NTRゲーの竿役おじさんに転生した俺はヒロインを普通に寝取っていく   作:カラスバ

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30話 否定と肯定

「やった……!」

 

 私は達成感で身体が震えるのを感じた。

 手に持っている雑誌が読みづらい。

 でも、何度見直してもそこにあるイラストは見間違えようがない。

 私のイラストだ。

 私のイラストの下には小さく、銅賞と書かれている。

 ……私のイラストがページを占領する範囲はそれなりに小さい。

 そもそも私のように銅賞を取った作品は他にも5作品ほどあるのだ。

 それでも、間違いなく。

 私の作品は、私の知らない誰かに評価されたのだ。

 

「……!」

 

 嬉しい。

 ……嬉しい! 

 嬉しくない筈なんか、ない。

 涙が零れそうになる。

 ああ。

 今まで暗闇の中で、いつ辿り着くかも分からない旅路を続けてきたと、そう思って来たけれど。

 だけど、こうしてちゃんと努力は実を結んだんだ。

 イラストの実力はまだまだ。

 課題は山ほどにあるのも事実。

 それでもちゃんと見てくれている人には評価を貰えた。

 小さな一歩だけど、私にとっては大きな前進だ。

 

「……ふふ」

 

 頬が緩む。

 今私、凄く気持ち悪い表情をしている。

 でも、今はそんな風な顔をしても許されるよね。

 成長を喜び、誇る。

 胸を張って、その事を主張しよう。

 そう思った私は雑誌を持ったまま部屋を出る。

 少し緊張するけど、今の私は無敵だ。

 今なら何でも出来そうな気がする。

 そして私は、兼用になっているノートパソコンを使って何やら調べ物をしている母親の元へと向かった。

 ドキドキする。

 だけど、きっと――

 

「母さん」

「……なに、朋絵」

「これ、見てよ」

 

 と、私は自分のイラストを指差しながら雑誌を見せる。

 

「これ、私の描いたイラスト。銅賞を取ったんだよ」

「……」

 

 母さんはそれを眼を細めながら数秒見つめたのち、呟く。

 

「……それで?」

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 母親の、反応は。

 極めて、冷ややかだった。

 

「私、何度も言うけど貴方の趣味に興味はないの」

「……! い、いやさ! それでも、私は――」

「その上銅賞って、しかも5人も選ばれているじゃない。銀賞も金賞も、大賞もいるし。その程度の実力しかないって事でしょ?」

「そ、それは」

「そもそもこの雑誌、どうでも良いけど。こんな雑誌で評価されたところで、それがどうかしたの?」

「……ッ!」

 

 唇を噛む。

 口の中に血の味が広がるのを感じる。

 それでも何とか反論するための言葉を探すけど――

 

「大体、貴方レベルの絵を描ける人なんて山ほどいるし、絵でお金を稼ぐような人は才能があるか、子供の時からずっと努力している人よ。そんな宝くじで一等を当てるような、一握りの選ばれた人間になるなんて夢を見るのは、いい加減止めなさい」

「……」

「貴方も子供じゃないんだから、良い大学に入れるように勉強を――」

「もう、良い!」

 

 私は叫び、走ってその場を離れる。

 涙が溢れる。

 涙を拭く暇もない。

 私は自分の部屋に入り、鍵を閉める。

 ゴミ箱に雑誌を投げ捨て、そしてベッドの中に倒れ込んだ。

 

「う、うう……!」

 

 枕が濡れる。

 嗚咽が零れる。

 どうして、こんな。

 頭の中がぐちゃぐちゃになる。

 

 なんで、なんで!

 どうして、認めてくれないの!!

 こんなに、こんなに、頑張ってるのに!

 

 ぎゅっと拳を痛いほどに握りしめる。

 痛くて痛くて、イタイ。

 心がイタイ。

 どうして。

 どうしてこの世界は。 

 

 こんなにも、上手くいかないの?

 

 ……気づけば、私はベッドの上で眠っていた。

 窓の外から日差しが差し込んでいる。

 多分これは、朝だ。

 どうやら泣き疲れて、そのまま眠ってしまったらしい。

 

 身体が、重い。

 重たくて、ずきずきする。

 どうしてかは、分かる。

 だけど身体を動かしたくない――

 

「……学校、行かないと」

 

 そうだ。

 武さんと、約束したんだ。

 努力すると。

 諦めないと。

 ……学校にはちゃんと行くように、と。

 だからこんなところで仮病は出来ない。

 私はのろのろとベッドから這い出て、制服に着替える。

 母さんと顔を合わせたくないから、朝食は抜きにしてさっさと家を出よう。

 ああ、でも。

 

 こんな風に現実から逃げ続けられるのは、一体いつまでだろう。

 

 ……現実から逃げていると思ってしまう自分がいる事に、凄く凄く嫌悪感がした。

 

 

  ◆

 

 

「……そんな事が」

 

 天童家で。

 私達を出迎えてくれた武さんは非常に渋い顔をした。

 

「とてもじゃないけど、辛かっただろうね朋絵ちゃん」

「……それは」

「夢を認めてくれないってのはとても悲しい事だし、その上夢を否定されたんだ。苦しくない筈がない」

「……」

 

 そう言ってくれる武さん。

 ヤバい。

 また、泣きそうだよ。

 桜子さんがいる手前、泣く訳にはいかないけれど、でも涙腺が嫌でも緩んでしまう。

 

「それで?」

 

 と、桜子さんは極めて冷静に武さんに尋ねる。

 

「とはいえ、これは朋絵さんの、それこそ日乃本家の事情ですし、私達がどうこう出来るような事ではないですよね」

「まあ、更に言うと俺なんかが出て行ったらもっとややこしくなるだろうな」

 

 やれやれ、大袈裟に肩を竦めて見せる武さん。

 それから彼は、凄く意味深な表情をしながら桜子さんを見る。

 

「だからまあ、俺は何も出来ないけど。その代わりと言ってはなんだが」

「いや、ええ……?」

 

 凄く凄くイヤそうな表情をする桜子さん。

 

「百歩譲って私が行くとして、果たして話を聞いてくれますかね?」

「それはほら、俺よりはマシって事で」

「じゃんけんで勝った方が行くって事にしません?」

「ダメに決まってるだろ」

「え。そ、その?」

 

 私は戸惑いながら尋ねる。

 

「二人がどうこう出来るような事じゃないんじゃ……?」

「やってみないよりはマシだって事だよ、朋絵ちゃん」

「……まあ、私も無視出来る程薄情な人間じゃないので」

 

 そう二人は私に言う。

 

「だから、朋絵ちゃん。君は、今はまだ諦める時じゃあ、ないんだ」

 

 その言葉を聞き、私は無性に泣きたくなった。

R-18版は

  • 読みたい
  • 良いから次の話を書くんだよ

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