――慎二が聖晶石の雪崩に押し倒されてから二日後の二月一日。
満月が草木の生い茂った屋敷を照らす中、慎二は密かに魔術陣のある小屋へと忍び込んでいた。
大きめの鞄に聖晶石を詰め込んでいたが、それでも完全には収まり切らないのか、今にもその鞄は張り裂けそうだった。
しかしそんなことは意にも介さず、慎二は右手の甲に発現した紋様――令呪をまじまじと眺める。
「やっぱり俺に発現しちゃうのか……」
慎二は困ったように頭を抱える。
「でもまあ、あのクソジジイを悩ませれたことだけは僥倖、だと思っておこう。クソジジイ、桜に令呪が発現しなくてちょっと困ってたもんな。ハハハ、ざまぁみろってんだ」
そう自分に言い聞かせ、慎二は自らを奮い立たせる。
「っと。そろそろ準備をするか」
慎二は、魔術陣の前で鞄を開けるとそのままひっくり返す。すると、聖晶石が滝のように流れ出てくる。
その流れ出てきた聖晶石の山から昨日と一昨日で得たふたつを回収し、慎二は改めて身を震わせる。
「いよいよ、だなぁ。やっべ、緊張してきたし。しかもさっむ」
令呪があるほうの手を翳し、呪文を唱えようとしたそのときだった。
聖晶石が勝手に浮遊して、七色のまばゆい光を放ち、魔術陣を囲むひとつの輪となった。
慎二は目を大きく見開き、呆然と立ちすくんでいた。
まばゆい光は、さらに煌めき、慎二は思わず目を腕で覆った。
はっ、と慎二は乾いた吐息を漏らす。
「ま、マジかよ……」
光があった陣の上に佇んでいたのは、ひとりの美丈夫だった。
銀の軽そうな鎧を纏っており、緑髪は風に揺れていて、そしてなにより、その者の英雄としての隠し切れない資質が、この小屋の空気を震わせていた。
「――俺を喚んだのは、お前だな?」
英雄が口を開き、言葉を紡ぐ。その動作だけで、慎二の全身の肌からは冷たい塩水が流れていた。
「ああ、そうだ」
けれども、慎二は怯まなかった。
英雄の双眸を捉え、汗が滲む拳を握る。
「――なかなかに根性があるじゃねぇか、マスター」
その一言のみで空気が四散した。
だがそれでも、慎二はへたり込まなかった。
「試す真似をしてすまなかったな、マスター。んじゃ、名乗るぜ。
――我が
英雄――ライダーは、槍の蒼い穂先を慎二に押し出す。
このとき、慎二は思わず口角を上げた。
「ああ、俺は間桐慎二。マスターでも慎二でも、なんとでも呼んでくれ」
そうして、慎二とライダー・アキレウスの戦いは、始まった。
慎二は、一匹の蟲が召喚の光景を見ていることには、気がつかなかった。
字数少なっ!