間桐臓硯の死から二日後の夜。
煌々と月に照らされる灰の道を、パーカーを被り目元を隠した青年が歩いていた。
彼こそが、ライダーのマスター、間桐慎二である。
現在、慎二はライダーを霊体化させ、とある場所に襲撃を仕掛けようと向かっているさなかだった。
そのとある場所は、慎二自身が危険視しているサーヴァント、キャスターの根城となっている柳洞寺だ。
慎二の知識通りなら、まず門番としてアサシンが長刀を携えており、それを倒したあとに奥で本命のキャスターが待ち構えているはずだ。
――キャスターも、アサシンも、僕のライダーには太刀打ちできまい。
内心で勝利を確信しかけたところで――首を強く横に振り、思い留まる。
慢心は敵、と慎二はぶつぶつと呟いて、自らの慢心を張り倒す。
それが仇となって死ぬことになったら、目も当てられないのだ。
事実、某慢心王を含め、慢心が原因で本来なら勝てるような人物に負けた者たちは数知れない。
だからこそ、慎二は慢心だけは絶対にしないように心がけているのだ。慢心、駄目、絶対という言葉こそ、今の慎二にはピッタリなのかもしれない。
しかし今回の夜は、不運すぎた。
慎二は目を見開き、驚愕の声をあげる。
彼の目に映っているものは、宵闇すら跳ね返すほどの輝きを見せる黄金の鎧。それを着ている男だ。
慎二を蛙とするならば、男は天敵の蛇。事実、慎二は蛇に睨まれている蛙の如く足がガタガタと震え始めている。
「此度の聖杯戦争、なにかあるかと思ったが――期待外れだったか」
ふっ、と男が嘲笑う。
「え、英雄王、ギルガメッシュだと……⁉」
「ほう。
ギルガメッシュ。そう呼ばれた暴君が、感心したように笑みを深める。
だが突然、ギルガメッシュは自らの宝具であり、宝物庫――『
刹那、ライダーが霊体化を解き、その手に携えた槍で剣を払い落とす。
そして、駿足の大英雄と黄金の英雄王が相対する。
「テメェ……舐めた真似を!」
ライダーは槍を両腕で構え、ギルガメッシュもまた、後方に『
先手を打ったのは、ギルガメッシュだった。
いくつもの武器を射出し、ライダーを追い込まんとするも、彼は最速の大英雄。
その駿足による敏捷と、槍を巧みに操り、この雨を凌いでみせる。
「おいマスター! 撤退だ!」
ライダーの戦士としての本能が、叫んでいた。
――全力で戦えばギリギリ相討ちに持っていけるかもしれないが、マスターを狙い撃ちされれば、守り切れずに殺られる、と。
だからこそ、今回ばかりは撤退するしかない、と考えているのだ。
最後の武器を跳ね返したところで、ライダーは口笛を吹く。
すると空を裂くように、馬が三頭、戦車を牽引して現れた。
ただ、その戦車を顕現させたせいか、慎二がいつの間にか手に持っていた聖晶石がピシリと音を立て、ヒビが入り、やがて砕け散る。
それに慌てる慎二をお構いなしに、ライダーは抱きかかえ、戦車に乗り、
「英雄王! この雪辱、いずれ晴らす!」
と吐き捨て、夜空を駆けていった。
「フ――フハハ――フハハハハ! 待っているぞ、駿足の英雄と、転生者とやら!」
高笑いが、夜空に響き、消え入った。
序盤に英雄王はキツいぞ、これ……。