対魔忍にはなりたくない!!!(必死)   作:胡椒こしょこしょ

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ゆきかぜ視点です


本当にしょうがない奴。

欲望と退廃の都市、ヨミハラ。

そこに侵入することに成功した私達は、とあるビルの中に入っていた。

派手な家具が並んでいる品のない下品な一室。

そこに私と凜子先輩と貞一、そして喉をぶち抜かれたゾクトが居を構えていた。

 

「へぇ~、ここがゾクト君の部屋ねぇ。良い趣味してんじゃん。やっぱこういう家具は派手じゃないとな!ん?だから首元も真っ赤にしてるんだろ?あっ、これ俺のせいかぁ~www」

 

貞一はグルグル巻きにして拘束されている声も出せないゾクトへ、態々しゃがんで高度を合わせてまで肘で脇腹を小突きに行っていた。

まったく呆れた物だ。

確かにフレンドリーに接してはいるものの、ああいう時の貞一はただ相手を弄って楽しんでいるだけなのだ。

自分よりも確実に弱いと思った相手にはグイグイと絡んでいく。

それがアイツの悪癖である。

 

「アンタねぇ、そんな奴のことなんかよりこれからどうするかの方が大事でしょう?」

 

私が言うと、凜子先輩も頷く。

 

「そうだぞ。本来の私達が娼館に娼婦として侵入するという段取りはもう使えない。代替案を考えないと....」

 

まぁ私としては、纏いの任務については少し不安だった。

任務の為とは言え、何かを仕込まれて知らないおっさんなどの性処理をさせられるなんて嫌に決まっている。

ましてや幼馴染であるアイツが居るのだ。

そんなことになれば、アイツが何を言い出すか....。

だからこそ、今のこの状況は私にとっては一概に悪くはなかった。

 

すると貞一があっけらかんとした様子で口を開いた。

 

「取り敢えずそこの豚に教えてもらうとか、もしくは聞き込みをするとかでアンダーエデンの場所を把握。そんでもって門番とかが居たらゆきかぜがかっ飛ばして凜子使って潜入。中でゆきかぜ無双した後に母親見つけてエンドで良いんじゃないか?」

 

かなりシンプルな案だ。

しかし、それ以上に私にとって気になるのは。

 

「...アンタの名前がないけど、アンタはなにするのよ。」

 

私がそう聞くと、アイツは私の目を真っ直ぐと真面目な顔で見つめ返した。

 

「....そんなもん、決まってるだろ。士気担当だよ。俺がみんなを応援してやる!これでも暇な時は30分くらいはどっかの高校の応援団の動画とか見たりしてるんだぜ?三三七拍子なら任せろよ。」

 

やっぱり....何もしないつもりじゃない。

呆れて物も言えない。

コイツはいつも私達に押し付けて難を逃れようとする。

確かに最初は私が守るからその手柄を横取りすればと言ったものの、真面目に訓練も出ていたから少しは変わったと期待していたのに....。

危惧してたようにあまり変わってない。

まぁ、コイツらしいと言えばそこまでの話なんだけど....。

 

私が肩を落として、溜息を吐くと凜子先輩が口を開く。

 

「...任務中に応援なんかされても気が散るだけだ。それならちゃんと当初の任務通り後方支援をしろ。いいな?」

 

「いやぁ~、何言ってんだよ。冗談だって、やることちゃんとやれってアサギ先生に言われてるわけだし、そこらへん手は抜かないよ。」

 

凜子先輩に苦言を呈されてヘラヘラと笑う貞一。

しかし、後頭部に手を回して髪を引っ張る様に掻いている。

アイツの癖だ、言いたいことをひっこめた時のアイツの癖。

いつもやるわけではないが、アレをやっている時は大体そう。

 

...アイツ、私達に何も言われなかったらマジで全部こっちに丸投げして声援だけするつもりだったわね。

凜子先輩はそこら辺はあまり注目していないから気づかないけど、私はアンタとよく二人になることが多かったんだから、そういう癖とかは把握しているつもりだ。

ま、アイツは私がアイツの知らない癖まで知っているとかは知るはずもないんだけど。

そう考えると、少しいい気味だわ!

