あと、慎二ファンのみなさん、ごめんなさい。
カーテンという遮断物が青年によって除かれると同時に、暗かった洋風の部屋に暖かい朝の陽が差し込む。
青年はその光を浴び、大きく背を伸ばしながらあくびをし、ふと鏡のほうに目を泳がせる。
そして青年は、そのまま眼球が飛び出すのではないかと思うほど目を剥かせ、顔を真っ青にした。
それから一呼吸置いて、
「なんで……なんで……! なんで俺が、『間桐慎二』なんだよ!?」
青年──間桐慎二は、濃い青の髪が生えている頭に両手の指を重ね、今の自身の名を呪うように嘆いた。
「ハ、ハハハ……。うっそだろ、おい……。死んだ、死んだわ、これ……」
もし神様がいたらぶん殴りてぇなぁ、と慎二は物騒なことを呟きながら、その後の自らの運命を自嘲する。
そう。この世界での彼は今、文字通り死ぬ運命にあるのだ。
「どうすんだよぉ……ホントにどうすればいいんだよぉ……。死にたくねぇよぉ……。かといって、あんのクソ蟲ジジイは俺じゃあ倒せないし、桜を殺すというのは、可哀想すぎるし……」
両手で顔を覆い、掠れた声をあげ、情けなく膝から崩れ落ちる慎二。
「そもそも俺、魔術の才能のさという字もねぇし。これを詰んだ、とでもいうのでしょうか? 神よ……。ああ、この救いなき哀れなワカメにどうかご加護をォ……」
もはやふざけていないとやっていられない、というふうに慎二は頬の皮を引っ張り、変顔をしながら、当てにもならない神頼みの態勢に入る。
慎二がそんな奇行に走っているとき、不意になにか尖っているものが彼の頭上に降り、そのまま激突した。
「プギャァァァァ──!」とこれまた情けない断末魔をあげて、質の良いカーペットが敷かれている床に倒れ、両手両足をピクつかせる。その様はさながら一種のギャグであった。
「……ったく、なんだよ、も──」
落下物に目をやり、そして慎二は、言葉を紡ぐのも忘れて瞠目した。
慎二の目の前にある金平糖のような形をした七色に光る物体は、まさしく彼の救いになり得るかもしれない代物だった。
「こっ、これは──聖晶石じゃないか! ついでに手紙もついてる!」
ひゃっほう! と先ほどの重苦しさなど忘れ、子供のようにはしゃぐ慎二。
それからしばらくし、調子に乗って部屋の中を爆走したためか、慎二は息を切れ切れとさせている。
「……そういえば、手紙、読んでねぇや」
慎二は心臓の拍動を確かめるように胸に左手を当てながら、手紙を右手に持ち、読み上げていく。
「なになに? 『拝啓、間桐慎二に憑依なさった方。この度は、あなたの意見も聞かず勝手に憑依させたことについて、謝罪する気は毛頭ありません。神は理不尽ですからね。テヘッ。ですがその分、ある特典をまたもや勝手にあなたの能力として加えさせていただきました。それこそが今、あなたの頭上から落ちてきた聖晶石です。その聖晶石は、魔力源としても使えますし、某ゲームの十連ガチャ同様、三十個集めれば魔術回路なしでも、サーヴァントを一騎だけ召喚できます。流石にエクストラクラスのサーヴァントは無理ですが。あと、聖晶石を用いて召喚したサーヴァントを維持するための魔力には、聖晶石がまた必要になるので、使い切らないように注意してください。聖杯戦争に参加できる資格である令呪に関しては、特典のひとつとして付与しますので、ご安心ください。それと、聖晶石は一日を経るごとに一個補充されますので、貯めるのもよし、一気に使うもよし、です。神より』。
……なんで勝手に憑依させんだよ、ゴラァ!」
慎二は顔をトマトの如き真っ赤に染めて、床に叩きつける。
しかし、先ほどの絶望した表情は、一片も残っていなかった。
「これなら、行ける気がしてきた! ……だけど、別の死亡フラグも立ってる!」
──令呪、自動的に付与されんのかぁ。神様って、残酷だなぁ。
改めて、神様は鬼畜だと、そう認識した慎二だった。
だがやる気が湧いたのか、それとも自棄になったのか、慎二は肩に手を置き、そのまま肩を回す。
と、そのとき。
三十個の聖晶石が、突如として、慎二の頭上になだれ込んだ。
「ぐべらぁぁぁぁ──!?」
突然の聖晶石の雪崩に慎二は耐えれず押し倒される。
その雪崩の拍子に手紙が吹き飛び、それの最終部分が火で炙られたように焼け、新たな文字が現れる。そこには、
『追記。ログインボーナスならぬ憑依ボーナスとして、聖晶石三十個を授けます。ありがたく思いなさい』
と、記されてあった。
設定の無茶苦茶さに作者がいちばん「なんでさ」と言いたい。