NTRゲーの竿役おじさんに転生した俺はヒロインを普通に寝取っていく   作:カラスバ

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5話 夢への一歩

 おかしい事になったというのは最初から思ってはいたけど。

 これは本当に本格的におかしくなった。

 

 今日初めて出会った男にお金を強請り。

 それで説教染みた事をされたと思ったら、気づけばその彼についていっている。

 

 状況をオカシイと思う心はあった。

 不審に思う感情は残されていた。

 だけど、何故か。

 私は吸い寄せられるように彼の後を付いて行く。

 歩き。

 歩き。

 歩いて。

 そして――

 

「ここが、俺の家だ」

 

 ようやっと辿り着いたその場所。

 家の標識には『天童』と書かれていた。

『天童』。

 どこかで見たような気がするけど、まさかね。

 

「じゃ、上がってくれ」

「あ、うん」

 

 先行し扉を開けてくれる彼に続き、私はおっかなびっくり家の中に入る。

 大きな家だ。

 少なくとも、彼一人で暮らすにはあまりにも広い大きさだ。

 もしかしたら同居人がいるのかもしれない。

 しかし玄関には靴が一足も置かれてなくて、なんだかちょっとだけ違和感があった。

 まるで最近、すべてをきれいさっぱり撤去したような、そんな感じ。

 とはいえそれは彼の事情。

 ツッコむ必要はないだろう。

 

 それから私は彼に続き家の中に侵入する。

 リビングを通り過ぎ、階段を昇り、そして二階の一室の扉の前へ辿り着く。

 彼は「ここだ、ここ」と言って扉を開け、それから私に入るよう指示してくる。

 私は恐る恐る部屋の中に入り、そして目を見開く。

 だって、そこにあったのは――

 

「うわぁ」

 

 パソコン。

 当然のようにデスクトップパソコン。

 いくつものモニターがあって、なんだかSFのロボットのコックピットみたい。

 椅子はゲーミングチェアだろうか。

 座り心地が良さそうだ。

 そして何より、私の目を引いたのは。

 

「え、液タブだぁ……」

 

 液晶タブレット。

 十数万円はする、絵描きなら誰しも憧れる垂涎の一品。

 それがデスクの上にでん、と置かれていた。

 

「え、ええ。おじさん、ええっ!?」

「語彙力が低下しているぞ」

「え、おじさん。こういうのを持っているって事は、もしかして実は絵描きさんなの?」

「いや、残念ながらこれらは趣味のモノなんだ。実力はまあ、そんなない」

 

 でも、パソコンは確かに使われた形跡があるし、もしかしたら案外私の先輩なのかもしれなかった。

 それが分かっただけでも、なんだか彼との精神的な距離が近づいた気がする。

 

「これらを、ここにいる間、君に使わせて上げても良い」

「え、良いの!?」

「ただし、条件がある」

 

 彼は至極真面目な表情で私に問いかけてくる。

 

「まず、一つ。学校にはちゃんと行く事。学業は大切だからね」

「それは、……」

「約束出来るか?」

「う、うん。分かった」

 

 今日は平日。

 制服を着てあんな場所をうろついていたのだから、学校をさぼっていた事はすぐに分かった事だろう。

 

「もう一つ、ここに来るときは、親には嘘を吐いても良いから黙って家を出るって事はしない事。せめて、友達の家に行くって事にしなさい」

「え?」

「それだと心配するだろう、親御さん」

 

 それもそうか。

 私は再度頷く。

 

 それから、最後に。

 と彼は言う。

 

「夢を諦める事になっても、最後まで頑張る事」

「……」

「挫折する事も、頓挫する事も将来的にあり得るかもしれない。でも、その可能性が見えた時も最後までやり切る事。それを約束して欲しい」

「……うん、分かったよ」

 

 私はしっかりと頷く。

 

「最後まで、諦めない。絶対に、イラストレーターになるって、私は決めたんだ」

「それなら、うん。俺も安心してこれを使わせてあげられるよ」

 

 にこり。

 そう微笑む彼は私に手を差し出す。

 これは――握手という事だろうか?

 私も同じく手を差し出し、彼の手を握る。

 

「天童、武。そう言えば、自己紹介がまだだったよな?」

 

 ああ。

 そういえば。

 うっかりしていた。

 我ながらおかしな話だ。

 名前も知らない人について行くなんて、警戒心の欠片もない。

 だけど、結果から見れば、これは夢に一歩前進したと見て良い。

 夢を叶えるチャンスをくれた。

 その事に感謝をしつつ、私も彼に名乗る事にする。

 

「私は、日乃本朋絵。朋絵って呼んで?」

「ああ、朋絵ちゃん。よろしくな」

 

 そうして私達はぎゅっと固く握手を交わす。

 それが私達の出会い。

 夢への一歩を踏み出した、その瞬間だった。

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