 

するとふとアイツと目が合う。

アイツは顔を逸らしてヘラヘラと笑いながら、言葉を口にした。

 

「と、とりあえず!てめぇらまんま対魔忍服だろ?確かに防弾性とか色々機能性から見れば優れているけど、それで聞き込みとか潜入とかが円滑に色々出来るわけないじゃん!ってなわけで、俺はお前らの衣装の調達というきちんとした業務を行うとしますよ。ほら、働こうとしてるだろ?...んっ!」

 

当てつけのようにそう言うと、アイツはふと私達の傍まで歩み寄り、何かを受け取ろうとしているのか手を差し出した。

凜子先輩が訝し気な目を向けながら、アイツに尋ねた。

 

「....何をしている?」

 

すると、アイツは溜息を吐いた後に呆れた顔をする。

なんか見ててイラつく顔だ。

 

「あのさぁ~、大の女性二人の服を上から下までコーディネートしてやろうってんだよ?そら金はかかるに決まっているだろ、俺のマネーだけで足りると思っているのかぁ?お前らも金出せよ。」

 

「...余り褒められた言い方ではないが、まぁ良いだろう。」

 

そう言って凜子先輩は財布からお金をアイツに渡す。

しかし、私はどうにもすぐ渡す気にはなれなかった。

コイツの言っていることは正しい。

現状ゾクトが何かを企んでいた以上は、ゾクトの仕入れた奴隷娼婦という肩書は使えない。

その状態で対魔忍と分かるこのスーツを着ていては、情報収集などこの先の行動に支障が出るだろう。

この町では対魔忍はアウェーだ。

言うことに賛成する。

だが...私にはある懸念があった。

 

「ねぇ...アンタ、ちゃんと買ってくるのよね?」

 

私が言うと、アイツはムッとした顔をして言葉を口にした。

 

「あのなぁ....買い物くらい、俺にも出来るわ!はじめてのおつかいじゃないんだから....まったく....。」

 

やれやれと言った様子で肩を竦める貞一。

違う、そういうことを言いたいんじゃない。

私が言いたいのはコイツが服を買うと言って私達からお金を徴収し、別のことに使うつもりなのではないかと思ったのだ。

 

もしそうであるなら、出すわけにはいかない。

一緒ならまだしも、アイツ一人で遊ぶためのお金なんて、出してやらないんだからぁ!!

そう思っていると、アイツは諦めたように溜息を吐いた。

 

「あーあー、ハイハイ分かりましたよ協力する気はないんすね!もういいよ、凜子の分だけで行く。窓、閉めとけよ。」

 

アイツはまるでいじけた子供のように私にそう吐き捨てると、窓を開けて窓枠に足を掛ける。

 

「あっ、ちょっと待ち....」

 

私が声を出すも、アイツは制止の声も聞かずに飛び降りてしまった。

窓に駆け寄ると、既にアイツは遠くの路地を走っている。

 

「行ってしまったな....。」

 

「良いんですか凜子先輩、アイツ、本当に服買ってくるのか.....。」

 

私がそう言うと、凜子先輩は笑った。

 

「信じようじゃないか。それに、買ってこなかったら貞一一人に聞き込みをさせれば良い。私達では聞き出せないだろうからな。」

 

「そ、そうですけど.....。」

 

確かにそうだが....。

アイツ、待てって言おうとしたんだから少しくらい待とうとしてくれても良いじゃん....。

そもそもさっき目が合った時点で顔を逸らした。

いつもそうだ、都合が悪くなるとすぐ逃げようとする。

そんなだから....今回みたいに、私が世話してやらなきゃいけなくなってるんじゃない。

 

アイツの行動にイライラしていると、凜子先輩が笑う。

 

「な、なんですか....?」

 

凜子先輩の様子に戸惑っていると、凜子先輩が口を開く。

 

「そんなに心配なら、見に行ってやったらどうだ?...その恰好で出ることになるが。」

 

「...それだと本末転倒だから、良いです。アイツを待ちますよ....。」

 

そう言いつつも溜息を吐く。

正直、アイツを信じたい気持ちはある。

でも、普段のアイツだと確定で服買わずにどっかで金使ってそうだしなぁ。

それにアレは仕事云々言われるのが嫌でこの部屋から逃げる為の口実であるように私には思えてならないのだ。

というか!!

