉ざされた場所であっても武器限定で言えばいくらでも補充できるということ。おまけに...アンタ、確か家の地下室に置いてある武器は一通り使えるとか私達に自慢してたじゃない。」

 

「...まぁ、あんなもん握れば大体使い方とか分かるし。」

 

使い方が分かるだけで強いとは一言も言ってない。

刀だってなんか流派やっている凜子の方が上手く扱えるに決まっている。

俺は器用貧乏が二足歩行で歩いているような人間であると自負していた。

 

「それなら後方支援としては申し分ないでしょ。それに、そんなにヨミハラが怖いなら.....」

 

すると、彼女は急に俺を抱き寄せる。

えっ、なんすかそれ。

なんしてんすかアンタ。

彼女の身体は濡れてしばらくから経ったからか蒸れており、肌は少し冷たかった。

 

「....私が、守ってやるわよ。」

 

「....わぁ、イケメン。」

 

思ったことが口に出た。

何だコイツ乙女ゲーの男みたいなこと言ってんなぁ。

てかうっとおしいし、暑苦しいからやめろや。

 

「ってことでアンタ、私と来なさい。」

 

「....あのさ、酷いこと言っても良いか?」

 

俺が言うと、呆れたようにいいわよと言う。

だからこそ、俺は口から言葉を吐いた。

 

「俺さ、正直お前の母ちゃんどうでもいいんだ。」

 

「...まぁ、そうでしょうね。そうだと思ったわ。アンタクズだし。」

 

こちらを少し睨みながらもそう言うゆきかぜ。

ただ....と言葉を続ける。

 

「お前が、幼馴染のお前がどうしてもと言うのであれば、行かないこともない。俺は友達が居ないからな、お前らに見捨てられると話す相手も居なくなる。というわけで押し入れの二番目に入っているコスに袖を通したのなら言う事を聞くと約束しよう。」

 

「....えっ、やりたくないんだけど。なんで私にそんな条件が出されているのよ?」

 

ゆきかぜは顔を引きつらせてそう言う。

まぁ彼女からすれば行く代わりにコスプレしろと言われているから多少はね?

だが、俺からしてもここは譲れない。

 

「お前が作戦中に俺を守ってくれるということは分かった。分かったが.....お前の言う事を聞いたとして、今俺は良い思いをするか?俺は今に生きてるからな、ここで良い思いをさせてくれたら文句なしに言うことには従ってやるよ。それにどうせ、濡れた服が蒸れてて気持ち悪いだろ?じゃあちょうどいいじゃん。」

 

すると、不意にゆきかぜが頬を赤くする。

 

「は、....はぁ!?そ、それって私のそう言う姿見たいってことじゃない!こ、この変態!!!」

 

そう言って怒鳴ってくる。

....なんで怒ってるんだろ。

コイツ、もしかしてなんか変なのと勘違いしてない?

 

「いや、お前....コスって言っても変なのじゃないぞ?....これだ。」

 

そう言って押し入れから出すと、広げて見せる。

 

「....なにこれ?」

 

「え?干支の一匹でもある牛さんの繋ぎコス。親に親戚の子供の運動会に連れてこられた時にこれ着て走れとか言われたんだよね。懐かしいなぁ。」

 

そう言って広げて見せる。

朝に凜子に着せようとしたのもこれだ。

胸でかい女に着せてみたら面白いかなとか思ってたが、着せることが出来なかったからな。

貧乳が牛コスを着る....ぷふっ、考えただけで.....ひひっ、笑ってしまいそう。

 

「....アンタ、馬鹿にしてるわね?」

 

俺を睨みつけるゆきかぜ。

鋭いな。

なんで俺の周りの奴らって鋭い連中ばかりなの?

もしかしてあの学校、エスパー養成機関だったの?

まともに言ってたら俺も分かるようになるのだろうか?