 

「べ、別にアイツの心配なんかしてないですよ凜子先輩!!あっ、なにまた笑ってるんですか!!!」

 

「い、いや....なんでもない....フフッ....」

 

凜子先輩は口元を隠して私に背を向ける。

私は凜子先輩の表情を見る為に回りこもうとした。

酷い勘違いだ。

訂正しないと....!

私は凜子先輩に対して訂正しようと何故か躍起になっていたのだった。

 

 

(なぁ~にやってんだコイツら.....)

 

ゾクトは縛られて喋れないながらも、じゃれ合う二人を見て呆れていた。

 

 

 

「...遅い!もうっ何してんのよアイツは!!」

 

あれから五時間。

服を買うだけなのに結構な時間が経っていた。

今や日にちが変わろうとしている。

 

やっぱりアイツ、どっかでほっつき歩いている!

そう二時間前には思っていたが、今や別の理由で焦燥感が私の中を駆け巡っていた。

もしかすればアイツに、何かあったんじゃないか?

だからこんな時間まで帰ってこれないんじゃないか...。

そう思わずにはいられなかった。

ここヨミハラは欲望と退廃の街。

そもそも対魔忍どうこう以前に危険な街だ。

 

凜子先輩も同じようで、心配そうな表情をしている。

 

「...どうする?これでは恰好がどうとか言っていらないぞ。探しに行くか?」

 

凜子先輩が窺うように私に聞いてくる。

...アイツは、いつも世話が焼けるんだから....。

 

「ここで二人で行くのはそこのゾクトを放っておくことになるので、凜子先輩は残ってください。」

 

「ゆきかぜ....私の空遁で辺りを捜索しても良いぞ。お前が残ってはどうだ?」

 

凜子先輩がそう言ってくる。

でも....多分、それじゃアイツは見つからない気がする。

 

「でもそれをしたら凜子先輩の体力を消耗しちゃうじゃないですか。アイツのことで凜子先輩を煩わせるわけにはいきませんよ....、それに私は、アイツのこと分かってますから....私が行きます。」

 

アイツの知らない無意識の癖も、思考も一応分かっている。

だからこそ、私には貞一を見つけられる自信があった。

ったく、私達がこの服のまま歩き回らないようにするために服を買いに行くって建前だったでしょ?

それならちゃんと帰ってきなさいよ、あのバカ....。

 

「そうか....分かった。なら貞一のことはゆきかぜ、お前に任せる。私はここで待機してゾクトが下手な事しないか見ておこう。...まぁあの状態じゃしようにも出来ないだろうけどな。」

 

彼女はゾクトを流し見て、そう呟く。

ゾクトはというと何故かにやついていた。

気持ち悪....。

 

そう思いながらも、私はドアの前に立つ。

 

「それじゃ、すぐ戻りますんで....。」

 

「あぁ...くれぐれも気を付けてくれ。貞一を探しに行ったお前が行方不明になっては困るからな。」

 

「大丈夫ですって!」

 

こちらに忠告する凜子先輩に私は笑顔を向けてそう言う。

そしてドアノブを捻って外に出た。

あのバカ.....一体、どこに居んのよ....ッ!

 

 

 

 

 

 

アンダーエデンのとある一室。

その部屋にはVIPという刻印が扉に掘られている。

ピンク色の照明に照らされているゴージャスな装飾の部屋の中で、二人の醜男が机の前に座っている。

二人はワインを呷りながら寛いでいる。

傍らには麗しき美貌の絶世の美女が立っている。

 

「それでぇ....用とはなんだというのかね?リーアル。」

 

そう呼ばれた男はヘラヘラと笑って見せる。

 

「おいおい、兄さん。そんな他所他所しい呼び方はやめてくれよ...。今日は、兄さんの力を借りたいと思ってね。」

 

そう言うと、リーアルと呼ばれた男は手元から紙を男に渡す。

すると男は笑みを浮かべた。

 

「ほう....これは、随分と可愛らしいお嬢さんたちじゃあないか。」

 

見せられた紙にはツインテールの少女とポニーテールの少女、そして少年と縛られたオークが建物へと入ろうとしている姿があった。

 

「これは私の顧客の一人が偶然撮影したらしく、寄越した画像でね。恰好から見て対魔忍だ。....こういう女が欲しいと言われてね。」

 

そうリーアルが言うと、彼は笑う。

 

「ククッ....この対魔忍たちを捕まえるのに、私の不知火を貸して欲しいということかね?」

 

そう言うとリーアルも下卑た笑みを浮かべる。

 

「こういう子が欲しいって言われたら、その目標を持って来た方が話が早くて済むんだよ。それに、どうやら対魔忍である以上、なにやらヨミハラの秩序を乱そうとしていることは確定だ。それを事前に奴隷娼婦にしたらヨミハラにおける私の影響力も上がるんだよ。頼むよ兄さん...もし奴隷娼婦に出来たら兄さんに最初に手配するから。」

 

そう言うと、男は笑った。

 

「ふ~む、そう言う事ならば良いだろう。不知火の熟した経産婦マンコも良いが、生娘を穢すのも面白い。不知火。」

 

漢が言うと、不知火と呼ばれた女性は彼の前で膝を着く。

 

「ハッ!」

 

その様子を見て、ことさら笑みを深くする男。

その顔は女を屈服させる悦楽に浸っていた。

 

「このお嬢さんたちを無傷で捕まえてきなさい。対魔忍とはいえお前はあの幻影の対魔忍、造作もない事だろう?」

 

「はい....これは.....!」

 

画像を見せると、不知火の目が見開かれる。

すると、そんな彼女の様子を見て男は口を開く。

 

「どうしたのかね。ご主人様にちゃんと申告しなさい。」

 

すると彼女は粛々と口を開いた。

 

「この娘は....ツインテールの方は私の娘、水城ゆきかぜです。そして隣に居るのは友人の秋山凜子....。」

 

その言葉を聞くと、リーアルが笑みを深くする。

 

「ほう...であれば、兄さん、もし捕まえれば親子丼が楽しめるじゃないか....。」

 

すると男も笑みを深くする。

 

「それなら俄然楽しみだ....不知火、今すぐにお前の娘と娘の友人を私に捧げろ。親子仲良くこの矢崎宗一の優秀な遺伝子でガキを仕込んでやる。...隣の男やオークは殺せ。いいな?」

 

あまりにも性欲に則った傍若無人な命令。

普通の母親であれば娘を差し出せなどと言われれば抵抗するに決まっている。

以前の不知火であればそうだった。

しかし、不知火は自分と娘が目の前のご主人様の子供を孕み、出産する様を想起していやらしく淫靡に笑い、蕩けた表情になる。

 

「はぁい....❤矢崎様の為であれば、仰せのままに....。」

 

その様は母親ではなく女だった。

その様を見て、さぞ愉快そうに下卑た笑みを浮かべる矢崎。

 

「良い女だ....。ならば今すぐに行け!!」

 

そう言うと不知火は部屋の外へと出ていった。

その様を見て、少しの不安すら抱いていないように矢崎は酒を喉に流し込む。

当然だ。

今までどのような物であれ欲しければ全て手に入れてきた。

それは人類の守護者である対魔忍でさえ。

日本の最大野党、民新党。

その幹事長を長年勤めあげた重鎮。

それがこの男、矢崎宗一であるからだ。

この男が手に入れられない物など....ない。




戻ってこない主人公....。
まぁ何かあったのは事実だけど......

そして凜子とゆきかぜの知らぬうちに、彼女たちに魔の手が迫る。

次回は主人公視点です。
ソニアさん!?まずいですよ!!

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