....いや、ねぇな。

 

「おう、だが視姦されるよりはマシだろ?そのまま濡れた服着てたら風邪ひくぞ、てなわけでさっさとそれ着て、どうぞ?」

 

「...チッ、これ着たら言う事聞くのね?....後ろ向いてなさい!絶対に振り返らないでよね!」

 

頷くとそう念押しするゆきかぜ。

破ると流石に電撃をぶつけられるだろうし、律儀に守ることにする。

後ろで衣擦れの音がする。

服を脱いでいるな。

うん...まぁ煽情的ではあるとは思うぞ。

踏んだらダメな地雷だからこそ、恐ろしさの方が増しているけどな。

そう思った矢先。

 

「さだくーん、もう遅いんだしゆきかぜちゃんと一緒に下に降りてごは......。」

 

ドアの開く音がする。

背筋が寒くなってくる。

状況としてはゲーム機を弄る俺とその背後で服を脱いでいるゆきかぜ。

 

後ろを見れないから分からないが、つなぎには袖を通しているか!?てか通しててくれ!!

流石に裸だったら勘違いされかねない!!

そう思っていると、母親が口を開く。

 

「あ、あはは....ご、ごめんなさいね。ま、まさかお取込み中だったとは...あ、あの、今回は仕方ないけど、その.....親が居ない間にね?」

 

あっ、これ多分ゆきかぜ裸ですわ。

 

「まっ、待ってください!これは誤解で!!」

 

ゆきかぜが声を出すも、現実は無常。

逃げるようにドアが閉まる。

場を支配する静寂。

後ろでどんな顔してるんだろう。

想像したくない。

これ、振り向いて良いのかな。

 

「....アンタの。」

 

あっ、来る。

直感的に後頭部が危険であることを察する。

何か重い一撃が来ると分かる。

 

「アンタのせいよ!このバカァ!!!!」

 

だが、避けるよりも前に衝撃と痛みが頭に走り、倒れ伏す。

視線を後ろに向けると、下着姿のまま俺にかかと落としをしたであろうゆきかぜが自分の身体を抱きながら、こちらを睨みつけていた。

母ちゃん......タイミング悪いよ......。

踏まないように気を付けていた地雷を踏んでいった母親を忌々しく思いながらも、俺は意識を手放したのだ。

 

 

 

 

 

 

翌日、放課後。

俺は校長室で床を舐めていた。

 

「心入れ替えました!私も、この任務に参加させてもらえませんでしょうか!お願いします!アサギ先生、サクラ先生、紫先生!!」

 

そう言ってグリグリと頭を地面に擦りつける。

後頭部は昨日の蹴りのせいで未だにジンジンと痛み、たんこぶが出来ていた。

頭蓋が割れたかと思ったが、そんなことはなくて良かった。

人間の身体の頑丈さに感心させられた瞬間であった。

 

アサギ先生は俺を見て、溜息を吐く。

 

「はぁ....ゆきかぜは上手くやったようね。まぁ私としても人員の選出を考え直す必要がなくなったから構わないけれど.....任務である以上、やるべきことはちゃんとやってもらうわ。貴方の場合は単位のこともあるからこそ、猶更ね。分かったかしら?」

 

「はい!」

 

元気よく返事する。

まぁやることやってもらうと言っているが、俺は後方のサポート。

ゆきかぜと凜子が実働部隊であり、彼女自身も守ると言っていたから俺がやることなんか高が知れているだろう。

そもそも出来ることもたかが知れているし。

 

ゆきかぜに視線を向ける。

すると彼女は昨日のことを引き摺っているのかムスッとした表情でこちらを一瞬見て顔を逸らした。

 

共に任務に取り掛かるのはゆきかぜや凛子という優秀な二人。

まっ、なるようになるやろ。

俺はそう楽天的に任務のことを捉えていたのだった....。




貧乳って必ずしも悪いことじゃないんですよ。五車学園の研究チームが行った調査によると胸の無いグループは胸のあるグループに比べて20%ほど魅力的だという結果が出たんですよね。これめちゃくちゃ意外じゃないですか?
次もまだ五車内の話です。

....なんでゆきかぜがヒロインっぽいムーブしてるんだろ?
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